無人島の夜は、波音だけが静かに響いていた。
ヘカテ号の甲板。アレンは独り、月明かりの下で愛刀『斬月』を膝に置いていた。マキナとリースの「愛の地獄」とも呼べる更生カリキュラムが始まってから一週間。肉体はリースの治療とマキナのシゴきで形を取り戻しつつあったが、肝心の「魂」が欠けたままだった。
アレン「……はぁ。……出ねぇ。どうしても、奥の方が詰まってる感じがするっすわ」
アレンは右手に力を込め、かつて何度も発動させたあの感覚を呼び起こそうとする。漆黒の霊圧、身体を駆け巡る高揚感、そして世界を切り裂く全能感。
アレン「……『卍解』……!!」
……何も起きない。
ただの虚しい呟きが、夜の潮風に消えていく。以前なら、叫ぶまでもなく意識を繋げるだけで溢れ出した黒い奔流が、今は頑としてアレンの呼びかけを拒んでいた。
アレン「……だっる。マジで、俺、空っぽになっちまったのか……?」
能力を無理やり心の奥底、絶望の檻に封じ込めた反動だ。二つの悪魔の実と死神の力を強引に蓋したことで、アレンの霊子回路は複雑に絡まり、拒絶反応を起こしていた。下手に無理をすれば、体内で龍の熱と雷が衝突し、自爆して死ぬ。
アレン「……しょうがねぇ。一度、あの中(・・)に入って、直接話を聞くしかないっすね」
アレンは目を閉じ、深く、深く、己の深層意識へと沈んでいった。
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目を開けると、そこはかつての「精神世界」だった。
空にそびえ立つ無数のビル群。しかし、以前は活気に満ちていたはずのその場所は、今やゴッドバレーの悲劇を象徴するように、三日月型の巨大なクレーターにえぐられ、瓦礫の山と化していた。
空は重苦しい鉛色で、雨は降っていないが、湿った絶望の匂いが立ち込めている。
アレン「……ひでぇな。俺の心の中、こんなになってたのかよ」
アレンが瓦礫の上を歩き出すと、背後から聞き慣れた、だがどこか楽しげな声が響いた。
斬月「――よう。ようやく来たか。情けないツラをしておるのう、アレン」
アレンが振り返ると、そこには崩れたビルの屋上の端に、優雅に腰掛ける女性がいた。
漆黒の肌、金色の瞳。紫色の髪を高く結い上げ、橙色の羽織を肩にかけた、凛々しくも妖艶な美女。
アレン「……夜一……さん?」
斬月の意思。それは以前からアレンの精神世界で、四楓院夜一に酷似した姿と口調で存在していた。
アレン「夜一さん、じゃないっすよね。アンタは俺の刀でしょ。……何で卍解させてくれないんっすか。今の俺、マキナ様に殺されそうなんっすわ」
斬月「カカッ! 妾(わらわ)が拒んでおるのではない。お主が、妾を見ようとしておらんのだ」
夜一(斬月)は屋上から軽やかに飛び降り、アレンの目の前に着地した。猫のようなしなやかな動き。彼女はアレンの胸元を指先で突き、呆れたように鼻で笑った。
斬月「見ろ、この惨状を。お主が『仲間を殺したくない』と願って閉ざした檻のせいで、妾も、あの龍も、雷も、みんなこの瓦礫の下で窒息しそうになっておるぞ」
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アレンが周囲を見渡すと、瓦礫の隙間から、赤い龍の鱗や青い火花が、毒々しい黒い鎖に縛られているのが見えた。
アレン「……あの鎖……」
斬月「お主が自分で作った『罪悪感』という名の呪いじゃ。お主の力があまりに強すぎるゆえに、その自責の念もまた、神の加護すら捻じ曲げるほどの呪縛となっておる」
夜一はアレンの周りを歩き回り、その耳元で囁いた。
斬月「アレン。お主は『暴走が怖い』と言ったな。だが、本当は違う。……お主は、力を取り戻した瞬間に、あの五人がいない現実を、再び『力を持った自分』として突きつけられるのが怖いだけじゃ」
アレン「……っ、うるせぇよ!」
アレンが声を荒げる。精神世界が、彼の感情に呼応して激しく揺れた。
アレン「俺のせいで、エリスもライカも……あいつら、俺を見て笑ってたのに! 俺が全部、消しちまったんだ! こんな力、もう二度と……!」
斬月「――なら、そのまま死ね」
夜一の瞳が、一瞬で鋭く、冷徹な狩人のものに変わった。
彼女の足が、アレンの腹部に目にも止まらぬ速さで叩き込まれる。
