「ヨシタカ、聞きたいことがあるの。この街で一番人が多い場所ってどこかしら?」
「一番人が多い場所?新宿か渋谷だけど、俺のイメージだと渋谷かな」
という事を彼が仕事に出る前に聞いていたので渋谷にやってきた。
特にすることはない。ただブラブラと、ただひたすら人の流れを観察しながら街を歩いた。
そして、私は渋谷駅の前の変わった金属のベンチに腰掛けて周囲を見渡した。
ただぼうっと眺めていると時より声をかけられる。
「お姉さん、ちょっといいですか?」
「何かしら?」
「もうお食事は済まされましたか?」
「いえ、まだだけど・・・」
「でしたら食事をご馳走しますので一緒にいかがですか?」
「あら、いいの?ではご馳走になろうかしら?」
そうして連れてきてくれたのは渋谷のマクドナルドだった。
ナンパ男に「いくらでも注文していいですよ」と言われたので、バーガーのSサイズとポテトのSサイズとシェイクのSサイズを頼んだ。
私は何気なく、窓の外を見やると負の感情を抱えた子供を見かけた。年齢は13歳くらい。
ずいぶんと空腹のようだ。
私は彼女がこちらに来るように魔法をかける。
すると根が素直なのか、ふらっとお店に入ってきた。
「こんにちは、お嬢さん」
そう言って私は名前も知らない彼女に挨拶した。
「お腹空いてない?一緒に食事でもどうかしら?こちらのお兄さんが今なら好きなだけ奢ってくれるそうよ」
そう言うと、私をナンパした男はぎょっとして、しかし、何も言い返せないようだった。
「いいんですか?」
「えぇ、もし彼が奢ってくれなくても、そのときは私が奢るから大丈夫よ」
こう言っておけば、おそらく私をナンパした男は奢らざるを得なくなるだろう。
これで逃げるならそれまでのものなのだが・・・
男の顔をチラリと見る。
「大丈夫っすよ。えぇ、女子高生の一人くらい余裕っす」
「そう、わかったわ、それじゃあ、お嬢さん、何食べたい?」
「お姉さんと、同じものがいいなって」
彼女がそう言ったので、私は「はい、どうぞ」と言って自分のトレイを彼女に持たせた。
私は再び注文をする。
「月見バーガー一つと、ポテトのLサイズ、シェイクのLでお願いします」
私がそう注文すると、ナンパ男がギョッとした。男は泣く泣くといった感じで渡しの注文の分を払った。
そして男と女学生と一緒に席につく。
そして私は女学生の隣りに座った。
ナンパ男は色々聞いてきた。
どこに住んでいるのか、年齢は、女子大生か会社員か、趣味は、恋人は?
という質問を適当にはぐらかした。
私は隣りにいる女学生に色々質問をした。
名前は佐藤沙織、年齢13歳、学生なのだが家が貧乏で苦労している。今日は学校の友達と映画館に行った帰りで、たまたまマクドナルドの前を通りかかったところで、久し振りの外食をしてみたかったのでマクドナルドに入ったとのことだった。
「ねぇ、サオリ、私の月見とそのバーガー、ちょっと交換しない?」
「えっ、いいんですか?私のほうがただ特をする感じになっちゃいますけど・・・」
「うん、普通のバーガーも食べてみたいかなって」
そうして私の月見と彼女のバーガーを交換した。
私は聞いた。
「美味しい?」
「うん・・・」
「あんまり、美味しそうじゃないけど、なにか苦手なものでもあった?」
「ううん、違うの、お母さんにも食べさせてあげたかったなって」
「じゃあ、私が奢るからお母さんに月見バーガー食べさせてあげてね」
「いいの?」
「えぇ、良いわよ」
そう言って私は男に少し待たせて、自分のICカードで月見バーガーを買って彼女に手渡した。
「ありがとうお姉さん」
「じゃあねサオリ」
私は男の方を向いて。
「さて、貴方はどこに連れて行ってくれるのかしら?」
「カラオケとか、どうっすかね?」
「カラオケって何かしら?」
