機鋼神エイジャックス ー神石転生異世界記ー   作:井上斐呂

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第99話 生還

行きと同じく魔物に襲われることはなかったが慎重に進んでいったのでそれなりに時間がかかる。

 

結局、キャンプ地に着いたのは完全に日が落ちてからになった。

 

携帯食料とインスタントスープ、それに干し肉が少しの簡素な夕食を取ると眠りに就く。

 

体力も魔力もだいぶ回復していたが精神的な疲労はそれでも残るらしい。肉体は気絶するように眠りに落ちていった。

 

翌朝、日が昇る前に自然と肉体が目を覚ます。

 

白み始めた中で朝食の用意をしてリーンを起こすと食べ始めた。

 

食事中、まだ目が覚めていないのか話す気力が無いのか終始無言だった。

 

食事の後片付けを行い車の座席を戻すとテントをたたんで荷物を積んでいく。

 

「それじゃあ帰るとするか 」

「……うん 」

 

なんだかまだ元気が無いな…

 

これだけのことを経験したから当然という考えもあるが、逆にそれでも生き残れたんだから、わたしならもっと上を目指せると自信を付ける可能性も無くはない。

 

変に自信を持たれると厄介だと思っていたのだが、単にまだ整理がついていないだけか?

 

時間が経ってみないとわからないな。

 

車に乗り込むとタービンを回して前進を開始する。

 

学院までの車中ではリーンに何度か話を振ってみたのだが生返事が返ってくるばかりだった。

 

大丈夫なんだろうか? 心配になってくる。

 

これはリオンに謝らないといけないかもな…

 

・・・・・・・・・・・・

 

突然、レインが自分を抱きかかえて跳んだ時は何が何だかわからなかった。

 

恐ろしい魔物の気配を感じたときはあの竜種かと思って絶望したが違うとわかると少しほっとしたものだ。

 

だが、その姿をはっきりと見るとその考えが甘いものだと認識させられた。

 

見上げるほどの巨体に膨大な魔力。今の疲弊している自分たちでは勝てない。

 

そう思ってしまった。

 

でもレインはそう思っていなかった。彼には諦めるなんて選択肢は無いのかも知れない。

 

拠点に向かえと言われたときは正直ほっとしたものだ。

 

わたしの体はすぐに動くことが出来た。

 

でも、その途中でレインが殺されてしまうかもしれないと言う思いが湧き上がってきてしまった。

 

引き返してみるとそこにはレインも魔物もいなかったが痕跡を辿(たど)って移動した方向を察知すると魔術を使用した。

 

本来であれば渓谷内を調べるために使用したはずの魔術、遠視魔術・空晶望遠(レカスト・パトヘリス)を。

 

魔力線を伸ばしていきその途中途中で空気を圧縮して透過晶体を形成し、途中にある物体を避けて遠くを見ることができる魔術だ。

 

遠視をしながら攻撃魔術で援護を行う。わたしなら決して不可能じゃない。

 

そう思って遠視を行いながら近づいていった。レインと魔物の姿を捉える。その時だった。

 

レインの姿が一瞬で異形に変化し、次の瞬間には姿が消えて壁の向こうにいた魔物の巨体を吹き飛ばしていた。

 

魔物よりレインが変化したであろう異形の存在、その方が恐ろしくなってわたしは逃げるように拠点に走って行った。

 

暗い拠点の中でひとり、ひたすらに起こっていたことについて考えた。

 

土魔術と鉄魔術、この二つがあれば同じようなことは可能だろう。そう考えて自分を納得させようとする。

 

しかし、あれはそんなものだっただろうか?

 

魔術である以上物質は必要だ。あれはどこから来たのだろう? 周辺にそれらしい形跡はなかった。その場で物質を作り出したのだろうか?

 

そんなことはあり得ないだろう。きっと自分が気づかなかっただけだ。

 

必死に自分を納得させようとしていることに気づくと頭はむしろ冷静に回り出してしまう。

 

仮に魔術で行ったとして何故姿を変える必要がある?

もっと他に効率のいい使い方があるように思える。

 

それにこれが一番決定的なことだが魔力の質が大きく変化している。面影が無くはないが別の存在と言っていいだろう。あれは本当にレインだったのだろうか?

