ソリテールの東京散策日記♪   作:小松将夫

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デート

入国管理の審査は手早くおわった。

私はすぐに身元不明者となった。決定的だったのは私が使っていた文字だった。どうやらこの世界のどこの文明にも該当しないらしい。

 

品川プリンスホテルで昼食を採った。

とても静かで落ち着いていて、家族連れも沢山いて、何だか心が静かな気分になった。子ども連れが多いのはレジャー施設があるからだろう。彼にレジャー施設を回っていいか聞いてみると快く承諾してくれた。

レストラン以外にスイゾクカンとボーリング場という場所はあるらしい。

水族館というのは水の入った大きなガラスケースのなかにたくさんの魚を見るための場所で、ボウリング場というのは鉄の玉を投げて、立てられたピンを倒すゲームがある施設らしい。

まずは水族館に入場してみた。

ブルーの透明なガラスの向こうで大小の魚たちが優雅に泳いでいる。一度海に入ってみた事があるけれど、本物の海にはそれ程、魚がいるわけじゃない。網ですくって精々10匹取れれば良いほうだと漁師に聞いたことがある。ここには様々なきらびやかな魚が群れをなして、まるで星空のように漂っている。

私は初めて人形を渡された人間の女児のような気分になった。

 

「綺麗ね」

 

「えぇ、とても」

 

彼も、まるで子供のように水槽を眺めている。

少し遠くにいる子どもたちと同じような顔をしていた。この水族館という人工の海は実に機能的だ。何故なら人間の利点を生かすことができる。

観測。

それが人間の最大の利点。

人間は朝日や夜空を楽しそうに観測する癖がある。それは魔族には理解し得なかったことだった筈なのに、私の今の胸の高鳴りは何だろう。果たしてこれが、観測による楽しさなのかは分からないけれど、ここの人間たちを観測し続ければ、この胸の高鳴りのようなものが分かるかもしれない。

 

ボーリング場にも来てみた。

なるほど、一つの鉄球で10本のピンを何本倒せるかというゲームらしい。私もやってみることにした。

 

彼は「久し振りだな、子供の頃、何度かやったことがあってそれっきりですけど」と言いながらボーリングの玉を選んでいた。

 

「どのボーリングの玉がいいかしら?」

 

「重さより、指がしっくりくるのが一番ですね。穴に指を入れてみてください。それで穴の奥にギリギリ指が当たらないくらいのものがいいと思います」

 

彼の言う通り、重さではなく指に合うものを選んだ。

緊張しながら第一投をしてみる。残念ながらレーンを外れてしまった。このゲームは、投げる姿勢、投げる場所の見定め方、力加減を自分で見極めないといけない。

隣で人間の子供が両手を使って投げている。自分にあった投げ方を自分で模索しなければならないわね。

回数を重ねるごとに徐々に倒せるピンの数が多くなってきた。

私のスコア表示にスペアが増えてきた。一方の彼はストライクを取ったり取らなかったりで少し点差が離されているのが悔しい。

最終的なスコアはほんの僅かに彼に届かなかった。

 

彼は本当に驚きながら「初心者、ですよね?」と言って驚いていた。

 

「えぇ、今日は初めてだったわ」

 

彼のスコアが150で、私のスコアが136、魔法を使ってでも勝ちに行くべきだったのに、私は何で魔法を使わなかったのかしら。それだけゲームに夢中だったと言うこと?

私はゲームの間に観測し続けた。どのような角度で投げればどこに行くのか。手首のひねり具合でどのようにボールがカーブするのか、それを考えるのが妙に楽しいゲームだった。

 

品川プリンスホテルから出た私たちを夕日が出迎えてくれた。暖かい風が頬をなでる。

 

彼が聞いてくる。「今日は楽しかったですか?」

 

私は答える。「ええ、とっても」

 

品川の高いビル群を見る。まるで魔法の建造物みたい。

帰りの電車の中で彼に肩を寄せつつ、周りを見渡してみる。同じ服を着ている子供たちは学生、彼らは魔法を覚えるのではなく社会の仕組みについて学ぶそうだ。

 

「ねぇクロブチ、貴方は学生時代どんな子供だったの?」

 

「自分ですか、冴えない学生でしたよ。特に何かに励んだわけではなく、適当に勉強して、適当に部活して、適当にバイトしてるだけの人生でした」

 

「ブカツってなにかしら」

 

「ブカツっていうのは学校で勉強が終わったあとにする特定の活動のことで、自分はサッカーっていう競技をやっていました。アルバイトはコンビニのレジでしたね」

 

「サッカーというのはどういう競技なの?」

 

「よかったら、今度見に行きませんか」

 

「えぇ、是非見に行ってみたいわ」

 

約束をした。サッカーの試合を見に行くと。

家に帰る、私は元々彼が使っていた部屋に、そして彼が台所で夕飯を作る。

 

「ねぇクロブチ、何か手伝えることはないかしら?」

 

「ソリテールさんは野菜の皮むき出来ますか?」

 

「出来るわ、任せておいて」

 

「ピーラー使ってみます?」

 

「ピーラー?」

 

「皮を剥く時に便利な道具があるんです」

 

「ぜひ使ってみたいわ」

 

そうしてピーラーの使い方を教えてもラチャ私は、とても素早くニンジンの皮を剥くことができた。

 

「便利な道具ね」

 

「あぁ、そうだ、今度便利グッズが売ってあるお店を紹介しますよ。もしかしたらソリテールの欲しいものが見つかるかもしれないし」

 

「ありがとう」

 

私と彼が連携したので順調に料理が進みカレーライスができた。私が初心者なので甘口にしてくれたらしい。

辛味と甘みが私の舌で交錯する。煮込まれたことで人参もジャガイモも甘みを増した。

チーズサラダを一口食べると辛味が少し和らいだ。

本当に彼は優しい料理を提供してくれる最高の保護者ね。

だから私は、私の内側にある事実を話したくなった。

魔法の話を。

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