機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第96話 絶対強者

それなりに旧拠点に近づきつつあるとき森の雰囲気が変わっていることに気づいた。

 

「なあ、リーン。すでに深層に入っていると思うんだが 」

「…そうみたいね。深層が広がってきているようね 」

 

魔物を間引かずに放っておくとより浅いところに強い魔物が出てきてしまうって話だったか。

 

ここの近くまで狩り場になっていたはずなんだが見直していかないと危険だ。

 

実際に調査するのは大事だな。調査が終わったらギルドにも報告しておこう。

 

しかし、思ったよりマズいことになっているかも知れない。危険度が一気に跳ね上がったような気がする。

 

さっさと拠点を再整備して調査を終わらせたくなってきた。

 

今のところ周辺に厄介そうなのがいる気配はないがリーンがどこまで戦えるかわからない以上あまり長居はしたくないな。

 

急いで道路整備を進めていくとその日のうちに開通させることが出来た。

 

開けた場所にでるとそこが放棄されたギルドの拠点だ。頑丈なつくりのようで時間がたった今も形は十分に残っていた。

 

古びた建物の周辺は少し開けた草地になっていて当時の人間が土壌に改良を加えたことを(しの)ばせる。

 

そこに佇む建物はそれなりに大きいもので館という雰囲気だ。近寄ってざっと見た感じでは大きな損傷はないように思えた。

 

今日の所は日が暮れてきているので引き返してキャンプ地で夜を過ごす。

 

翌日は朝食もそこそこに大型の背負子(しょいこ)を組み立てて燃料や食料をすべて運んでいく。

 

拠点に到着したら早速、扉をあけて中に入り中の様子を確認してみる。

 

中は真っ暗でカンテラを付けて見回すと埃とかはかなり積もっているようだったが床材はあまり傷んではいないようだ。

 

建設当時はガラスはあまり出回っていなかったはず。窓枠には頑丈に作られた木窓が嵌められている。開けてみると若干の軋む音は立てたが思いのほかすんなりと開いた。

 

魔境産の木材は雨や紫外線にけっこう強いようだ。

 

館中の窓を開けると室内は薄明るくなる。建物の強度を保つため、また魔物の襲撃に備えるために極力窓は小さく設計したらしい。

 

最近だともう少し大きく窓枠を取ってガラス戸を付けた上に魔鉄製のハッチを付けたりすることもあるようだが時代を感じるな。

 

窓を開けたので部屋の中を掃除しよう。空気魔術を使い部屋中の埃を外に出していく。二人でやればそれほど時間はかからない。

 

その後、水魔術で落としきれなかった汚れを落としていく。

 

拠点にあった家具なんかはすべて運び出したようで何も残っていない。お陰で掃除はしやすかった。

 

掃除が終わると外に置いてあった荷物を運び入れると俺は屋根の上に登って傷み具合を確認する。リーンはその間、木窓とか床や壁の修繕に取りかかっている。

 

屋根は瓦葺(かわらぶ)きだな。所々苔が生えたりヒビが入っていたりしたがかろうじて防水性は保っているようだ。

 

雨漏りはしていなかったようだが瓦の下に何か防水性のあるものを敷いているのだろうか?

 

とりあえず水魔術で苔などを落としていき、土魔術の応用で瓦のヒビなんかを修繕していく。

 

修繕が終わってあらためて屋根の構造を調べてみたら屋根が二重になってた。強度を上げるのと同時に間を空気が通り抜けて乾燥させるようにできているらしい。

 

瓦をちょっと外してみたら下には薄い銅板が敷いてあった。さらにその下にある木材は魔術で表面が加工されているようだ。

 

時代的に言ったら森人の魔技士が施工したのかな。まあ、確認しようは無いけど。

 

修繕は終わったのでリーンに声をかけて俺は周辺に魔物の痕跡がないか調べてみることにした。

 

ここが深層ならこの周辺にいる魔物はそれなりに強力なヤツだろう。

 

