降下41日目 0843時
フォルミス地表 平原上空
荒れた大地の上を、五機のミョルニルが低空で進んでいた。
惑星フォルミスの地表は、遠目には灰色の荒野にしか見えない。
風化した岩肌。乾いた平原。
時折、地表の裂け目のような峡谷が走り、地形は不規則に歪んでいる。
その空を、編隊が静かに滑っていた。
先頭を飛ぶのは隊長機。
トールのミョルニル。
その後ろに三機。
ピーター、マーク、クリス。
最後尾──
殿を飛ぶのがペイジの機体だった。
五機の上空、やや高い位置を三機の白銀の機体が並んで飛ぶ。
VF-19Aエクスカリバー。
航空団最強の戦闘機部隊、ソード隊の機体だった。
任務中、ソード隊は余計な言葉を一切交わさない。
通信も必要最低限。
三機は無言のまま、調査隊の編隊を覆うように護衛している。
その中央。
ソード2──ノーブル。
ジュール・エラール大尉は、下を飛ぶ編隊を眺めていた。
VA-5ミョルニル。
武骨な灰色の機体。
前進翼のエクスカリバーとは対照的な、無骨な設計。
30年以上前のロートル機、時代に“不要”と烙印を押された存在。
それに乗る部隊の評価も知っている。
左遷部隊。
元々は航空団の中で使い所の無い人間を押し込めた部隊。
つい最近、調査隊編成を口実に海兵隊隷下に移された。
要するに厄介払いだ。
いらないもの同士が集められた所。
だから最初は、興味など持っていなかった。
だが──
視線は自然と、先頭と最後尾の機体に向く。
隊長機。
トール・奏多中尉。
そのミョルニルは、風を切って飛んでいるわけではなかった。
重い機体を、空気の流れに無理なく通している。
平原の上を吹き抜ける風。
峡谷の入口から湧き上がる上昇気流。
普通なら、機体は細かく揺れる。
重い直線翼機なら尚更だ。
だが、あの機体は暴れない。
わずかな機首の動き。
ほんの短い推力の調整。
大きく舵を切ることはない。
機体が風に逆らう前に、先に姿勢を整えている。
操作しているというより──
風の癖に合わせて、機体を丁寧に通している。
無理をさせない。
重い機体を、落ち着かせたまま進ませる。
ジュールの視線が細くなる。
そしてもう一機。
殿。
ペイジ・ギブソン中尉のミョルニル。
編隊は必ず僅かに乱れる。
地形風。
前を飛ぶ機体の気流。
操縦のわずかな差。
その歪みを、殿が吸収していた。
前方の四機が作る気流の乱れ。
それが来る前に、機体が少しだけ姿勢を変える。
揺れが大きくなる前に、消えている。
操作が見えない。
派手な舵もない。
ただ、重い機体が不自然なほど静かだ。
普通のパイロットは、機体が揺れてから直す。
あの男は違う。
揺れる前に、機体を落ち着かせる。
結果として編隊は、乱れない。
ジュールは無意識に思う。
──風を読んでいる。
普通のパイロットは、空気に逆らって飛ぶ。
この二人は違う。
空気の癖を見て、そこに機体を通している。
だから重い直線翼機が、妙に静かに飛ぶ。
ジュールの視線が、先頭と最後尾を行き来する。
隊長機。
殿。
編隊の両端。
偶然か。
それとも──
無意識に、ジュールは考える。
ソード隊は本来、四機編成だ。
だが今は三機。
四番機はずっと空席のまま。
理由は単純だった。
同じ水準のパイロットがいない。
航空団には腕の良い人間はいくらでもいる。
だが──
この領域には届かない。
だから欠番。
ジュールは、ずっと探している。
自分達と同じ場所に立てる人間を。
そして今、視界の下。
灰色の実用機の中に。
その片鱗が見える。
視線を少しだけ横へ動かす。
ソード3。
カール・ザウター大尉。
彼もまた、下を見ていた。
何も言わない。
だが、視線の向きが同じだった。
その少し前。
ソード1。
アーサー・クロウフォード少佐。
彼もまた、調査隊の編隊を見ている。
ただし、その視線は。
ずっと隊長機に向けられていた。
何も言わない。
通信もない。
白銀の三機は、静かに空を進む。
やがて地形が変わる。
平原の先。
大地が割れる。
峡谷地帯。
ミョルニルの編隊は高度を落とした。
岩壁の間へ入っていく。
峡谷を抜けた先。
その奥に、小さな緑が見え始めた。
※※※
同日 0915時
