宇宙世紀実録 補助空母〈アインシャムス〉戦記 作:WAST0101
ハミドが戦域を離脱して三十分もしない頃。
彼が目指す隣接宙域にて。
エゥーゴ/連邦の新鋭量産機ジムⅢを駆るディンにとって、この宙域はすでに答えが出た戦場だった。
敵機は多い。だが、そのどれもが遅く、鈍い。
サイドⅢへの帰還に逸る旧ジオン軍残党。機種も練度も統一されていない、寄せ集めの隊列
シャミラム隊長のジムⅢが攻めに出る。一年戦争で「四人目の三連星」と呼ばれた女と新鋭機の組み合わせ。
敵の隊列が紅茶に放り込まれた角砂糖のように崩れていく。
ディンは、シャミラムのMAVとしての仕事に取り掛かった。
——MAV(Mobile Assault Vanguard・機動強襲先鋒)。
二機一組で戦場を支配する戦術。今の二人には視線を交わす必要すらない。
シャミラムがわずかにシールドの方向を変える。
次に来る角度が、ディンにはもう分かっていた。
ディンのジムⅢがビーム・ライフルを構える。
かつてガンダムMk-IIが担っていた火力が、量産機の腕の中で唸りを上げる。
撃墜数プラスワン。
結果が、いつも先にある。
シャミラムの戦い方は、そうだった。
ディンは、その背中を追うだけでよかった。
*
敵の一機が、無謀にもシャミラムに接近戦を挑んできた。
ハイザック。
ティターンズのエンブレムを、雑にネオ・ジオンのそれに塗り替えただけの機体。
ザクマシンガン改を捨て、ビームサーベルを構える。
シャミラムは、この動きに付き合わなかった。
機体を半回転させ、敵の"下"へ潜り込む。
そのまま、ビーム・ライフルを一射。
閃光が、ハイザックの胴体を貫く。
ノイズ排除。
それだけだった。
ディンは、次の標的へ照準を移そうとした。
*
その瞬間。
ディンの視界の端で、何かがズレた。
レーダーに反応はない。
警告音も聞こえない。
だが、コロニー・ミラーの残骸に映る影が
ほんの一瞬
濃くなった気がした。
「いる」。
理由は説明できなかった。
体が先に動いた。
ディンは愛機を横へ滑らせる。
次の瞬間、ジムⅢのボディがデブリに激突した。
衝撃。
だが、陸戦型ガンダムベースのジムⅢは、それを弾く。
いつもより神経に障る警告音。
さっきまで自分がいた空間を、極太のメガ粒子が一条、猛然と貫いていった。
一瞬、理解が遅れた。
今のは新型機の攻撃だ。
*
ディンは息を詰めた。
心臓がわずかに早鐘を打っている。
ニュータイプのなり損ない、ちょっと勘と運が良いだけの、カテゴリーF。
そういうことに、なっている。
それでも。
さっきの一撃を、自分は「感じて」避けた。
旧式機以外の何かが、この宙域に混じり込んでいる。
ディンは、初めてそう思った。
*
(……今のを、躱した?)
ガザDのコクピットでハミドは息を呑んだ。
完璧な狙撃だった。
兆候も、反応時間も、すべて潰していた。
それを、あのジムⅢは「感じて」動いた。
消耗しているはずのエゥーゴに、なお"狩る側"がいる。
冷や汗が、パイロットスーツの内側を伝う。
ここは、憧れの故郷じゃない。
*
ディンは、ビームが来た方向へ二射、牽制射撃を放つ。
逃げ去るスラスターの光。
シャミラムのジムⅢが、何事もなかったかのように
攻勢を続ける。
追うべき背中は、そこにある。
ディンは操縦桿を握り直した。
——戦争は、始まったばかりだ。