聖地マリージョアを恐怖と屈辱で支配した世界会議(レベリー)が閉幕し、ゴッドエデンの女王マキナと、その唯一無二の騎士アレン・コルテスは、新世界の楽園へと帰還した。
第零宝物庫から根こそぎ略奪してきた金銀財宝や希少な物資の山を前に、留守を預かっていたリースは、感情の起伏がない無機質な瞳をわずかに明滅させた。
リース「……ん。マキナ、アレン、おかえり。……これだけの高エネルギー反応物と未確認物質の確保、非常に優秀。……さっそく研究施設のプラントへ移送し、解析を開始する」
マキナ「フフ、五老星どもが泣きそうな顔で差し出してきた供物だ、好きに使うが良い。それよりリース、レベリーの最中に私の関税自主権要求の手続きを裏からハッキングし、迅速に処理した手際、見事であったぞ」
リース「……当然。……ゴッドエデンの利益最大化は、私の第一優先事項」
三人はいつものように、白磁の王宮の最上階で、レベリーでの戦果と今後の世界情勢について淡々と、しかしどこか悪だくみをするような不敵な笑みを交わしながら話し合った。
世界を震撼させる大事件を起こした直後だというのに、ゴッドエデンに流れる空気は、いつもと変わらない、少し退屈で、それでいてひどく贅沢な日常のそれだった。
――だが、そんな平穏が長く続かないのもまた、この国が「新世界の特異点」たる所以である。
レベリーが終わって数日後。
ゴッドエデンの外縁部、険しい岩肌が剥き出しになった迎撃用演習場からは、激しい爆音と金属音が絶え間なく響き渡っていた。
この国には、相変わらず「死神アレン」の首を取り、一夜にして新世界の頂点へと成り上がらんとする、命知らずの海賊や賞金稼ぎたちが大勢押し寄せてくる。アレンはそれらをいちいち自分で相手にするのを「だるい」という理由で拒否し、自らが鍛え上げた私設兵団「プレデター」たちの実戦訓練の場として活用していた。
アレン「……あー、だっる。……今日も朝から元気っすねぇ、不法侵入者の方々は」
切り立った崖の上、特等席に置かれた特注のソファに深く腰掛け、三色団子を口に運びながら下界を見下ろしているのはアレンだ。
彼の隣には、小型のホログラム端末を腕から投影したリースが静かに佇み、戦況のデータをリアルタイムで収集していた。
リース「……アレン、今日のプレデターの戦闘効率、通常より14.8%低下。……前衛の陣形が、敵の変則的な攻撃によって崩されている」
アレン「んー……確かに。今日は珍しく、ウチのプレデターたちが少し押されてるっすね。いつもなら五分で消し炭にするはずなのに、もう十分近く持ち堪えられてる。……リースさん、ちょっとあの前線で暴れてる二人の顔、認証(スキャン)してみてくれないっすか?」
リース「……了解。……網膜パターンおよび指名手配度データベースを照合中……完了」
リースの前に、二つの立体的なホログラムウィンドウが展開される。そこに映し出されたのは、最近、前半の海からこの地獄の新世界へと殴り込んできたという、総勢50人程度からなる新進気鋭の武闘派一味『轟雷旋風団(ごうらいせんぷうだん)』の頭領たちだった。
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スレナ「オラオラオラァ!! どけぇ! 死神の腰巾着どもがァ!! ワシの拳の錆になりたい奴から前に出なァ!!」
プレデターの重装歩兵たちの盾を、バチバチと激しい紫色の火花を散らす拳で殴り飛ばしているのは、一味の船長である『轟雷の拳聖スレナ』だった。
年齢27歳。身長190cmという、女性としては圧倒的な体躯を誇る彼女は、見事な金髪のボブカットに、陽光に映える美しい褐色肌をしていた。
その性格は見た目通りのコテコテな「オラオラ系」。白いズボンに黒い革のロングブーツを履き、豊満なDカップの胸元にはサラシを固く巻き付けている。肩には海軍の将校のように真っ白なコートを無造作に羽織っており、拳を振るうたびにそのコートが激しく翻った。
彼女の能力は、超人(パラミシア)系『プラプラの実』。
自身の肉体から超高電圧・高密度の「プラズマ」を自在に発生させ、操作するプラズマ人間である。
スレナ「ハァッ!! **『轟雷・双頭龍(そうとうりゅう)』**!!」
スレナが両拳を突き出すと、彼女の腕から放たれた紫色のプラズマが、巨大な二頭の龍の形を成してプレデターたちの防陣へと襲いかかった。超高温の熱線と、神経を麻痺させる電撃が合わさったその一撃は極めて理不尽で、流石のプレデターたちも一時的に後退を余儀なくされていた。
アレン「へぇ……プラズマっすか。雷(ゴロゴロ)の劣化版かと思いきや、指向性と爆発力に特化してる感じっすね。なかなかの高火力、ウチの連中が良い経験になってるっすわ」
アレンは団子の串を咥えたまま、感心したようにスレナの動きを分析する。
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ヴァイパ「キャハハハ! スレ姉、最高ー! じゃあウチは後ろからチクチクいっちゃうよ〜ん☆」