峡谷地帯 隠された集落
峡谷を抜けた先、地形は不意に開けた。
荒れた岩肌と乾いた大地が続いていた風景の中に、ぽつりと色が混じる。
低い石積みの家。
小さな畑。
木で組まれた柵。
盆地のような地形の中央に、人の生活があった。
その上空を、ミョルニルの編隊がゆっくりと降下する。
直線翼の機体が風を受けながら高度を落とし、乾いた地面へ近づいていく。
ガウォーク形態の脚部が地面に触れ、砂埃が舞い上がった。
五機のミョルニルが順に着陸する。
その周囲へ、白銀の三機が降り立つ。
ソード隊のエクスカリバー。
地表付近まで近づくと、機体はそのまま変形を開始した。
機首が折れ、脚部が展開され、機体が立ち上がる。
ゆっくりと地面に降り立ったバトロイドが、静かに周囲を見渡した。
「別命あるまで待機する」
アーサーが言う。
白銀の巨人が集落を見下ろす。
その足元で、ミョルニルのキャノピーが開いた。
搭乗者たちが順に降りてくる。
トールの機体。
後席にいた教授──アイがタラップを降りる。
半分ほど降りたところで、彼女は残りを飛び降りた。
その瞬間、トールが腕を伸ばす。
落ちてくる体を受け止める。
驚きも慌てる様子もない。
最初からそうなると分かっていたような動きだった。
「危ねぇだろ」
アイは平然としている。
「この方が早い」
トールは小さく息を吐いた。
その様子を、少し離れた場所から見ている者たちがいた。
白銀のバトロイド。
ソード隊。
コックピットの中で、ジュールが思わず呟く。
「……あの二人、そういう関係なんだな」
軽い声だった。
すぐに通信が入る。
アーサーの声。
「ノーブル、私語を慎め」
ジュールは肩をすくめた。
「了解」
だが口元には小さな笑みが残る。
そのアーサー自身も、トールの姿を見ていた。
ミョルニルの横で、技研の女と何かを話している男。
コックピットの中で、視線が少しだけ細くなる。
何も言わない。
ただ見ている。
その頃、別の機体からも搭乗者たちが降りていた。
ピーター機の後席から降りたセラは、地面に足をつけた瞬間、集落の奥へ走り出す。
懐かしい場所へ帰ってきた子供のように。
それを見たニールが慌てて後を追う。
「おい、走るな!」
数歩遅れて続く。
「転ぶぞ!」
そう言いながら、結局はセラの後ろを走っていた。
クリス機の側では、ハンナが周囲を見回していた。
乾いた岩の大地。
そこにぽつんと存在する生活の痕跡。
石の家。
畑。
人の気配。
「……こんな場所に集落があるなんて」
小さく呟く。
研究者としての驚きが、声に滲んでいた。
少し離れた場所では、マークが静かにその光景を見ていた。
その隣にハセヤマが立つ。
二人の前には、集落の穏やかな風景が広がっている。
畑を手入れする人影。
石積みの家。
遠くで遊ぶ子供達。
荒れた惑星の地表とは思えない、長閑な光景だった。
ハセヤマが言う。
「素敵な場所ですね」
マークは答えなかった。
ただその風景を見ていた。
やがて、少し先で走っていたセラが振り返る。
手を振る。
「こっち!」
集落の奥。
石積みの家が一つ。
トランの家。
セラの実家でもある場所だった。
調査隊の面々が、そちらへ歩き出す。
その後ろで、白銀の三機のバトロイドが静かに立っていた。
ソード隊は動かない。
ただ、集落を見守っている。
※※※
同時刻
トランの家
山の向こうから、低く長い機械音が響いてきた。
風に乗って届く、重たい唸り。
空を飛ぶ機械の音だった。
トランは手にしていた道具を置いた。
石壁に穿たれた小さな窓の外へ視線を向ける。
同じ音を、コンデも聞いていた。
外に干していた布を取り込む手を止め、ゆっくりと顔を上げる。
ほどなくして、家の戸が開いた。
入ってきたのはレジスだった。
白い髭を撫でながら、しばらく何も言わない。
トランもまた口を開かなかった。
三人のあいだに、短い沈黙が落ちる。
もう十分だった。
数日前、守護者様の群れが山を越え、平野の方へ向かった。
その先で何が起きたのか。
誰が戻り、誰がここへ来るのか。
考えれば、答えは一つしかなかった。
レジスがようやく口を開く。
「……話す時が来たようだな」
トランは小さく頷いた。
「ええ」
