機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第98話 X 深緑の闘士

リーンを背中にかばい襲撃者に向き直る。

 

身の丈は4メートルを越すぐらい。二本の足で立っていた。こちらを値踏みするように見下ろしている。

 

熊だ。こういうときに遭遇することが多い気がする。呪われているんかね?

 

緑色の毛並みをしているが体の至る所に毛が生えていないところがあり、そこの筋肉が盛り上がっている。その上を分厚くて硬質な皮膚が覆っている。

 

魔力変異は十分。上級上位ぐらいの力はあるかもしれない。

 

今の状態だと分が悪い…

 

リーンは先ほどの戦いを終えて緊張の糸が切れてしまっている。しばらく立ち直れそうにないな。無理もない。

 

俺一人でどうにかするしかないか…

 

「リーン、ここは俺が何とかする。一人で拠点まで戻れ 」

「 一人じゃ無理よ! 一緒に戦うわ っ!」

 

当然そう来るよな どうしたもんか…

 

「一人なら適当に相手した後逃げることが出来る。二人の方がやりにくいんだ 」

「でも… 」

「いいから行けっ! 」

 

声を荒げて答えると、俺は緑熊に向かって駆け出す。

 

“雷豪丸”を抜くと魔力を込めて袈裟懸けに切りつけた。

 

相手が腕を盾にして受け止めてくるとつばぜり合いのような形になる。その瞬間、足を踏ん張ってから掬い上げるように振り抜いた。盾ごと押しやるように無理やり通す。

 

「オラァッ! 」

 

裂帛の気合いとともに吹き飛ばす。熊は自分から後ろに飛んだこともあり思いのほか距離を稼げた。着地後によろめいてもいた。

 

ビビったか?

 

魔力残量は心許ないが竜との戦闘を経て戦闘感覚は研ぎ澄まされている。

 

コアからの魔力供給と自然回復でゆっくりとだが確実に調子を戻していけている。

 

魔術さえ乱発しなければいけるか?

 

体勢を立て直した熊はリーンの方が仕留めやすいと見たのか回り込んで俺を避けようとするが素早く移動して前に立ち塞がる。

 

やらせねぇよ…

 

それを見たリーンは拠点に引き返していく。背中越しに魔力が遠ざかっていくのが感じられた。

 

いいよ。それで正しい

 

この熊が強いお陰でここら辺からは他の魔物はいなくなっているだろう。こいつさえ通さなければ無事に拠点にたどり着ける。

 

こいつが弱ければ一緒に戦うんだけどな。どう転んでも邪魔な敵でしかない。

 

まあ、それはいい…

 

構えていると今度は熊から始まる。四つ足で地面を蹴り飛ぶように迫る。

 

ここからが本番…

 

眼前までくると大きな鉤爪を振り下ろし引き裂きにかかった。

 

それをギリギリで躱すと身を(ひるがえ)し一回転して切りつける。

 

交差した腕を盾にしてガードされるが、今度は吹き飛ばすまでに至らない。

 

すぐに熊は短い咆吼と共に衝撃波を放つ。

 

それをバックステップで躱して距離を取った。

 

なるべくリーンから引き離さないとな…

 

そのためにも俺の方に引き付ける必要がある。道具で挑発してやると決めた。

 

俺は腰のポーチから赤い色の紙で包まれた玉を取り出す。そこから伸びた導火線に火を付ける。

 

こちらの怪しい動きに警戒したのだろうか。ヤツは様子を見ることにしたようで動きはない。

 

時間を見て投げつけると相手は身を低くして玉を避ける。

 

頭上を通り過ぎる瞬間、玉は爆発し赤い色の粉が飛び散った。熊の頭に降りかかる。唐辛子爆弾だ。

 

魔力で防御したらしく咳き込んだりすることはないが顔をしかめて嫌そうな表情をつくる。

 

そこに、ダメ押しで挑発的な波動を送ってやる。

 

ムカつくだろ?