「お姉さん、カラオケ知らないんですか!?」
「えぇ、何か変だったかしら?」
「いえ、じゃあ俺がレクチャーするんでついてきてください」
そう言って男と一緒にカラオケに行った。
「じゃあ、俺が一曲持ち歌を歌いますんで、その後、ソリテールさんお願いします」
「あの、私は本当に経験がないんだけど・・・」
「あぁ、じゃあ聞き専でいいっすよ」
「キキセン?」
「あぁ、歌うのを見ててください」
そう言って、男がマイクを持って歌っているのを眺めただけだった。
なるほど、ここは歌ってストレスを発散する場所なのね。
「どうですかソリテールさん?」
「えっと、良かったと思うわ」
「ほんとっすか、いやぁ、そういえば俺、喉乾いちゃったんで、何かジュースとか飲みませんか?」
「良いのかしら?じゃあお願いするわ」
そう言って、注文されたのはお酒だった。
成る程、酔わせて女を潰そうというのはどこの世界でも定番ね。
というわけで彼とお酒を沢山のんだ。
気づけば呂律が回らず歌いだし、最後には私の顔を見ながらテーブルに力尽きた。
私はそっと彼のジャンバーを彼の肩にかけてあげて立ち去った。
何だか急にヨシタカの顔が恋しくなってきて、私は家路についた。
彼の帰宅はあと1時間後だ。
キャプテン翼という漫画を見た。なるほど、ゴールすると点が入るゲームなのね、サッカーは。
彼が学生時代にやっていた競技がサッカーだと言っていたけれど、これがサッカーなのね。
なんというか、とても激しいスポーツだわ。
そんなことを思いながら漫画を読み進めていると彼が帰ってきた。
「ただいま帰りました」
「おかえりなさい」
「ちょっとシャワー浴びてきます」
「うん」
彼がシャワーを浴びている間も私は漫画を読み続けた。
「面白いですか、漫画?」
3巻の途中まで読んだところで彼から声をかけられた。
「面白いと思うわ。これがサッカーなのね」
「サッカー、と言う割にはだいぶ、誇張が入っていると思いますが、概ねあってますね。次の日曜日、休みになったんで一緒に見に行きませんか?」
「えぇ、是非見に行ってみたいわ」
「それじゃあ、早速チケットを買わないと」
そう言ってスマートフォンを操作し始める彼の横で手順を眺めている。
彼はクレジットカードを取り出して番号を入れ、チケットを購入した。
彼が買ったのはまるで石板に書かれている古代文字のような暗号だった。これがチケットになるらしい。
「今日渋谷まで行ってきたんですよね?なにか良い事ありましたか?」
「えぇ、なんか声かけられちゃって、お昼ご飯を奢ってもらったの」
「知らない人にですか?」
「えぇ知らない人だけど」
「なにか変なことされませんでした?」
「いいえ、カラオケって言う所に連れて行ってもらって歌を聞かせてもらっただけよ。お酒も飲ませてもらったの」
「そうなんだ、ソリテールさん、歌える歌あったんですか?」
「いいえ、ずっと男の人の歌を永遠と聞かされただけだったわ、退屈だから帰ってきちゃった」
「よく抜け出せましたね」
「彼、酔いつぶれてたもの」
「そう、ですか、ソリテールさんが無事に帰ってきて何よりです」
「それより、また言葉が固くなってるわ」
「あぁ、何というか、慣れてなくてごめん」
「ううん、別にいいの」
そういう私に対して彼は黙ってお茶を出してくれた。
緑茶、少し苦みがある飲み物。
カテキンという成分のお陰で少し眠れなくなるらしいのだけれど、そういった手の毒のようなものは私には効かない。コーヒーで言うところのカフェインみたいなものかしら。
「ねぇヨシタカ、一緒にカラオケに行ってみない」
「カラオケ?ソリテールって歌えなかったんじゃ?」
「歌を教えてほしいいの、いいかしら」
「分かった。じゃあ明日はカラオケだ」
そう言って、今日は眠りに就いた。