ONE PIECE 死神伝   作:ぐちロイド

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第52話 出航:嵐を抜けて、静寂の海へ、滝登り:古龍の先導

マリージョアを地獄の業火で焼き尽くし、世界政府の喉元に「死」の刃を突きつけたヘカテ号は、赤い土の大陸(レッドライン)から垂直に落下するように新世界の海へと舞い戻っていた。

 

聖地から立ち昇る黒煙は、遥か後方の空をいつまでも汚している。だが、船上の三人の関心は、既にその「燃えカス」にはなかった。

 

ヘカテ号の会議室。

マキナは、天竜人の邸宅から「戦利品」として奪ってきた最高級の和酒――ワノ国の名酒『九里の雫』を、透明な江戸切子のグラスに注いだ。

 

マキナ「……ふむ。政府の総本山を叩き潰したというのに、この虚脱感は何だ。アレン、やはりあの連中は歯応えがなさすぎる」

 

アレンはテーブルに深く背をもたれ、斬月の鞘を指先で弄んでいた。マリージョアでの無双、天竜人の処刑。世間が聞けば腰を抜かすような大事件を終えた直後だというのに、彼の表情には「だるさ」と、どこか遠くを見つめるような静寂が同居していた。

 

アレン「……そりゃそうっすよ。あいつら、権力っていう見えない鎧を着てるだけで、中身はただの肉塊っすから。……俺が斬りたいのは、もっとこう、魂が磨かれた『本物』っすわ」

 

リース「……ん。……同意。……マリージョアのデータ収集は完了したけれど、知的好奇心を満たすには程遠い。……それに、ヘカテ号の空気も少し澱んでいる。……リフレッシュが必要」

 

リースがホログラムの海図を操作し、次なる航路を検索する。

アレンはふと、マキナが飲んでいる酒の瓶に刻まれた、精緻な「桜」の紋章に目を留めた。

 

アレン「……マキナ様。その酒、ワノ国のっすよね?」

 

マキナ「ああ。聖地の宝物庫に眠っていたものだ。……驚くほど澄んだ味をしている。この酒の出処には、よほど腕のいい職人がいると見えるな」

 

アレンの脳裏に、前世の断片的な記憶が過った。

瓦屋根の街並み、石畳の道、四季を彩る花々、そして何より――魂を込めて打たれた、鋼の芸術品。

 

アレン「……ワノ国、行ってみません? 今のカイドウが支配する前の、まだ『侍』たちが誇りを持って生きてる、あの美しい国へ」

 

アレンの提案に、マキナが興味深げに片眉を上げた。

 

マキナ「ワノ国か。非加盟国であり、鎖国を貫く侍の国……。世界政府の権力が及ばぬ、数少ない聖域の一つだな」

 

アレン「……そうっす。俺、マキナ様やリースさんに、あの景色を見せてあげたいんっすよ。……江戸のような情緒ある街並み、空を舞う桜。……血生臭い復讐や戦争ばっかりじゃ、斬月の刃も曇っちまうっすからね」

 

アレンの声には、珍しく純粋な期待が混じっていた。

マキナとリースは、一瞬だけ視線を交わした。

彼らが失った五人の仲間――ユリナ、キース、ライカ、シズ、エリス。

彼らを禁断の術や古代兵器で呼び戻そうという考えは、三人の中に微塵もなかった。

 

マキナ「……死んだ者は、死んだ瞬間に完成される。……あいつらの死を汚すような真似は、死神(わたしたち)の矜持が許さない」

 

マキナが静かに断言する。

そう。彼らがワノ国へ行くのは、過去を掘り返すためではない。

五人が守り抜いた自分たちの「今」を、最高に贅沢に、そして美しく謳歌するため。

それが生き残った三人に課せられた、唯一の、そして最も困難な「義務」なのだ。

 

リース「……ん。……ワノ国。……未知の鍛冶技術、独自の気候。……そして、アレンが言う『江戸』という情緒。……悪くない。……舵を取る」

 

リースの指が海図を叩く。

 

 

リース「……目的地、ワノ国。……入国ルートを算定。……巨大な滝を登る必要があるけれど、アレンの『龍の力』があれば造作もない」

 

アレン「了解っす! ……よっしゃ、野郎ども! ……いや、野郎は俺だけっすね。……姫様二人、新世界の秘境へご招待っすわ!!」

 

---

 

 

 

ヘカテ号が加速する。

マリージョア襲撃の報を受け、周囲の海域には海軍の偵察船がいくつも展開していたが、アレンが甲板から一瞥をくれ、覇王色の覇気を微かに放つだけで、偵察員たちは全員泡を吹いて沈んでいった。

 

アレン「……だっるい連中っすね。今は邪魔しないでほしいっすわ」

 

