リバイスForward 仮面ライダーリバイスwithトウカイテイオー   作:仮面ライダー四季鬼

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前日譚
鎧武立志編


「Zzz…ん、んぁ?

 

………う"ぇ"!?なんだここ!?」

 

その日、紘汰が目を覚ましてから最初に眼にしたのは、最後に眠った宿直室の天井ではなく、宇宙をそのまま切り取ったかのように星々が浮かぶ黒い空、陽光によって輝いてるかのように眩しい白雲が浮かんだ澄み渡るような青空、篝火のような静けさと暖かさを同時に孕んだ鮮やかな茜色が広がる黄昏時の空が入り交じった不思議な空だった。

自分は白い雲のようなもやもやしたものの上にいて、驚いて跳び上がって周りを見渡してみれば先程の空に崩れたビルや鉄塔、電柱のようなものが生えた浮石がそこかしこに存在していてとにかく異様な光景だった。

しかし、そんな異様な光景が広がっているのに何故か不気味さは感じられず、寧ろ神々しさのようなものを感じてしまったからだろうか。

 

「ここって…もしかして、天国!?

俺…まさか死んじまったってことなのか!?」

 

と、紘汰は予想して焦ってしまう。

自分が死んでしまったということは、これから家族である姉は一人で生きていくことになってしまう。

両親は紘汰が産まれてすぐに亡くなっており、今までは姉の葛葉晶が親代わりとして自分を育ててくれた。まだそのお返しが出来ていない内にあの世行きだなんて冗談ではない。

 

「おぉ~い!!

誰かいないのかぁ!!?いたら返事してくれぇ~!!」

 

紘汰は走り回り、大声で周囲に助けを求めるが移動しているのに景色が移り変わっていく様子もなく、まるで同じところで必死に足踏みしているようなもやもやした感覚に陥ってしまう。

このまま、この可笑しな空間に囚われて一生出られないのだろうか。

だとすればもう二度と美味しい姉の手料理を食べることも、学園の仲間達とバカ騒ぎすることも出来なくなってしまう。

そして何より...

 

(アイツにも…もう会えない……)

 

紘汰の脳裏に浮かんだのは長く美しい藍色の御髪に下の角が伸びた特徴的なダイヤ型の流星、夜空の星を思わせる蒼い瞳を煌めかせた一人のウマ娘。

自分よりも年下なのにその背に載せられた期待や重圧をものともせずに自分のやりたいこと、やるべきことに真摯に向き合い続けている彼女…

その娘のいつもの大人のような優しい微笑ではない、時折見せる少女らしい朗らかな笑みを思い出せば、紘汰は沈みかけた心に再び強い火を灯すことが出来た。

 

「諦めてなんかいられないよな…シーナ。」

 

シーナ…それは、お前の大切な人か…?

 

「!?…頭の中に声が…誰だ!

俺をここに閉じ込めやがったのはお前なのか!!」

 

突然、紘汰の頭の中に声が響いてくる。聞き覚えがあるようなないような、そんな不思議な声だった。

不思議な声は話を続ける。

 

心配しなくても良い…ここはお前と話をするために俺が作り出した異空間…夢の中だと思ってくれ…

 

「じゃあ、死んじまった訳じゃないってことか?」

 

勿論だ…俺の話が済んだらすぐに帰してやるよ…

 

「そっか…まぁそれなら問題ないか。

それで俺に話って一体なんなんだ?」

 

ああ、待ってろ…今そっちに行く…

 

不思議な声がそう言うと、途端に頭の中の違和感が消えて声も聴こえなくなる。頭の中に声を届けてくるなんて如何にも胡散臭げなものだったが、変な空間に一人置かれる身としては少し寂しく感じてしまった。帰れると知って安心した紘汰はその場でドカッと座って待つことにした。

それから程なくして、目の前からコツンコツンと足音が響いてくる。

不思議な声の主が姿を現したようだ、一瞬ヒヤッとさせたのだから一言くらいは文句を言わせて貰おうと立ち上がって向き直ると言葉を失ってしまった。

何故なら現れた不思議な声の主は…

 

『どうした?

鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔だな…』

 

「お前、なんで…」

 

金髪になって白い装いに身を包んで随分と様変わりしているが、毎朝洗面台の鏡の前で顔を合わせるので間違いない。

そこに立っていたのは紛れもなく…

 

「俺と…同じ顔なんだよ!?」

 

紛れもなく自分自身、葛葉紘汰その人だった。薄れていた警戒心が再び沸き上がってきて、思わず後ずさるが何かに足がもつれてしまい尻餅をついてしまいそうになる。

しかしその前に紘汰はいつの間にか後ろに出現した椅子に腰掛けたことで尻餅をつくことはなかった。

これもコイツが出したのだろうか?

 

『俺はそうだな…

簡単に言えば神様になった、並行世界のお前だ。』

 

「か…神様になった!?」

 

とんでもないカミングアウトにまたもや面食らう。

確かに神様ならこんな異空間を作るなんて造作もないかもしれないが、それがまさか自分が神様になって作り出したなんて夢にも思わなかったからだ。

 

『さて、そろそろ本題に入って良いか?

他の奴らにも会いに行くから時間が惜しくてさ…』

 

「あ、あぁ…」

 

神様の紘汰【以下「神様」】は自分の紹介もそこそこに話をし始める。

いくら並行世界の自分が相手とはいえ、勝手に呼びつけておきながら何だか扱いが雑だなと思わなくもなかったが、正直この空間からは早くおさらばしたい気持ちもあるので紘汰は黙って話を聞くことにした。

 

『ここにお前を呼んだのは他でもない。

もうすぐお前達の世界に、大きな戦いが訪れることを報せる為だ。』

 

「大きな戦い…?」

 

『あぁ、本来なら並行世界の事象には干渉するべきじゃないんだが…厄介すぎる力に目覚めた奴がいてな。

この世界のライダーだけで対処するには少し荷が重いから手伝ってやろうと思った訳だ。』

 

「折角ギフやデッドマンズがいなくなって平和になったってのに…

また何かおかしなことをやろうとしてる連中がいんのか...!」

 

『そういうことになるな…

だが心配すんな、ただ警告だけしに来た訳じゃない。

太刀打ちする方法を持ってきた、それを使いこなせれば大きな力になる筈だ。』

 

そう言って神様が手を掲げると、掌に光が収束していきやがて一つの形を作り上げる。

光が収まると神様の手の中に有ったのは…

小刀がくっついたベルトのバックルのようなものだった。

一般的な刀剣における平地の部分が蛍光イエローに彩られている以外は、黒い本体に銀の配色が入ったシンプルなカラーリングだったが紘汰は何故かそれを見ていると心が少しざわざわしてしまった。

 

「なんだそれ?ベルトの…バックル?」

 

『ま、似たようなもんかな…ほれ。』

 

シュイーン、ガチャ!ピキュイーン…

 

「あちょっ…!勝手に…!っておぉ!?」

 

神様は手に持ったそれをいきなり紘汰の腰に押し当てる。するとバックルから黄色い光の束が広がり、黄色いベルト帯として形になって装着される。すると小刀がくっついた方とは逆側の黒い部分に鎧武者の横顔が浮かび上がってきた。

その光景に紘汰は驚くが、同時に少し前にテレビ中継で観た青年がライダーに変身して戦う光景を思い出す。

そういえば彼もまた、バックルのようなものを腰に当てると自動で装着されていたし、そのベルトを操作して仮面ライダーに変身していたのが見てるだけで分かった。

もしかするとこれはそういうことなのだろうか?

 

「これって…もしかして…?」

 

『そう、"戦極ドライバー"…

アーマードライダーになって戦うことが出来るベルトだ。

それを使えばお前は"変身"できる…

 

アーマードライダー鎧武にな。』

 

「アーマードライダー………鎧武……」

 

『あ、くれぐれも調子に乗って行く先々で乱用するなよ?

それでやらかしてバイトをいくつクビになったことか…』

 

「………あ、やっぱ神様になる前は普通にバイトしてたんだな。」

 

『当たり前だろ?

じゃなきゃどうやって生活費稼ぐんだよ?』

 

やはり目の前の人物は規格外の存在になったというだけで本質は葛葉紘汰その人だった。

あまりにも親近感がありすぎる。話し始めた辺りはまだ少し神の威厳のようなものを感じたが、今ではすっかり世話を焼いている気の良い兄ちゃんになってきていた。

しかし、そんな朗らかな雰囲気は突如霧散し、真面目な顔つきになって警告する神様。

 

『ただ、お前にそれを使って戦う義務はない…それを俺に強いる権利があるわけでもない。

もしお前が怖いと思うなら…』

 

「…俺が断ったとして、他に頼る当てはあるのか?」

 

