メイドインアビス -燎灼たる奈落の残火-   作:ふぉーゆー

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『奈落の運命』

カンザーは炎が噴き出すフレイムブレイブを逆手に取り、

跳び、振る。

「『奈落の運命(ディスティニーアビス)』」

 

炎を纏う飛ぶ斬撃の軌跡と触れる空気が爆発の連鎖を

引き起こす。

 

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

タマウガチの胴体を深々と切り裂き、傷口が発火し爆発する。

 

 ドォォォン!!

 

 爆発によりタマウガチの身体は大きく欠損。

 爆発の余韻がまだ空気を震わせている。

 タマウガチの巨体が崩れ落ち、白い針が水面に沈んでいく。

「……っ、はは……」

 思わず息を呑むギャレット。

 「やるじゃん!カンザー……!」

 

 ――その直後。

 ―ドクン!

 血が逆流する。

 身体が軋む。

 心臓が異常に脈打ち、カンザーは液面に膝をつく。

 口から溢れ出る血。

 

 「っ……!」

 

 ギャレットが膝をつくカンザーのもとへ駆け寄る。

 液体をはね上げて、その身体を支える。

 

 「バカ……!初手であんな出力叩き込むなんて……!」

 

 口元から溢れる血を袖で拭う。

 (心拍が異常…内出血。遺物(フレイムブレイブ)の反動か…内臓は無事だろうか)

 「シリリア!周囲警戒!残響に寄ってくるやつがいるかもしれない!」

 

 「は、はいっ!」

 

 フレイムブレイブの炎はまだ微かに燻っている。

 まるで″もっと寄越せ″と言っているみたいに。

 「代償、思ったより重いね」

 だが、ギャレットは笑う。

 「でもさ。あれは確かに――深層に届く斬撃だった」

 

 カンザーの額に触れる。

 「誇っていい。けど、無茶はダメだ。

 英雄は死んだら終わりだからね」

 

 因果の結束(リンク・トーション)を細く再接続。

 負荷を分散させ、循環を安定させる。

 

 「安全圏まで私が運ぶ。

 ……ちゃんと連れてくって約束したでしょ?」

 

 銀髪を揺らし、にっと笑う。

 「だからさ。今は甘えて。

  黒笛に」

 

 ――とある岸壁の横穴。

 湿った岩肌に水滴が伝う。

 

 横になって呼吸を整えるカンザー。

 「やっぱり…すごいな。コレは」

 コン、とフレイムブレイブを叩く。

 

 「それ自分で言う?」

 笑うギャレット。

 ……その直後。

 ぐぅぅぅ……

 

 シリリアが腹を抑えて顔を真っ赤にする。

 一瞬の沈黙。

 

 カンザーとギャレットは目を見合わせて声を上げて笑った。

 「あはははは!!」

 「そりゃ鳴るよ!しばらく何も食ってなかったし、あれだけ爆発見たらお腹も驚くって!」

 

 「狩り…頼める?」

 ギャレットを見つめるカンザー。

 「任せろ!」

 立ち上がり、剣を担ぐ。

 

 巨人の盃。

 四層特有の巨大な杯状植物群。

 内部は温潤、視界は悪いが――水音で気配は読める。

 ギャレットは身を低くして進む。

 「……いた」

 

 岩陰に小さな群れ。

 タケグマ。

 背中に寄生性の水キノコを生やした小型獣。

 宿主が死にかけると蓄えた栄養を流し込む共生型。

 

 「アビスにしては優しい仕組みだよねぇ」

 

 一匹がギャレットに気付く。

 ……走る。

 一歩踏み込み、剣を滑らせる。

 無駄に苦しませないよう、急所に一突き。

 

 群れは散る。

 必要以上は狩らない。

 倒れた個体の背の水キノコを丁寧に切り分ける。

 「栄養満点」

 血抜きを済ませ、担いで戻る。

 

 横穴へ帰還。

 「ただいま!シチューにしようか!」

 

 シリリアの目が輝く。

 カンザーは半身起こしてギャレットを見る。

 