アレン「が……はっ……!?」
アレンは瓦礫の山をいくつも突き抜け、崩壊したビルに叩きつけられた。
斬月「お主の主(マキナ)は言ったはずだぞ。『お前の命はもう、お前だけのものじゃない』とな。……お主が力を捨てることは、死んでいった五人の『生きた証』を、文字通りこの世から抹消することに他ならん」
夜一は瞬歩でアレンの目の前に現れ、彼の首を掴んで持ち上げた。
斬月「妾は斬月。お主の魂そのもの。お主が絶望し、立ち止まるなら、妾がお主を食い殺して終わらせてやろう。……どうする、アレン。このまま、マキナとリースの優しさに甘えて、無能なペットとして一生を終えるか?」
アレン「……だっる……い、っすよ……。……ペットなんて、俺の趣味じゃないっすわ……」
アレンの右手が、無意識に夜一の腕を掴んだ。
その掌から、小さな、本当に小さな火花が散った。
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アレン「……夜一さん。あんた、口が悪いっすね。……知ってるっすよ。あんたがそうやって俺を煽るのは、俺に『怒り』を思い出させるためでしょ」
アレンがニヤリと、かつての不敵な笑みを浮かべた。
アレン「悲しみじゃ、力は出ない。……でも、自分への怒りなら、ガソリンになる。……俺は、俺を許さない。……だから、この呪いの鎖ごと、俺の力、全部使い倒してやるっすわ」
アレンの霊圧が、内側から鎖をミシミシと押し広げる。
精神世界の鉛色の空に、一筋の青い亀裂が走った。
斬月「ホォ……。ようやく目が覚めたか。……だが、忘れるな。封印を解くということは、あの時以上の『地獄の熱』を再びその身に宿すということ。一歩間違えれば、お主は今度こそ、二度と人には戻れんぞ」
アレン「……いいっすよ。トカゲでも、化け物でも。……マキナ様の隣に立てるなら、なんだっていい」
アレンが夜一の手を振り払い、大地に拳を叩きつけた。
アレン「……来い、『斬月』!!」
瓦礫の山が爆発し、黒い鎖が次々と弾け飛ぶ。
夜一(斬月)は、満足げに笑い、猫のように目を細めた。
斬月「カカッ! 良い返事じゃ。……ならば、まずはこの瓦礫をすべて片付けるところから始めようかのう。……修行の続きは、現実世界で、あの怖い女たちにたっぷり絞られるが良い!」
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ハッ、とアレンが目を開けると、そこはヘカテ号の甲板だった。
夜風は相変わらず冷たかったが、アレンの身体の芯には、先ほどまではなかった「確かな熱」が灯っていた。
アレン「……あー、だっるい。……あの中、あんなに荒れてたなんて……」
アレンは立ち上がり、ゆっくりと『斬月』を抜いた。
以前のような、全方位を威圧するような暴力的な霊圧はない。しかし、刀身からは微かな、だが力強い「鼓動」が伝わってくる。
アレン「……『卍解』は、まだ無理っすね。……でも」
アレンが指先を鳴らす。
パチッ。
小さな、青い火花が闇を照らした。
能力の完全封印は、今、解かれた。
マキナ「――ようやく自分の中のゴミ掃除が終わったようだな、アレン?」
背後から、冷ややかな、だがどこか安堵したような声。
マキナが、手配書を眺めながら立っていた。その横には、注射器を弄ぶリースもいる。
アレン「……マキナ様。……お待たせっす。……とりあえず、火種くらいは取り戻したっすわ」
マキナ「……フン。一週間もかかってそれか。……まあいい。アレン、今日から修行のステージを上げる。……貴様のその小さな火花が、新世界を焼き尽くす大炎になるまで、一秒も寝かせんぞ」
リース「……ん。……夜の部も、強度が上がる。……アレン、覚悟して」
二人の女帝と死神に挟まれ、アレンは天を仰いだ。
アレン「……あー、やっぱり、だっるい世界っすわ……。……でも、悪くないっすね」
空から、再び一枚の手配書がひらりと落ちてきた。
自分の「28億」の手配書。
アレンはそれを今度は、迷うことなく、青い雷で焼き捨てた。
復讐への第一歩。
死神の魂は、再びその刃を研ぎ始めた。
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