『戦力というだけならこの後会いに行く三人の内、少なくとも二人は断らないだろうさ。

だけどアーマードライダー鎧武として戦えるのはお前だけだ…他に代わりは出来ない。』

 

言外に覚悟を問うてきていることを肌で感じとる紘汰。

もし何の経験もなく偶然力を手に入れただけだったとしたら、その力を持て余してしまっていたかもしれないが、この世界の紘汰は既に平和を守るためにその身を賭けて戦ったライダーの存在を知っていた。彼等に今まで任せっきりになってしまっていたことを手伝うことが出来るというのなら…

 

「…やるよ。俺はこの力を使って皆を守る...!」

 

『いいのか…?

お前は過酷な運命を選ぼうとしている…

一度その力を使えば二度と後戻りは出来ないぞ…』

 

「それでも俺は…皆を守る為なら……!」

 

『!…ははっ、それでこそ葛葉紘汰だ…

ならソイツはお前のモノだ、使い方は…』

 

こ…た……?こう……ん?おき……だ…い!

 

紘汰さん!

 

「あっ!この声…シーナか?」

 

その時、二人の紘汰とは違う女の子の声が空間に響いた。

いや、空間の外から響いてきたと言った方が正しいだろう…その声が空間の内部からの干渉ではないことが不思議と理解できた。

 

『眠ってるお前を起こそうとしてる、どうやらここまでみたいだな…

まぁ俺が出来たんだ、ぶっつけ本番でも多分大丈夫だろ?

じゃ、後は任せたぞ…』スッ

 

「ちょ、おま!?んな無責任な!?

 

…ん、う、んぅ、ワァアアぁアあ!!!」

 

神様はそう言うと、もう用が済んだとばかりに手首をスナップさせる。

すると紘汰の周りの空間がグルグルと周り始め、目映い白しかない空間へと溶けていく。紘汰はその目まぐるしく回る周囲の光景の中で吐き気を少し催しながら、意識を現実世界へと飛ばされていくのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紘汰さん!紘汰さんっ!」ユサユサッ

 

「…っ!!

どわああぁぁぁああ!!」

 

「きゃっ…!」

 

移ろいゆく視界の中でいつの間にか現実に帰還した紘汰はそのことに気付かず、大声の続きを上げながら起き上がってしまう。

それに驚いた傍らの少女は尻餅をつき、しばらく目をぱちくりとさせていたがやがて頬をプクーと膨らませて抗議し始める。

 

「もうっ!!

驚かせないでください!!」

 

「あ…わ、わりぃわりぃ…」

 

彼女の名はヴィルシーナ。

ティアラ路線の全てのクラシックレースにてジェンティルドンナに次いで2着、続くエリザベス女王杯でも惜しくも2着という輝かしくも悔しさを滲ませる結果を残した後に、ヴィクトリアマイル連覇という史上初となる偉業を成し遂げた名ウマ娘の一人だ。

高い才能を鼻に掛けることなく、誰にでも分け隔てなく接する女王然とした彼女の風格に魅了される者はとても多く、幅広い支持を得ている彼女が何故紘汰を起こしにきているかと言うとそれは、今日控えている紘汰の大仕事を手伝う為だった。

 

「今日は確か果樹園で充分熟した果物を収穫して、発注したトレーナーの方々に配達して回るのでしょう?

量も手間も多いでしょうし、お手伝いしようと思って来てみれば寝坊だなんて…」

 

ヴィルシーナが口にした果樹園とは、食堂やトレセントレーナー達にウマ娘の栄養管理に適切な果物を提供する為、トレセン学園の敷地内に(理事長のポケットマネーで)建設された果樹園のことを指している。

ウマ娘達の資本である身体を作っていく上で、様々な栄養に優れながら好意的に口にできる食材としてフルーツというのはバカに出来ない。

世界に名を馳せる名アスリート達が現役中に一番辛かったこととして口々に挙げるのが「食事」であるというのは有名な話だが、そういったリスクを減らしつつ栄養を摂っていけるフルーツはもはや重要な要素の一つと言えるだろう。

紘汰はトレセン学園の用務員業務の一環として、果樹園の管理も行なっているのだ。今回宿直室で寝泊まりをしていたのも最先端の環境管理システムによって短縮された収穫時期が重なった様々なフルーツを収穫する為だった。

 

「あ"ぁ"っ!そうだったぁ!!

