ONE PIECE 死神伝   作:ぐちロイド

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第82話 凍てつく円卓:女王の審判

 

 

休憩時間が終わり、パンゲア城の大ホールには再び重々しい鐘の音が響き渡った。 各国の王たちがそれぞれの席へと戻り、円卓を囲む。先ほどワポルが引き起こした騒動の余韻が冷めやらぬ中、世界会議(レベリー)の後半戦が幕を開けた。

 

議題は革命軍の対策から、加盟国間の関税問題、そして新世界における海賊たちの縄張り争いへと移り変わっていく。各国の王たちは、自国の利益を1ベリーでも多く守るため、あるいは世界政府からの支援を引き出すために、顔を真っ赤にして醜い議論を戦わせていた。

 

そんな喧騒の渦中にあって、ゴッドエデンの女王マキナは、相変わらず超然とした態度を崩さなかった。

豪奢な椅子に深く腰掛け、頬杖をついたまま、退屈そうに指先でガラスのコップを弄んでいる。その紅い瞳は、目の前で繰り広げられる王たちの議論を「豚の鳴き声」程度にしか認識していないようだった。

 

マキナの左後ろに佇むアレンもまた、借りてきた猫のように静かだった。漆黒の正装に身を包み、二振りの斬月の柄に手をかけたまま、眠そうな目で天井のシャンデリアを眺めている。彼らにとって、この会議はゴッドエデンの覇道を世界に誇示するための「儀式」に過ぎず、中身のない議論に加わる価値など微塵もなかったのだ。

 

だが、その絶対的な「沈黙」と「不遜」が、一部の王たちのプライドを逆撫でした。

 

---

 

 

議論が一時的に途切れた、その一瞬の静寂だった。

円卓の中座あたりに座る、ある小国の王がガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。

その男は、自国の財政難を世界政府に泣きつこうとしたものの、先ほど五老星から色よい返事をもらえず、苛立ちを募らせていた。そして、その矛先を、会議中ずっと一言も発さず、政府から特別扱いされているように見えるゴッドエデンへと向けたのだ。

 

小国の王「おい……! おい、そこのゴッドエデンの小娘!!」

 

男の品性のない怒鳴り声が、大ホールに響き渡った。

周囲の王たちが一斉にギョッとした表情を浮かべ、会場の空気が凍りつく。アラバスタのコブラ王や、先ほどマキナに睨まれたワポルなどは、その男のあまりの「無知」と「無謀」に、顔を引きつらせていた。

 

しかし、その小国の王は、自分がどれほど鋭利な刃の刃渡りを歩いているかに気づいていなかった。彼は傲慢に鼻を鳴らし、マキナを指差してせせら笑った。

 

小国の王「お前もさっきから黙って聞いてないで、少しは発言したらどうだ!? えぇ!? 加盟国でもないお前たちが、政府の温情でこの神聖な円卓に座らせてもらっているんだぞ! それなのに、一枚も口を開かないとは……へっ! 所詮は死神だかなんだかいう男の武力に頼り切った、ただの『お飾りの王』ってわけか!! ガーハハハ! ガーハハハ!!」

 

男の品性のない高笑いが、広い会場に虚しく木霊する。

 

アレン(……ぶっ!!)

 

その瞬間、マキナの左後ろに立っていたアレンは、思わず口元を手で押さえた。

下を向き、全身を小刻みに震わせる。

 

アレン(いやいやいや……! マジかコイツ!? 本物の命知らずってのは、ああいう奴のことを言うんっすね! 凄いっすわ、ある意味でロジャーさんよりロックな生き様っすよ。五老星のじいさんたちですら汗流して冷や汗かいてたマキナ様を捕まえて、正面から『小娘』だの『お飾りの王』だのって……あー駄目だ、笑いが堪えきれないっす……!)

