地下にある鉄道だから地下鉄。
クロブチはそう教えてくれた。
今地下鉄に乗っているのは彼の提案だ。
なんだか地下鉄に乗ったことのなさそうな私を見かねて乗せてくれたらしい。
場所は都庁前から新宿まで。都営大江戸線という路線に乗っている。
駅というのは電車が止まる場所のことをさすらしい。
私たちが乗る地下鉄は本当に一駅だけ。
「次はどこに連れていってくれるのかしら?」
そういうと彼は「地下鉄に乗ってみませんか?」と聞いてきた。
そしてこれが地下鉄。
本当に地下を走っている。ダンジョンみたいな場所をくり抜いて線路を地下につくったみたい。
一駅だけで名残惜しいけど、と思って私達は地上にあがった。
「次はどこに連れていってくれるの?」
そういうと、彼は真剣な顔をして「少しいいですかソリテールさん」と聞いてきた。
「なにかしら?」
「貴女は、どこの国の人ですか?」
「どこの国の人に見える?」
「分かりません、顔だけみればヨーロッパ人に見えなくもないですが、彫りの深いアジア人にも見えます。その髪の色、なぜか染めているように見えません。ですが、居ないんです。いるはずがないんです。緑色の髪をした人なんて。なんでかっていうと、普通の人間は赤髪、金髪、茶髪、黒髪にしかならないんです。遺伝子的に。
あと、貴女のその目だ。なんというか、こういうと大変失礼ですが、爬虫類というか、龍のような目をしているように見えるんです」
真剣だった。彼は真実を欲している。探究者である私はこれまでのお礼に真実をプレゼントするべきだとおもった。
「えぇ、どこまで理解してくれるかわからないけれど、私はこの世界の人間じゃないわ」
私がそういうと、夕暮れの新宿が時間が止まったようになった。
彼は大きく目をみひらき私をじっと見つめている。
「その角は、本物ですか?」
「えぇ、本物よ、触ってっみる?」
「いえ、女性の肌に気安く触れるべきではないともいますので今は遠慮します。それより今は貴女がどこから来たのか知りたいです」
「どこから、というのは、どこでもない、この世界ではないどこかから、としか言いようがないわ」
「申し訳ないのだけれど、だとするならもう自分の手におえる存在じゃない。ソリテールさんは嫌がるかもしれないけれど、国に任せるしかないです」
「私はどうなるのかしら?」
「わかりません。まずこの国の治安維持を任せているひとたちに聞かないと。その人たちのところまで連れていきます。ご同行願えますか?」
「あなたは、ずっと、そばにいてくれるのかしら?」
「俺でよければ、できうる限りそばにいます。ただし、治安維持のほうからあなたから離れろといわれた場合はその限りではありません。」
「わかったわ。気がすすまないけれど、それまでよろしくね」
そう言って二人で新宿のケイサツショまで足を運んだ。
彼は淡々とケイサツに言った。
おおよそ私がこの世界の人間ではないこと、角はおそらく本物で、髪の毛の色も本物。国籍はどこでもないこと。最後に彼はこう言った。どうしようもない場合、彼女に特例として国籍を与えてあげてはくれませんか?と。
こうしてずっと彼はつきっきりで私の保護者になってくれた。
私の存在はどうなっているかというと、まず、この日本という国では対処ができなくなっていた。
パスポートという入国管理に必要な手続き書を持っていないこと。国籍が不明であること。住んでいる場所も、ほかの連絡先も、、、
警察の人間の女が言った。
「その角、ちょっと触らせてもらってもいいですか?」
クロブチ以外に触られるのはなんだか抵抗感があったが入国審査に必要な手続きだと思ったから許可した。
警察の女が 「本物のようですね」 と、とても驚いたようにいう。
私は身元不明者という扱いで警察の保護の対象となった。
クロブチはずっと私のそばにいて保護者をやってくれた。一人でなんとか出来ると思っていたけれど、つい先ほどあったばかりなのに誰かがいてくれるというのは心強いなと思った。久しぶりね、こんな気持ち。魔王様がいた頃を思い出す。
明日は入国管理に出向かなければならない。それまでの宿泊先をどうするか聞かれたとき、少し迷ったクロブチは 自分の家ではだめですか? と名乗り出た。
警察たちは顔を見合わせて何かを考えた後、クロブチの住所の場所をメモに書いていた。
警察署を出た私たちの目の前に広がっていたのは煌びやかな魔法の光だった。
大勢の人間が繁華街と思わしき場所を笑顔であるいている。
「それじゃあ自分の家に案内しますので、ついてきてもらってもいいですか?」
「えぇ、よろしくお願いするわね」
そして都営新宿線という地下鉄に乗り、神保町という駅で三田線という地下鉄に乗り換えて千石という場所で降りた。どうやら彼の家はこのあたりにあるらしい。
男の家に上がるのは初めてではないが、人を殺さないで人間の家に侵入するのは初めてだった。