マクロス・ディソナンス   作:藻瑠江 嵐

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第3話(挿絵あり)

 話は聞いたな! 

 

 俺達はこれからクソッタレた蟻どもの群を掻き分けて、大事な大事な仲間を助けに行く! 

 

 盾になって落ちてったお花さんが一つ! 

 そいつに巻き込まれちまったお花さんが一つ! 

 

 奴さん方はまだ生きてるが、なんせ良い香りがするお花さんだ! 

 クソッタレな蟻どもに群がられるのも時間の問題だそうだ! 

 

 だが、喜べお前ら! 

 俺達はアルバトロスの速達便で蟻どもより早い! 

 それに、エスコートして下さるのはかの有名なソード隊の御方達だ! 

 

 我らが移民船団の、いけ好かねぇ航空団長殿がプロデュースしくさった、空飛ぶ広告みてぇな御方達だが、お前らの知ってる通り、腕だけはべらぼうに良いからそこは安心しておけ! 

 

 良いな、お前ら! 

 

 もうすぐこのシミったれた峡谷を抜ける! 

 峡谷を抜けたら蟻さんの大運動会だ! 

 喰われる様なヘマはすんなよ! 

 

 

「「「ウーラー! サー!」」」

 

 

 行くぞお前ら! 

 

 

 エスト・バーシス! (基盤たれ!)

 

 

 

 ※※※

 

 

AD2051年2月15日 2203時(地球圏標準時:統合軍カレンダー)

改メガロード級大型移民船《EMG-101 アヴァロン》 艦橋

 

 

 

 艦長席に座るグラント准将の前には複数のホログラムディスプレイが整然と並んでいた。

 それらに映る者は、カレンデュラ、ダリアを除いた艦艇の艦長、各種専門機関の長、民主主義の原則によって選ばれた市民代表。

 移民船団の首脳陣達であった。

 

「このような事態に我々を巻き込んでおいて、何が『今後の方針』だ! 

 もっと早く気づいていればこんな事にはならなかったのでは無いのか!?」

 

 専用画面を顔で埋める程身を乗り出し、喚き散らすのは市民代表の《マルコム・エヴァンス》

 

 軍事政権に傾倒する統合政府の在り方に不満を公言する人物である彼は、その結果として移民船団の市民達の多数決によって選ばれたものの、知識と実力不足から市民からの評判は芳しくない。

 

 実際、生存と救助のために知恵を絞らなくてはいけない会合の場において、それよりも責任問題の追及を優先しての問答を《三度》繰り返す程にはこの場に相応しく無い人物であった。

 

「良い加減にして頂きたい! マルコム代表。

 まずはこの事態を収束させなければ、我々は全滅すると准将が先ほどから何度も仰っているでは無いか!」

 

 痺れを切らし、声を張り上げたのは、航空団長の《ダニエル・クロウフォード大佐》

 空母ハンニバルの艦長を兼任し、VF・ゴースト部隊の最高責任者である彼は、《強めの思想》と《やや直情傾向》のある人物だった。

 

「よさないか、クロウフォード大佐」

 

 これ以上の醜態を晒さぬようにと、クロウフォード大佐を嗜めるのは、地上部隊の責任者《ヴィクター・ロメロ大佐》

 空母スキピオを拠点とする《第3遠征海兵連隊》の連隊長であり、主にデストロイドや一部のVA部隊、そして何より《生身の兵士》達を指揮する立場にある男であった。

 

「話が進まないとは言え、マルコム代表は《一応》民意の代表だぞ」

 

 荒くれ者が多い海兵隊を統べる男であった……

 

 

「《一応》とは何だね、《一応》とは!」

 

 マルコム代表は、再び専用画面いっぱいに顔を寄せた。


 声量だけは最初から最後まで衰えを知らず、もはや主張の内容よりも、その存在そのものが会議の進行を妨げている。

 

「市民の代表として、この私が──」

 