 

案の定、激高して見せる。咆哮を上げこちらへ向かってきた。そう仕向けたのは俺だが凄まじい迫力だ。

 

ついてこいよ…

 

背中を向けて追いかけっこを開始する。

 

やつは俺を逃がす気がない様で正確に俺の後を追う。どたどたと音を立てながら四つ足で追いかけてくる。

 

背中越しに音と圧を感じながらひたすらに足を動かす。

 

相手の邪魔になるように木の間を縫うように駆け抜ける。追いかけてくる熊は時折木をなぎ倒して追跡してきた。森に木が倒れる音と振動が響く。

 

そのお陰もあってなんとか距離は保てているがあちらの方が速い。

 

ここからどうするか?

 

コイツを撒いて拠点に戻るのがベストだが振り切るのは難しい。振り切ったところで追跡能力に長けているならリーンの後を追われるかも知れない。この辺りの地形を熟知しているなら拠点の位置を把握している可能性がある。

 

倒すしかないか…

 

そんなことを考えていると後ろに魔力の高まりを感じる。

 

魔術っ… デカいヤツが来るっ

 

地面の中を魔力が駆け抜けていって俺を追い越すと前方に土の壁が現れた。

 

土術! 速ぇなっ…

 

土壁は行く手を(さえぎ)るため幅広く高く設置されている。横や上への回避はかなりのロスになる。

 

俺は右手に魔力を込めると走る速度を上げた。

 

正面突破だ。

 

土壁に向かって拳を叩きつけると貫通して穴が空く。

 

その穴に向かって走ってきた勢いそのままに飛び込んでくぐり抜けると再び地面に足を付けて走り去る。

 

後ろでは熊が魔術を解除して壁を崩し、土砂を飛び越えて追いかけてきているらしい。

 

魔力の感じと音で判断する。

 

そのまま自分の魔術に引っかかればいいものを…

 

まあ、そこまで甘くないか。

 

そのまま走って行くと今度は後ろから土の塊が飛んでくる。土製の紐を付けて魔力線を維持したもの。

 

強力な魔術ではないが今の疲弊した俺には厄介だ。走る体勢を崩されると追いつかれる。

 

当たる直前に方向を変えて避けるとそこを再び土玉が襲う。感覚で躱して速度は死守する。

 

相手が魔術を使うたびに熊の速度が落ちて距離は開いていった。

 

距離が保てるならこちらに有利か…

 

そのまま走りながらどこかしらで反撃に移ろうかと考える。すると急に視界が開けた。

 

岩が壁のように地面からせり出している場所に出る。

 

チッ… 

 

激突する前に止まり後ろを振り返った。熊が速度を落として悠々と走ってくるのが見える。

 

ずいぶんと冷静じゃないか…

挑発して怒らせたはずだが足りなかったかな?

 

策を考える余裕はあったらしい。

 

動いている内に冷めてきたのかもな…

 

まあ、リーンとの距離は十分に稼いだろうしここいらで決戦と行こう。

 

ヤツは20メートルくらいの距離になるとゆっくりと歩いてくる。

 

残り10メートルぐらいの位置に来ると動きを止める。おもむろに二本足で立ち上がると唸りながらこちらを睨み付けてきた。

 

俺は再びポーチから赤玉を取り出して火を付けると、タイミングをはかって相手の顔めがけて投げつけてやった。

 

煙を上げて回転しながら飛んでいく。それを目で追うと同じく目で追っている熊と視線が交わる。

 

どう出る…?

