魚人島を後にしてから、早いもので2ヶ月が経過していた。
新世界の荒れ狂う海面へと浮上したヘカテ号は、その漆黒の船体を波間に踊らせながら、一直線に「海賊島ハチノス」へと向かった。ロジャーから託された「鍵」と、ネプチューン王から得た極秘の海流ルート。死神海賊団の準備は万全であり、アレンの「龍の力」も今や呼吸をするように制御されていた。
しかし、現実は彼らの期待を裏切る形で幕を開けた。
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アレン「……あー、だっる。ようやく着いたっすね。ここがクソジジイ(ロックス)の本拠地、ハチノスっすか」
アレンはヘカテ号の甲板で、巨大なドクロの形をした岩山を見上げていた。港には数えきれないほどの海賊船がひしめき合い、新世界の亡者たちが酒と暴力の宴に興じている。
リース「……ん。……敵影、多数。……ロックス傘下の海賊団、計十二。……戦闘準備、完了」
リースの銀髪が潮風に揺れ、彼女の背後では『蛇尾丸』がいつでも獲物を食らう準備を整えていた。
マキナ「アレン。……余計な策はいらん。……まずは、この島に私の『名刺』を置いていくぞ」
マキナがゆっくりと歩み出る。彼女が右手の槍『灰塵』を掲げた瞬間、ハチノスの空が真っ黒な覇気の雲に覆われた。
「な、なんだあの船は!? 死神の旗……まさか、シャボンディで伝説どもを相手に暴れたっていう新人か!?」
門番をしていた傘下の海賊たちが武器を構えるが、既に遅い。
マキナ「……塵に還れ。**『灰塵・世界葬(セカイソウ)』!!**」
マキナが槍を地面に突き立てた。瞬間、漆黒の衝撃波が円形に広がり、港を埋め尽くしていた数千人の海賊たちが、叫び声を上げる暇もなく消し炭へと変わった。文字通り、物理的な炎ではなく「存在そのものを否定する覇気」によって、港一帯が真っ黒な灰の平原と化したのである。
アレン「……あーあ。相変わらず、マキナ様の挨拶は過激っすね」
アレンは人獣型へと変身し、生存者がいないか確認するために灰の街へと降り立った。
だが、そこで彼らを待っていたのは、求めていた「最強」の姿ではなかった。
リース「……いない。……ロックス・D・ジーベックは不在。……幹部クラスの気配もなし。……ここは今、ただの留守居役のゴミ溜め」
リースが冷淡に告げる。アレンは残党の海賊の胸ぐらを掴み、竜の眼で威圧した。
アレン「おい。ロックスはどこだ? 白ひげやカイドウはどうした?」
「ひ、ヒィィ……! お、頭なら……一週間前に『大きな祭り』があるって言って、主力艦隊を引き連れて出て行ったよ……! 行き先なんて、俺たち下っ端に教えるわけねぇだろ……!!」
アレンは舌打ちをして海賊を放り投げた。
挨拶代わりの虐殺は完了したが、肝心の獲物がいない。ハチノスは、抜け殻のような静寂に包まれていた。
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それからの日々は、死神海賊団にとって屈辱的な「鬼ごっこ」の連続だった。
新世界を縦横無尽に駆け巡り、ロックスの影を追った。
ある時は「ビッグ・マム」のナワバリで傘下の艦隊を全滅させ、またある時は「カイドウ」が立ち寄ったという島を更地にした。アレンの獣型は、新世界の空を飛ぶ「赤い災厄」として恐れられ、死神海賊団の名は瞬く間にロックスに次ぐ脅威として知れ渡った。
しかし、どうしてもロックス本人に辿り着けない。
エリス「……Wait! また空振り!? これで何回目よ! ロックスの奴、私たちから逃げてるんじゃないの!?」
エリスが氷の銃をテーブルに叩きつける。
アレン「逃げてるんじゃないっすよ。……あいつ、世界そのものを敵に回して動いてる。居場所を特定されないように、常に移動してるんっすわ」
アレンは地図を見つめ、歯噛みした。
修行で手に入れた絶大な力。マキナの美貌と武力。アレンの龍神の如き雷。
それらをぶつける対象がいないというストレスは、一味の空気をじわじわと重くしていった。
リース「……ん。……アレン、熱気が漏れている。……落ち着け。……私の計算によれば、ロックスの移動パターンには一定の周期がある。……奴が狙っているのは、単なる掠奪ではない。……世界の理を覆す、決定的な場所」
アレン「……わかってるっすよ、リースさん。……『あの日』が近づいてる。俺の記憶にある、歴史の転換点が」
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そして、ついにその時が来た。
航海日誌の日付は、10月上旬。
アレンが「前世」の記憶から、決して忘れることのできなかったあの日……。
アレン「……マキナ様。……出ましたよ。見聞色と、リースの電磁レーダーが、ついに巨大な覇気の衝突を感知したっす」
アレンが艦橋の窓から北西の空を指差す。
そこには、昼間だというのにどす黒い積乱雲が渦巻き、時折、天を割るような金色の雷鳴が轟いていた。
アレン「……あれは、普通の嵐じゃない。……怪物たちが一箇所に集まり、世界を壊そうとしている振動っす」
マキナがゆっくりと立ち上がり、漆黒の槍を手に取った。
マキナ「……場所は?」
アレン「……地図にない島。通称、**『ゴッドバレー』**。……到着まで、全速力で進んでも、あと5日はかかるっす」
マキナ「……残り、5日か」
マキナの瞳に、かつてないほど鋭い殺意が宿る。
アレン「……あー、だっる。ようやく……ようやくっすね。……修業の成果、ロックスの首で試させてもらうっすわ」
アレンは人獣型へと変身し、その赤い鱗に青い電流を纏わせた。
周囲の海水が蒸発し、ヘカテ号が激しく揺れる。一味の全員が、それぞれの武器を取り、決戦の覚悟を決めていた。
アレン「いいっすか、野郎ども! あと5日で、俺たちは歴史を書き換える! ロックスを、ロジャーを、海軍を……全員まとめて、死神の鎌で刈り取るっすよ!!」
アレンの叫びに、マキナが不敵な笑みで応える。
マキナ「……全速前進だ。……ゴッドバレーへ。……神の谷を、地獄の底へと変えてやろう」
漆黒のヘカテ号が、電磁噴射の炎を噴き上げながら、荒れ狂う新世界の海を切り裂いて突き進む。
ゴッドバレー事件まで、残り120時間。
世界の運命を決める「最強」たちの宴に、歴史上存在しなかったはずの「死神」が、ついにその翼を広げた。
アレン「……リースさん。……俺の給料5年分、この戦いに全部賭けていいっすか?」
リース「……ん。……受理。……勝って帰ってきたら、私のサウナで……永久にメンテナンスしてあげる」
アレン「……それ、俺が死ぬまで解放されないやつっすよね!? まぁ、いいっす! 行くっすよぉぉぉ!!」
ヘカテ号は、地平線を覆う暗雲の中へと消えていった。
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