密会から数週間後――。
新世界の海は、奇妙なほどに凪いでいた。しかしそれは、嵐の前の静けさなどという生温いものではなく、世界そのものが「死」を前にして息を潜めているかのような、悍ましい沈黙であった。
かつて五老星の利権や海賊たちの縄張り争いの舞台となっていた、新世界に点在する五つの小規模な世界政府加盟国。国力こそ小さくとも、世界政府の庇護を受け、数百年もの歴史を紡いできたそれらの島々は、一夜にして文字通りの「この世の地獄」へと変貌することとなった。
虚無の結社。その幹部である三人――男1、女1、女2――は、別次元から引きずり出した【異物の概念】、すなわちこの世界のいかなる理(ルール)も通用しない謎の崩壊触媒『アンノーン』の出力を調整するため、自らの忠実な人形(部下)たちにそれを持たせ、実験の火蓋を切ったのである。
人形たちは、新世界にありふれた略奪目的の「無名の海賊団」を装い、五つの国へと同時に襲撃を仕掛けた。だが、彼らが上陸と同時に行ったのは、大砲による破壊でも、剣による殺戮でもなかった。ただ、結社の幹部から授けられた、例の幾何学的な数式が走る奇妙な容器のロックを、一斉に解除しただけだった。
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**――ゴ、オオオオオオオオオオオオオッ。**
それは、音ですらなかった。大気が、空間が、そして世界のデータそのものが、内側から強引に「削り取られる」かのような、悍ましい存在の断末魔。
五つの加盟国の島々を中心として、突如として天を衝くほどの巨大な「漆黒の霧」がドーム状に広がり、国全体を完全に覆い尽くした。
その光景は、海軍本部が国家戦争級の戦力を結集して行う無差別殲滅攻撃『バスターコール』に似ていたが、本質は全く異なっていた。バスターコールは、軍艦の砲撃という「物理的な破壊」によって建造物を崩し、人を殺す。しかし、この『アンノーン』がもたらす結界の内部で起きた現象は、破壊ですらなかった。
**【世界の法則の完全なる無力化】**
結界が展開された瞬間、島を守っていた政府の役人や、武闘派の海賊、そして各国の精鋭兵たちが、驚愕のあまり絶叫した。
「な、なんだこれは……!? ワシの身体が……『悪魔の実』の力が、出ないッ!?」
島に滞在していた賞金首の能力者が、自身の肉体が「ただの肉塊」へと戻ってしまったことに気づき、顔を土色に変えて叫ぶ。自然系(ロギア)の流動化も、超人系(パラミシア)の変異も、動物系(ゾオン)の強靭な変身も、すべてがまるで最初から存在しなかったかのように、完全に消滅していた。
「武装色の覇気が……纏えん!? 身体に、力が、入ら……っ!?」
百戦錬磨の衛兵長が、自身の誇る覇気が、周囲を漂う漆黒の霧に触れた瞬間に「霧散」していくのを見て、恐怖に目を見開いた。
悪魔の実の呪い、あるいは人間の精神力を極限まで高めて放つ覇気――それらはすべて、この『ONE PIECE』の世界における絶対的なルールであり、最強の力の証明であった。しかし、世界のシステムそのものを拒絶する異物『アンノーン』の領域内においては、それらの概念はただの「無価値なデータ」へと書き換えられてしまう。
それだけではない。漆黒の霧は、空間に存在するあらゆるエネルギーを貪欲に喰らい尽くし、最終的にはそこに生きる生命そのものの「存在確率」すらも削り取っていった。
「ひ、ひぃっ……!身体が、身体が枯れていく……っ!?」
「助けて……! 誰か、お父様、お母様……っ!!」
人々が必死に逃げ惑う中、霧に触れた建造物はメキメキと音を立てて風化し、一瞬にして数百年分の時間を飛び越えたかのように朽ち果てて、砂へと還っていく。