 そこまで言いかけたところで、マルコムの肩がわずかに揺れた。

 

「はいはい、そこまでにしましょうねー、マルコム代表」

 

 どこか間の抜けた、場違いなほど軽い声だった。

 画面の端から、ゆるやかに姿を現したのは、彼の《秘書官》


 書類作業よりもアルコールのボトルが似合いそうな出立ちの女性は、市民の間では“愛人”だの“影の支配者”だのと噂されている人物である。

 

「もう十分ですよぉ。
 あとは軍の人達に任せておきましょ?」

 

 秘書は、まるで癇癪を起こした子供を宥めるかのような調子で、マルコムの肩に手を置いた。

 

「市民の方は気にしなくて大丈夫ですからぁ。


 その辺は、上手くやっちゃってくださいねー?」

 

 軽薄とも取れる笑みを浮かべたまま、秘書は画面の外へと彼を促す。

 

「……あ、いや、私はまだ──」

 

「はいはい、後でちゃんとお話しましょうね?」

 

 次の瞬間、二人の映像は唐突に途切れた。

 通信終了を示す表示だけが、虚しくホログラムに残る。

 

 ──沈黙。

 

 誰一人として、すぐに口を開く者はいなかった。


 まるで激しい嵐が通り過ぎた直後のように、会議室には妙な静けさだけが漂っていた。

 やがて、誰ともなく視線が艦長席へと集まる。

 

「疲れた……」

 

 グラント准将の言葉に一同は大きく頷いた。

 

「……では、現時点で判明している事を技研主任にお尋ねしたい」

 

「トクタカ教授お願いします」

 

 ミルズ大佐に促され、ホロディスプレイに映し出されたのはこの中で一番若い人物であった。

 元々癖の強いであろう栗色の毛髪はほとんど手入れもされず、細身で小柄な体型は猫背のせいでさらに小さく見え、白衣でも着ていなければ、浮浪者の少女と見紛う出立ちだった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あーっと、まずですが……最初にあなた達が言ってた『フォールド断層が現れた』って言葉、あれ、全然フォールド断層とかじゃ無いですから」

 

 トクタカ教授は挨拶も前置きもお構いなしに、躊躇なく語り始めた。

 

「フォールド断層は、次元が裂けて“向こう側”に抜ける現象です。

 空間構造は保たれたまま移動するので、結果として別宇宙に遷移する可能性が高い。


 そこから先はどうなっているのか知りませんけどね。

 でも、今回のは違います。

 次元を《裂く》んじゃなくて、次元そのものを《切り取ろう》としている。

 だから空間が細切れになる、中にあるものも、そのまま分解される。

 移動じゃない、破壊です」

 

「最初から我々を破壊するつもりだった……と、そう言う事ですか?」

 

 居合わせた本人であるミルズ大佐が顔を強張らせながら尋ねる。

 

「そう考えるのがフツーですね。

 道の真ん中に落とし穴があるのではなく、道の途中で爆弾を投げ込まれたような感じです。

 後ちょっと判断が遅れてたら、ボク達《空間ごとバラバラ》にされてましたよ」

 

「……」

 

 誰も、すぐには言葉を返せなかった。


《空間ごとバラバラにされる》という表現が、重く会議室に沈殿している。

 沈黙は、数秒。


 しかし体感では、ずっと長く感じられた。

 

 だが──

 

「で、その後なんですけど」

 

 トクタカ教授は、会議室の空気など存在しないかのように、言葉を継いだ。

 ホログラム上の図が切り替わる。

 

「牽引ビームの話に戻りますね」

 

 淡々とした声。
 誰かの表情を伺うこともなく、教授は続ける。

 

「あれ、惑星の地磁気を土台にした、指向性重力波の発生装置だと思います」

 

 数値と簡略化された模式図が、次々と表示された。

 

「我々みたいな質量を引っ張るなら、空間に固定点が必要です。

 その固定点として、一番現実的なのが──惑星」

 