 

熊を効果範囲内に捉え、まさに爆発しようとした瞬間、地面から土の壁が高速で伸びてきて赤玉が内部に取り込まれた。

 

中で爆発はしたと思う。しかし、当然効果はない。

 

学習している。完全に無効化された形だ。

 

だが、俺はそれを予想していた。土壁の出現と同時に死角から接近すると壁に向かって魔術を叩き込む。

 

蛇型技(じゃけいぎ)撃波(げきは)烈掌(れっしょう)

 

(てのひら)から衝撃が伝わり土壁を貫いてその先にいる熊を吹き飛ばす。

 

魔術が解けて壁が崩れると4,5メートル吹き飛ばされたヤツが起き上がるのが見える。

 

その表情には驚きが見て取れた。

 

無理もない。見た目がいきなり変化したからな。土壁で視界がなくなった瞬間に換装していた。

 

遅ればせながら、戦闘体・魔我土鬼(マガトキ)…推参

 

全力でお相手しよう…

 

熊は姿が変わっても俺だと認識したようだ。戦う意思はなくなっていない。むしろ強敵と見なしたのかより魔力を上昇させて突進してくる。

 

こちらもそれに合わせて正面からぶつかると相手の手を掴んで押し合いをする。

 

あれから魔我土鬼も改良を加えてある。身長は2.5メートルほどになり大型化してより出力を上げられるようになった。

 

体格では劣るが力勝負では互角の戦いになっている。

 

相手は手を振りほどこうとして、あるいはこちらの体勢を崩そうとしてひねりを加えて来る。それを左右の蛇腕を操って柔軟に受け止める。

 

逆に相手の力を利用して体勢を崩すと足払いをかけて投げ飛ばす。

 

―蛇型技・衝絶拳(しょうぜつけん)

 

起き上がりを狙って衝撃魔術を乗せた拳を放つ。多関節を利用して波の移動を加え威力を上げている。

 

しかし、腕をクロスさせたガードに阻まれる。多少は後退させたが体勢を崩させるまではいかない。大したダメージにはなっていないだろう。

 

反撃の魔術を警戒して距離を取って出方をうかがう。

 

やはり熊系の魔物はフィジカルが強い。今のは単純に威力をパワーで相殺した感じだな。

 

力を集中して切り裂くか(つらぬ)くかしないとダメージにはならないだろう。回復力も半端なさそうだし。

 

俺の脳裏にいつぞや熊の脳天に一撃を加えたときのことがよぎっていた。

 

半端な攻撃は無意味。

 

素材を卸せない以上、傷みに気を遣う事もない…

 

なるべく早くリーンの所に戻らないとどう行動するかわからないしな。

 

狩人の流儀は頭の隅に追いやろう…

 

熊は魔力を練ると発動させてくる。

 

また、土魔術かと思ったが今度は地面から水が湧き出して熊の体を覆っていく。

 

土と水の複合か…

 

水の鎧を纏いこちらに飛びかかってくると腕を振り下ろしてくる。

 

後ろに飛んで躱すと元いた地面が打撃によって爆ぜる。

 

水をゴムのように弾ませて打ち付ける水撃。水魔術の基本的な攻撃方法だが威力は段違いだ。

 

攻撃後を狙って腕を伸ばした抜き手を放つが水の鎧に阻まれて本体に届かない。

 

体勢を立て直した熊はなおも接近して腕を真横に振り爪で引き裂こうとしてくる。後ろに下がってギリギリで躱すと腕の振りに追従してきた水が鞭のようにしなって横から叩きつけてくる。

 

腕でガードをするがガードごと吹き飛ばされる。立ち木に衝突するとへし折って突き破り、二本目の木を折って止まった。

 

そこへ上から極太の水の柱が襲いかかる。

 

俺は咄嗟(とっさ)に亜空間から刀を取り出すと一瞬で魔力を込める。柱が落ちてくるより速く振り抜いて両断した。

 

本体から切り離された部分は制御を失いバラバラに散っていく。残りの部分はそのまま地面を打ち付けると更に大きな爆発を引き起こし地響きをさせる。

 

魔我土鬼の鎧の中はほとんど土で満たされているだけだから衝撃にはめっぽう強い。今のところ損傷はほぼなかった。

 

それを悟ったのか今度は水を硬質化させて刃を作ると接近して振り下ろしてくる。

 

それを刀で受け止める。

 

―ガキィィィッ!

