女好きスタンド使いは双子のギタリストと惹かれ合う   作:グリム提督

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 ブン、ハローハーメルン。グリム提督です。
 珍しく特別編というものを書いてみました。歳時記に則った何かを書いてみたかったんですよね。歳時記にバレンタインってありましたっけ。まあいいか、バレンタインも盆も正月も大差ありませんから。
 それでは『特別編』、ご覧下さい。どうぞ〜。


ヴァレンタイン特別編 雨に唄えば

 

 

「さおりん、チョコいる?」

「え。欲しい」

 

 居候の身にも関わらず、だらだらとソファでテレビを見ている俺を、日菜が覗き込む。俺はスタンドを使わず、律儀に自分の手でリモコンを取って、バレンタイン特集をやっているテレビを消した。

 

 日菜の料理の腕がどれほどのものかは知らないが、貰えるものは病気以外なんでも貰うぞ。相手がかわいい女の子なら、インフルまでだったら貰う。キスで。

 

「じゃあ、さおりんも作ってくれたらあげよっかな」

「はは。俺を誰だと思ってんだ?」

「口は一人前だけど意外とポンコツ?」

「うーん、フラットな視点からの評価ありがとう」

 

 俺は自分の部屋──正確に言うと1年前までは空き部屋だった俺の居候場所──に戻り、寝巻きから着替える。当たり前のように日菜は部屋の中まで入ってきているが、別に見られて困るものではない。

 

 インナーを脱いで上裸になった俺の背中を、日菜がじっと見つめる。

 

「……なんかついてる?」

「ん。この前の傷、完璧には治ってないなーって」

 

 この前、というのは、数ヶ月ほど前とはいえまだ記憶に新しい『独平軍』との戦いのことだろう。俺らが戦ってきた『バベルの騎士』の大元にして、俺の母を長年監禁して、母のスタンド能力を悪用してきた、これまでの戦いの元凶。

 

 あの一件で、俺は背後にどデカい傷を負った。幸い回復力を何倍もの速さまで促進してくれる香澄の『オリオン』でどうにか命は繋いだが、しばらくは包帯が取れなかった。

 

 だって腹に穴空いてたもん。いくら超回復の能力っつったって、どうにもならんわな。今でも定期的に香澄のところに行っては能力をかけてもらっているし。最近、香澄のことはドクターって呼んでる。

 

「そのうち完全に治るって言っても、まだまだかかりそうだね」

「唾でもつけてみる?」

「あたしが嫌かも」

「ありがとう」

「ありがとう??」

 

 疑問を残した日菜が首を傾げながら、俺と手を繋ぐ。

 

 外に出てみると、2月の昼とはいえまだ長袖が必要なくらいの気温。雲はさほどなく晴れているが、少し寒い。

 

 日菜はニット帽にマフラー、メガネといった軽い変装をしている。髪も下ろしている状態だ。どんな格好でも可愛いな。カジュアルな格好でマイカゴを持っているのも、同棲してる彼女と夜ご飯を買いに来たみたいな感じがあっていい。まあ彼女ではあるけどさ。

 

 ああ、なんか好きが抑えられなくなってきた。今ここでキスしてもいいかな。

 

「ダメだよ」

「何が?」

「街中でキスは流石に……」

「家ならいいの?」

「……部屋!」

「へへへ」

「えへへ」

 

 今までは、色んな女の子と遊べなくなるからと特定の彼女は作ってこなかったんだが、日菜は『特別仲のいいキスもできる女友達』として付き合うことを提案してきた。浮気はしてもいいけどキス以上はあたしだけ、という条件もつけて。

 

 罪深い男だねえ、俺って。最近まで恋愛のれの字も知らなかった、こんな純真無垢で天真爛漫な子を落としちゃうなんてさ。

 

 今の俺ら、紗夜に見られたらスタンドで半殺しにされるだろうな。あいつの能力、強いんだよ。下手したらタイマンだと負ける。

 

 というか、俺のがあんまり強くないだけなんだけど。

 

 日菜と来たのは、小規模なスーパー。安さと品揃えではここらじゃ一番だと、氷川家に来てからの食料品の買い物は専らここで済ませることが多い。都内では珍しく駐車場も広めだ。

 

 思えば、そろそろ1年経つのか。俺がこちらに来てから。

 

 羽丘女子学園の学園長のボディーガードとして、特別待遇で羽丘の高等部に入れてもらったはいいものの、わずか1ヶ月で数十人をたぶらかした罰として俺専用のクラスが作られたのも、もう半年以上前のことだ。

 