 ようやく、何人かが呼吸を思い出した。

 

 トクタカ教授は、ホログラムを指で弾くように操作した。


 惑星の磁力線と重力勾配を重ね合わせた簡略図が、艦橋中央に展開される。

 

「さっき言った通り、あれは重力波に指向性を持たせるもの。

 なので、重力そのものを作ってるわけじゃないです。

 既にあるものを、揃えて、向けてるだけ」

 

 淡々とした声が続く。

 

「牽引って言いましたけど、正確には“引っ張る”より“預ける”に近いですね」

 

 数名が眉をひそめる。

 

「我々ほどの質量を扱うなら、
 空間側に固定点が必要になります。

 で、その固定点として使えるのは──
 惑星しかありません」

 

 その言葉に、今度は誰も否定しなかった。

 トクタカは一瞬だけ視線を上げ、艦長席を見た。

 

「なので、一つだけ気になってたんですけど」

 

 声の調子は変わらない。


 だが、質問の矛先は明確だった。

 

「准将、なんで分かったんですか?」

 

 会議室の視線が、一斉にグラント准将へ集まる。

 艦長は、少しだけ考える素振りを見せてから、静かに口を開いた。

 

「学術的な所は門外漢だ」

 

 それは、言い訳でも謙遜でもない、事実としての前置きだった。

 

「だが、船乗りとしての感覚なら分かる」

 

 グラントは、ホログラムではなく、目の前の空間を見るようにして続ける。

 

「舫を取る時、ロープをどこに掛ける?」

 

 誰も答えない。

 

「ロープを預けるなら、丈夫な柱が必要だ。

 あの軌道上で私達ほどの質量を引き寄せるなら、預け先は惑星しか無いと思った」

 

 沈黙。

 しかし今度は、重たい沈黙ではなかった。

 

 トクタカ教授は、ゆっくりと一度だけ頷いた。

 

「……なるほど」

 

 それだけ言って、ホログラムを切り替える。

 

「条件抽出が先だったわけですね。

 理論は後追いでも、判断としては再現性があります」

 

 褒めてもいない。
 否定もしていない。

 

 だが、その場にいた誰もが理解した。

 あの時の決断は、勘でも偶然でもなかった。

 

「まあいいや、それじゃあ最後の説明をしますね。

 これが一番興味深いです」

 

 トクタカ教授は、続けて、黒い残骸のホログラムを拡大した。

 

 地上で船団を待ち構えていた蠢く黒の正体。

 艦隊総出で撃退した《蟻のような何か》

 その、蟻を思わせる外殻が分解され、内部構造が層状に表示される。

 

「あなた達が壊しまくった、地表にいた黒い連中ですけど、生物じゃありません、一種の無人兵器です」

 

 数名が小さく息を呑んだ。

 

「正確には、ナノマシンの集合体ですね」

 

 構造図が切り替わる。


 粒子の集まりが、筋繊維や神経のような役割を担っているのが示される。

 

「ナノマシンが集まって細胞みたいな働きをしてます。

 そして、その細胞が集まって組織を形成してます。
 装甲も、筋肉も、内部構造も全部それ。

 なので、一見すると自己修復してるように見えましたけど……

 そこまで万能じゃあないみたいです」

 

 教授は淡々と続ける。

 

「生物と同じで、中枢制御機能が停止すると終わりです。

 つまり、死んだら生き返らない」

 

 蟻型ロボットの中心部が強調表示された。

 

「ここが脳のようなもので、破壊されたら一発アウト。

 あと、欠損が大きすぎてもダメです。
 再生速度が追いつかない」

 

 会議室の空気が、ほんのわずかに緩む。

 

「つまり」

 

 一拍。

 

「めちゃくちゃ多いですけど、今のところはまだ壊せます」

 

 トクタカ教授の結論が示された後、会議室には一瞬だけ現実的な空気が戻った。

 

 

