メイドインアビス -燎灼たる奈落の残火-   作:ふぉーゆー

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第十一章 決着と新たな旅路

――ガララ…ドシィィン…!!

 

砂塵が舞う。

カンザーに両断されたボンドルドがそこに立っていた。

「!!」

 

「なぜ…!」

目を見開くギャレット。

 

「あぁ……祈手(アンブラハンズ)は全て《私》ですよ。

 …特級遺物『精神隷属機(ゾアホリック)』によるもの

 です」

 仮面の紫の縦線が光る。

 両腕を広げるボンドルド。

「成し得たのですね……」

 

 命を響く石(ユアワース)…シリリアを見てそう

 呟く。

 

「この野郎……!」

 カンザーが踏み込み、猛攻。

 それは全て受け流される。

 

「『明星へ登る(ギャングウェイ)』」

 

 仮面から反射する光線をフレイムブレイブで弾くカンザー。

「……!!」

 ガクン……

 膝が崩れる。

 

 コルニが焦りの表情。

「あいつ…限界だ…!」

 

 (――倒れるか)

 膝に手をつき、立ち上がる。

「俺は…託されたんだ」

「未来をな!!」

 

 ――その瞬間 命を響く石(ユアワース)から音が出る。

 フォォォォォォ…………

 

 音の波が響き渡り、

 カンザーのフレイムブレイブの炎が白い炎へと変わる。

 

 (カンザー…!)

 脳裏によぎる シリリアの笑顔。

 

 走りながらフレイムブレイブを構える

 

「終わりだああああ!!!!」

 ザンッッ!!

 袈裟斬り。

 振り下ろしたフレイムブレイブの軌跡に白い炎が残る。

 

「…素晴ら……ゴフ……し…………」

 ――ドサッ…

 前のめりに倒れるボンドルド。

 

「はぁ…はぁ…」

 肩を揺らすカンザー。

 

 砂塵がゆっくりと落ちていく。

 戦いの音が――止んだ。

 

 ギャレットはその場に立ち尽くす。

 呼吸が荒い。

 腕も足も、ボロボロ。

 でも――

「……勝った……?」

 小さく呟く。

 

 視線の先 倒れたボンドルド。

 動かない

 今度こそ、本当に。

 

「っはぁ……」

 膝から崩れそうになるのをこらえる。

 

 でも……次の瞬間。

 

 ドクン!!!

「ゴボッ……」

 カンザーの口から大量の血が溢れる。

 フレイムブレイブで技を連発した代償。

 

 仰向けに倒れたカンザーにギャレットとコルニが駆け寄る。

「ちょっと待ってよ…!」

 肩を揺する。

 反応が薄い。

 

 コルニが低く言う。

「……燃やしすぎだ。

 恒星だなんて代物、人間が扱えるもんじゃねぇ…」

 

 ギャレットは歯を食いしばる。

「だからって……!」

「ここで終わらせる気!?」

 カンザーの手を握る。

 熱い――

 でも

 その奥が冷えていく感じ。

 

「コルニ……」

 カンザーが震える手で命を響く石(ユアワース)を手渡す。

「シリリアを……頼む…」

 しっかりと受け取るコルニ。

「……分かった。最高の笛に仕上げてやる」

 

 ――ビキッ!ビキッ!

 身体が軋む。

「っあ゙あ゙っ!!……」

 ガクン、と首が落ちる。

 

「…本当に…やりやがったな…コイツも…シリリアも」

 

「……ねぇ。」

 少しだけ声を落とすギャレット。

「隊長なんでしょ?」

 

 唇を震わせながら…笑う。

「こんなとこで倒れてたら…

 部下に示しつかないよ?」

 

 コルニが命を響く石(ユアワース)を見つめる。

 白い石

 静かに、でも確かに響いている。

「……あいつは託した」

「命をな」

 

 ギャレットは頷く。

「だったらさ」

 

 カンザーの額に手を当てる。

「まだ終わりじゃないよ」

 少しだけ顔を近づけて、小さく言う。

「シリリア 怒るよ?」

 

 その瞬間。

 かすかに――カンザーの胸が動く。

 

「……生きてる」

 息を吐く。

「よかった……ほんとに……」

 

 その時。

 遠くで 重い音。

 

 ゴゴゴゴ……

 

 ギャレットは顔を上げる。

「……なにこれ」

 

 コルニが舌打ちする。

前線基地(イドフロント)だ。

 崩れるぞ」

 

 天井の亀裂が広がる。

 設備が崩れ、火花が散る。

 

「マジかよ…」

 ギャレットはカンザーを担ぐ。

「コルニ!