コンデは静かに息を吐いた。
「……やはり、こうなってしまうのですね」
その時だった。
外で、軽い足音が走る。
次の瞬間、戸が勢いよく開いた。
「ただいま!」
セラだった。
乾いた風の匂いを纏ったまま、家の中へ飛び込んでくる。
その姿を見た瞬間、コンデの表情がわずかに和らいだ。
「……おかえり」
トランの声も、ほんの少しだけ柔らかくなる。
だが、セラのすぐ後ろに続く姿を見て、二人の安堵はさらに深くなった。
ニールだった。
入口のところで足を止め、家の中の空気を確かめるように一礼する。
トランはゆっくり頷いた。
「ご無事で何よりです」
コンデも胸を撫で下ろした。
「本当に……」
ニールは気まずそうに頭を掻いた。
「どうも」
それ以上の言葉は続かなかった。
この家に来るのは久しぶりだった。
あの日以来、初めてだ。
「みんな来るよ」
その言葉通り、すぐに外からさらに足音が近づいてきた。
トール。
アイ。
ハセヤマ。
ハンナ。
四人が家の中へ入ってくる。
室内は決して広くない。
石造りの空間に、木の机と椅子が並べられているだけの質素な部屋だ。
壁際には保存食の壺や乾燥させた薬草、地上での暮らしに必要な工具類が整然と置かれている。
地下都市の整えられた住居とは違う。
ここには、生きるために必要なものだけがある。
トランは入ってきた四人を見回し、静かに言った。
「あなた方が来られたということは」
少し間を置く。
「すべてを話さなければならない、ということなのでしょうな」
アイはいつもの調子で答えた。
「そう考えてもらっていい」
その一言で、この場の空気はほとんど決まった。
少し遅れて戸口に現れたペイジ達四人も、すぐに事情を察したらしかった。
ペイジが家の中を一瞥し、軽く肩をすくめる。
「長くなりそうだ」
ピーターが頷く。
「俺たちは外にいる」
クリスも「その方が良さそうッスね」と小さく言い、マークは無言で一礼した。
四人はそのまま戸の外へ出る。
戸が閉まる。
最初に話し始めたのはトランだった。
「数日前のことです」
低く、よく通る声だった。
「守護者様の群れが、山を越えました」
セラは黙って聞いている。
それが何を意味していたのか、もう知っているからだ。
コンデが言葉を継ぐ。
「平野の方へ向かいました」
レジスが静かに続ける。
「私たちは山の上から、それを見ておりました」
トランは視線を少し落とした。
「あなた達、異邦人の船団」
「そして、戦い」
短い言葉を区切るように置く。
「歌が響き」
「守護者様は、砂に還りました」
セラの表情がわずかに引き締まる。
あの時の光景が脳裏をよぎったのだろう。
トランはさらに続けた。
「その途中で」
今度はニールを見る。
「“戦士”が目覚めていることも、見ておりました」
ニールは椅子に座ったまま、何も言わない。
教授が口を開く。
「単刀直入に聞く」
その声は変わらず平坦だった。
「ニールに何をした?」
部屋の空気が少しだけ張る。
「これは今のフォルミス社会の中でも異質だ。
普通の医療でも、普通の再生でもない」
トランは頷いた。
「その通りです」
そして言葉を選びながら続ける。
「まず、申し上げておきます」
「ニール殿は本当に死にかけておりました」
ニールの視線がわずかに揺れる。
トランは構わず続けた。
「我々が行ったことには、彼を救おうという意思もありました」
「それは偽りではありません」
ハセヤマが身を乗り出す。
「では、何を使ったんですか?」
トランは答えた。
「遥か昔の技術の名残です」
コンデが静かに補う。
「古い装置です。私たちの祖先が見つけ、ずっと隠していたもの」
レジスが言う。
「本来は医療用ではない」
トランは短く息をつく。
「あれは、戦士を作るための装置です」
沈黙が落ちた。
ハンナが小さく呟く。
「戦士……」
トランは頷いた。
「“選ばれた存在”を、戦う者へ作り変えるためのものです」
コンデが続ける。
「まるで蛹のように」
「中に入れられた者は、別のものになって出てくる」
ニールの喉が僅かに動いた。
教授が、確認するように言う。
「死にかけた人間を戻す方法は、それしかなかった」
トランは頷く。
「はい」