 ギャレットは火を起こしながら ちら、とカンザーを見る。

 「……さっきの技。

  あれ、あと二回撃ったら本気で内臓いくよ」

 

 でも声は軽い。

 「だからさ、強くなるのもいいけど、

  ″死なない強さ″も覚えよ?」

 

 肉を小さく刻みながら、鼻歌混じりに鍋をかき混ぜる。

 タケグマの脂がじわっと溶けて、表面に琥珀色の輪が浮かぶ。

 

 トコシエコウの実を砕いて甘みを足す。

 シリリアが採ってきたマゴイモは角を揃えて切る。

 火の通りが均一になるからだ。

 

 ぐつぐつ。

 灰汁を丁寧に掬う。

 

 「料理も探窟も一緒。

  雑にやると、後で痛い目を見る」

 やがて暗褐色のとろみが出て、芳香が横穴いっぱいに広がる。

 「――よし!完成!」

 木皿によそい、カンザーが一口。

 「うまい!!さすギャレ!!」

 

 「さすギャレってなんだよ!」

 思わず吹き出すギャレット。

 シリリアがくすっと笑う。

 「さすがギャレット、って意味じゃない?

 ……美味しい……料理上手なんだね、ギャレット」

 

 「ふっふーん。だろ?」

 

 カンザーを眉を上げて んー!! という顔をしているし、

 シリリアはもう二杯目。

 「癖になるね!!おかわりいい!?」

 「もちろん!」

 

 ギャレットは鍋を掲げる。

 「いっぱいあるよ。タケグマ持久力の肉。

  明日の体力、ちゃんと作っとかないと」

 ……でも。

 ギャレットはちらっとカンザーを見る。

 「ただし条件付き。食べたらちゃんと休むこと。

  今夜は絶対無理しない」

 

 スプーンをカンザーの額にちょん、と当てる。

 「フレイムブレイブは燃費最悪なんだからさ。

  補給と睡眠はセット」

 

 火がぱちぱちと鳴る。

 五層目前の、束の間の静かな時間。

 ギャレットは満足げに笑う。

 「……いいね。こういうの」

 

 ――

 横穴に仕掛けのワイヤーを張り終えて、手をぱん、と払う。

 「よし、三重。

  振動検知、引っ掛け、警報用。これでだいたい寄ってきたら分かる」

 横穴の入口は細い。ここなら守りやすい。

 

 「はーっ、疲れたあ」

 シリリアがそのまま倒れ込む。

 ギャレットはくすっと笑って、濡れた外套を岩に広げる。

 「やっとゆっくりできるね」

 

 ダイラカズラの液体は温かいが、乾かさないと冷える。

 「虫除け…効いてきたかな」

 シリリアが虫除けを焚くと、岩陰からカサカサと小さな影が動く。

 「……俺虫苦手なんだよ…」

 カンザーの苦笑い。

 ギャレットは一瞬真顔になって――

 ひょい。

 小さな甲殻虫をつまんで投げる。

 「ほい」

 「だあああああ!!」

 ばたばたと跳ねるカンザー。

 

 ギャレットは腹を抱えて笑う。

 「ビビりすぎだよ!」

 シリリアも笑ってる。

 

  「お、おい!やめろよ!!」

 

詰め寄ってくるカンザーの額を指で軽く押し返すギャレット。

 「ははっ、ごめんごめん。可愛くてさ」

 「大丈夫。毒なし。噛まれても腫れるだけ」

 

 くるっと背を向けて、火のそばに座る。

 「アビスはね。大物より小さいやつのほうが厄介だったりする。」

 少しだけ真面目な声。

 「だから慣れとこう?

 そのうち虫なんて可愛いって思えるようになる」

 「……まあ今日は許してあげる。英雄は虫に弱い、っと」

 

 焚き火が揺れる。

 「ほらもう寝よ?