 

辺りに金属同士を打ち付けたような硬質な音が鳴り響く。

 

水をここまで硬くまとめ上げてくるとは…

 

数瞬のつばぜり合いの間にもう片方の手で爪を叩きつけてきた。

 

刀を上に跳ね上げながら身を低くして水刃の下をくぐると熊の脇をすり抜けるように通過しながら胴を一閃に薙ぐ。

 

―ガギィッ

 

体を覆う鎧も自在に硬くできるようだ。魔力は込めているが弾かれる。

 

最大攻撃力をぶつけるしかないか…

 

振り向きざまに亜空間から脇差しを取り出して左手に持つ。

 

右手に“雷豪丸”、左手に“守継”を持った形だ。

 

―電華熱閃

 

魔術を起動すると両手に持った刃が赤く輝きだす。

 

それを見てヤツは警戒したのか距離を取ったままこちらをうかがっている。

 

にらみ合ったまま時間が流れる。

 

動き出したのはほとんど同時だったように思う。

 

お互いに走り寄る。

 

熊は水刃を伸長させながら高速の突きを放ってくる。

 

それを体をひねって右に躱し“守継”で水刃を上からたたき折るように両断する。

 

そのまま前進して、熊の伸ばされた右腕を“雷豪丸”で下からすく上げるように切り飛ばした。

 

そこから返す刀で首を狙いに行く。

 

だが、残った左腕が振るわれる。水がしなり俺の胴に水撃が叩きつけられた。

 

後ろに吹き飛ばされそうになるが持ちこたえる。足の土を伸ばして地面に接合、硬化させその場に踏みとどまった。

 

踏ん張りつつ左手の脇差しを亜空間にしまうと刀を両手で構える。

 

―空射加速

 

空術で後ろから自分自身を吹き飛ばして加速すると腕を失った左側に回り込む。地面を蹴って飛び、高さを合わせて首めがけて刃を振るう。

 

それを読んでいたのか熊は斬撃を避けるように体をひねって反らしながらカウンターの左腕を繰り出してくる。

 

―相手の方が速い…

 

そう判断し空気を蹴って体をわずかに後ろに下げる。熊の爪が胴鎧を(かす)めて削っていった。

 

俺は蛇腕を伸ばすことにより剣筋を維持して振り抜いていく。

 

高熱の刃は水鎧を蒸発させながら切り裂いた。首に到達すると毛を、肉を、骨を焼き切りながら反対側に抜ける。

 

首を失った体は力なく崩れ落ちていき地面に横たわった。

 

地に足を付けた俺は構えを解かずに注意深く魔力の流れを確認する。

 

仕留めたな…

 

換装(チェンジ)

 

そう確信すると人間体に戻り後片付けを開始していく。

 

リーンにこの遺体を見られたら大変だ。亜空間に切断した右腕と首も確実に入れる。

 

さて、戻るとするか

 

遅くなりすぎるのもダメだが早すぎるのもダメだ。しっかりと引きつけてから撒いた風を装わないとな。

 

少し遠回りに迂回して拠点に向かう。

 

拠点のある少し開けた場所に来て館が見えると扉が開いて中からリーンがかけだしてきた。俺の魔力を感知していたようだ。

 

「レインッ! 」

 

ほっとした表情を浮かべながら走ってくる。

 

駆け寄ってくると手前で止まり上から下に目線を這わせながら無事を確認する。

 

「大丈夫なの? 」

「この通りピンピンしているさ。それより早いところ撤退しよう。車の所まで戻るぞ」

「………うん 」

 

もうちょっとごねるかと思ったが素直に従ってくれた。流石にこんなことがあったら気持ちも萎えるか。

 

それにもう調査は十分とも言える。あれ以上の脅威があるとも思えないしな。

 

軽く荷物をまとめると拠点の鍵を閉めて車を置いているキャンプ地に向けて出発した。

 

 

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