 校舎も広ければ、学食も学費から引かれた金で実質タダで食べられる。偏差値もそこそこ高いが、バチバチ前線でやり合うような進学校じゃあないってのも気楽に通えていい。

 

 前までいた静岡の片田舎の工業高校とは大違いだ。何より、可愛い女の子が多い。特に日菜はテンション感が近く、一緒に住んでるってのもあってよく話す。麻弥も機械の話が合う上にメガネ属性で俺好みだし、蘭もいじり甲斐があっていい。

 

 薫やリサも俺のことをよく気にかけてくれてるし、明日香に六花も可愛い後輩だ。ホントに可愛い。年下もいけるタチでよかった。この前は戦ってるとこを見られてどうなるかと思ったけど、変わらず接してくれて有難い。

 

「……何、そのお弁当に入れるパスタみたいな容器」

「ふふん。日本のJKのバレンタインは、これに溶かしたチョコを入れて、カラースプレーをかけるのがならわしなんだよ〜?」

「JSだろ。てかそのタイプのチョコ作るの? なつかしー。パチンコ玉みたいなやつも入れようぜ」

「パチ……ああ、アラザンのこと!?」

 

 花咲川の方にも知り合いが多く出来た。ポピパは一度サポートメンバーとしてライブを共にしてからは仲良くしてもらってるし、何より香澄の“オリオン”はバーサクヒーラーとしての強さがピカイチだ。

 

 有咲は香澄を戦わせることに反対しているが、アイツも『バベルの騎士』撲滅には一役買っている。ツンデレだから、俺が困ってたらすぐに助けてくれるんだよな。好きなのかな、俺のこと。手くらいは繋いでくれるようになったし、ワンチャンありそう。今度お茶してみっかな。

 

 美咲の“デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ”だって壊れた街を直してくれる優しい能力だし、沙綾の“ダウン・バッド”の三刀流も攻撃力では最強だ。

 

 羽丘の連中は俺の日常によく関わっているが、花咲川の奴らとは共闘することが多いな。まあ、大半は敵として会った奴らだけど。あいつら『バベルの騎士』の洗脳受けすぎなんだよ。

 

 特に弦巻のお嬢ちゃんが敵に回ったときは、もうダメかと思った。今でもソリが合わないから顔と身体以外は苦手だが、能力の総合的な強さとしてはこれまで会ってきたスタンド使いの中でも最強だ。アイツの性格上、滅多に使ってくれないのが悩みだけどな。

 

「よし、このくらいかな?」

「だね! あたし、ちょっとお手洗い行ってくるからカゴよろしくねっ」

「オッケー」

 

 日菜が去ってから、俺は大きな氷川家のマイカゴを持ったまま、少しだけ店内をウロウロする。動きだけ見れば万引き犯だが、さっきから少しだけ違和感があるのだ。俺を今にも殺してやろうっていう誰かが見ているような、そんな感じ。

 

 店に入った時から、殺気のようなものが身体に突き刺さってしょうがない。俺のことを逆ナンしようとしてるってんだったら大歓迎だが、ここ江戸川区にはいまでも『バベルの騎士』に洗脳されたスタンド使いが何人も潜伏してるって話だ。

 

 しかもその標的は、今までのような学園長や羽丘そのものを狙ったものではなく、俺に向いている。俺って本来、こんな気軽に外に出ていい人間じゃないんだよな、多分。

 

 ま、気にしても仕方ない。レジだけでも済ませておくか。俺はセルフレジで、カゴに入ったものの会計をして、トイレ入口で日菜を待つ。

 

 スマホで有咲にお茶の誘いを送る。ついでにたえも誘うか。お、すぐ返信来た。有咲は連絡が早いのがいいよなー……あ、断られた。

 

 たえは逆に家に誘ってきた。いいの? 何するか分かんないよ? まあ俺から声掛けたんだけどさ。日菜にも悪いし、普通にお食事だけにしとこう、と送っておく。

 

 俺、不誠実だなー。日菜という彼女が出来るまではこんなことも思わなかったんだがな。女の子と遊びたい、顔を見たい、話したい、あわよくば触れ合いたい、というのは昔からあるサガだ。ルックスもよく生まれてきたんだから、遊ばなきゃ失礼とまで思っていた。

 

 そんな俺の価値観さえも変えてきた日菜は、俺にとって運命の人なのかも。そんなことをぐるぐると考えていると、日菜がトイレから出てきた。

 

 すぐさま俺の手を繋ごうとする彼女は、その手に握られているレシートに気づいた。

 

「あれっ!? お会計終わってるー!」

 

 しれっと出ていこうとしたんだけど、バレちゃあしょうがないな。

 

「いやあ、俺も店員さんに何回も聞いたぜ? でもよォ〜〜ッ」

 

