・オルクセン王国史本編から見て、さらにIF物的な展開です。
・「星歴800年」を開始時点としています(本編の60年前)
・原作1巻読了後推奨
(原作以前を舞台にしているため、本編のネタバレはないはずです。
世界観と人物が把握できていればという程度)
「閣下はかつて、白エルフと共に我らオークと戦われた。
そう、50年前のロザリンド会戦のことでございます。
あれからはや50年、魔種族である我々からすればそれほど遠くない昔のことではありますが、それだけに閣下はまだ、オークは敵とお思いでしょうか。
いえ、私には閣下の内心まで推し量ることは適いません。
ただここに、わが王グスタフ・ファルケンハインの言葉をお伝えさせていただくのみでございます。」
「国王の?」
「左様でございます。
グスタフ王は…あなた方、黒エルフの皆様を、我がオルクセンへお招きしたいと」
どういうことだ。思わず私は声が大きくなった。
「何を馬鹿な。我々をオルクセンへ連行しようというのか。我々を嬲って食うつもりか。そう簡単に、唯々諾々とオークの思い通りになると思うなよ。」
私は思わず、身構えてそう言ってしまう。
そんな私をまあまあと宥めるようなそぶりをゲオルクが見せて、話を続ける。
「失礼しました。順を追ってご説明すべきところ、結論からの申し上げとなり大変恐縮でございます。
それより族長閣下。その理由を述べさせていただければと思います。よろしいでしょうか。」
「言ってみろ。ただしそれが不埒な物言いであれば、本当に貴方の首を刎ね、荷に積んで持ち帰らせるぞ。
後ろの護衛殿がいようと、それがこの話を聞く条件のはずだ」
私は後ろに立つ彼を睨みつけた。
「結構でございます。族長閣下にお任せいたします。」
ゲオルクは後ろの護衛を制しながら、静かに姿勢を正して、私の瞳を見て続けた。
「私が申しあげる話は、いくつかに別れております。
まず、第一の話でございますが、我がオルクセンと友好関係にある人間族の国、キャメロットから入手した話がございます。
ただし、今私はキャメロットから入手したと申しましたが、それが本当かどうかは定かではありません。
ただそれは、入手した相手方が疑わしいというだけで、その内容はどうやら真実であろうと我が国王は考えております。」
「どのような話か」
「はい。それは…
近く、白エルフと黒エルフは交戦状態に入る、という情報でございます。」
私は思わず息を飲んだ。表情が引きつって固まってしまっているのを、意識して緩めたのちに続ける。
「…なぜそんなことを?なぜ我々が、同族で戦闘をせねばならんのだ。
そもそも我々は戦闘の準備などしておらん。
よって近々になるはずもない。できるはずもない。」
「そのとおりです、閣下。ですからこれは実際のところ、戦闘ではないでしょう。」
ゲオルクは静かに続けた。
「黒エルフの皆様は小さな村に分散してお住まいでいらっしゃいますし、だからこそすぐに「戦い」のためにまとまるなどということはあり得ない、ということでございますよね。」
「そのとおり、我々は集住しておらん。戦いがあると言うならば準備はする。もし貴方方、オークたちが攻めてくるというならば、な。しかし白エルフが攻めてくるなどとは考えていない。同じ白銀樹の民だぞ、我らは。」
「はい。そのとおりかと存じます。皆様が常日頃想定されておられるのは、我々オークとの戦争でしょう。戦争となり、オークが南から侵攻すれば、皆様黒エルフは侵攻を素早く察知し、移動しながら退却して時間を稼ぐ。
街道では戦わず、森の中に逃げ込んで小規模な戦闘で我々オークの軍を足止めし、その間に白エルフの援軍を呼び込む。こんなところが基本的な戦術でしょう。ある日突然平和なエルフの国に野蛮なオークが攻めてくる。その場合にはこう対応する、とかねてから考えておられるでしょう。他にも作戦はあるかと思いますが、機動力を生かした対応となるのではと推察します。
しかし一方で、あなた方黒エルフは、そもそも北の白エルフと戦いを始めようとは思ってもいないし、考えてもいない。」
