メイドインアビス -燎灼たる奈落の残火-   作:ふぉーゆー

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生存訓練・遺物との邂逅

「お部屋、こちらです」とマルルクは言う。

 

 キャンプの奥、簡素な寝床。

 粗末だが、ここは″最後の安全圏″だ。

 

 「今日はしっかり休んでくださいね。

 明日からは……本当に危ないですから」

 マルルクは少し不安そうに微笑む。

 

 外では風邪が唸り、アビスが呼吸している。

 ――明日。

 ――試されるのは才能でも運でもない。

 

 「覚悟だよ、カンザー」

「アビスはねぇ……

 覚悟のない命から真っ先に喰うんだ」

 ――――――

 翌朝。

 指定された場所へと向かう。

 吊り橋を渡り歩いていく。

 「…暗い。力場が光を運んでこないってギャレットは言ってたな」

 

 原生生物は大人しいらしいが、大きな個体もいる。

 …そしてなにより…一人だ。

 (一人で…三日生き延びてみせな)というオーゼンの言葉を思い出す。

 

 ――ギャレットに借りた予備の道具を広げる。

 ピッケル、ナイフ、火石、杯、包帯、ロープ、塩、ハーケン。

 カンザーは帽子を深々と被り、ヘッドライトを点ける。

 

 「まずは簡単な拠点を作らないとな…」

 

 大きめの枝を何十本と集め、全て円を描くように斜めに地面に刺す。

 天井部分をロープで固定し、枝の上を葉で覆う。

 即席だが雨と風は防げる。

 

 座り込んで息をつくカンザー。

 「次は……食料調達と水だな」

 まずは水源を探しに行く。

 

 ――高所でその様子を眺めていたオーゼンとギャレット。

 「順番をわかってるじゃないか」

 

 (教えちゃいない。……誰かの背中を見て覚えたか?

 それとも、本能か?)と顎に手を添えるギャレット。

 

 オーゼンは腕を組み、呟く。

 「生き延びてみせな。

 ……できるならねぇ」

 ――

 大きな横穴に入る。

 「…! 水だ!」

 

 水の上にアメンボのような…ロウハナという生物が無数に浮いている。

 手で水を掬う。

 

 「色と匂いは問題なし…沸かせば飲めるかな」

 次の瞬間、カンザーは即座に後退。

 (水の中…何かいる…)

 

 出発する前にギャレットが言っていた。

 (オットバスには気をつけろ)

 

 水辺から上がってくるオットバス。

 大きい。コブがあり…少々見た目は気味が悪い。

 

 「直接仕留めれるほど俺に力はない…

 一度下がるか…」

 

 カンザーは水辺から少し離れたところに大きな穴を掘る。

 穴の外にハーケンを打ち込み、ロープを結び 穴へ垂らす。

 脱出用だ。

 

 周りの木から大きめな木材を集め、両端を鋭利に加工したものを六本 穴の中に突き刺す。

 

 脱出し、長めの小枝を重ね、葉を被せ地形に溶かす。

 

 …再び水辺へ向かい、ハーケン同士をぶつけ音を鳴らす。

 するとオットバスが飛び出してきた。

 ギリギリまで罠の場所へと誘導する。

 「よし、追ってきてる。」

 

 カンザーは罠を飛び越え 振り向く。

 走ってくるオットバスはそのまま穴に落ち、自重で深々と鋭利な太い枝に突き刺さる。

 重い音 骨と枝が噛み合う嫌な感触。

 響く悲鳴。

 やがて静かになる。

 

 ハーケンと体にロープを結び、自分の体を支点にして

 分厚い肉体を捌き 分解する。

 それを一つ一つ穴の外へと運ぶ。

 必要な分だけ持って行った。

 

 「食料はこれで持つかな…あとは水だ」

 

 杯で水辺の水を汲む。

 拠点まで運び、重ねた小枝に火石で火をつけ

 それを沸かす。

 

 その横で葉の上にオットバスの肉を並べる。

 「どう捌くんだ?この生物…

 とりあえず皮とコブを落として…邪魔な脂も…」

 不器用に削ぎ落としていく。

 

 「いてっ!指切った…」

 血を吸いながら先程小枝を研いで作った串に

 薄く切った肉を刺し、

 赤みが無くなるまで焼く。

 それに塩をまぶし 恐る恐る口へ運ぶ。

 

 「かっった…味はいいけど…」

 

 ――夜は火は小さく

 匂いを抑え、音を殺す。

 

 ――あっという間に2日目、3日目を終えた。

 拠点を出る。

 

 …ドクン

 

 カンザーは数歩先分の地面を見る

(なんだ…?何かが俺を…)

 

 数歩歩き、地面を掘る。

 何か棒のような…突き出したソレを力づくで引っ張る。

 

 「ぐぬぬ…」

 

 ボコッ

 

 「うおっ!?」

 勢い余って尻もちをつく。

 「なんだこれ…斧?」

 

 妙な力を感じる。

 「一応…持って帰るか…遺物かもだし」

 リュックに入りきらないが、刃先を出した状態で背負う。

 

 吊り橋のような構造物を渡りながら 監視基地(シーカーキャンプ)への道を辿り、戻る。

 

 「疲れた…」

 

 ゴンドラが降りてくる。

 「またこれに乗らないといけないのか…」

 

 ゴンドラが上昇を始め、しばらくすると上昇負荷が襲いかかる。

 「うう…オエッ…」

 

 ガコン、とゴンドラが止まる。

 目の前にはギャレットが立っていた。

 

 「…お疲れ様、カンザー」

 

 「…ただいま」と苦笑いするカンザー。

 

 ――監視基地(シーカーキャンプ)の中

 ギャレットがカンザーが背負うリュックから飛び出した斧に目が留まる。

 「それは…?」

 

 「…帰る時…地面から妙な気配を感じて掘り起こしたら…これが出てきたんだ」

 

 オーゼンはその斧を見た瞬間に笑った。

 「ほぉ……」

 一歩近づく。

 

 「土に埋まってた?