 俺は日菜の顎を指でくいと上げ、目線を合わせてウィンクをする。

 

「日菜が可愛いからサービス、だってよ」

 

 日菜のぽかんとした顔は、徐々ににやけ顔になっていく。やがて俺に思い切り抱きつく。ほっぺにキスもかましながら。

 

「うし、帰って作るぞ〜」

「……さおりん」

 

 腕につかまってスリスリしてくる日菜が、しおらしい顔で俺を見上げる。

 

「すき……」

「奇遇〜。俺も」

 

 そうして店を出ようとした時。俺のカゴを持っている方の手を、誰かが掴んだ。爪が長め。おいおい、両手に花になっちまうなあ。

 

 でも残念、今の俺はハニー同席だ。惚気を話すだけになっちまうぜ。ま、俺に惚れるその目は確かだが。さて、どんな目、というかどんな可愛い顔してんのかな。

 

 おっと、勘違いしてもらっちゃ困るぜ。俺はこの地球上にいるレディや淑女は誰でも可愛いと思ってるからな。そこらの女好きと称した面食いと一緒にされると困るぜ。

 

 読者への言い訳も済ませたところで、俺は手を握ってきた奴の顔を見る。

 

「お客様」

 

 店員だった。一気に俺の江戸川区の種馬と名高いタマがヒュッとなる。

 

 この店から出たとこで店員さんから声かけられるってよ、もう。突破ファイルで散々見たぞこれ。あ、でも店員さんの顔は垢抜けてない感じがいいな。大学生バイトかな。

 

 制服のエプロンも似合ってるぜ。俺とオトナな東京デートと洒落こまないか? と声をかけそうになるな。

 

「すみません、レジは通りましたか?」

 

 聞かれる内容は可愛くね〜。

 

 いや、俺けっこう信頼できる語り手だぜ? 地の文遡ってみなよ、ちゃんと書いてあるぞ。会計したって。

 

「え、通りましたよ。セルフで」

「レシートを拝見しても?」

「用心深い店員さんだ。むしろ好感が持てるよ、防犯しっかりしてんだなーってさ……どう? そのガードの固さ、俺という矛で崩されてみる気はありません?」

「……レシートを」

 

 俺がそう声をかけても、顔色ひとつ変えない。というか顔色ちょっと悪くない? 白くなってるよ。万引き犯って何するか分かんないからな、まあ気持ちは分かるよ。大丈夫、俺ナイフとか持ってないから。

 

「つっても、この手に握ったまんまだぜ?」

 

 日菜に握られていた腕を上げ、手のひらを店員さんの前で開ける。

 

 ほーら見ろ、こんなにちゃんと黄色いレシートが。

 

「おろぉ!?」

 

 無い!! 

 

「……さおりん、まさか……」

「いやいや! さっき日菜も見たろ、レシート!」

 

 ちょっと疑った目で見てくる日菜に、俺は必死に弁解する。「まあ見たけどさ、落としちゃったんじゃない?」と日菜。いやあ、割としっかり握ってたんだけどなあ。

 

 困った俺は、かつて188話で燐子をたぶらかした時と同じ手法で行くことにした。

 

 店員さんに急接近し、顎を持ち、俺はウィンクをしてみせる。

 

「防犯カメラでも何でも確認してくださいよ。疑いかけられたことは気にしてないので……ね? ああ、それでも疑って悪かったなと思うんだったら、デートしてくれたら今回のことは不問にしますよ?」

 

 どうだ。俺が東京に来る前に散々女を落としてきたこのウィンク。バチッ。バチッ。

 

 しかし、その場には何秒、何十秒の沈黙が訪れた。店員は呆れてため息をついている。あっれ〜、こういう感じの子には効くんだけどな。バチッ。あー、もう一回やってもダメだ。イロモネアにでも出てんのかってくらい表情変わんない。

 

「さおりん」

「う、疑ってんの〜……?」

 

 怪訝な顔の日菜。

 

「いや、あたしの前でナンパするのはちょっと違うかなって」

「ああ、これはNGね。了解、見えないとこでするわ」

 

 それでよし、とばかりに日菜は頷くものだから、見えないとこならいいんだ、と俺はラインを再確認する。

 

 店員は相変わらず俺の片手を握ったままだ。てか手冷たくない? 温めてあげよっか。服の中で。

 

「店の裏まで」

「……日菜、先帰ってて。俺が行く」

「えー。でもお金払ったんでしょ?」

「これ証明しないとダメっぽいわ」

 

 めんどくさいなあ、てか俺らがDQN客みたいで嫌だなこの状況、などと思っていると、唐突に店員が俺の手を無理やりに引く。

 