スレナが作った突破口を、信じられないほどの超速度で駆け抜け、プレデターたちの背後を強襲している影があった。それが、副船長の『旋風の悪足(わるあし)ヴァイパ』だ。
年齢25歳。しかし本人は「永遠の17歳☆」と周囲に言い張っており、その言動はどこまでも軽い、今時の陽キャ女子そのものだった。
身長184cmのしなやかな肢体、髪型は特徴的な銀髪の右サイドテール。左胸の膨らみには、ハートマークに向かって天使が弓を射るという、サイバーパンク風のタトゥーが鮮やかに彫り込まれている。
黒いズボンに黒い革の上着を羽織っているが、その上着のフロントジッパーは胸元が全開になるまで下げられており、控えめなBカップの胸ラインが激しい動きの中で露わになっていた。
彼女の能力は、超人(パラミシア)系『カソカソの実』。
自身の身体、および身につけている物の「速度(ベクトル)」を、段階的に極限まで加速させることができる加速人間。
ヴァイパ「ウチのスピードに追いつける? **『音速・恋の矢(ソニック・アロー)』**!!」
ヴァイパが超高速で回し蹴りを放つと、その爪先から、空気抵抗を置き去りにした超音速の真空の刃が、ハートの形状を成してプレデターたちへ降り注いだ。
プレデターの前衛がスレナのプラズマを防御している隙を突く、完璧な連携。彼らが少し押されている原因は、このヴァイパの予測不能な超スピードによる攪乱にあった。
リース「……ん。カソカソの実の能力者。……物理法則を一部無視した加速度の引き上げを確認。……戦闘データ、非常に興味深い。……サンプルとして、あの足の筋肉を解剖したい」
アレン「リースさん、さらっと怖いこと言わないでほしいっす。解剖は駄目っすよ」
アレンは苦笑しながら、じっと二人の戦いを見つめ続けた。
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アレン「……まぁ、あの二人は確かに新星(ルーキー)としては破格っすね。覇気もそれなりに扱えてるし、何よりお互いの能力の弱点を補い合ってる」
アレンはソファから立ち上がり、崖の縁へと歩み寄った。風が彼の黒い髪を揺らす。
プレデターたちは決して弱くはない。一千人の精鋭たちは、個々の武力も連携も新世界の中堅海賊を遥かに凌駕している。だが、今日のように「尖った悪魔の実の能力」を複合的に組み合わせてくる、本当の天才たちを相手にした時、少しだけ対応のテンポが遅れる。それが今の彼らの明確な「改善点」だった。
アレン「おい、お前らァ!!」
アレンの声が、戦場全体へと響き渡る。それは地響きのような霊圧を伴い、戦っていたスレナとヴァイパ、そしてプレデターたちの動きを強制的に止めさせた。
アレン「前衛、スレナのプラズマに対して、ただ武装色の盾で受けるだけじゃ脳がないっすよ。霊子(エネルギー)を外側に放出して、熱と電撃の伝導を空間ごと遮断(シャットアウト)するっす! 後衛、ヴァイパの速度に惑わされすぎっす。あいつは直線的な加速しかできない。動く『先』の空間の気圧を変化させて、突っ込んできたところを網で捕まえるみたいに迎撃するっすわ!」
的確極まる、死神の指導。
プレデターたちは一瞬でその意図を理解し、「ハッ!!」と一斉に声を上げて陣形を再構築した。彼らの瞳に、それまでの焦りが消え、冷静な狩人の光が戻る。
スレナ「……ぬぅ!? なんだあいつは……! 崖の上の、あの着流しの男……!」
スレナがプラズマの火花を散らしながら、崖の上を見上げた。
ヴァイパ「あーっ! スレ姉、あの人だよ! 手配書の『死神アレン』!! 本物、めっちゃ気だるそうだけど、なんかオーラがヤバくない!? ウチ、ちょっと一目惚れしちゃいそうかも☆」
ヴァイパが全開の胸元を揺らしながら、興奮気味にアレンを指差した。
スレナ「バカ言え、ヴァイパ! 惚れてる場合か! あいつの首を獲れば、ワシらが新世界の頂点だァ!!」
スレナが全身から紫色のプラズマを最大出力で爆発させ、地面を熔解させながらアレンを目がけて跳躍した。ヴァイパもまた、その肉体を「カソカソ」の力で音速の壁を越えるレベルまで加速させ、スレナの影に隠れるようにして崖の上へと急襲を仕掛ける。
スレナ「オラァァァ!! 死神ィ! ワシらの新時代の幕開けの、生贄になりなァ!!」
ヴァイパ「いくよー! 死神のお兄さん! ウチの最速の愛を受け止めてぇ!!」
空を焦がす紫電の龍と、空間を切り裂く銀色の閃光が、アレンの頭上から同時に降り注ぐ。
だが、アレンは刀を抜きすらしていなかった。
ただ、咥えていた団子の串をペッと吐き出し、深紅の瞳をわずかに細めただけだった。
アレン「……新時代ねぇ。……威勢がいいのは結構っすけど、俺たちの楽園(エデン)に土足で踏み入るには、ちょっとだけ実力が足りないっすわ」
アレンが一歩、前へ踏み出す。
次の瞬間、世界は、死神が放つ本物の「深淵」へと引きずり込まれることになる。
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