「そのとおりだ。この土地、地形が変わらぬのであれば、この地は我々の味方であり続ける。オークこそ我々の敵である。この森を頼りに、我々は戦う。」
「族長閣下のおっしゃられるとおり、この森は黒エルフの守りとなるでしょう。しかしそれは相手がオークだからです。同族である白エルフからはいかがでしょうか。黒エルフは戦士に向いているとはいえ、同族に対する備えはないことを十分に熟知している白エルフからすれば…。
彼らから見れば、森は攻める際の障害にはなりません。また、黒エルフは「交戦する」対象ですらないかもしれません。いえ正確に言えば、それはおそらく虐殺でしょう。少しずつ、小さな集団である黒エルフを、白エルフの正規軍で推し囲んで潰していく。それがこの「交戦」の正体です。まずはこの貴女がおられるこの村を落として貴女を殺す。族長を失えば黒エルフは混乱する。そしてほかの黒エルフを殲滅していく」
「何を根拠に。何を根拠にそんなことを言うのだ。その、キャメロットから入ったという情報が根拠か」
「はい。でもそれだけではございません。第2の話でございます。
我々は白エルフの方にも、微々たるものではありますが情報網を持っております。そちらからの話ではありますが、白エルフにはやはり「キャメロット」からとされる、ある情報が入っている、というものでございます。
それがどのようなものかと申し上げますと…。」
ゲオルクはそこで、躊躇いがあるように話を止めた。
それまでの間、真剣な眼差しで私の顔を見つめて話をしていたゲオルクが、少しだけ恥じ入るような表情をして、持っていた茶の木椀から茶を一啜りする。
「…続けてくれ。貴方の顔色を見るに、碌な話ではなさそうだが」
「はい。そのとおり、族長閣下には大変失礼で不名誉な話でございます。ですが申し上げさせていただきます。繰り返しますが、もしご無礼であり、お気に障るようでございましたら、私の首を差し上げます」
「いや、そなたの首など貰っても仕方ない。グスタフ国王の首であれば考えるが」
「…それはありがたいお言葉で…」
ゲオルクはなぜか、不思議にも嬉しそうな顔をして言葉を続けた。
「白エルフには、このような話が入っているのでございます。
曰く、『黒エルフの族長、ディネルース・アンダリエルは、同胞を裏切り、オークの王グスタフと密通し、彼に手籠めにされている。
忌まわしい黒どもは、オークに篭絡され、オークの軍を引き入れて白エルフを滅ぼそうと企んでいる』と。」
「な…!」
私は思わず、その予想外で破廉恥な物言いに赤面してしまったが、すぐさまそれが憤怒の表情へと変わるのが自分でもわかる。
「何を馬鹿な!なぜ私がオークの王と…いやその、オークの王がどうということではないのだぞ。
私は確かに最近のオークを知らない。私の知っているオークは、貪欲で汚らしい、知性のかけらもない野卑な輩だ。そんな輩と密通するなど、もってのほかだ。
しかし今、ゲオルク、貴方を見ていればわかる。
昔の、私が知るオークであれば、私が今出した茶など口にした瞬間、毒だと思って吐き出すはずだろう。
それが今の貴方はどうだ。なぜそれをうまそうに飲むだけでなく、『人生の最後の美味だとしても本望』などと言うのか。貴方は本当にオークなのかと思うぐらいだ。」
「もちろん私はオークでございます、族長閣下。
またこの茶が素晴らしいものであるのも事実でございます。私にはそう思えます。
お代わりを頂けますか、よろしければ」
「ふてぶてしいな、貴方は。しかしそれは演技とも保身とも思えない。」
「いえ、この茶。頂けばわかります。族長閣下が心からおもてなし頂いていることを。心底そう思っておりますから、当然のことでございます。
…しかし、この、今お話したことは真実でございます。
いえ、真実とは、『白エルフ』が『黒エルフの族長がオークと密通して内通している』ということを『信じている』ということが、でございます。」
「何を愚かなことを…。そんな戯言を信じ込むほど白エルフは愚かなのか」
「いえ、おそらく違うでしょう。愚かなのではありません。族長、お分かりかと思いますが…」
「それを信じたい、いや、口実にしたい、ということか。