 そして、俺を抱きしめた。日菜が「あーっ!?」と声をあげる。

 

 なんだ、やっぱ俺に落ちてんじゃん。なら話は早い、このまま色んなところをナデナデでもしてやろうかな。と、背中に手を伸ばして抱きしめ返そうとする俺。

 

 の、背中。そこに、激痛が走った。

 

「店員の言うことくらい聞けないんですか? ナンパ男」

「…………ッ」

「な……ッ!?」

「ここに傷を負ったのは知っていますよ。さぞ痛かろうもん……」

 

 一歩引いた日菜が、こちらに駆け寄ってくる。すると店員は、俺の背中からぐぽっと何かを抜いて、それを日菜に投げる。

 

 日菜側をちらりと見ると、軽い身のこなしで彼女は投げられた何かを避けていた。まあ避けられなくとも、スタンドで防げるとは思うけど。

 

 カラン、と投げられた何かがアスファルトに落ちる。それは血塗れの果物ナイフらしき刃物だった。

 

 俺はそれを投げた方の手を恋人繋ぎで強く握り、抱きしめたまま耳元で囁く。

 

「日菜には手を出すな」

「でも、そちらの方も……」

 

 俺の手を払い、気持ち悪いとばかりに突き放した店員は、尻もちをつく俺を見下ろす。

 

「『スタンド使い』ィ〜〜〜〜……ですよね? ……」

「!!」

 

 まさか、お前。

 

「どじゃァ〜〜ん」

「……(ヴァ)レンタイン特別編だからってこと?」

 

 あの『バベルの騎士』の生き残りってことかよ。

 

 しかし妙だな、あの騎士団、団長の意向で女の子は今まで1人もいなかったはずだぞ。抱きしめられた時に感じた店員さんの胸の感触からして、間違いなく女の子のようだが。

 

「構えて、さおりん。来るよ」

「分かってる」

 

 彼女の後ろから、奇妙な四足のスタンドが出てくる。タチコマのようだが足は長く、どちらかといえばパトレイバーのクラブマンみたいだ。色はオレンジ……。

 

「“雨に唄えば(シンギング・イン・ザ・レイン)”!!!」

 

 そいつが直接、日菜に殴り掛かる。日菜も負けじと。

 

「“マキシマム・オーバードライブ”……“緋色(スカーレット)”」

 

 彼女の少し歪な人型スタンドの(ヴィジョン)が出てきて、表面のアーマーが水色から熱を帯びて紅くなっていく。

 

 長い足の蹴りを、日菜の“マキシマム・オーバードライブ”が腕をクロスして受け止める。衝突点から、バチバチと電撃のようなものが走る。

 

 そして、力自慢の日菜のスタンドは、力強く大きなその足を軽く跳ね返す。

 

「波紋か!!」

「幽波紋だよっ」

 

 殴りに飛ぶ日菜の“マキシマム・オーバードライブ”。“雨に唄えば”はそれを受け止め、じりじりと後退していく。

 

 その時、“雨に唄えば”の頭の両横についているアンテナのようなものから、糸が出てくる。その糸は、駐車場に停まっていた軽自動車をスパッと一刀両断する。

 

 2本の糸が車の前と後ろをそれぞれ掴んで、日菜の両横に来る。

 

 挟むつもりだッ。日菜、避けろ。そう言う前に、日菜の“マキシマム・オーバードライブ”は“銀色(メタルシルバー)”モードに移行していた。

 

 日菜本体が寸前で後退し、その場に残った“マキシマム・オーバードライブ”が車の前と後ろに挟まれる。

 

 しかし、“三戦”の構えをした“マキシマム・オーバードライブ”は、その腕に車を磁石でくっつける。

 

 “銀色”モードは攻撃力こそ無いものの、鉄の類を反動なしでくっつけられる。店員の“雨に唄えば”が潰す前に、車を吸着したのだ。

 

 そして、“マキシマム・オーバードライブ”は腕にくっつけた車の半分ずつを振り回す。こりゃダメだと思ったのか、店員は糸を車から離し、スタンドと共に走り回って逃げながら、糸を日菜と俺の本体側に向かって伸ばしてくる。

 

 なんかぬるぬるしてるな。ちょっと気持ち悪いかも。人の事言えたスタンドじゃあねーけどさ。

 

 日菜はあっという間に車の破片を手放し、“緋色”モードに移行して、糸をいなし、かわす。

 

「やっぱあたし、遠距離はダメだなー。さおりん!!」

「……“ピンクスパイダー”……」

 

 言われなくても。

 