  明日は四層境界だよ?」

 横穴の天井を見上げながら、ギャレットは小さく呟く。

 「……ちゃんと下まで行こうね」

 

 ――翌日。

 四層の淵を歩いていると、視界の先でなにか蠢いた。

 「なにかいる!!」

 カンザーが即座に手で制する。

 

  …ゴリッ…ゴリッ…

 削る音。一定のリズム。

 「ギャレット、シリリア…静かに近寄るぞ…」

腰を落とし、足音を殺す。

 ――茂みの奥。

 人影。

 座り込んで何かを削っている。

 「探窟家…」

 

 男がゆっくり振り向く。

 「……人間だとは分かっていた。」

 

 黒笛。

 装備は年季が入っているが、手入れは完璧。

 ガリッ、とまた削る。

 シリリアが一歩、つま先を伸ばす。

 「黒笛…何をしているんですか?」

 

 「見てわからねぇか。拾いもんだよ。ここはいい。

  上から遺物も死体も、使い物にならなくなったゴミが勝手に降ってくる。……磨けばまだ使えるもんを、誰も拾わねぇから俺が拾ってんだ」

 

 カンザーは目を細める。

 

 削っているのは――

 欠けた遺物の破片。形状補修か、再加工か。

 「器用だな…」

 思わず口に出る。

 「…一度探窟家を辞めて、しばらく石工をやってたからな」

 振り向かずに、手は止まらない。

 

 カンザーが問う。

 「再び何しに探窟に来たんです?」

 

 男はゆっくり立ち上がる。

 手の中の遺物片が鈍く光る。

 「遺物は宝だ」

 静かな目。

 「俺はコルニだ」

 

 ギャレットは一歩前に出て、軽く手を振る。

 「ギャレット。こっちはカンザーとシリリア」

 にっと笑う。

 「ゴミ拾い、ね。悪くない趣味だと思うよ。

  四層でそれやる胆力は、ちょっと尊敬する」

 「……で、コルニ。

  ″拾うだけ″で済んでる?」

 

 四層は甘くない。

 落ちてくるのは物だけじゃない。

 コルニの目が遠くを見る。

 削る手が止まり、指先に残る白い粉が風に舞う。

 「……命を響く石(ユアワース)ほど削りがいがある物はないがな…」

 低い声。

 石工時代の話を、ぽつりぽつりと語る。

 

 老いた探窟家。

 依頼され、完璧な形に削り出した″白笛″。

 だが――

 鳴らなかった。

 「なぜ音色が出ない!!」

 依頼主からの怒号。

 「こいつが選んだ人間はあんたじゃないんだよ…」

 ――

 「命を響く石(ユアワース)を削り、その音色を聴く…

  それが俺の夢であり、潜る意味だ。遺物集めは加工して再利用や金にするためにやってる。」

 

 シリリアが黙り込む。

 カンザーが一歩出る。

 「…あんた…一人だけなのか…?」

 

 「…まあな。復帰した時はどこにも属さなかった。

  どこにも白笛なりそうな奴はいねえし…せいぜい小銭稼ぎの為だけに来てるぜ。笑えるだろ」

 自嘲。

 その空気を切るように――

 「俺の目標のひとつは白笛になることです。コルニさん。

  一人なら俺達と…」

 手を差し伸べる。

 

 ぴたり、とコルニがその手を制す。

 「お前。それがどれだけ大変でしんどい事なのか分かってるのか?」

 睨む。

 鋭い。試す目。

 

 「…分かってます。」

 「白笛は″削れば出来る″ものじゃない。

  選ばれなきゃ鳴らない。命を賭けて、なお足りない」

 顔を上げる。

 「それでも俺は…本気だ」

 

 ギャレットが横に並ぶ。

 「こいつは命削る遺物を握って、昨日も死にかけた。それで も下を向いていない。」

 

コルニの目を見る。

 「ねえ、石工さん。

 夢を他人に託すのは怖いかい?」

 「でもさ。

 ″削る側″も、鳴る瞬間を信じなきゃやってられないでしょ」

 

 風が四層の淵を撫でる。

 ギャレットは肩をすくめる。

 「別に今すぐ仲間になれとは言わない。

  でも――一緒に歩くくらいは、悪くないと思うよ」

 「白笛を目指す馬鹿と、その馬鹿を止める黒笛と、

  見届ける月笛と、遺物を細工する黒笛」

 にっと笑う。

 「ちょっと面白いパーティじゃない?」

 

 

 

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