 ──壊せる、だが、数が多い。

 

 

「ならば、話は単純だ」

 

 クロウフォード大佐が口を開く。

 

「カレンデュラとダリアの乗員は上空から制圧し、順次回収します」

 

 語調は抑えられているが、早口だ。

 

「輸送以外は、航空戦力で対応可能でしょう」

 

 ロメロ大佐は、地表の反応密度を示す表示を見たまま答える。

 

「二隻同時、それぞれ周囲に蟻が展開している。


 LZの確保を別々に行わなければ、救助は進まん。

 制圧と救助を同時並行で回す必要があるぞ」

 

 クロウフォードが、わずかに眉を寄せる。

 

「制圧を優先させます。

 航空戦力を集中させ、一隻ずつ片付ける」

 

「人手を増やせば、艦隊防衛が薄くなる」

 

 ロメロは、淡々と首を振った。

 

「それに、一隻ずつではもう一方が持たん。

 救助は“回収”じゃない、作業だ。

 負傷者の搬送、瓦礫下の救出、人の手が要る工程が多い」

 

 クロウフォードは一瞬だけ言葉を選び、声を抑えた。

 

「……慎重すぎる、好機を逃すおつもりか?」

 

 ロメロは正面から受けない。

 

「成果の話ではない、成功率の話だ」

 

 短い沈黙。

 グラント准将が、二人の間に視線を走らせる。

 

「時間が無いのは事実だ。

 だが、二隻とも助ける」

 

「航空戦力は、《ソード隊》を前面に出す」

 

 クロウフォードの視線が動く。

 

「二隻の上空を分担し、短時間で制圧と牽制を行う」

 

 ロメロが、静かに頷いた。

 

「海兵隊は二箇所に展開し、それぞれLZを確保する」

 

「空が時間を稼ぎ、陸が救助を完了させる」

 

 クロウフォードは一瞬黙り、
 やがて短く息を吐いた。

 

「……異論はありません」

 

 彼のその言葉を確認すると、グラント准将は会議を締めくくるかの様にこう言った。

 

「よろしい。

 では、救助作戦開始だ」

 

 

 

 ※※※

 

 

 

降下1日目 推定時刻1138時(自転周期より算出) 

名称未定惑星 船団降下地点より北西1800

 

 

 峡谷を越えた三機のVFが、白銀に輝く翼を翻し、空気を切り裂いて突き進んでいた。

 

 機種は新鋭機である《VF-19A エクスカリバー》

 伝説の聖剣の名を冠するそのVFは船団の主力機である《VF-11C サンダーボルト》の性能を過去のものとする程に圧倒的進化を遂げた統合軍の次期主力機である。

 

 その能力は、単機で敵中枢を急襲するという無謀な戦術すら可能とする。

 それ故、統合軍内部では政治的配慮が必要とされるほど、戦術的にも強力な機体であった。

 

 その3機の最強を駆るのは、船団の航空団の中で最も優れたパイロット3名。

 第101特殊戦術飛行隊、通称《ソード隊》と呼ばれる精鋭達。

 彼らは、航空団の切り札であり、移民船団の剣であった。

 

「ブレイブより各機、目標地点まで残り10000、チェック」

 

「ノーブル、クリア」

 

「マジェスティ、クリア」

 

「ブレイブ、了解。

 アクティブ・ステルス解除、敵の注意を引け」

 

「「ラジャー」」

 

 熱核バーストタービンエンジンが咆吼をあげ、3つの剣が一斉に空域へと散開した。

 

 

 ……ブレイブは加速する。

 

 峡谷を抜けた先、視界の先に二つの影があった。


 大破不時着したフリゲート、その周囲を、黒い群れが覆っている。

 

 ブレイブは左を選んだ。

 理由はない、視界に入ったから、それだけだ。

 

 機首を下げ、急降下。


 ガンポッドが即座に起動し、曳光が地表を舐める。

 蟻型がまとめて弾き飛ばされ、地面に叩き伏せられる。

 

