メイドインアビス -燎灼たる奈落の残火-   作:ふぉーゆー

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第十章 燎灼の斧と真の秘密

「カンザー。なぜあなたはフレイムブレイブを使用すると

 反動が来るのか」

 攻撃を弾きながら語るボンドルド。

 「分かりますか?」

 

 カンザーは退きながら呟く。

 「知らねえよ…」

 

 腕を広げるボンドルド。

 「あなたの身体を調べさせてもらった結果…

 あくまで推測ですが、フレイムブレイブの真の能力が

 分かりました」

 「『太陽』。炎ではなく、恒星の概念。

 だから命を削り、燃やすのです。

 太陽は燃え続ける…」

 「フレイムブレイブ使用後の反動も代償も、

 燃料を消費しているからではありませんか?

 つまり、人の体で《恒星反応》を起こしている」

 

 「太陽…?」

 目の前で輝く斧 フレイムブレイブ。

カンザーの身体からまるで小さな恒星のような光が溢れている。

 さっきまでの炎じゃない。

 もっと――重い。

 コルニが低く呟く。

 「……人の体で恒星反応

 そんなもん長く持つわけがねぇ……」

 

 シリリアの顔も青い。

 「じゃあ……カンザーは……」

 

 ボンドルドが手を叩く。

 カチン

 「実に美しい」

 仮面の奥から愉悦が滲む声。

 「人の肉体で恒星を灯す。」

 「生命を燃料に宇宙を再現する」

 「遺物として――

 これほど完成された概念は珍しい」

 

 その瞬間

 カンザーが踏み込む。

 「なら――」

 激しく炎が噴き出す。

 「太陽なら!!

 仲間を照らすだけだ!!」

 斧が振り抜かれる。

 

 ボンドルドの肘の装甲から光線が放たれる。

 「『枢機に還す光(スパラグモス)』」

 研究室の空気が一瞬で蒸発する。

 光、爆発、衝撃。

 床が割れ、装置が吹き飛ぶ。

 

 ギャレットは叫ぶ。

 「カンザー!!」

 

 ガキィィン!!

 再び激しく火花が散る。

 ボンドルドの腕装甲が溶けている。

 

 焦げた金属が滴る。

 「……素晴らしい」

 ゆっくり後退する。

 「しかし――」

 

 装甲の奥から新しい層が現れる。

 「いささか危険すぎますね」

 仮面の中央部が光る。

 

 その瞬間、祈手(アンブラハンズ)たちが

 一斉に動く。

 「ちっ……!」

 舌打ちし、因果の結束(リンク・トーション)を振るう

 ギャレット。

 三人の祈手(アンブラハンズ)を縛る。

 「シリリア!カンザーの後ろ!!」

 

 銃を放ち、祈手(アンブラハンズ)を弾き飛ばす

 シリリア。

 

 コルニが叫ぶ。

 「カンザー!!」

 「作戦忘れるな!!」

 この戦いの目的。

 討伐じゃない。

 ″白笛を吹かせること″

 

 ギャレットが続ける。

 「カンザー!まだ倒すな!!」

 「白笛だ!!」

 

 カンザーの炎がさらに膨れ上がる。

 黒い腕

 眩しい炎

 太陽みたいな熱。

 

 その時

 ボンドルドが静かに呟く。

 「……なるほど」

 仮面が少し傾く。

 「私に白笛を吹かせるつもりですか」

 

 沈黙。

 

 祈手(アンブラハンズ)たちがざわつく。

 そして彼は――笑った。

 「それは……実に面白い」

 

 砂塵が舞う中、祈手(アンブラハンズ)に囲まれた

 コルニは歯噛みし、シリリアは手を震わせる。

 

 ギャレットは傷を負いながらも奮闘。

 

 ――ギィン!! ガァン!!

 鼓膜を突き破るような甲高い不協和音。

 ドンッッ!!

 踏み込むボンドルド。

 カンザーがフレイムブレイブで受け、弾き、後退する。

 

 「『月に触れる(ファーカレス)』」

 触手が放たれるが、転がりながら避ける。

 

 「『明星に登る(ギャングウェイ)』」

仮面から紫の光線が放たれ、地面や壁を反射する。

 

 バックステップを取りながら距離を取るカンザー。

 「『万世の炎(エタニティフレイム)!!』」

 フレイムブレイブを燃やし、回転させ光を防ぐ。

 ドンッ!