邪魔で目障りな我々、黒エルフを排除する理由として、この上なく正しく、エルフィンドの国民を納得させ、説得力を持つものであると、そういうことか」
「そのとおりでございます、閣下。」
ゲオルクは懐から別の封筒を取り出して、中を開いて見せてくる。
「これは我が方で入手した白エルフ領内で発行されている新聞でございますが、こちらをご覧ください。これは白エルフの新聞の中でもどちらかと言えば低級の報道機関でございますが、こう書かれています。
『卑しいオークの牝畜生に成り下がった裏切り者の黒エルフ』『暴虐なオークの王に飼われる黒どもを地上から消し去れ』と。
おそらくこれらは、エルフの上流階級が、エルフィンド国内の世論の観測、いや扇動と言う方が正しいかもしれませんが、そのために書かせているものかと思います。
どうやら上から下までエルフィンドではこの話で持ちきりでございます。
彼らの間では、もう完全に貴女様、族長閣下はオークに手籠めにされていることになっており、彼らが攻め込んでくる手引きをしようという陰謀を企てているのでございます」
「…白エルフどもめ…あいつらはすました顔をしていても、陰ではこのような下劣で低俗な話を好む輩であるしな…。
しかし、信じたいから信じるというのは、悔しいがよくわかる…。
しかし、私はオークとそんな関係にはない。第一私は、オルクセン国王の顔すら見たこともないのだ。
先代の王はロザリンドで戦ったからまだわかる。あの凶悪な恐ろしい面は忘れようにも忘れられない。
しかし今の王など全く知らん。それにもかかわらず、密通しているなどと…。何と卑劣で下劣な…。
それにだ、そもそも今の王もやはり、恐ろしい牡なのだろう?どうなんだ?私はそんな凶悪な牡には決して近寄りたくもないし、死んでも服従などはせん」
激しい口調で私がそう言い切ると、ゲオルクは少し困惑したような表情をして、今までの彼に似合わない口調で、ぼそぼそと呟いた。
「…いやその、何と申しましょうか…。今の王は…」
すると突然、後ろでそれまで黙って私とゲオルクの会話を聞いていた「山のようなオーク」が、腹の底から響き渡るような声で言った。
「王はそのような方ではございません!」
それを聞いたゲオルクは、深く呼吸をし、落ち着きを取り戻して若いオークを制して言った。
「フェルディナント、それはいいんだ。いや、驚かせて申し訳ありません。
彼は真面目なオークでして…。いや、オークの王の面や風体のことなどどうでもいいことです。」
ゲオルクは本心をさらけ出したようにつぶやいた。彼は王に含むところがあるのだろうか、と私は思ってしまう。
「それよりも…族長閣下、お疑いになりますか、私の言葉を」
ゲオルクが再び、彼の丸くつぶらな目で、まっすぐに私の目を見つめて問いかけてくる。
その眼差しに引き込まれるように、私は話をしてしまう。
「…実は、私のところに、先日グロワールの外務大臣の手の者である、と名乗る者が来た。」
「なんと、やはりグロワールですか。」
ゲオルクが大きな嘆息とともに言う。
「なんと、とはどういうことか。私はまだ何も話をしていないのに。」
「いえ、先ほどから私は、『キャメロットからとされる情報』と申しておりますが、我々の見方としては、グロワールからの情報ではないかと考えておるのでございます。いえむしろ、そう考える方が自然なのですが」
「なぜそう思われるのか」
「それはもちろん、今のグロワールにとって、グロワールの北東国境付近の憂いを消し去りたいからでございます。
簡単に言えば、オルクセンがエルフィンドと戦いを始めれば、当面、間違ってもグロワールには脅威とはならない。オルクセンは現在、グロワールとは休戦しておりますが、休戦を続けるだけでなく、それを脅威に変えないための方策と考える方が自然なのです。
ところで族長閣下は、グロワールの今の情勢をご存じでしょうか。」
「いや、それには疎い。田舎者ゆえな。恥ずかしいことだが」
「いえ、グロワールは例の革命以来、体制が荒れに荒れ、情勢は目まぐるしく流転し、外国からは容易に理解できる状況ではありません。