 

ひょっとしたらレインはもう戻ってこないのではないか? そう考えると急に得体の知れない不安が襲いかかってくる。

 

拠点の外によく知ったレインの魔力を感じたときは思わず駆け出してしまった。

 

いつもと変わらないレインがそこにいることに安堵したものだが、あのことが脳裏をよぎるとひどく遠い存在に感じてしまう。

 

あの瞬間を目撃していた、そう本人に伝えたらどんな顔をするだろう?

想像すると怖くなる。

 

伝えてしまいたい。

 

そうすれば胸のつかえが取れるような気がするが、自分の前から姿を消してしまうような予感がして口を(つぐ)まざるをえない。

 

学院へ向かう車の中、助手席に背中を預けながらシャーリーンは一人で悶々とした思いを抱えていた。

 

・・・・・・・・・・・・

 

学院に到着するとリーンを下ろして自宅に帰る。

 

リーンのやつは自室に向かう足取りはしっかりしていたから大丈夫だろう。

 

後日リオンも含めて三人で調査報告会をやるからその時に再びリーンの様子を観察するか。

 

場合によってはリオンに謝罪でもしておこう。

 

俺の方でも報告書は書いておくか、リオンへの釈明用という意味も含めて…

 

竜種についてはリーンも書けるだろうけど狩人として、前衛として戦っていた人間としての意見とかも欲しいかも知れない。

 

緑熊に関しては多分もう必要はないだろうけど、それを知っているのは俺だけだしリーンには書けないから俺が書くしかないか。

 

家に帰ると早速、報告書の作成に取りかかる。

 

普通ならやる気が出ないんだろうが一晩寝ただけで気力が充実している。

 

この肉体は優秀だ。いや、特別優秀じゃなくても魔石があれば似たようなことにはなるか。

 

竜種に関しては絵を中心にその能力についての考察を書き連ねていく。

 

竜らしい竜ではある。アルグラントを思い出すがなんとなくあれとは根本から異なるような、そんな気がしてくる。根拠はないが。

 

力の大きさで言ったらあいつの方が断然上だと思う。話にならないぐらいだ。どうやったらあそこまでの存在になるのか不思議なものだ。

 

竜種についてはこんなものか。

 

次は緑熊についてだ。これがなかなか厄介だ。

 

表向きは引きつけながら逃げていって途中で撒いたことになっているからあまり詳しくは書けない。

 

土魔術と水魔術が使えることぐらいか、書けるのは。あとは走力とか外見ぐらいなものだな。

 

ギルドに卸すことも出来ないし、こいつと同じように魔力変異した個体が何体もいるとは思えないし、あまり書く意味がないのが遺憾ではある。

 

やはり、狩人として最後まで相手をしたかった。

 

魔石の情報を確認してみる。

 

かなり大きな魔石だ。掌からはみ出るぐらいの面積があり厚みもある。最近は大物はギルドに解体を任せているから直接大きな魔石を見るのは久しぶりな感じがあるな。

 

最大魔力量は102372か。10万を超えるのはコアを除けば初めてだ。

 

仮に魔力全快の状態でも事前の対策がなければ難しかっただろう。

 

コアブーストを使っても不確定要素が大きい。普段から使っていれば十全に使えるようになっていただろうがあまり使いたくないしな。

 

結局、戦闘体でなければ勝てなかったか…

 

それは仕方がないな。今はコアの方がずいぶんと魔力は多い。コアの性能を最大限発揮できる戦闘体は切り札とも言える。頼り切るわけにはいかないが切るべき時は切らなければ無駄になってしまう。

 

二日ほどかけて報告書が完成した。

 

その次の日に学院に向かって走って行く。

 

最近、車移動に偏りすぎな気がするから久しぶりに走る。

 

学院に着いてからいつも通りにリーンの部屋に向かうがいつもより足取りが重い気がする。

 

リーンのやつ、大丈夫だよな?