 シリリアの……それ、絶対落とすなよ!」

 

 コルニは命を響く石(ユアワース)を握りしめる。

「当たり前だ」

 

「よし、撤退戦だね」

 崩れる研究室。

 燃え残る白炎。

 転がる祈手(アンブラハンズ)の骸。

 

 走りながらギャレットは一度だけ振り返る。

「……終わりじゃないからね」

 視線の先、倒れた白笛。

「アンタのやったこと」

「全部、背負って進むからさ」

 そして前を見る。

 

「行くよ!!」

虚空の呪縛団(ヴォイドヴェクス)、撤退!!」

 

 

 ――

 崩壊した前線基地(イドフロント)

 瓦礫の隙間から差し込む光が、命を響く石(ユアワース)を照らしている。

 

 ガリ…ガリ…

 それを削るコルニ。

 削りながら…心の中で呟く。

 (しっかりと見届けたぜ…。

 これからも…一緒だからな)

 

 石が炎の形に象られていく。

 最後にふっと息を吹きかけ、白い粉を散らす。

 

「…完成だ。白笛。」

 糸を通し、横たわるカンザーの首にかける。

「お前の白笛だ…シリリアが想いを託した…()()だ。」

 

 目の前に座るギャレットはかつて見た夢を思い出す。

 (燎灼卿(りょうしゃくきょう)…)

 

「どうした?ギャレット」

 工具を片しながら言うコルニ。

 

 ギャレットは少し視線を落とす。

「前…夢で見たんだ。

 炎を象った白笛の男。燎灼卿」

 

「燎灼卿か…」

 ふっ、と笑うコルニ。

 

 炎の形をしたそれが――

 カンザーの胸元で、静かに揺れた。

 

 ギャレットはそれを見て少しだけ息を呑む。

「……綺麗だね」

 小さく、素直に。

 

 コルニが肩をすくめる。

「命削って作ったもんだ。綺麗じゃなきゃ割に合わねえ」

 

 ――

 

「…ねえカンザー。これからもいーっぱい楽しい冒険しようね!」

 座り 微笑むシリリア。

「シリリア!?」

 カンザーは驚く。

 (…夢の中…?精神世界か…?)

 

 「ほら、二人が待ってるよ!はやく戻ってあげて!」

シリリアに突き飛ばされ、白い世界に落下していく。

――

 

その時。

 カンザーの指が、わずかに動く。

 

「……っ」

ギャレットは一歩近づく。

「カンザー!」

 顔を覗き込む。

 

 ゆっくりと開く目

 まだ焦点は曖昧。

 でも――

 確かに 戻ってきている。

 

「よかった……」

 思わず笑う。

 

 コツ……コツ……

 空気が変わる。

 ギャレットは振り向く。

 そこに立つ男。

 

 紫の縦線の仮面。

 白笛を首に下げた存在。

 黎明卿(れいめいきょう) 新しきボンドルド。

 

 拍手の音が響く。

 静かに、規則正しく。

「……おめでとうございます」

 

 ギャレットは目を細める。

「……しつこいね、ほんと」

 

 でも、さっきとは違う

 殺気が――薄い

 

 ボンドルドは瓦礫を踏みしめながら一歩 近づく。

「完全に…私の負けです」

 

 コルニが低く構える。

「信用できるかよ」

 ギャレットは手で制す。

「…待って」

 

 ボンドルドは続ける

 

「白笛の生成」

「未知の遺物の覚醒」

「そして――」

 カンザーを見る。

「人の限界を越えた″恒星″の発現」

 

 仮面の奥で、静かに言う。

「実に……見事でした」

 

 ギャレットはボンドルドの前に立つ。

「で?」

 首を傾げる。

「負けたって言って どうするの?」

 

 ボンドルドは少しだけ間を置く。

 

 「見逃しましょう」

 