アレンは船首に立ち、進行方向を見据えた。

やがて、空の色が変わり始めた。新世界の不安定な天候が、ワノ国特有の「閉鎖的な気圧」へと変化していく。荒れ狂う高波、荒涼とした冬の海。だが、その向こう側には、世界から切り離された美しい箱庭が待っている。

 

マキナ「……アレン。ワノ国には、名工の打った刀が数多く存在するらしいな。貴様の『斬月』も、刺激を受けるのではないか?」

 

マキナがアレンの隣に並び、風に髪をなびかせる。

 

アレン「……そうっすね。斬月(夜一さん)も、あっちの空気には期待してるみたいっすよ。……刀は魂の写し鏡。……俺も、今の自分に相応しい『鞘』か、あるいは新しい『刺激』を見つけられるかもしれないっす」

 

リース「……ん。……アレン。……ワノ国に着いたら、まずは着物。……お前は、袴が似合うはず。……私が、最高の生地を選ぶ」

 

リースの言葉に、アレンは照れくさそうに笑った。

 

アレン「はは、期待してるっすよ、リースさん」

 

---

 

 

数日後、ヘカテ号の前方に、天を突くような巨大な岩壁と、そこから逆流するように降り注ぐ巨大な滝が現れた。

 

アレン「……あー、あれっすね。ワノ国の天然の要塞。……普通は鯉に船を引かせるみたいっすけど、そんなのだるいっすからね」

 

アレンがゆっくりと宙に浮き、その姿を深紅の古龍へと変えた。

「**『ドラドラの実』……獣型!!**」

 

全長百メートルを超える龍が、ヘカテ号の船体を巨大な鉤爪で優しく、だが力強く掴み上げる。

 

アレン「……しっかり掴まっててくださいよ、マキナ様、リースさん!」

 

アレンの咆哮が、滝の轟音をかき消した。

龍は垂直に切り立つ滝を、重力を無視するように駆け上がっていく。滝の飛沫が虹を作り、太陽の光を浴びた赤い鱗が神々しく輝く。

 

滝の頂上を突き抜けた瞬間。

視界が開けた。

 

マキナ&リース「……っ!?」

 

マキナとリースは、その光景に言葉を失った。

眼下に広がるのは、新世界のどの島とも違う、色彩豊かな、そしてどこか懐かしい風景。

満開の桜が舞い散る「花の都」。

巨大な富士山を彷彿とさせる「藤山」。

五重の塔が並び、川のほとりには柳が揺れる。

そこには、殺伐とした略奪も、海軍の威圧もない。

ただ、連綿と受け継がれてきた「美」と「誇り」が、空気そのものに溶け込んでいた。

 

---

 

 

アレンは静かに九里の浜辺へと着陸し、人間の姿に戻った。

 

アレン「……ふぅ。着いたっすわ。……ここがワノ国っす」

 

砂浜に降り立った三人は、まずその「匂い」の違いに気づいた。

硝煙の匂いではない。潮の香りと、お香の匂い。そして、誰かが研いでいる鋼の冷たい匂い。

 

マキナ「……なるほど。これがワノ国か。……美しいな。聖地のあの薄っぺらな装飾とは、魂の位が違う」

 

マキナが満足げに頷く。

 

リース「……ん。……色彩設計、完璧。……精神の安定に最適な環境。……アレン、感謝する。……ここは、私たちが休息するに相応しい」

 

アレンは背負った斬月の重みを確かめ、都の方向を見据えた。

 

アレン「……さて。まずは都へ行って、美味い団子でも食いながら、いい服と……いい『刀』を探しに行きましょうか。……復讐とか懸賞金とか、今日だけは全部忘れて、ただの『死神の休日』っすよ」

 

マキナ「だるそうに言うな、アレン。行くぞ」

 

 

マキナが先頭を切って歩き出す。

 

リースのビットが周囲の警戒を最小限に保ちつつ、アレンの隣を歩く。

三人の影が、夕焼けに染まるワノ国の街道に長く伸びる。

 

失った仲間たちは、もういない。

だが、彼らが駆け抜けた歴史の延長線上に、この美しい景色がある。

アレンは、ふと風に乗って流れてきた桜の花びらを掌で受け止め、それを優しく吹き飛ばした。

 

アレン「……エリス、ライカ、シズ、ユリナ、キース。……見てるか? ……あんたたちの分まで、俺たちがこの国の美しさを、全部味わってやるからな」

 

死神たちの新たな航海。

それは破壊でも殺戮でもなく、ただ「美」を愛で、自らの魂を研ぎ澄ますための、贅沢な沈黙から始まった。

 

ワノ国の空に、三日月が静かに昇っていく。

カイドウという嵐が訪れる前の、この国で最も美しく、最も誇り高い季節。

死神海賊団は、その静寂の中に、静かに溶け込んでいった。

 

 

転スラの二次創作主人公でやって欲しい種族は?

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