 

報告書を書いているときは忘れていたが学院に来ると懸念事項を思い出してしまう。

 

何でもないことを祈りつつ扉を開けるとリーンとリオンが応接テーブルに座っている。開ける前からわかっていたけど。

 

「時間通りだよな? 待たせたか? 」

「時間通りよ。 はじめましょうか 」

 

案ずるより産むが易しか…

 

いつものリーンに戻っているような気がする。少なくとも表面上は。

 

報告会を行っているとむしろリオンの表情が険しくなっていく。

 

これは謝罪不可避か?

 

「良く無事に戻ってきてくれたね。レインがいてくれて良かったよ。本当にありがとう 」

 

どうやら別に怒っていないようだ。良かった。

 

「約束したからな。約束通りに出来たと思うがどうかな? 」

「十分だよ。生きて帰ってきてくれただけで満足だ。リーンにはいい経験になったと思うし 」

「そうね。あれほど危険だとは思わなかったわ。認識は改めないといけないわね。魔境はやっぱり恐ろしいものね 」

 

いや、あれほどのものはなかなかないと思うぞ…

 

いつもあんなことをしていると思われては後々面倒な事になりかねない。少し訂正しておこう。

 

「言っておくがあれほど危険な目に遇ったことは今回が初めてだ。いつもの事だから魔境の奥に送り込んでも大丈夫などと思わないようにな 」

「……… 」

「…リーン? 聞いているのか? 」

「えっ…う、うん。聞いてる…わよ 」

 

聞いてそうにないな…

 

リオンからも何か言ってやってくれと思ってリオンの方を見るが何故かジト目気味にあきれたと言った表情でこちらを見ている。

 

「レインがそれを言うのかい? 毎回、無茶をやっているようにも思えるけど 」

 

実際あきれていたようだ。

 

「俺が無茶をしたいのではなく結果として無茶苦茶なことになっていくだけだ。俺自身は安全第一で行動している 」

 

そうとも、俺は悪くない。運が悪かっただけさ。

 

「安全第一な人間なら狩人はやらないよ。研究者の方が向いているんじゃないかな?」

「そうよね、それがいいわ。今度研究室のみんなに紹介するね 」

 

兄妹そろって攻め込んでくる。リーンはいつもの調子を取り戻しつつあるようだ。

 

考えすぎだったか…

 

それはそれとして勝手に決められたら困る。接触する人間はこちらでコントロール出来ないと安心できない。

 

「すまないが人見知りが激しくてな。狩人が一番向いている 」

 

それを聞いて二人は何言ってんだ、こいつって視線で見てくる。

 

やめてくれるかな? 自分でもわかっているさ。そんな目で俺を見るな。

 

「…まあ、辞めるつもりはない。この生き方が性に合っているんだ 」

 

そういう事にしておいてくれ。頼むよ…

 

二人は納得はしていないようだが引き下がってくれた。このあともちょっとした雑談が続いていく。

 

報告会が終わり俺とリオンがそろって退出する。

 

並んで廊下を歩いているときリオンから声をかけられた。

 

「レインはこのあと時間はあるかい? 」

「そうだな… 特にこれと言って用はないな 」

「じゃあ、僕の部屋に来てもらえるかな? ちょっと話したいことがあるんだ 」

 

承諾して部屋に行くと開口一番こう切り出された。

 

「レイン。調査中にリーンと何かあったのかい? 言いたくないならかまわないけど」

 

これは謝罪不可避か? その前にもう少し聞いておきたい。

 

「あったことは報告会で話した以上のことはないな。どうしてそう思ったんだ? 」

「リーンのレインに対する態度がなんかいつもと違う感じがするんだ。報告できないことがあったんじゃないかって思えてね 」

 

リオンは晴れやかな微笑みと言った表情をしている。どういう意味だ?

 

細かく思い出してみるがまったく心当たりがない。ほんとどういうことだよ。

 

「ん~、まったく心当たりがないな。報告したことなら心当たりとして十分なんだが。想定外に危険な目に遇わせすぎたからな。そこはリオンにも謝らないといけないと考えている 」

「い、いや……そんなことはしなくていいよ。何もないならいいんだ、何もないならね 」

 

言葉とは裏腹になんか残念そうだな。リーンだけじゃなくてリオンもなんか変だな。まあ、いいが。

 

 

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