 

アレンは必死で理性を保とうとしていた。もしここで自分が吹き出せば、ウチの怖い女王様の怒りの火に油を注ぐことになる。しかし、男のあまりにも見事な「死亡フラグ」の乱立っぷりに、笑いのツボが完全に破壊されかけていた。

 

チラリとマキナの横顔を見る。

彼女の指先が、弄んでいたグラスの縁でピタリと止まっていた。

その紅い瞳からは一切の感情が消え失せ、底知れぬ深淵のような「無」が広がっている。それは、マキナが対象を「対話の通じる人間」から「排除すべき障害」へと認識を切り替えたサインだった。

 

---

 

 

会場は、静寂を通り越して、窒息しそうなほどの重圧に包まれていた。

笑っているのは、自分の失言の重さに気づいていない、その小国の王ただ一人。周囲の衛兵や、世界政府の役人たちは、すでに最悪の事態を想定して腰の銃や剣に手をかけようとしていたが、恐怖のあまり指一本動かせずにいた。

 

マキナはゆっくりと、本当に優雅な動作で頬杖を外し、背もたれに体を預けた。

そして、冷徹極まる視線を、高笑いを続ける男へと真っ直ぐに向けた。

 

マキナ「……言い残したことは、それだけか? 哀れな道化よ」

 

その声は、決して大きくはなかった。だが、大ホールの全ての喧騒を強制的に黙らせる、絶対的な「支配者の言霊」だった。

小国の王は、マキナの視線と交わった瞬間、まるで心臓を冷たい氷の刃で突き刺されたかのように、笑い声を喉に詰まらせた。

 

小国の王「ひ……っ?」

 

マキナ「貴様が我が国をどう評価しようが、私の知ったことではない。羽虫がどれだけ騒ごうと、天を駆ける龍の耳には届かんからな。……だが」

 

マキナがゆっくりと立ち上がる。その瞬間、彼女の背後から、目に見えるほどの漆黒と深紅の「覇王色の覇気」が、凄まじい嵐となって吹き荒れた!!

 

**ドゴォォォォォォォォンッ!!!**

 

パンゲア城の強固な大理石の壁にメキメキと亀裂が走り、天井の巨大なクリスタルシャンデリアが激しく揺れて悲鳴を上げる。円卓に座る五十人以上の王たちのうち、体力の衰えた数名が、その覇気のプレッシャーだけで白目を向いて椅子から転げ落ちた。

 

コブラ「……っ、これが……ゴッドエデンの女王の、覇気……!!」

 

コブラ王が必死にテーブルに掴まり、娘のビビを背中に隠しながら歯を食いしばる。海軍の大将クラスが放つそれをも凌駕する、圧倒的な「王の資質」。

 

マキナは、恐怖で完全に蛇に睨まれた蛙のようになり、ガタガタと震えて座り込んだ男を見下ろし、冷酷に、そして明確に問い詰めた。

 

マキナ「今の一言。……私への、そして我が『ゴッドエデン』への明白な侮辱として――我が国に対する【宣戦布告】と受け取って良いのだな?」

 

---

 

 

 

小国の王「せ、宣戦……布告……っ!? いや、ワシは、ただ……!」

 

男は、ようやく自分がしでかした事の恐ろしさに気づき、顔を土色に変えて取り繕おうとした。だが、一度放たれた女王の言葉は、二度と撤回されることはない。

 

マキナ「アレン」

 

マキナが短く、その騎士の名を呼んだ。

 

アレン「はいはい、了解っすわ。……笑うのはこの辺にして、仕事するっすかね」

 

アレンが一歩、前に出た。彼の身体から、マキナの覇気とは異なる、どす黒く澱んだ「死の霊圧」が噴き出す。それは、触れた者の魂を凍らせる、本物の死神の力。

 

アレンは腰の『天鎖斬月』を、ゆっくりと、わずか数センチだけ鞘から抜いた。

キィィィィィィィン……。

大ホール全体に響き渡る高周波の金属音。それと同時に、男が座っていた椅子の真上の天井が、アレンが刀を完全に抜き放ちもしていないというのに、微かな剣圧の余波だけで綺麗に十字に叩き切られ、瓦礫となって男の目の前に轟音を立てて落下した。

 

**ズガァァァァァンッ!!!**

 

「ひゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

男は悲鳴を上げて床を転げ回り、自身の尿で服を濡らしながら狂ったように首を振った。

 

アレン「いいっすか、王様。……ウチの女王様が『宣戦布告』と受け取ったってことは、そういうことっす。……今から三日以内に、あんたの国の上空に、俺がこの姿(古龍形態)で遊びに行ってあげるっすよ。……リースの最新兵器の実験場が欲しかったところだし、ちょうどいいっすわ」

 

アレンは、底冷えするような笑顔を浮かべながら、男を冷たく見下ろした。

その言葉は、その場にいる全ての王たちへの警告でもあった。ゴッドエデンに牙を剥くということは、国家の滅亡を意味する。世界政府のルールなど、この二人には一切通用しないのだ。

 

役人「ま、待ってください、マキナ女王陛下!!」

 

たまらず、世界政府の議長を務めていた役人が、汗を滝のように流しながら二人の間に割って入った。

 

役人「こ、これはレベリーの場です! 加盟国間の、いや、非加盟国との間であっても、私闘や戦争の布告は禁止されております! どうか、どうか此度の無礼は、この者の無知ゆえの過ちとして、免じてはいただけないでしょうか!?」

 

役人は、床に平伏するようにしてマキナに懇願した。ここで本当に一つの国家がゴッドエデンによって滅ぼされれば、世界政府の威信は完全に失墜する。五老星からも「何としてもゴッドエデンを刺激するな」と厳命されていたのだ。

 

マキナは、平伏する役人と、恐怖で失禁している小国の王を冷たく見下ろし、フッと小さく鼻で笑った。

 

マキナ「……ふん。政府の犬が、必死に命乞いか。……いいだろう。此度は世界政府の顔を立て、この場での処刑は見送ってやる」

 

マキナがそう告げると、会場全体から、一斉にホッとしたような長い安息の溜息が漏れた。

だが、マキナの言葉は、それで終わりではなかった。

 

マキナ「ただし、条件だ。……この無礼な男の国が保有する、今後10年分のすべての関税自主権、および鉱物資源の採掘権の半分を、我がゴッドエデンへと無償で譲渡しろ。……それが、私の『小娘へのお飾り』としての代償だ。断るならば、やはり三日後にその国を地図から消す」

 

役人「……っ! 承知……いたしました……。直ちに、五老星の手を煩わせてでも、その条件の手続きを進めさせます……!」

 

役人は、それしか道がないことを理解し、がっくりと肩を落とした。

小国の王は、命が助かった安堵と、国を実質的に奪われた絶望で、そのまま意識を失って床に倒れ込んだ。

 

---

 

 

マキナは優雅に再び椅子へと腰掛け、足を組んだ。

 

マキナ「……さて。随分と不快なノイズが入ったな。会議を続けるがいい。……次、私に退屈な声を浴びせる者がいれば、その時は本当に、このマリージョアごと、赤土の大陸(レッドライン)を削り落としてやる」

 

その絶対的な宣言に、反論できる王など、もはや一人も存在しなかった。

会議は再開されたが、その主導権は完全に世界政府ではなく、ゴッドエデンの女王マキナ、そしてその後ろに立つ死神アレンの手に握られていた。

 

アレンは再び、何事もなかったかのように眠そうな目に戻り、斬月の柄から手を離した。

 

アレン(……いやー、やっぱりマキナ様は最高っすね。ただの罵倒を、国家の資源略奪にまで昇華させるんだから。……これ、エデンに残ってるリースさんに報告したら、きっと『効率的な資源確保。マキナ、優秀』って、無表情で喜ぶんだろうなぁ)

 

アレンは心の中でそんなことを考えながら、長引く会議の終わりを、ただ退屈そうに待つのであった。

 

世界会議(レベリー)の歴史において、ここまで一国の王が蹂躙され、世界政府が平伏した日々はなかった。

ゴッドエデン。その名が、世界の王たちの脳裏に「絶対の恐怖」として刻み込まれたこの日。大海賊時代の歯車は、彼らを中心に、より一層狂ったように回り始めるのだった。

 

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