リーン一人でも何とかなるかも知れないがちょっときついかな。上級下位程度なら守りながらでも狩れると思うがそれを越えてくるとリーン自身も戦えないと危険だ。

 

上級狩人を倒したヤツだけじゃなくて他の魔物にも気をつけなければならない。想定より難しい状況だ。

 

ここは慎重に行くとしよう…

 

拠点を中心に調べてみるがとりわけ気にしなければならないような痕跡は見つからない。

 

拠点周辺には縄張りを誇示するような強力な魔物はいないようだ。

 

とりあえずは安心か…

 

周辺調査を終えると拠点に戻ると外壁や内装の修繕を行っていく。

 

日が暮れる前に寝床とかを整えて完全に戸締まりを行う。

 

カンテラの明かりの中、台所でお湯を沸かしてインスタントスープを作る。それと肉や豆が入った缶詰を暖めて食べることにした。

 

机で向かい合って食事を取りながら今後のことを話し合う。

 

「思いのほか状況はマズいかも知れないな。俺が単独で渓谷にいって調査をしてくる方が安全かも知れない 」

「それはダメよ。自分で調査しに来たんだから最後まで自分でやるわ 」

「……しかし、そうは言ってもな 」

「わたしが一緒に行った方が安全よ。わたしなら渓谷に入っていかなくても入り口から調査することができるの 」

「……… 」

 

どうやら嘘を言っているわけでもなさそうだ。目を見ても迷いとか恐れは見られない。

 

どうするか? 説得は無理そうだな。それにリーンの言うことにも一理ある。五十年前に上級狩人を倒した魔物は手ごわそうだ。今はもっと強力になっているだろう。人間体の俺では確かに危うい。

 

こちらの事情は話せないからリーンも当然そのように考える。逆にこちらを心配してくるのももっともではある。

 

「なら調査期間は短縮しよう。長ければ長くなるほど危険に会う確率は増していく。できれば明日一日で済ませたい 」

「……期間の短縮には賛成だわ。でも明日一日で終わることが出来るかは確約できない 」

 

それもわかる。ここまで来て何も成果がないでは終わるに終われない。そう言う気持ちもあるだろう。

 

「とりあえず明日一日やってみてそれから判断しよう。危なそうなら俺の判断で中断する。状況によっては変更するかも知れないがそう言う方針でやろう 」

「う~ん……まあ、レインがそう言うならそれに従うわ。ただ、その時はわたしの意見も聞いてもらうわよ 」

「わかった。話し合いはちゃんとする。状況が許せばだが 」

 

完全な納得は無理だろうが、まあ、今はこのぐらいでいいだろう。釘は刺しとかないと立場的にマズいから言わせてもらったけど。

 

食事が終わると後片付けをしてお互い眠りに就く。

 

明日は何事もないといいんだけどな…

 

翌日、簡単に食事を済ませてから早朝に出発する。渓谷に向かって兎に角真っ直ぐに進んでいく。

 

さっさと調べてさっさと帰る。それに尽きる。

 

しかし、目的地に近づくにつれ魔境の空気はどんどん重くなっていく。

 

魔物の気配がまったくしないのが逆に恐ろしい。俺の経験上それだけ強大な存在がいるってことだからな。間違っている可能性もあるが。

 

リーンの様子をうかがうとやはり彼女も感じているらしく緊張が感じ取れる。さっきから黙ったままだ。

 

ここまで深い場所に来たのは初めてだろう。場に飲まれていそうだ。

 

戦闘訓練を積んで来たというのは本当だろうし、確かに強くはなっている。だがいざというときにまともに動けるだろうか?

 

マズいかもわからんね…

 

どう切り出して引き返せばいいのか? 周囲の環境に気を配りながらぐずぐずと考えているととうとう目的地の目前まで来てしまった。

 

一見のどかな風景だが俺の気分は重苦しいものが支配している。

 

ここまで来たからには早く終わらせるしかないか…

 

渓谷の入り口が見えてくる。

 

ようやく見えてきた……なんて感想は起きなかった。

 

渓谷の奥の方からヤバい気配をビンビンに感じる。

 

これはいよいよマズいかもな…

 

「……そ、それじゃあ、あそこから魔術で調査を開始するね 」

「……… 」

「? レイン? 聞いてる? 」

 

視線を感じる…

 

「ちょっとっ…? どうしたの… 」

 

どこからだ?……渓谷側じゃない!?