今日は特に収穫する量が多いんだよ!!

こうしちゃいらんねぇ!!」

 

「あっ紘汰さんっ!!

私がいますからここで着替えないで下さいっ!!

……あら?」

 

紘汰は自分にかかっていた宿直室の布団を剥ぎ取ると、急いで畳んでて押し入れにしまい作業服に着替えようとズボンに手を掛けるが、それはヴィルシーナに抑えられて制されてしまう。

その際、ヴィルシーナは違和感に気付く。紘汰の腰には巻かれていたのだ…

夢の中で紘汰が神様に渡されたあのベルトが。

ヴィルシーナはジトッとした目付きになり、紘汰を見る。

 

「もう…おもちゃで遊んで夜更かしだなんて、立派な大人のすることではありませんわよ?」

 

「いやいやいや違う違う!!

これは夢の中で神様になった俺から渡されたんだよ!」

 

「………はい?」

 

「俺、変身できるみたい…」

 

「………………」

 

「ホントなんだって!!

そんなに疑うなら見せてやるよ!!」

 

ジトッとした目付きがさらに深くなる。どうやら信じてないらしいと悟った紘汰はベルトを操作して変身しようとする…が、直後に硬直してしまう。

そういえばそうだった…

変身する上でもっとも重要なことを紘汰は聞けずじまいだったのだ。

 

(このベルトの使い方…分からねぇっ!?)

 

「………変身!!」

 

「………………………」

 

「……俺の集中力の問題か、なぁ。

よし、葛葉紘汰集中しよう!んん!!」

 

取り敢えず気合いを入れながらベルトの小刀をカタンッと操作してみるが、当然だがなにも起こらない。

紘汰はこの時点で大体この後の展開を察してしまったが、大見得を切った手前引くわけにもいかず取り敢えず何度か試してみる。

 

「ふっ……変身。」

 

「へー…んー…しー…んー!」

 

「変身ーー!」

 

「変…身…!」

 

「へーん…ヘンシンヘンシン…へーんしん!とぁぁ!!」

 

「………先に外で準備しておくので、着替え終わったら出てきてくださいね?」

 

「………………あっ、はい。」

 

結局使い方が分からないのではどうにもならず、ヴィルシーナは呆れた様子のまま外に出ていってしまった。

一人部屋に取り残された紘汰は諦めて着替えようとしたが、装着されたベルトが邪魔でパジャマ替わりのシャツとズボンが脱げない。

恐らく外すにはこうだろうと当たりをつけていた接続部分に手を触れるとやはりそこには着脱スイッチがあり、それを押しながら動かせば簡単にベルトは外れた。

すると今まで紘汰の腰にベルトを固定していたベルト帯が霧散して消え、紘汰の手元にはバックル部分だけが残った。

 

「………おお?」

 

もう一度腰にあてがう。

帯が出現して巻かれる。

外してみる。

帯が消えてバックルが残る。

それを何度か繰り返してみる。

 

「………ほら本物だってぇぇ!!

これ見て貰えれば分かるからさぁぁ!!」

 

この後、ベルトの付け外しを直接ヴィルシーナに見せることで漸くベルトが本当に変身することができる本物だと分かって貰うことができたが、着替えてる途中のパンツ一丁姿だった紘汰は頬に紅葉を付けることになったのであった。

 

数分後…

 

「百歩譲ってそれが本当に変身できるベルトだとして、何故今更そんなものを?

もうギフの脅威は去った筈でしょう?」

 

「なんでも神様の俺が言うには…

もう少しでまた新しい戦いが始まるんだとさ。

んで、この世界のライダーだけじゃ荷が重いとかなんとか…」

 

「でも使い方は分からないんですね…」

 

「そこなんだよなぁ~…」

 

準備が整った二人は雑談をしながら、朝一で届けるように発注を受けた果物の収穫を始めていた。

頬が赤く腫れてジンジンしているのを尻目に紘汰は手馴れたように素早く、けれど実を傷付けないように丁寧に収穫していく。学園の用務員になってからずっと続けてきた作業なのでその動きに淀みはないが、シーナは現役が終わってから手伝いに来るようになったからかまだ少し経験が浅く、実を傷付けないことを意識しすぎておっかなびっくりな手付きだ。

 

「ああ、違う違う。

ソイツはもっとこう…大胆にいかねぇと!」

 

「あら…ふふっ、ありがとうございます。」

 