 同時に、反対側の空域で爆炎が上がった。

 ノーブルだ。

 

 ブレイブは一瞥もしない。


 役割は分かっている。

 

マイクロミサイル。


 最小限の発射数で、群れの密度が高い箇所だけを叩く。

 

 爆発、そして、空白。

 

 フリゲートの船体が、ようやく地表から浮かび上がる。

 カレンデュラだ。

 

 速度を殺し、変形。


 ファイターがバトロイドへ移行する。

 着地。

 

 衝撃だけで、足元の蟻型が潰れる。

 ブレイブは蹴り、踏み込む。


 ガンポッドを横薙ぎに振る。

 機体の動きは最小限。
 無駄がない。

 

 視界の端を、白銀が横切った。


 マジェスティだ。

 

 跳躍しながら射線を引き、ノーブル側へ火力を一瞬だけ投げる。

 

 また消える。

 

 ブレイブは集中を切らさない。

 赤い光が集まり始めた瞬間、
 跳ぶ。


 頂点で再変形。

 

 火線が交差する場所を、ファイターとなってすり抜けた。

 

 旋回そして再突入。

 

 同じ工程を、ただ繰り返す。

 群れは急速に薄くなっていった。

 

 数十秒後、ブレイブは上空で静止し、フリゲート周囲を一度だけ見下ろす。

 

 動く黒は、ない。

 

 反対側でも、ノーブルが同じ高度で止まっていた。

 その間を、マジェスティが一度、横切る。

 

 三機が、空中で自然に位置を揃える。

 

 異常は無い。

 次の作業へ移るために、三つの剣は、すでに向きを変えていた。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

「ソード隊が掃除してくれたぞ!」

 

 それを合図にするように、低空から重厚な影が滑り込んでくる。

 

 SSV−44 戦術降下艇《アルバトロス》による輸送部隊

 アルバトロス隊

 

 左右に分かれ、それぞれのフリゲート上空へ、降下。

 逆噴射の砂塵の中に、海兵隊員が次々と飛び出した。

 

「GO! GO! GO!」

 

 ──着地。

 即座に展開。

 

 ライフルが構えられ、残っていた蟻型無人兵器が次々と撃ち倒される。

 

 数は多くない。

 だが、油断できる距離でもない。

 

「外周確保!」

 

「LZ、クリア!」

 

 半数が周囲を固め、残りがフリゲートへ向かう。

 

 船体は歪み、内部は半ば崩落している。

 だが、生体反応は──ある。

 

「突入開始!」

 

 海兵隊が船内へ消える。

 

 その直後、上空に待機していた救助者を載せるためのアルバトロスが降下した。

 

 LZへ侵入し、ハッチが開く。

 

「搬入準備!」

 

 担架が並び、医療要員が配置につく。

 

 ほどなく、最初の救助者が運び出された。

 泥と血と煤に塗れながらも、確かに、生きている。

 

 救助が始まった。

 

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 

 トクタカ教授は、自室の簡易デスクに腰を下ろしたまま、ホログラムを眺めていた。

 表示されているのは、先ほどまでの戦闘ログ。


 蟻型無人兵器の行動パターン、被撃破率、反応速度。

 数字は、整然としている。

 

「……変なんだよな」

 

 独り言のように呟く。

 

 軌道上で観測された行動は、極めてえげつなかった。

 

 空間を切り取り、質量ごと破壊し、相手が何かを理解する前に終わらせる。

 

 それに比べて──

 地表の蟻型は、弱すぎる。

 

 数は多い。

 しつこい。


 だが、決定力に欠ける。

 教授は、ログを巻き戻し、蟻型が撃破される瞬間を何度も再生した。

 

「……本気じゃない」

 

 違う。

 違和感は、そこじゃない。

 

「……試してる?」

 

 ふと、そんな言葉が浮かぶ。

 