ですが閣下、ようやくそれが落ち着く…というよりも、一つに固まると言った方がよいでしょうが、その気配が見えて参りました。
グロワールは今、新たに執政政府が成立し、第一執政にあのデュートネが就任しております。
数年前北エトルリアで、次々にオスタリッチ帝国を破ったデュートネでございます。閣下は名前を聞いたことがおありでしょうか?」
「流石にそれぐらいはな。貧相な軍人であるが、戦争が得意だと聞いている。」
「そうです。ですが得意、どころではございません。彼はまさに戦争の天才でしょう。
一対一ならオークは人間に勝てます。十対十でも勝てるでしょう。百でも我々が勝つ。しかし、千の人間を率いたデュートネは、千のオークに決して負けないでしょう。
万以上でぶつかれば…恐ろしいことになるのではないでしょうか。それぐらい強力な敵であると私は思います。
そのデュートネは、長らく遠くのキャメロット同盟国へ遠征していたため、グロワールを不在にしていたのですが、その間かつて彼が奪い取ったアスカニア及び北エトルアレシアの権益はオスタリッチ帝国に奪還されました。
そのため今、デュートネ率いる執政政府は、まずこちらを奪還しようと考えております。特に北エトルリアに集中したい。彼の栄光の出発点ですしな。
逆に、北東には手を出す余裕がない。
よって北東にあたるオルクセンの目をエルフィンドに向けておきたいのです。
…そもそも、オルクセンは…正直なところを申し上げると、エルフィンドとは戦争を続けている国でございますから。」
「そうだな。正式には講和条約など締結していない。というより、我々エルフィンドとしては、野蛮なオークと条約など結ぶはずもない」
「そのとおりでございます。またいつか、どこかで我々オークと、エルフィンドは、戦争を始めることでしょう。」
「貴方は正直者だな、ゲオルク会計担当どの。」
私が茶を飲んでのどを潤してそう言うと、彼は嬉しそうな顔をした。
「では、私も最近の情報を話そう。
ゲオルク殿は、グロワールのメルキュール公をご存じか。」
「はい、存じております。グロワールの外務大臣、メルキュール公ですね」
「そうだ。先日、この私の元に、グロワールの銀行家と名乗る者が、メルキュール公からの私信であると知らせてきたことがある。受け取った時はなぜ私に、と思ったものだ。グロワールの外務大臣であれば、その視線は当然ティリアンの方を向いているのが当然だし、我々などは目にもはいっていないだろうと思っていたのだが。
また、その内容も妙なものだった。
『白エルフは黒エルフを排除しようとしている。危険である。しかるべく対応されよ』とな。危険とまで言わなければならない状態なのか。何故そうなるのだ、と私は思ったが…。
しかしな。今、貴方の話を聞いて繋がったぞ。まさかそんな話になっているとはな。
私が裏切りだと?オークの王と密通しているだと?この私がか?呆れて物も言えん」
「閣下、ばかばかしい下世話な話でございますが、グロワールが噛んでいるなら、それこそ虚言でありましょう。
しかし、族長閣下のところには、メルキュール公が繋がっているのですな。
教えていただきありがとうございます。いや、メルキュール公ならさもありなんというところでしょう。
何せ彼は、噂ではありますが、黒エルフという種族にかなり執心されているようで。
ただ執心されているだけではございません。彼の邸宅には、何人かの黒エルフが住まわされているらしいですからな。いや、虐待や加害のためなのではありません。むしろ良い待遇の下、護衛や家事などに従事させており、それを見て喜んでいるようで。心底彼は黒エルフという存在を好んでいるらしいのです。」
「確かに、グロワールの革命とやらを見に行きたいなどと言い、出て行ったお調子者が我々の中にもいたのは確かだが…。
つまりメルキュール公は、我らをお人形遊びの道具にしているようなものではないのか。」
「そうかもしれませんが、彼は一昔前の魔種族狩りの時の人間のように、黒エルフを迫害し滅ぼそうとするわけでもありません。
単に彼が人間にしては変わった、妙な嗜好をしているだけのことです。