人間の肉体も同様だった。若者も、老いも、子供も、等しく生命力を根こそぎ吸い上げられ、肌は一瞬にして褐色から土色へ、そして水分を失ったミイラのように干からび、最後は衣服だけを残して、パラパラと灰となって消滅していった。
海軍のバスターコールであれば、まだ瓦礫の下に生き残る者がいるかもしれない。だが、この『アンノーン』の実験域においては、ネズミ一匹、草木の一本に至るまで、すべての生命が「最初からその島に存在していなかった」かのように、完全に世界から消去されてしまったのだ。
わずか数時間のうちに、新世界に確かに存在していた五つの加盟国は、いかなる命の気配も残っていない、死の灰だけが積もる「虚無の岩塊」へと変わり果てた。
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漆黒の実験が成功裏に終わり、霧が役目を終えて虚空へと霧散した頃。
あのいかなる海図にも載っていない孤島の地下室では、三人の黒ずくめの幹部たちが、手元の通信魔術(あるいは結社独自の通信端末)から送られてくる五大国の消滅データを検分していた。
「……素晴らしいわ。これほどまでの出力が出るとはね」
右側の女(女1)が、フードの奥で狂気的な歓喜に声を震わせ、紫色の爪を卓上に突き立てた。
「五つの国、すべての生命、インフラ、悪魔の実のファクター、そして蓄積されていた覇気の残滓に至るまで……すべてが等しく『無(ゼロ)』へと還った。バスターコール? 海軍本部の軍艦が何百隻集まろうが、この【異物】の足元にも及ばないわ!!」
「フハハハハ! 見事だ! 見事すぎる!!」
中央の男(男1)が、隻眼を血走らせながら激しく机を叩いて笑った。
「悪魔の実も覇気も無力化する……! つまり、あの忌々しき死神アレンがどれほど強力な雷を操ろうが、どれほど凶悪な龍に変貌しようが、この『アンノーン』の結界に一歩でも足を踏み入れれば、ただの無力な『人間のガキ』に戻るということだ!!」
彼らにとって、これまでの戦いは常に敗北の連続だった。ゴッドエデンの持つ圧倒的な武力とリースの知略の前に、どんな闇の策略も悉く粉砕されてきた。だが今、彼らはついに、世界そのものを破壊し得る「絶対のカード」を手に入れたのだ。
計画の立案者である左側の女(女2)は、狂喜乱舞する二人とは対照的に、冷徹な機械のような手つきで『アンノーン』の稼働データを静かにシャットダウンした。
「今回の実験で、この世界に『アンノーン』を定着させるための空間変調の最適値が完全に算出されたわ。五つの小国での生命力の吸収により、結晶のエネルギー充填率は120%を達成。……これならば、ゴッドエデンを丸ごと包み込み、あの国の防衛結界ごと、数万の民と兵、そしてマキナ、アレン、リースを同時に消滅させることが可能」
女(女2)の薄い唇が、暗闇の中で冷酷に歪む。
「世界政府も、海軍も、四皇も……この世界のいかなる勢力も、この五大国の消滅の原因を突き止めることはできない。なぜなら、彼らの持つ『見聞色の覇気』や『情報網』では、理の外にある異物の観測すら不可能なのだから。彼らはただ、五つの国が突如として地図から消えたことに怯え、世界の終焉を予感するしかないのよ」
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「よし。実験は終わった。……ならば、いよいよ本腰を入れて動き出すとしよう」
男(男1)が、その掠れた声を一段と低くし、円卓の上に巨大な「新世界の海図」を広げた。その海図の中央には、ひときわ大きく、そして傲慢な輝きを放つ『ゴッドエデン』の領域が示されている。
「ワシらの持てる闇のルート、そして『黒い洗礼(ブラック・ルキア)』によって完全に脳を支配した数万の人形(兵士)たちを、ゴッドエデンの周囲の海域へと静かに配置する。彼ら自身はただの捨て駒だ。死神アレンをおびき出すための、ただの餌に過ぎん」