 俺の蜘蛛型スタンドが、それぞれの足を形成するキャタピラをギャリギャリと鳴らしながら現れる。

 

 そして、店員本体に向かって、スタンドの尻から出た糸を伸ばす。

 

 一度捉えたら、俺は離さない主義なんでね。店員本体、彼女のスタンドの出した糸、スタンドそのものを丸ごと一瞬でぐるぐる巻きにする。

 

「ほーら、キミも俺のお・や・つ♡」

 

 好きなアイドルのコーレスの受け売りを放ち、俺は余裕を持った足取りで店員に近づく。

 

「スタンドも似てるって、俺ら運命じゃない? だからホラ、何で怒ってるか分かんないけどさ。俺と一緒にチョコでも作らない?」

 

 顎をくいと再び上げ、ナンパの続きをしてみる。

 

 ところが店員さん、ギリギリと歯を食いしばるでもなく、顔色を変えていない。ああ、この表情、なんか違和感あると思ったら、そうか。

 

 かつて『藤原 豆狸(ふじわら-まめだ)』の撒いた『畑の豆』で洗脳されたタチか。多分、遅れて洗脳とスタンド能力が発現したっぽいな。ナンパも通じないわけだ。

 

 普通の女の子だったら俺に落ちないワケないもん。そう考えているうち、彼女のスタンドの出した糸がいつの間にか俺の糸を突き破っている。

 

 何故だ、俺の糸は紗夜のスタンドでも切れないんだぞ。

 

 そうして“雨に唄えば”側の糸は、俺を捕えた。すると、糸に触れている部分の服がどんどんと溶けていく。

 

 俺は“ピンクスパイダー”で糸を切り、後ろにさっと下がる。

 

「“酸”か!!」

「正解ィィィ……」

 

 そう言うと彼女は俺に向かって、いつの間にかびしょ濡れの手を2、3回ピッピッとはらう。手を洗った後のように。

 

 あっぶね。俺はそれを避けようとするが、顔に当たった数滴が皮膚をすぐに焼いて溶かしていく。

 

「ビビっちゃって……」

「ハンドドライヤー使いなよ。荒れるぜ?」

 

 ビビるだろ。なんたって俺の顔は国宝並だぜ? 吉沢亮と横浜流星がライバルだっての。

 

「日菜!!」

 

 俺が『一度隠れるぞ』のジェスチャーをすると、日菜は「おっけー!」と元気よく答える。

 

 俺らは散り散りになって、スーパーの駐車場の面する通りに出て、それぞれ目に付いたものに隠れた。日菜は大きいトラックの荷台の中、俺は民家の陰に。

 

 よっぽど余裕があるのか、店員はニヤつきながらゆっくりと俺らを追いかけてきた。しかし、俺らの本体は見つけられないようで、それぞれのスタンドと戦っている。

 

「腰抜けェ────……さっきの威勢はどうしたのォ〜〜ッ? またナンパしてみなよ……」

 

 敬語も解けている。タメ語になってくれるのは嬉しいよ。ここが雰囲気のある喫茶店だったらどんなに良かったことか。こんな街中で殺し合ってる中じゃあ有難みも薄れるな。

 

「おい“MTM(ムツミ)”、一通り見てたろ。この状況の解決策は?」

 

 俺は幸い溶かされていなかった腕時計、正確にはその中にいるAIに呼びかける。

 

 するといつものように、顔の大半を隠す黒い仮面と、赤と黒のゴスロリを身につけ、明るいオパールグリーンの髪の少女が、立体ヴィジョンで現れる。こいつは今までの一部始終を見て、聞いていたはずだ。

 

 ありがとよ、学園長。こんな可愛い人工知能くれちゃってさ。

 

 民家の陰から店員と“雨に唄えば”を覗き、それを指さして表情を変えずに。

 

『…………突撃……』

「お前、なんでAIの癖して脳筋なんだよ」

 

 ホントかよって顔をしてると、心做しかしょんぼりしたような“MTM”は。

 

『AI……関係ない……』

「ああ、まあ……そうか。AI差別とかじゃないんだ、すまない」

『いや……そこまでは言ってないけど……』

 

 相手が人工知能とはいえ、女の子に配慮に欠けていた言葉をかけてしまったことを俺は真摯に謝る。くそっ、相手が女の子の見た目と声してると、いくらAIでもやりづれえぜ。

 

 “MTM”はため息をついて、再び店員側を指さす。『あのくらい……やっていい』と言う彼女。

 

 俺は顔を覗かせると、何故か日菜の乗っていた、いや荷台だから『載っていた』か? とにかく先程見た大型トラックが宙に浮いていた。

 