ただ彼はそういう性癖の人間ですから、ある程度は黒エルフの味方をしたいと考えているようで。黒エルフが白エルフとオークに抹殺されるようなことは避けたいのでしょう。
だからこそこのような知らせを族長閣下のところへお送りしたのかもしれません」
「彼の魂胆は気に入らないところはあるが…。そうか。
いや私も、その知らせを受けてつい昨日まで北部を見て回っていたのだ。しかし正直なところ白エルフの動静はよくわからなかった。
しかし第一、危険だと言われても、「しかるべく対応」を取れと言われても、何をしろというのだ。まさか戦うわけにもいかないだろう。我々は到底戦える状況にはない。我々は個々としては戦士として戦えても、組織だって戦うような態勢にはなっておらん。それに事前に知らされたからと言って、抗戦するなど無謀でしかない。
白エルフの人口は、貴方も知っているだろうが800万近いと言われている。それに対して我々は老幼まで合わせて7万程度だ。我々は極めて僅かな少数派だ。彼らが本気で我々をどうにかしようと思うならば、物の数ではないのだぞ。」
「そのとおりです、閣下。しかしこれでグロワールの魂胆が見えましたな。
彼らは、エルフィンドに内戦を起こさせ、その背後をオルクセンが突くことを予想、いや希望しているのでしょう。
白エルフが黒エルフと戦い始めた際、黒エルフが不意打ちを受けるのではなければ、戦いはすぐには終わりません。
そこへ背後から、彼らの思う「野蛮なオーク」が攻めかかれば、さらに状況は混乱する。
それによってエルフィンド、オルクセンの国力が消耗する。魔種族同士を戦わせて疲弊させる。それが狙いですな。
「そうかもしれん。北部を見て廻っただけは、はっきりとはわからなかったのも確かだが…。そんな動きがエルフィンドにあったとは。
ただ、そうは言っても、まだ信じがたい。もう少し見極めたい。私にはどうしても、共に戦った同族であるという思いが捨てきれない。
白エルフどもが信じたいと思っている破廉恥な噂も、白エルフの全員が信じるとは到底思えない。
かつて貴方がた、オークとの戦いにおいて、共に戦った戦友と言える存在も、白エルフにはいるのだから」
「族長閣下のお気持ちは、おかしなものではないと私も思います。
ですが閣下、おそらく時間はそれほどございません。私を信じていただけませんか」
「…いや、疑いはしない。ただ…俄かには…。
それに、先ほども言ったが、我々は常にまとまって暮らしているわけではない。すぐに行動せよと言われても難しい。第一、我々はどこへ行けばいいのだ…いや、それが初めの話か。
だからグスタフ王は、我々にオルクセンに来いと言うのか。」
「はい。そのとおりでございます」
「我々は総勢で7万はいる。その我々を住まわせるだけの余裕がオルクセンにはあるのか。貴国の価値のない、薄汚れた僻地に追いやろうとしたいのか。」
「いえ。確かに7万といえばかなりの数であり、小さな都市が一つできるようなものだとはグスタフ王も考えておられます。しかし、お迎えする場所は用意しております。それは私が、グスタフ王の名のもとに保証させていただきます」
「貴方はただのファーレンス商会の会計担当であろう。かなり高い魔力をお持ちであろうから、只者ではないことはわかるがな。
実は重役か。ならばなぜ身分を偽る。貴方は何者だ。」
ゲオルクは嘆息して目を閉じた。
改めて、彼の彫刻のような力強い眉のもとにある、丸々としたつぶらな瞳が開かれる。
「私は…。
ただ、族長閣下とお話がしたかったのでございます。
黒エルフの族長、ディネルース・アンダリエルは、共に組める相手なのか。
それを、お話して確かめたかったのでございます。」
沈黙が流れた。
と、その時だった。
窓の外から、何やら歓声が上がっている。
野太い声が主ではあるが、中には黒エルフの娘たちの高い声なども混じっているだけに、私は一瞬不安になった。
まさかオークが暴れているのではないか。そう思って私は立ち上がって窓の外を見ると、そこには驚きの光景が広がっていた。
私は思わず、席を立って外に出た。
遠く見える広場の隅。オークたちに、そこに馬車を停めるように言ったのは、確かに私だった。