「リーン、前々から気になっていたことがあるんだが聞いてもいいか? 」
「へっ? ……なに? 」
いきなりでちょっと反応が鈍いな。だがまあいいだろう。
「俺が今までに遭遇したことがある魔石を保有している生き物は動物しかいなかったんだが、魔石を持っている植物っているんだろうか? 」
「……結論から言うと今までに魔石を保有している植物は発見されたことがないわね 」
「それならばいない可能性の方が高いと言うことか… 」
いるような気はしていたんだけどな。大きさ的には樹木なら十分だと思うが、魔石を持つ条件にはいろいろあるんだろうな。極小のアキアトルなんかもいたし必ずしも大きさが重要ってわけでもないのか?
「わたしは世界のどこかに魔石を持つ植物がいると思っているわ 」
「その根拠はなんだろうか? 」
「勘よっ! 勘っ! 」
勘かよ。それはそれで
「でも、魔境の深部に行くほど魔力が濃くなるのは植物や目に見えないような小さな生き物の作用が影響していると考えている人もいるね。魔境の深いところを探せば植物の魔物もたしかにいるのかも知れない 」
リオンが補足説明してくれる。そうそう、そう言うのが聞きたかった。全く根拠がない話しでもないらしい。
それにしても二人は学問の話になると、とたんにいつもの調子になるな。流石は研究者。最初からこうしておけば良かったのか。いや、話の流れ的に無理だったか。
「微生物なんかも関わりがあると考えている人もいるってことか。極小の魔石を持つ生物なんかもいるのかもしれないな 」
「レインが発見した極小アキアトルの例があるからね。きっといると思うわ 」
その後も少し学問的な話をした後、リオンがやることがあると言って退出した。
俺もそろそろ帰ろうかと思ったときふと気になったことが頭によぎったので聞いてみることにした。
「なあ、リーンはフラニス教授って知っているか? 」
「よく知っているわよ。一緒に研究したこともあるし。彼女がどうしたの? 」
「彼女はリオンに気があったりするのか? 話せないならかまわないが 」
「そう言う話は聞いたことがないわね 」
「? そうか… リーンはどう思う? なにか気づいたことはないか? 」
「……特にないわね 」
気づいているのは俺だけか? やはり俺の狩人としての勘は並じゃないと言うことか…
しかし、リーンもこう言う勘は鋭そうな気もするのだが…
「やけに気にするわね。フランのことが気になるのかしら? 」
俺がか? どうなんだろうな? いや、あり得ないか。
根本的に人間と言えるかわからない存在だしな。色恋とは無縁だ。
「いや、別にそういうわけじゃないな。なんとなくそう感じただけだ 」
「じゃあ、リオンが気になるとか? 」
…え”っ! 男だぞっ………だよな? 確認しよう。
「リオンは男だろ? 」
「そうよ 」
それが何か? と言わんばかり。事もなげに答えるリーンに
「……リオンは友人だよ 」
「そう? 残念ね 」
やはりハメる気だったのか…? 危なく引っかかるところだった。
よくよく考えてみたら別にどうでもいいことだったな。俺としたことが無駄に首を突っ込んでしまった。危うく火傷をするところだったぜ。
俺じゃなきゃ躱せなかったな…
「俺はそろそろ行くとしよう。準備もあるしな。四日後にまた会おう 」
「うん。それじゃあまたね 」
追撃を避けるためにここは引くとしよう…
逃げるように部屋を後にした。
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四日後、学院の駐車場でリーンと合流する。
「この車、前と変わっているね 」
「ああ、燃料を十分に積みたかったからな。改造したんだ 」
燃料分を入れると車内がパンパンになってしまうから新たに屋根の上に荷台を設置した。空気抵抗を抑えるために前面に風防を設置して、重さに耐えるために車体の剛性を強化してある。
車検制度がないから遠慮なくやってしまった。反省のしようはない。問題が起きればその
助手席にリーンを乗せて出発する。彼女も運転できるらしく自分が運転したいと言い出したが俺の車なので遠慮してもらった。いろいろいじってあるしな。
海岸沿いを通る高速道路に乗って目的地に一番近い出口で降りる。
リーンによると最近は魔術によって工事を行うことで素早く安全に完成させることが出来るようになっていて、いつの間にかこういった道路が完成しているそうだ。
仕事柄、移動はそれなりにあるそうだが毎回違う経路を通っている気がするという話し。
高速を降りてからしばらくは舗装された道を進むことが出来たがやはり途中から未舗装の道になってしまう。
それでも狩人とか一定数通る人間がいるのか魔術で固められた道は整地歩行によりまあまあいい状態が保たれている。
そんな道を車輪で荒らすことになるのはちょっと心苦しいな。
せめてゆっくりと進んでいこうか。そうすればある程度は車越しでも整地走行が出来る。空転してタイヤが土を削るのも抑えられる。
程なくして車ではこれ以上進めないところまで来る。
ここから先はかつてリューミオン渓谷に繋がっていて今は完全に放棄された道だ。五十年以上経過して道らしきものは痕跡すら見えない。