 距離を詰め、一振り。

 ボンドルドはそれを避け、

 腕の装甲から呪い針(シェイカー)を放出。

 五本放たれたそれを三本弾くが、二本脇腹へ突き刺さる。

 

 『呪い鋼』と呼ばれる、触れた質量に合わせて上昇負荷が

 発現する遺物を加工した物。

 撃ち込まれることで上昇負荷が発生する、主に対人用の武装。

 

 二層分の呪いがカンザーを襲う。

 重い吐き気とめまい。

 「ぐ……」

 膝をつく。

 

 「まだまだこの程度ではないでしょう?

 ……『枢機へ還す光(スパラグモス)』」

 

 肘から直線上に出るレーザービーム。

 奈落のルールを書き換える力であるようで、

 不死身の生物に命中させればその部位が再生しなくなる

 不可解な現象すら起こす光。

 

 カンザーの目前へ迫る、その時。

 

 「……危ないっ!」

 

 シリリアがカンザーを突き飛ばし、光がシリリアの胸を

 貫いた。

 「シリリア!!」

 倒れゆく身体を受け止める。

 

 鉄の匂いと、焼けた肉の匂い。

 ……その光景を見た瞬間。

 息をするのを忘れた。

 

 「……シリリア?」

 声が出ない。

 膝が少し震える。

 

 カンザーの腕の中で

 シリリアの身体がぐらりと揺れる。

 胸を貫いた光。

 そこからじわじわと煙が上がっている。

 

 「ぁ……」

 シリリアの唇がかすかに動く。

 「……よかった……」

 「当たらなくて……」

 

 その瞬間

 胸の奥で何かが 切れた。

 

 「……は?」

 ギャレットはゆっくりと顔を上げる。

 視線の先――ボンドルド。

 「……今の」

 一歩 踏み出す。

 血が足元に落ちる。

 「今のさ」

 また一歩。

 因果の結束(リンク・トーション)の持ち手の鎖が、

 カチンと鳴る。

 

 「……なに?」

 

 ボンドルドは静かに答える。

 「実験の一環です。」

 「非常に貴重なデータが――」

 

 ドンッ!!!

 床が砕ける。

 

 気付いたらギャレットはもう目の前にいた。

 「ふざけんなよ」

 剣を振るう。

 鎖が唸る。

 《因果の結束(リンク・トーション)

 祈手(アンブラハンズ)ごと

 ボンドルドを壁へ叩きつける。

 

 「シリリアが!!」

 「仲間が!!」

 

 声が震える。

 でも止まらない。

 

 「ただのデータなわけないでしょ!!!!」

 

 カンザーの方を見る。

 血だらけでシリリアを抱えている。

 「カンザー!!」

 「まだ終わってない!!

 その太陽!!」

 「仲間のために使うんでしょ!!」

 

 その時、コルニが叫ぶ。

 「……まだ助かる!!」

 「急所は外れてる!!」

 「だが――……」

 歯を食いしばる。

 「再生阻害だ!!」

 「あの光…傷が塞がらねぇ!!」

 

 空気が凍る。

 

 ボンドルドが立ち上がる。

 装甲が軋む。

 「なるほど……」

 「仲間の犠牲。怒り。絶望。」

 

 仮面がゆっくりギャレットへ向く。

 「……やはり素晴らしい」

 

 「カンザー……」

 ギャレットが静かに言う。

 「私が時間を稼ぐ」

 「コルニと一緒にシリリアを頼む」

 

 剣と共に鎖が空間いっぱいに広がる。

 青い光が

 研究室を覆う。

 「もういい」

 笑う。

 「実験ごっこは終わり」

 

 指を鳴らす。

 鎖が一斉に収束する。

 「本気で潰す」

 

 「う…」

 怒りで視界が赤く染まる。

 涙を流すカンザーが握る フレイムブレイブから

 黒い炎が昇る。

 「……うわあああああああ!!!!」

 

 ドオオオオオオ……

 黒い炎が戦場を包む。

 「っ!!」

 跳び掛かる。

 「があああ!!!」

 

 フレイムブレイブでボンドルドの仮面に亀裂を入れる。

 「やはり怒りで攻撃力が増すようですね。

 そしてその炎……」

 「素晴らしい」

 「『枢機へ還す光(スパラグモス)』」

 

 光が迫ってくる。

 だがカンザーはフレイムブレイブを振り回しながら

 距離を詰める。

 「アアアッ!!!」

 ザンッ!!