「そして、もう一つ理由がありました」
トールが口を開く。
「セラを守るためか」
トランは視線をトールへ向ける。
「ええ」
「争いが近いことは分かっておりました」
「この子を、そこから遠ざけたかった」
セラは父を見る。
トランは家族を見る目になっていた。
「お前をな」
その一言だけ、口調がはっきりと変わる。
コンデも静かに言う。
「ここに置いておくより、外へ出した方が助かると思ったの」
そしてトランはニールへ視線を戻した。
「異星人に託すにあたり、近くで守る存在が必要でした」
ニールが低く言う。
「だから俺を……」
「はい」
トランは真っ直ぐに答える。
「あなたは、あの時点で最も適切な存在でした」
部屋はしばらく静まり返っていた。
教授が再び口を開く。
「分からないことが一つある」
「“選ばれた存在”と言ったが、何に選ばれた?」
トランは答えなかった。
代わりに、ゆっくりと視線を動かした。
セラを見る。
セラはその意味を理解できずに瞬きをする。
「……わたし?」
トランは頷いた。
「お前だ」
家族に向ける声音だった。
セラの目が見開かれる。
コンデが静かに言う。
「わからないのは当然よ」
レジスも続ける。
「だが、セラに選ばれたからこそ」
トランが言葉を継ぐ。
「この青年は、戦士として蘇ったのです」
ニールが息を呑む。
セラもまた、すぐには言葉を返せない。
教授がじっとトランを見る。
「セラは何者なんだ」
その問いに対し、トランは首を横に振った。
「ここでは説明できません」
立ち上がる。
「来ていただきたい場所があります」
ハセヤマが聞く。
「どこへ?」
コンデが答える。
「集落の外れにある建物です」
レジスが言う。
「その中に、封鎖された坑道への入口があります」
トランは静かに言葉を置いた。
「我々が暮らすこの山の中に、真実が眠っています」
部屋の空気が変わった。
教授は少しだけ考え込む。
それから隣のトールを見る。
「トール」
少し申し訳なさそうに言う。
「ソード隊の彼を同行させようと思うが、大丈夫かい?」
トールは短く息を吐いた。
「アイが必要だと思ったなら、俺は従うだけだ」
アイはほんの少しだけ眉を下げる。
「……すまない」
それからトールは無線を開いた。
通信音が短く鳴る。
「ブロードウッド少佐」
少し間。
「すまないが、来てくれ」
外の風の音だけが、わずかに聞こえた。
数秒後、通信が返る。
「了解しました」
アーサーの声は、変わらず静かだった。
※※※
同日 1104時
フォルミス地表 山岳地帯・坑道入口
集落の外れに建つその建物は、岩肌に半ば埋もれるようにして存在していた。
長い年月、風と砂に削られた外壁は色を失い、ここが長く閉ざされていた場所であることを物語っている。
トランが扉の前に立った。
古い装置に手を伸ばす。
短い操作音。
やがて錆びついた金属扉が、低く唸りながらゆっくりと動き出した。
砂が崩れ落ち、封鎖されていた入口が少しずつ開いていく。
その背後で、アーサーが口を開いた。
「……トクタカ教授」
声は抑えられていたが、疑問は隠していない。
「何故、私を呼ばれたのですか」
教授は振り返った。
腕を組んだまま、少しだけ肩をすくめる。
「理由は簡単だよ」
少し間を置く。
「君達がここに来た理由は、大体想像がつくからだ」
アーサーの眉がわずかに動いた。
教授は構わず続ける。
「ソード隊は航空団の最精鋭だ」
「そんな部隊が、調査隊の護衛に付く」
短い沈黙。
「しかも、クロウフォード大佐自らの判断だ」
「絶対何か企んでるよね」
アーサーは何も言わない。
その横で、ペイジも遅れて同じように眉を上げた。
——そこまで言うか。
自分が内心で思っていた事を、この女は何の躊躇もなく口にした。
教授は続ける。
「異星文明の技術。軍が興味を持つのは当然だ」
「だから隠すのはやめた」
その場の空気が、わずかに張り詰める。
教授は淡々と言った。
「ボクは腹芸が嫌いなんだ。
それに、下手に隠す方が危険だ」
アーサーを真っ直ぐ見る。
「だから全部見せる。
その上で君自身が判断してくれ」
静かな言葉だった。
だが、内容はあまりにも率直だった。