だが魔力視を駆使するとなんとなく見えてくるものがある。
明日からここを切り開いていくことになる。そう思うと、目の前に敵が立ち塞がっているようにも感じるな。
それはそうとして、開拓の間はここを拠点にしなければならない。テントなんかを張らないといけないから整備する必要がある。車をUターンさせるスペースも欲しい。
車を手で持ち上げて回せばいいんだが想像するとなんか間抜けだしな。
二人して樹木魔術と土魔術で整地していくと三十分足らずで整地が出来た。
俺がテントを張っている間にリーンは道の整備を行っておくらしい。一人で森の中に入って木を引っこ抜いたりしている。
一人で大丈夫か? と思ったがまだ表層ぐらいだから脅威になるような魔物はいないか。
テントを張り終わると車の中の荷物をテントに運び出す。
車の中を空にするとシートを組み替えて平らなベッド状にした。
リーンには車の中で寝てもらい俺がテントに泊まる形だ。
ご飯を作るのも二人分だからちゃんとした
テントのタープは長く張りだした形にしてあるのでそこの中に土魔術で竈を作り上に金属の網を張っておく。
調理台を設置してから二人がけのテーブルと椅子を用意した。
これで形は整ったかな?
後は使いながら足りないものを補っていけばいいか…ちょうどお昼時ぐらいになったのでお湯を沸かしてお茶でも入れておこう
リーンも昼時を察知して切り上げてくるようだ。単に飽きただけなのかも知れないが。
凝ったものを作る時間はないので携帯食と干し肉とインスタントスープで済ませることにした。
リーンは席について食事を待っている。作業の労いを込めて先にお茶を入れて出しておく。
「ありがと 」
受け取ると軽く礼を述べてから間を開けず口をつけた。まだ熱いはずだが平然としている。平時の魔力でも対抗できているようだ。
お茶をすすりながらくつろいでいるところを見ると休日のレジャーキャンプに来たような印象を受けた。
ここも魔境ではあるんだけどな…
フィールドワークはそれなりに経験があるらしいのでこの程度の魔境ならなれたものと言うことだろうか?
まあ、変に構えられるよりは断然いい。
一緒に簡素な昼食を済ませると今度は二人で道路建設にいそしむ。
樹木魔術で木を引っこ抜いていき、ある程度進んだら土魔術で草を土の中に巻き込みながら平らにならしていく。
二人で手分けしてやると速いな…どんどん進んでいく。重機を使うとかそんなレベルじゃない。あっという間だ。
だがそれでも先はまだまだ長い。そう簡単には終わらせてくれないようだ。
日が暮れるギリギリまでやっても八分の一工程くらいかな?
夕飯の準備もあるので戻ってきて調理を始める。
献立は野菜たっぷりのミネストローネと鶏胸肉の香草焼き、それに炭火で焼いたパンにしよう。
リーンは料理も出来ると言うことだったのでスープを任せることにした。
まな板と包丁を渡そうとしたら使わないそうだ。どうするんだろう?
疑問に思って見ていたら水筒から水を取り出して魔術で手に馴染ませた。そのまま食材を手に持つと、手のひらの上の食材が手品のように勝手に切れていく。
どうやら水を細い糸のように操って切断しているらしい。野菜の洗浄なんかも同時に行っている。
今度俺もやってみようか…
タマネギとにんじんはみじん切りに、ジャガイモとセロリは大きめの角切りに切っていく。可食部とそれ以外も器用にわけてゴミ箱に捨てていく。いつまでも見ていたくなるような完成された作業だった。
いや、俺は俺で作業をしなければな…
鶏胸肉に香草をみじん切りにしたものをまぶしていく。その上から小麦粉をまぶして鉄鍋にいれて蓋をして釜の上につるして遠火で焼いてみる。
その間に小麦粉に水と塩とバターと卵を入れて練っていき網で焼いていく。
リーンの方を見ると次の工程に入ったようだ。
切り終わったベーコンとタマネギを鍋で塩胡椒を加えて炒めていき、その後、他の具材を加えて加熱。炒め終わったらそこに水を加えて煮る。煮えてきたら固形スープの素とトマトペーストを加えて最後に塩胡椒で味を整える。
そっちはそれで完成したようだ。
これでほぼ完成したか。俺は最後の仕上げに入るとしよう…
鶏肉の焼き加減をみると火は通っているようだが焦げ目とかはついていない。
別のフライパンを用意して網の上で油を引き、強火で加熱する。皮に焦げ目がつくように焼いていく。
メイラード反応が起こって香ばしい香りがしてきた。何とかなったな。
完成したので盛り付けて食べ始める。
まずスープからだ。酸味とうまみと優しい塩気がちょうどいい。ゴロゴロの具材と細かい具材がいい食感をだしている。
鶏胸肉は皮はパリパリに焼けていて身は柔らかくてかむと油と肉汁が出る。塩気があって香草の香りが鼻に抜ける。
炭火焼きのパンは炭の香りが小麦を焼いた香りを補強するような感じだ。独特のうまさがある。
リーンも満足してくれているようだ。
「レインって変わってるのね。普通は市販の携帯食料とか干し肉とかで済ませるんだけど 」
「美味い方がいいだろう? どうせ食べるならな 」
「それもそうね。野外でこうやって食べるのもなんだか楽しいわ 」
「
「難しく言ってるけど、たいしたことは言ってないわよね 」
食い意地が張っているだけ、そう言いたいのかな?