 

俺は言葉を続けようとするリーンを手で制すると全力で索敵する。そして、気づく。

 

ああ……これはまずい

 

「リーン…このままゆっくりと後ろに下がるんだ 」

 

指示を出して少しでも安全を確保しようとする。リーンも何かに気づいたようだ。黙ってこちらに従い俺の後ろ側に来る。

 

このままなるべく距離を取ろうとした時、ようやく相手の姿を捉えることが出来た。

 

左手前方、距離は30メートルほど。木々の間から地面に手をついた姿勢でこちらをじっと観察している。

 

この距離まで気付けなかったか…

 

のそりのそりと動き出すとこちらの前方に回り込むように動いてくる。

 

その間に俺たちは相手から距離を取るようにじりじりと後退していく。

 

どうやら相手はこちらから渓谷に向かって立ち塞がるような位置取りをしようとしているらしい。

 

このまま後退し続ければ戦闘を回避できるだろうか?

 

目の前にいる魔物は全体的なシルエットは犬のような形をしているが全身は鱗と甲殻で覆われていて、所々長めの毛で覆われている。

 

頭はまさに竜と言った感じで爬虫類とか恐竜を思わせる。前方に湾曲した二本の角を持っている。

 

首は長めで地面から頭頂までは4,5メートルくらいはあるだろうか。尻尾は太くて長く、体長は10メートルほどありそうだ。

 

全身は緑色を基調として胸の中心から赤茶色のラインが体の至る所に伸びている。

 

距離は少しずつ開いてきているが一瞬で詰められそうだな。全く安心できない。

 

そのままでいてくれ…

 

間に流れる不穏な空気を意識から追いやってそんな都合のいいことを考えてしまう。

 

―………ッ!

 

そんな弱気が良くなかったのだろうか?

 

竜からこちらを絞め殺すような怒気が(あふ)れて(せま)ってくる。こちらを侵入者として排除する。そんな強烈な意思を感じる。

 

後ろからリーンの息を呑む気配が伝わった。

 

これが竜種の…本気の殺気なのか……

 

ここに来てあの巨鳥やサンショウウオがまったく本気じゃなかった事を悟る。なんか面白そうなものがある…そういった好奇心の延長のようなものだったのかも知れない。

 

まさかこれ程とはね…

 

想定が甘かったかも知れない。

 

リーンの協力がなければ切り抜けるのは難しい。しかし、彼女は完全に萎縮してしまっている。

 

俺も萎縮しそうになっているがリーンが後ろにいるお陰で踏みとどまれている部分があるな。

 

俺が前で踏ん張るしかない。その間にリーンが立ち直ってくれればいい。そう踏ん切りをつけると意識を戦いへと切り替える。

 

竜の殺気に対抗してこちらも気合いを入れて魔力を練り上げていく。

 

竜の視線に対抗してこちらも射殺すように睨み返す。

 

メンチの切り合いってやつだ。先に目をそらした方が負け。

 

『何見とんじゃコラァッ! 殺すぞっ! 』

 

相手が人間だったならそう叫んでいたかも知れない。

 

呑まれたら負けだ。本能がそう理解した。

 

歯を食いしばって睨みをきかせる。

 

後ろではリーンがビクッとなった。

 

それぐらい気迫を込めた。

 

じりじりと時間が流れていく。

 

不意に相手の圧がふっと緩む―

 

どうやら威嚇合戦はなんとか引き分けに持ち込めたらしい。汗が噴き出してくるが終わりではなくここからだ。

 

俺が見つめる先、竜は前足を沈み込ませ突進してくるような体勢を取り始めた。

 

本格的な戦闘が始まる。

 

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