 その上には日菜が乗っており、トラックを“銀色”モードの“マキシマム・オーバードライブ”が上から磁石で持ち上げている。

 

「ここだあああああ!!!」

「奇襲しろとは言ってねえぞッ!!」

 

 隠れろとは言ったけど。いや、言ってないか。ジェスチャーがうまく伝わってなかったか。じゃあ俺が悪いか。

 

 にしてもめんどくさくなって丸ごと潰そうとしてんじゃねえ。死ぬぞ下手したら。香澄も治すのに体力と気力使うんだからな。

 

 少し遅れて降ってくる4トントラックに気づいた店員は、細かい蜘蛛の巣状に、“雨に唄えば”の糸を頭上へと展開する。それ、俺の十八番なんだけど。ただでさえ糸を使うスタンドで被ってんのに、用法まで被っちゃいかんよ。

 

「もう遅いよ!! 脱出不可能〜!!」

「このぉッ」

「オラオラオラオラオラオラオラ!!!」

「無駄ァァァァァァァァッッ!!!」

 

 日菜が上から“山吹色(サンライトイエロー)”モードになった“マキシマム・オーバードライブ”で殴りつけ、トラックを徐々に下へと押し付ける。

 

 店員も負けじと、今までで一番苦しそうに──それでも表情には微々たる動きしかないが──冷や汗をかきながら糸を張り、巨大なトラックを溶かしている。

 

 拮抗している中、どうしてやろうかと考えていると、“MTM”がふと振り向く。

 

『……後ろから、スタンド使い』

「はあ!? いやいや、もうこいつだけで……」

『違う……』

 

 ざっと物陰から出て、後ろを向いて構える。が、そこにいたのは。

 

『氷川紗夜さん』

「!!?」

「こんな事だろうと思って、ついてきて正解でした」

 

 私服で買い物にでも来たのかって風に、何でも無さそうに紗夜は俺を手でどかす。

 

「さ、紗夜ぉ〜〜! 助けに来てくれたのかッ!」

「勘違いしないように、沙織。日菜に変なことをされては困りますから……」

 

 そうは言うけどさ。紗夜の今の背中、姉としての背中でもあるけど、きちんと俺らと戦ってきた『戦士』の背中でもあるぜ。

 

 北風がバイキングを作る、か。紗夜、この場においては俺よりもお前の方があの子に有利だ。頑張って。そう肩に手を置くと、その手を強めにチョップされる。

 

 俺、ずっと言ってるんだけどな。お前みたいな強がってなびかない子に限って燃える方だって。そのうちきりっと結んだ唇、奪っちまうかもよ。

 

「あなたも『粛清対象』です」

「やってみろ!! ……あァッ!? 誰だお前!?」

「“フライ・マイ・ウィングス”」

 

 紗夜のスタンドが現れた。久しぶりだな、お前の戦いを見るのは。

 

 機械然としたメタリックブルーの身体、そしてそれに似合わぬ武術家のような装束。そして関節や額に輝く星マーク。アイツの能力を一言で説明するなら、それこそ『戦士』だ。

 

「“外回し蹴り(ヴィードゥ・カル)”」

 

 スタンドと本体をまとめて蹴り飛ばす“フライ・マイ・ウィングス”。溶けかけのトラックはズシンと地面に、日菜も「うおぅっ」と“マキシマム・オーバードライブ”と共に落ちる。

 

「いったぁ〜、何ぃ? ……おねーちゃん!!?」

「日菜。そこにいると当たるわよ」

「言われなくてもおねーちゃんの傍に行くよ〜んっ!! ♡」

 

 愛しの姉を見つけた日菜は、一直線に紗夜のもとへと走り、抱きつく。

 

「……離れてちょうだい」

「えーっ」

「さて……」

 

 妹の愛の抱擁もほどほどに剥がし、紗夜は店員に向かってゆっくりと歩き出す。『バベルの騎士』や『独平軍』との戦いを経て覇気を身につけた彼女に、店員は少し狼狽えて動けなくなる。

 

「『カラリパヤット』はご存知かしら」

 

 嫌という程聞いたよ、説明。

 

「インドの南部、ケララ地方にて古くから伝わる武術。北と南で宗派は分かれていますが、元はどちらもインド神話……」

 

 その動きのしなやかさから、動くヨガとも言われているんだってな。

 

「空手・ムエタイ・少林拳の元にもなった、世界最古の武術。蹴り、殴り、投げ、決めは勿論のこと、最大の特徴は──」

 

 剣や盾といったオーソドックスなものから、鎖分銅やムチャン、ガダーといったトリッキーなものまで多岐にわたる。

 

18種類の武器(アンガム・ウァイタニイ)です」

 