 ボンドルドの右腕の腱を斬り、焼く。

 

 「呑まれるな!カンザー!!」

 叫ぶギャレット。

 

 コルニも祈手(アンブラハンズ)に攻撃しながらカンザーを見る。

 

 「やめろ…それ以上は!」

 ギャレットが止めに入るも、突き飛ばされる。

 

 「『奈落の救い(サルベージアビス)』」

 カンザーが地面に手をつき、カンザーを中心に黒い炎が

 弧を描き広がってゆく。

 

 ボンドルドは距離を取るも、既に懐を取られ

 上へ蹴り飛ばされる。

 

 天井を破壊しながら突き破っていく。

 ……ボンッ、ボンッ。

 背中のカートリッジが放出される。

 

 「よくも…」

 横薙ぎの構え。

 「よくもシリリアを!!」

 「『奈落の運命(ディスティニーアビス)!!』」

 ブォン!!!!

 炎を纏う斬撃。

 その軌跡と触れた空気が爆発の連鎖を引き起こしていく。

 

 ボンドルドの胴体を両断し……爆発する。

 

 

 「……カンザー…」

 シリリアが震えながら吐血する。

 「!!」

 カンザーは即座にシリリアの元へ。

 「これで……いいの……」

 「っ!何も良くないっ……!」

 涙を流すカンザー。

 

 その涙を拭うように 手を頬へ。

 もう片方の手は、お互いの手を握る。

 「これからも……ずっと……一緒だから……」

 

 細めた目でギャレットとコルニを見るシリリア。

 

 「必ず……叔父さんを救ってね……

 みんなと…………奈落の底に……行………………」

 頬から手が落ちる。

 刹那、

 閃光。

 握り合う手から光が放たれる。

 

 ……コツッ。

 シリリアの腕が硬い地面に落ちる。

 

 カンザーは震える手をゆっくりと広げる。

 握られていたのは…白い石。

 命を響く石(ユアワース)だった。

 

 炎の余熱が まだ空気を歪めている。

 崩れた天井から、白い光が差し込む。

 

 その中心で――

 カンザーは動けずにいた。

 「……シリリア……?」

 掠れた声。

 返事は もうない。

 

 ギャレットはゆっくり近づく。

 足音がやけに大きく響く。

 コルニも 何も言わない。

 

 しゃがみ込み、震える手で石をそっと持ち上げる。

 温かい。

 まだ、ほんの少しだけ。

 

 「……ほんと、さ」

 小さく笑う。

 だが声が震える。

 「最後まで……優しすぎるよ シリリア」

 

 視線の先

 カンザーが崩れる。

 「……なんでだよ」

 拳が震える。血と涙が混ざる。

 「なんで……守れなかった……」

 

 ギャレットは立ち上がる。

 ゆっくりと歩いて、カンザーの前に立つ。

 そして――

 その頬を軽く叩く。

 パシッ……

 

 「……前見なよ」

 静かな声。

 でも しっかり届くように。

 「シリリアがさ」

 「なんて言った?」

 

 少し間を置く。

 

 「″これでいい″じゃない。」

 「″一緒に行く″って言ったんだよ。」

 

 命を響く石(ユアワース)を差し出す。

 白く、静かに光る石。

 「これ、託されたんだよ カンザーに」

 涙を拭きながらにっと笑う。

 

 「白笛だよ」

 「しかもさ、自分からなったんだよ、あの子」

 少しだけ空を見上げる。

 崩れた天井の向こう。

 奈落の上層。

 

 「……すごいよね」

 「怖かったはずなのにさ」

 もう一度カンザーを見る。

 

 「だからさ」

 「止まるのは――」

 一歩近づく。

 「失礼でしょ」

 

 コルニが低く言う。

 「……吹け」

 

 静寂。

 

 ギャレットは笑う。

 いつもの明るい笑顔で。

 でも、目は赤い。

 「カンザー」

 白い石をそっと手に乗せる。

 

 少し いたずらっぽく。

 「――白笛、鳴らしてみなよ」

 

 その瞬間。

 奈落が、静かに息を呑む。

 

 

 

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