 それとも……″引き抜いた″のかい?」

斧の刃先に指を近づける。

 触れない。

 触れなくても――分かる。

(反応してるねぇ…)

 

 「ただの鉄じゃない。

 遺物だよ、それも……″選ぶ″類のやつだ」

 

 ギャレットが息を呑む。

 

 カンザーに視線を向けるオーゼン。

 「三日。一人。

 生き延びて――」

「……帰ってきて

 その上で″何かを掘り当てる″とはねぇ」

 

 クク、と喉を鳴らす。

 

 オーゼンは背を向け、歩き出す。

 「約束は約束だ。

 三日 生き延びた」

 振り返らずに言う。

 「……合格だよ、カンザー」

 

 マルルクが目を丸くする。

 ギャレットが言葉を失う。

 

 「もっとも――」

 ちらりとだけ横目で斧を見る。

 「その斧 扱い方を間違えたら

 君が先に喰われるだろうがねぇ」

 口角がゆっくり上がる

 

 「明日からだ。地獄みたいな訓練をしてもらう」

 「白笛になりたい?叔父に会いたい?――なら」

 「ただの″人間″をやめる覚悟、

 できてるかい?」

 

 カンザーはリュックを下ろし、呟く。

 「遺物…なのか。だからコレから何かを感じるのか?」

 

 斧の柄を手に取った瞬間。

 ゴウッ!!

 斧から炎が一瞬立ち昇った。

 

 「うわぁっ!?」

 思わず手を離し、地面にゴンッと突き刺さる。

 「い、今のは…」

 

 ゴクッ、とギャレットが喉を鳴らす。

 

 「……やっぱりねぇ」

 オーゼンは独り言のように呟き 踵を返す。

 そして斧の刺さった地面を見下ろす

 

 「触った瞬間に反応した。

 しかも″火″……」

 「偶然拾った?

 クク…アビスがそんな都合のいい真似すると思うかい」

 

 斧の柄を足で軽く踏む。

 ――燃えない。

 「見な。私が触っても何も起きない」

 

 視線だけをカンザーに向ける。

 「でも君が触ると――燃えた」

 

 一拍。

 

 「遺物にはねぇ、

 ″適合″ってものがあるんだよ」

 オーゼンの白笛が小さく揺れる。

 

 「名前をつけてやるとしたら……

 そうだねぇ」

 

 斧からまだ微かに残る熱。

 

 「燎灼(りょうしゃく)の遺物」

 

 ギャレットが息を呑む。

 

 「火を宿す戦斧。

 だが正確には……」

 「君の″生存本能″に反応してる」

 

 一歩近づくオーゼン。

 「恐怖、決意、怒り、守りたいって願い……」

 口角が歪む。

「そういう″燃料″がなきゃ、

 こいつはただの鉄塊だ」

 

 カンザーの混乱した顔をじっと見る。

 「怖いかい?」

 

 何も答えれないカンザー。

 

 「当然だ。

 遺物に″選ばれた″ってのはねぇ…」

 

 声が低くなる。

 

「もう″人間側″じゃなくなり始めてる証拠だからさ」

 

 背を向け歩き出すオーゼン。

 「今日は休め。

 その斧には――」

 

 振り返らず、最後に一言。

 「″フレイムブレイブ″って名を付けときな」

 

 ――――

 

 「優しいのか厳しいのか分かんないよ…オーゼンさん…」

 

弱々しく笑うカンザーを見てギャレットは鼻で息を吐く。

 「両方だよ。

 あの人は……″死なせない厳しさ″しか持ってない」

 (フレイムブレイブ――燎灼の遺物。

 その名を聞いた時、背筋が冷えた。)

 (遺物が人を選ぶなんて話、いくらでも聞いてきた…

 だが……″炎″は特に質が悪い)

 

 斧を引き抜き 眺めるカンザー。

 刃は静かだ。さっきまでの熱が嘘みたいに。

 

 「……遺物には必ず代償がある」

 ギャレットはなるべく淡々と言った。

 「回数制限か、体への負担か……

 あるいは、もっと別の形かもしれない」

 

 「だが一つだけ確かなのは――

 それは″お前を選んだ″ってことだ」

 

 カンザーは何も言わず、ただ斧を見ていた。

 その目は 三日前よりもずっと深い。

 

 「…とりあえず…休んでいいかな?」

 ふらつく身体。

 

 「ゆっくり休みな」

 そう言って、歩き出そうとした瞬間。

 ――背後から あの低く粘つく声。

 

 「クク…ずいぶん甘いねぇ、黒笛」

 

 振り向かずとも分かる。

 不動卿オーゼン。

 

 「でもまあ……今日はいいさ」

 足音が近づく。

 「三日生き延びた。

 遺物にも触れた。

 ″選ばれた″」

 

 一瞬、空気が重くなる。

 

 「明日からは――

 守られる側の訓練は終わりだよ、少年」

 

 カンザーはもうただの少年じゃない。

 燎灼の名を、奈落が囁き始めている。

 

 ギャレットは心の中で呟いた。

 

 ――頼むから生き延びろ。

 ――白笛になるその日まで。

 

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