 で、それにずーっと憧れてたんだよな? 何回も何回も聞いたさ。俺だけに話せることだってな。

 

 紗夜はカラリパヤットにおける獅子のポーズ(シンハ・バディブ)をとった後、向かってくる“雨に唄えば”に“フライ・マイ・ウィングス”で斜め蹴り(コーン・カル)をおみまいする。そして紗夜自身も、店員に振り子蹴り(ティルチ・カル)をかます。

 

 さらに“フライ・マイ・ウィングス”は、その手に空いた星型の穴から鉄を出し、カラリパヤットで最もメジャーな武器であるウルミを形成する。

 

 ウルミとは、柔らかい鉄で作られた、曲線を描くおよそ1メートルの刀身が特徴の剣である。演武用では恐ろしい長さで巻き付くようなものを使うが、今回の実践用では爪のように相手を引き裂くものである。

 

 それを見て、直感でヤバいと感じた店員は、逃げながらもスタンドの酸つき糸で剣を溶かそうとする。しかし、うねうねと動くウルミに狙いが定まらないのか、紗夜の猛攻は止まらない。

 

 フェンシングのようでありながらも、ボクシングのステップをも想起させる、まさに格闘技や武術のイデアのようなカラリパヤットの動きに、店員は戸惑いながら防戦一方。

 

『……力押し、有効……』

「ガチで突撃が解決策なワケね」

 

 息を切らす、猫のポーズ(マルジャラ・バディブ)の紗夜の肩に、俺は手を置く。

 

「なーら話は早いか……ありがとな、紗夜」

「馴れ馴れしい」

「シェアハウスしといて何言ってんの」

「それを言うなら居候でしょうッ」

 

 俺の手を払い、ムッとするでもなく、かといって慌てることもなく、“雨に唄えば”へ依然猛攻をかまし続けながら紗夜はきっと店員を睨んだままだ。

 

「釣れないなあ」

「ねーっ」

「……弟が増えた気分ね」

 

 腕を組み、いつものようにため息をつく紗夜。俺に同調してにこにこと笑う日菜。いつも通りの日常って感じが、俺の心に余裕を作る。

 

 紗夜は俺らの後ろに立ち、日菜と俺の背中を押す。

 

「日菜、沙織。トドメくらい刺せるでしょう?」

「任せてよ、おねーちゃん!」

「……女の子殴るの〜?」

「あるでしょう、殴ったこと。忘れたのかしら」

「あの時のことまだ根に持ってる!? ごめんて!」

「はあ……」

 

 忘れもしないさ、確か31話だろ? 紗夜が『バベルの騎士』に洗脳されてた時に、俺は人生で初めて女の子に乱暴をしてしまった。

 

 しかも力を奪うために俺の十八番であるディープキスまでしたもんだから、紗夜は忘れたくても忘れられないだろうな。

 

 俺が慌てるのを見て、口角を少しだけ上げた紗夜は「冗談よ」と俺の前に出る。

 

「そんなことだろうと思ってたわ。あなたは糸で縛りなさい。私たちが決めるから」

 

 ホッとする俺の前で、日菜は今か今かと待ちきれなさそうにウズウズしている“山吹色”の“マキシマム・オーバードライブ”と共に。

 

 紗夜も“フライ・マイ・ウィングス”を戻し、姉妹の本体とスタンドが並び立った。

 

 父方と母方、どちらに似たのか分からないが、どちらも俺みたいなイケメンに一筋縄ではついていかない姉妹だったな。スタンドもお互いに、基本が攻撃型かつ応用の効くオールラウンダータイプでもあるし。

 

 日菜は身体を少し横に向け、右手で親指を上に寝かすタイプの指さしポーズ。紗夜は身体を柔軟にくねらせ、猪のポーズ(ワラハ・バディブ)をとる。

 

「行くわよ。日菜」

「おっけー!!」

 

 紗夜と日菜のスタンドが同時に飛び出し、同時に“雨に唄えば”にアッパーを叩き込む。吹っ飛んだそれを俺がすかさず“ピンクスパイダー”の糸で捉える。

 

 スタンドが攻撃され、血を吐く店員は、俺の糸をまた溶かそうとする。が。

 

「ここだね? おねーちゃん」

「ええ、そこが一番……」

 

 すでに彼女の、“雨に唄えば”の目前には、“マキシマム・オーバードライブ”と“フライ・マイ・ウィングス”の拳があった。

 

「「拳を叩き込みやすい角度ッ!!!」」

「やめッ……」

 

 店員の言葉は、姉妹のラッシュに遮られる。

 