その通り。リーンは賢いなぁ…
「冗談だ、冗談。つまらない冗談でも心の栄養にはなるさ 」
「どうせ聞くなら面白い冗談の方がいいけどね 」
いたずらっぽく笑いながら答える。一本取られた気分。
「それもそうだな。こう言う形で人と話すのもなんだか楽しいな 」
言った後で二人して真顔で見つめ合う。
やがてどちらともなく笑いがこぼれてきた。
そのあと他愛ない話を少しした後寝る時間となる。
「リーンは車の中で寝てくれ。シートは倒して平らにしておいた 」
「いいの? わたしがテントに寝ようか? 」
「いや、車の中の方が安全だ。そっちで寝てくれ 」
その方が俺が安心できる。改造を施した身としては快適性を味わってみて欲しいという気持ちもある。
「じゃあ、一緒に寝ようか? 」
くっ、なんてことを言うんだ…
リーンの表情は何でもない感じ。なんとも思ってないんだろうな。中学生みたいな見た目だが俺よりずっと年上だからな。達観している部分があるということか?
「いや、まとまっているより分散している方が安全だ。一方が襲われている間にもう一方が対処できる 」
もっともらしいことを言ってはぐらかそう。
「そう? ならいいけど 」
この話はおしまいだ。これ以上は良くない。
リーンが車に入るのを確認するとカンテラを消してテントの中に入る。
寝ようかと思ったがその前に魔物除けに結界でも張っておこうかと思った。
腰に付けるワイヤー装置を取り出して身につけると外に出て魔力を練り上げていく。
ちょうどいい練習になるな
リーンには声をかけなかったが何をするのかは伝わっているだろう。飛び起きてくることはないはずだ。
―操鉄術式、
腰の後ろから射出されたワイヤーは木々の間を縫うように進んでいきキャンプ地の周りを囲っていく。
立木とワイヤーで作り出した柵で囲まれた感じだ。
隙間は大きいから小さい魔物は入ってこれるし飛び越えることも出来るが
それだけの間があれば余裕で対処できる。
装置を外してテントの中に戻ると眠りに就いた。
次の日の朝、起き出してきたリーンと共に朝食を作る。
リーンにはサラダを任せて俺はスキレットでベーコンと目玉焼きを作り市販のパンを炭火で焼いていく。
昨日のミネストローネの残りを網の端で暖めておく。
これで朝食は完成だ。
この調査中ではこういった食事は最後になるだろう。亜空間は使えないし建設がメインだから山菜やキノコを採取して食べるわけにもいかない。普通のパンはそれほど日持ちしない。
携帯食料と干し肉、卵、インスタントスープ、缶詰、瓶詰めなんかが主戦力となる。
……けっこう充実しているか
缶詰があるのが助かる。煮魚から果物まで幅広くラインナップされている。カレーっぽいやつまである。これが一番、日本の家カレーに近かったりする。
大して不満はないな…
味わって食べようかと思ったが普通に食べよう。
それでもサラダとパンはしばらく食べられないから惜しくもあるか。
魔境の中ではそれなりに豪勢な朝食を平らげると結界を解いて作業を開始する。
兎に角、早期に旧拠点までのルートを確保したい。二人で休まず作業を進めていく。
幸いにして相当に魔力の大きな人間が二人いるせいか魔物は寄ってこなかった。
寝ているときも弱い魔物が接近してくることはあったが襲ってくることはなかった。結界を張っている効果があったのかもな。
問題が起きたのは初日から数えて四日目のことだった。