 沈黙。

 

コルニが舌打ちする。

「は?」

 

ギャレットはじっと見る。

「……理由は?」

 

 ボンドルドは静かに答える

「あなた方は――」

「既に″次″へ進む資格を得た」

 

 視線がカンザーの胸元へ。

「六層」

 

 空気が重くなる。

 

絶界行(ラストダイブ)

 

 ボンドルドは続ける。

「そこから先は、私の箱庭ではない」

「ゆえに――」

 わずかに腕を広げる。

「どうぞ、ご自由に」

 

 ギャレットは 少しだけ笑う。

「……ほんと、気味悪いねアンタ」

 

 でも 振り返る。

 カンザー。

 白笛。

 コルニ。

 そして――

 もういない、シリリア。

 

 にっと笑う。

「ま、いいや」

 

 カンザーの肩を軽く叩く。

「隊長」

 指で白笛をつつく。

「ついにだよ」

 

 少しだけ、声を弾ませる。

「深界六層」

 目を細める。

「行くんでしょ?」

 

「……うん」

 白笛をぎゅっと握り、目を伏せるカンザー。

「行くよ…もう戻れない旅」

 

 むくりと身体を起こし ボンドルドを見る。

「お前は絶対に許せない。

 でも…」

 

「ありがとう」

 敵への敬意。

 

「…」

 黙って見つめるボンドルド。

 やがて口を開く。

「あなた達の想いが…私の想像を遥かに越えた」

 

「…傷が癒えるまで ここに居座られてはどうでしょうか」

 

 ひげを触るコルニ。

「六層は未知…万全の状態で望むべきだ」

 

「安心して下さい。手出しはしませんよ」

 

「当たり前だ」

 瓦礫を投げる。

 

 ――

「…いてて」

 カンザーの治療をするギャレット。

「…よく白笛相手に戦えたね。

 誇っていい。でも……」

「そのフレイムブレイブの力…

 扱い方に気を付けないとね」

 

 包帯を巻き終え、パチンとデコピンをする。

 

「ったく…」

 カンザーを見て微笑むコルニ。

 

絶界行(ラストダイブ)…いよいよ戻れない旅だ。

 それでも…ついてきてくれるか?」

 真剣な眼差しのカンザー。

 

 ギャレットは手を止めて カンザーの顔をじっと見る。

 さっきまで血だらけで倒れてたのに――

 もう その目は前を見てる。

 

「……ほんとさ」

 少しだけ笑う

「回復早すぎでしょ、隊長」

 

 デコピンした指を軽く振ってから立ち上がる。

 銀髪をかき上げて、大きく伸びをする。

絶界行(ラストダイブ)ねぇ……」

 

 わざとらしく考えるふりをして

「どうしよっかな~」

 

 一瞬の沈黙。

 そのあと、くるっと振り返って――

 ニカッと笑う。

「行くに決まってるじゃん」

 

 一歩 近づく。

「私、黒笛だよ?」

「ここで帰るくらいなら 最初から潜ってないって」

 

 白笛…シリリアに視線を落とす。

 炎の形

 静かに揺れている。

 

「それにさ…」

 少しだけ声を柔らかく。

「″一緒に行く″って約束、したでしょ」

 

 コルニも鼻で笑う。

「今更ノーなんて言わねえよ」

 

 ギャレットは肩をすくめる。

「ほら、満場一致」

 そして少しだけ真面目な顔になる。

「でもさ、カンザー」

 指でフレイムブレイブをトンと叩く。

「その太陽」

「ちゃんと″使う″んだよ」

 

 目を細める。

「飲まれるんじゃなくてさ」

 にっ、と笑う。

「照らすんでしょ?」

 

 少しだけ間を置く。

 

「私たちを」

 

 そのまま振り返って、前を見る。

 崩れた前線基地(イドフロント)の奥。

 さらに下へ続く奈落。

「……六層かぁ」

 小さく呟く。

「どんな景色なんだろ」

 

 わくわくした声。

 でもほんの少しだけ、緊張も混ざっている。

 

 「ね、隊長」

 軽く手を振る。

「先頭 任せたよ」

「白笛なんだからさ」

 

 カンザーは満面の笑みで答える。

「ああ!!」

 

 

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