ペイジは小さく息を吐いた。
とんでもねぇ女だ。
その横で、トールが内心で思う。
——俺、アイに隠し事できねぇな。
トランが言った。
「中へ」
一行は坑道へ入った。
通路は岩盤を削って作られていた。
空気は冷たく、乾いた匂いがする。
足音だけが静かに響いた。
奥へ進むにつれ、壁の質が変わる。
岩ではない。
金属。
人工構造物だった。
やがて通路は大きく開けた。
巨大な空洞だった。
その中央に、巨大な構造物が横たわっている。
宇宙船。
外殻は崩れ、骨格の多くが露出している。
だが船体の形はまだ残っていた。
フォルミスの建築様式とは明らかに違う。
誰もすぐには口を開かなかった。
その時。
セラが小さく言った。
「……わたし」
皆の視線が集まる。
セラは宇宙船を見つめたまま続けた。
「ここ……知っている気がする」
その言葉に、トランが静かに頷いた。
「……そうだろうな」
セラが振り向く。
トランは迷いなく言った。
「セラ、お前はここで生まれた」
空気が止まった。
セラの目が大きく開かれる。
「……え?」
ニールが思わず一歩前に出る。
「どういう事ですか」
トールも低く言った。
「説明してもらおうか」
トランは静かに頷いた。
「そのために、皆さんをここへお連れしました」
宇宙船の一部へ歩み寄る。
船体に埋め込まれた端末に手を触れた。
低い駆動音。
暗い船内に、淡い光が灯る。
長い眠りについていた管理システムが、ゆっくりと目覚めていく。
空間に古い文字列が浮かび上がった。
トランが言う。
「これは古代フォルミス語です」
教授が画面を見つめる。
「いや……」
文字列を追いながら言った。
「構造が違う」
ハセヤマが端末へ近づく。
ハンナも隣に並んだ。
三人が画面を見つめる。
教授が言った。
「フォルミス語に似ているが……」
「これはプロトカルチャー語に近い」
トランが静かに頷く。
「この内容は、代々我々に伝えられてきたものです」
教授、ハセヤマ、ハンナ。
三人が並び、記録を読み進めていった。
男達は黙ってそれを見ているしかない。
邪魔したら悪いと思い、少し離れていたトールが呟いた。
「今更だけど、あの人たちってすげーよな」
些か、知性が足りないような感想だった。
ペイジが言う。
「無学な俺達にしてみりゃ、標準語すら怪しいからな」
その時。
「……実際、トールの訛りは酷かった」
そう呟いたのはアーサーだった。
予想外の人物に顔を上げるトールとペイジ
「何でもない」
アーサーはそう言って黙った。
暫くして、女性達の方に動きがあった。
ハンナが小さく息を呑む。
ハセヤマも言葉を失っていた。
教授は腕を組んだまま、しばらく画面を見つめている。
やがて端末から視線を外した。
「……大体分かった」
トールが言う。
「で?」
教授は少し言葉を整理してから話し始めた。
「この船は十万年以上前の宇宙船だ」
その場の空気が一瞬止まる。
ペイジが低く言った。
「……は?」
ハセヤマが補足する。
「母星の名前はルミス」
ハンナが続けた。
「この船はルミスの共和国軍の艦です」
教授が頷く。
「そして敵は革命軍」
「両者は宇宙で戦争をしていた」
トールが言う。
「それがここに落ちた?」
教授は頷いた。
「双方ともに被弾し、この惑星に不時着」
「元々戦争で崩壊したルミスを脱出してきた船らしい。
帰る場所も、戦う意味も失った」
少し間。
教授は端末を見た。
「その時、この惑星の管理AIが彼らに接触した」
アーサーが低く言う。
「管理AI?」
ハセヤマが答える。
「この惑星は自然惑星ではありません」
ハンナが続ける。
「この星は実験場です」
教授が言った。
「“フォル”という種族がここに住んでいた」
少し間を置く。
「だが、そのフォルは自然発生種ではない」
静かな声だった。
「AIによって作られた人工種族だ」
坑道の空気が、さらに重くなった。
登場人物(20〜21話)
ジュール・エラール(25歳:男性)
ソード隊のお喋りさん。
実力の伴った自信家。
テンプレートみたいだよね。
カール・ザウター(28歳:男性)
縁の下の力持ち。
職人気質。
アーサーとこの人が無口過ぎるのがジュールがお喋りさんになった要因。