手早く収穫し終えた紘汰は苦戦しているシーナに加勢、四苦八苦しているシーナの手に重ねるよう自分の手を置き、慣れた手付きをなぞらせるように動かす。

シーナはアドバイスをしてくれた紘汰に嫋やかな笑みを溢しながら礼を言う。

それだけでシーナはコツを掴んだのか、その後は紘汰程とはいかずとも素早く丁寧に収穫を続ける。

それを見届けた紘汰はもう大丈夫だろうと他の果実がある区画に向かっていった。

シーナは紘汰が去っていくのを見届けると、柔和な笑みを崩しながらへなへなと座り込んでしまう。

 

「……あの人はああいうことを素面でやってくるから困っちゃうわね…」

 

両手を熱くなった頬に当てて冷やしながらシーナは独り言ちる。

紘汰から手を重ねられた時、シーナは必死に平静を装っていたが実は大きく心臓が跳ねていた…大きく脈打ちすぎて、紘汰に聞こえていないか心配になった位だ。

彼はそういったことには鈍感なのもあるのだろう、あの様子なら気付いてはいない筈だ。

乱された調子を整え直して、浮わついた気持ちはさっさと忘れて収穫を終わらそうと動き始めるシーナ…

それなりに量があったがコツを掴んだことと、ウマ娘の遥かに優れた五感と体力によって迅速に収穫していき、そこまで時間も経たない内に木守り用の1本を残して終了した。

 

「ふぅ...あら?」

 

汗を拭いながら次の果物の場所へ行こうとしたその時、シーナがふと足元を見るとそこには、黄色いカボチャに見える大きな実の様なものが充分太いがそれで支えられるとは思えない細さの茎に乗っかった植物や、葉や茎もない紫色のアンモナイトが地面にそのまま生えているような奇怪な植物を筆頭に、見たことない形の雑草が一面に生えている光景が広がっていた。

奇天烈な光景に目を丸くするシーナだったが、ふと我に返る。

 

「もしかして外来種?

海外から来た子が知らない内に種子を運んじゃったのかしら?」

 

だとしても普段は他の生徒があまり立ち寄らない果樹園の中、しかもそれなりに奥まった場所に群生しているのはおかしいが考えられる可能性はそれしかない。

海外からの留学生を多く受け入れているトレセン学園ならばこういうこともあるだろう…

しかし、変に繁殖し過ぎてしまえば果物の成長に悪影響を及ぼしかねない。

少し骨が折れるが同じような雑草は一通り抜いてから紘汰に報告しに行くことにした。

抜いた雑草を入れる為の手押し車を持ってきた後に、目の前の奇怪な植物の根本を掴んで引っ張ってみる。

 

「ふんっ!」

 

果樹が栄養素を吸収しやすいようにふかふかの土壌が整えられていたおかげなのか、雑草は苦もなく根っこごと引っ張り出される。

シーナは手押し車に抜いた雑草を入れて、次に取り掛かる。

 

「結構、繁殖しちゃってるみたいね…」

 

奇怪な雑草を抜いていく内にシーナはどんどん果樹園の奥深く…まだ実が成っていない木があるエリアまで入り込んでいく。

果樹園の管理を担当している紘汰がこんな状態になるまで気付かなかったということは相当に繁殖力が高く、短い時間で広範囲に伝播したことを表している。

果樹への被害を心配したシーナの危惧は正しかったようだ。

外来種の雑草を根絶するまで果樹を移動できれば良いが、ここまで成長した木を動かすのは難しい。

最悪、外来種の影響が有害なものである場合は周辺の果樹は廃棄になるかもしれない。

先程収穫した果物も検品しなくては…

憂鬱な気分で歩き回っていたせいで気付かなかったのだろうか。

 

「………………………え?」

 

いつの間にかシーナは迷い込んでいた…

先程までいた果樹園ではない…

雑草として抜いていた筈の奇怪な植物が視界全てを覆う程まで拡がっている…

 

それはまさしく奇妙な"森"だった。

その光景に圧倒されるシーナの後ろで、なにかチャックが閉まるようなジジジという音が響く。

その音に驚いたシーナが振り向くと其処には…

 

「………な、なんで…?」

 

自分が慣れ親しんだ果樹園の姿はどこにもなく、ただ奇妙な"森"と同じ光景が拡がっているだけだった。

シーナは足を踏み入れてしまったのだ…

ただただ侵されていく理不尽を世界に強制する…

理由のない悪意の世界に…

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