 性能を。


 反応を。


 こちらの対応速度を。

 

 まるで──
《実験》みたいに。

 

 トクタカは、椅子にもたれ、天井を見上げた。

 

「もし、そうなら……」

 

 蟻は、最初の段階だ。

 数で押す、反応を見る、戦術を学ぶ。

 

「次は……」

 

 蟻の次。

 より硬く、より強く、より“正面から殴る”存在。

 

「……甲虫、かな」

 

 根拠はない。

 だが、直感が否定しなかった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ソード隊にエスコートされたアルバトロスの大部隊が、峡谷上空を抜けていた。

 編隊は広い。


 救助者を満載した機体、空荷の機体、後送用。
 速度は抑えられ、隊形は防御的だった。

 

 白銀の三機は、その外縁を無言で巡っている。

 

 その時──


 地面が、盛り上がった。

 

 岩盤が割れ、砂塵が噴き上がる。
 峡谷の底から、黒光りする巨体が姿を現した。

 

 それは巨大な甲虫に見えた。

 

 蟻とは比べものにならない装甲厚。


 丸みを帯びた背甲が、ビームを弾く前提で設計されている。

 

 次の瞬間、甲虫型の背部が開いた。

 

 光。

 重いビームが、一直線に走る。

 

 一機のアルバトロスが、腹部から撃ち抜かれた。

 

 爆発は、なかった。
 機体はそのまま揚力を失い、傾く。

 

 続けざまに、もう一射。

 

 編隊後方のアルバドロスが、主翼をもがれた。

 

 無線が乱れる。

 

 警報、断末魔、通信途絶。

 撃墜された機体は、峡谷の奥へと、音もなく落ちていった。

 

 白銀の三機が、反転しかける。

 

 ブレイブの機体が、わずかに前に出た。

 

 倒せる距離だ。
 倒せる速度だ。

 

 だが──

 

「ソード隊、下がれ」

 

 航空団長の声。
 冷静で、即断だった。

 

「救助優先、追撃は禁止」

 

 一瞬の沈黙。

 ブレイブは、甲虫型を正面から捉えたまま、動かない。

 ノーブルも、マジェスティも。

 

 だが、白銀の三機は撃たない。

 甲虫型は、追ってこない。


 ただ、峡谷の底に留まり、編隊を見送っている。

 

 まるで──
 結果を記録しているかのように。

 

 ソード隊は、ゆっくりと進路を変えた。

 

 救助された者達を守るために。


 撃墜された者達を、残したまま。峡谷の影に、


 黒い装甲が、静かに沈んでいく。

 

 実験は、終わった。

 

 ──少なくとも、
 この段階では。




登場人物

 マルコム・エヴァンス 年齢:51
  移民船の市民代表。
  元雑貨屋店主、飲んだくれたら政治を語るタイプ。
  語る場所を間違えて政治家になっちゃったタイプ。


 秘書官  年齢:26
  飲んだくれたら政治語るタイプが客だった。
  あと、でかい。


 トクタカ教授  年齢:26(見た目は10代後半)
  マッドまでは行かないけど、倫理観とかはちょっとおかしい。
  生活力皆無。
  年齢より若く見えるが、そもそもそういう概念がない。
  おかしな人は歳のとり方もおかしい。
  天才とかその奥さんとかと同じ人種。
  あと、何がとは言わないけど小さい。


 ダニエル・クロウフォード  年齢:40
  航空部隊の偉い人で元パイロット。
  どこぞの界隈で腐ったア◯ロとか言われてる人よりは多分優秀。
  だけど思想が全部台無しにしてるタイプ
  ロメロコロス

 ヴィクター・ロメロ    年齢:56
  海兵隊の大親分。
  グラントの次に年寄り、だけど偉い人たちの中で多分一番強い。
  ハンニバルとスキピオを同じ艦隊に入れんなって思ってる。
  クロウフォードイツカブンナグル


おまけ
海兵隊装備イメージ図

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