宇宙世紀実録 補助空母〈アインシャムス〉戦記 作:WAST0101
宇宙世紀〇〇八八 —— 。
ハマーン・カーン率いるネオ・ジオンの地球圏侵攻が始まった。派遣された各艦隊は、主導権を失った地球連邦の隙を突き、各サイドを次々と制圧していく。
*
サイドⅢ、ジオン共和国防衛ライン外縁。
デブリが漂う静寂の宙域を、ハミドは最新鋭機ガザDのMA形態で突き進んでいた。
熱核ロケット・エンジンの微細な振動が、シート越しに伝わってくる。
生産性重視の急造機だったガザCとは、機体剛性も出力も、まるで別物だ。
ネオ・ジオンの「聖地」たるサイドⅢへの先遣隊。
その高揚感は、通信回線から漏れる仲間の声にも、隠しようもなく混じっていた。
「コトハ、ハミド。さっきの連邦連中のビビり具合を見たか?
数はこっちの五倍はいたくせに、俺たちのツラを見るなり道を空けやがったぜ」
一番機を駆るカイトが、功名心に逸る声で笑う。
「連邦軍なんて、あんなものよ」
二番機のコトハも、余裕を崩さない。
だが、三番機のハミドだけは、全周囲モニターに映る後方空域の「空白」に、拭いきれない不安を覚えていた。
「……ですが二人とも、後続の旧ジオン軍残党の同志たちを、引き離しすぎです。
リゲルグの援護圏からも外れています」
「ハッ。一年戦争の骨董品に付き合ってられるかよ。
あんなトロい連中と足並みを揃えてたら、サイドⅢに一番乗りなんてできやしないぜ」
カイトの声とともに、二機のガザDがさらに加速する。
ハミドが逡巡した、その時だった。
センサーが、わずかなノイズを拾う。
直後――
漆黒の虚空から伸びた高出力のメガ粒子が、先行するコトハの機体を、紙細工のように貫いた。
爆光。
仲間の機体は一瞬にして、光の塊へと化す。
「コトハ――ッ!?」
絶叫するカイト。
ハミドは震える指先で操縦桿を握り直し、センサーが算出した狙撃ポイントを睨みつけた。
そこに、一機のMSがライフルを構え、静止していた。
電子音。
モニターが自動照合(オート・サーチ)の結果を吐き出す。
『所属:エゥーゴ……機種:MSA-003 ネモ……一部、差異あり』
ハミドは、その異様な姿に息を呑む。
ネモの胴体に百式のバックパックを無理矢理背負わせ、両腕はディジェのもの。
左肩にはマラサイのスパイクアーマー。
塗装も統一されておらず、まるで戦場の死骸を繋ぎ合わせたような「キメラ」だった。
その機体は、ティターンズの遺物 -フェダーイン・ライフルを、死神の鎌のようにこちらへ向けている。
「よくも……よくもコトハを!」
幼馴染を殺された怒りが、カイトの理性を焼き切った。
対照的に、ハミドの脳裏では、訓練の記憶が冷徹に警笛を鳴らしていた。
(……ポジション・チェンジをしないスナイパー?
誘っているのか?)
だが、カイトは罠を疑わない。
バインダー内蔵のミサイルを乱射しながら、一直線に突撃する。
敵機は冷静だった。
即座に放たれたダミー・バルーンがミサイルの信管を狂わせ、漏れた弾頭は頭部バルカンで鮮やかに迎撃される。
「待て、カイト! 戻れ、罠だ!」
叫ぶハミドは、反射的にデブリの影へ機体を滑り込ませた。
カイトを援護すべく、MA形態からMS形態へ変形しようとした、その瞬間――
視界の端で、別方向から飛来したビームが、突進するカイトのガザDを正確に捉えた。
一射目が右バインダーを撃ち抜き、姿勢を崩した刹那。
二機目の影から放たれた二射目が、コクピットを冷酷に貫く。
閃光。
カイトもまた、宇宙の塵へと化した。
ハミドのモニターに、二機目の「キメラ」が映し出される。
ネモの胴体に、本来コンビで運用されるはずだったマラサイのバックパック。
手には百式のビーム・ライフル。
正規の整備ラインを無視した、歪なシルエット。
「クソッ……!」
吐き捨てながら、ハミドは悟る。
ジャンクの寄せ集めのはずだ。だが、その動きが、まるで見えない。
二人の脱出ポッドの反応は、ない。
戦力差は明白だった。
この練度の「ベテラン」が操るキメラを相手に、ガザD一機では勝機は皆無。
「……最新鋭機の加速なら、振り切れる」
自分に言い聞かせ、変形プロセスを中断。
MA形態のままスラスターを最大出力で解放し、ハミドは暗黒の宙域へと機体を躍らせた。