「ラダラダラダラダラダラダ──────ッ」

「オラオラオラオラオラオラオラ!!!」

「ぐおおおおおおッッ」

ラダイケ・リエ・ハンニャヴァー(対戦、ありがとうございました)ッッ」

「オラァ───────ッ!!!」

 

 紗夜と日菜の、気合いの入った拳が叩き込まれ、店員は何度か血を吐き、他にも反吐やら吐瀉物やらが出たのち、その場で倒れた。ありゃあ骨も何本かいってるだろうな。可哀想に。

 

『やれやれだね』

「お前が言うんかい」

 

 決めゼリフを持っていった“MTM”は、俺の傍から消えていく。彼女は戦闘時以外、積極的に外に出たがらないからだ。カビちまうぞ。可愛いのに勿体ない。

 

 俺はスタンドの像も消えた彼女の身体に、目立つ傷を探して、そこに“ピンクスパイダー”の糸を巻き付けて止血する。

 

「ごめんねえ。今度会う時は酷いことしないから……」

 

 そんな俺の隣に、紗夜が座る。「やりすぎたかしら」と頭を抱える彼女に、結構ノリノリだったろ、という言葉を飲み込み「ああしなきゃ俺たちが溶かされてたぜ。ありがとうな」と肩を組む。

 

「そういう所が、ズルいんですよ」

「これ一本でやって来たもんで。紗夜、お願い」

 

 ここでなんの事? と聞き返すことはしない。俺はふつうのオリ主とは違うからね。

 

「正しい道へと……お戻りなさい(ヴァーパス・アーォ)

 

 紗夜がサルパ・バディブ(蛇のポーズ)で姿勢を低くし、合わせた両手を足元から頭上に掲げる。すると、彼女の額が光り出す。

 

 かぐや姫もかくやというその輝きの中から、針のような、それでいて豆のような何かが出てくる。これが豆狸の開発した『畑の豆』。貫通して脳に届く針が、洗脳作用を引き起こして、俺・上条沙織を狙うようになっているのだ。

 

 これが無くなったら、この店員さんも元に戻るはずだ。俺は彼女をよっこらせと背負う。紗夜の方を見ると、いつの間にか日菜がくっついていた。

 

「おねーちゃんもチョコ作る〜?」

「え? わ、私は別に、ついてきただけ……」

 

 紗夜のチョコ。それに反応した俺は、元気よく片手を上げる。

 

「おおっ! 紗夜の作ったチョコ食べたーい!」

「あたしもー!」

「……分かったわ。材料を買いましょう。羽沢さん直伝のお菓子作りの腕前、見せてあげるわ」

「わーい!!」

「紗夜、俺のこと好きだね〜」

「勘違いしないでちょうだい。日菜のためだから。あと、お菓子作りもいいけど、この人はどうするの?」

「あっ、じゃああたしが香澄ちゃんのとこに届けてくる!」

「えー、俺行きたい。恩売りたいから」

「……やっばり、こんな弟はいらないわね」

「ひどい!」




 今回も読んでいただき、ありがとうございます。メルシーボークー。
他の『女好きスタンド使いは輝くスクールアイドルと共に』や『女嫌いスタンド使いとキャンプ女子たちの恋愛攻防戦』などから来てくれた人もありがとうございます。シリーズを通してご覧になって頂けると、本当に嬉しい限りです。フヘヘ。大和麻弥と同じ笑い方が出てます。

 さて、ここで唐突ですが……一つだけ謝っておきます。
 ほんと毎回沙織くんが皆さんの推しを口説いてしまい、すいません!
こう……好きなんですよ。最近いない女好きの主人公が。あ、いえそのー……私はそうではないんですよ。まあこれが性癖とまでは行きませんが、『フェチ』というか。お姉さんになす術なく快楽に犯されるショタものはそれはそれで大好きというか。でも冴羽獠も好きというか。
 しかし、それだとどうしても『どうしようもないクズ』になってしまうので……いや、こんなメインキャラじゃないとはいえ4人も抱いてる沙織くんも相当なアレですけどね。そこら辺はこう、読者さんが『クソ、羨ましい…ぐぬぬう』って思ってくれれば『私の狙い通り』なので。(笑)
 だって、主人公が非の打ちどころのないチートな桐ケ谷さんだったりしたらそれはそれで……って感じなので。ソ〇ド〇ートオ〇ラインは好きなんですよ!ただ…差別化を図っただけであってですね。
 ……さて、一方的な雑談は終わりにして。また『第2部』でお会いしましょう。

 次回まで、くれぐれも闇の囁きに耳を傾けないように。

企画概要↓
https://x.com/sea_anemone_228/status/2002017399093256211?s=46
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