「ええ、私の飼い慣らした人形たちもすべて提供してあげるわ」
女(女1)が、蛇のような笑みを浮かべながら指先で海図のゴッドエデンをなぞった。
「アレンがウチの人形たちを『だるいっすねぇ』とか言いながら、いつものように刀も抜かずに蹴散らしているその瞬間……その頭上から、この『アンノーン』の最大出力を叩き込んであげる。あの男が、自分の誇る雷も、龍の力も、死神としての霊圧もすべて失って、ただの無力な人間に成り下がった時の絶望の顔……! ああ、想像するだけで全身の血が沸き立つわ!!」
「作戦の決行日は、三日後」
女(女2)が、静かに宣告した。
「私が親機を操作し、ゴッドエデンの全域を覆う『アンノーン・カタストロフ』を展開する。リースの電脳頭脳がどれほど優れていようとも、プログラムの前提となる物理法則そのものが書き換わるのだから、防衛システムは一秒と保たずに完全停止するわ。女王マキナの覇気も、ただの無駄な息遣いへと変わる」
三人の幹部たちの意思は、ここに完全に統一された。
これまでは小規模な実験や、小手調べの暗殺計画に過ぎなかった。だがここからは、結社の総力を挙げた、世界の法則そのものを改変する「本気の戦争」の始まりであった。
「――我らの虚無の前に、楽園よ、塵へと還れ」
三人が同時に手を重ね合わせると、地下室の蝋燭の火が再びぷつりと消え去り、そこには完全なる闇と、世界を滅ぼす禁忌の悪意だけが残された。
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同じ頃、ゴッドエデンの王宮――。
相変わらず、何不自由のない贅沢で平和な時間が流れていた。
王宮のサンルームでは、マキナがリースのお手製のハーブティを優雅に嗜み、その傍らではアレンが、新しく仲間になったスレナとヴァイパを相手に、だるそうに将棋のようなゲームのルールを教えていた。
アレン「いや、だからスレナ。そこは歩(ふ)を突くところじゃなくて、角を動かすんっすよ。パワー任せに駒を盤面に叩きつけたら割れちゃうっすわ」
スレナ「ぬぅ、ワシはこういう細かい頭脳労働は苦手なのだ! 拳で語らせろ、拳で!」
ヴァイパ「キャハハ! スレ姉、また負けてるー! じゃあ次はウチの番ね、お兄さん☆」
いつもと変わらない、賑やかな日常。
だが、その時――。
アレン「……っ?」
アレンが、持っていた駒を動かそうとした指先を、ピタリと止めた。
彼の深紅の瞳が、僅かに細められる。
ヴァイパ「お兄さん? どうしたっすか? ウチの顔に何か付いてるー?」
ヴァイパが不思議そうに全開の胸元を覗き込んできたが、アレンは彼女には答えず、静かに立ち上がってサンルームの大きなガラス窓へと歩み寄った。
マキナ「……アレン。どうした」
マキナがティーカップを置き、鋭い眼光をアレンの背中に向けた。
アレン「……いや。なんかすっごく、変な感じがしたんっすよね。……俺の『見聞色の覇気』っていうか、死神としての『霊圧知覚』が、一瞬だけ、世界のどこかの空間が『消えた』みたいな、妙な空白を感じ取ったんっすわ」
アレンの言葉に、部屋の隅で端末を操作していたリースが、即座に反応した。
リース「……アレンの申告を受け、新世界全域の環境データを再スキャン中。……、異常事態。……現在、世界政府の管轄下にあるはずの五つの加盟国からの定期通信シグナルが、完全に途絶。……衛星軌道からの画像解析データを展開」
リースの前に展開されたホログラムには、先ほどまで確かに存在していたはずの五つの島が、ただの「生命の気配が一切ない、灰色の岩」へと変わり果てている姿が映し出された。
スレナ「……なっ、これは……!? 何が起きたんだ、リース!」
スレナが驚愕の声を上げる。
リース「……原因不明。……爆発の痕跡、熱量反応、およびバスターコール特有の質量破壊のデータ、一切検出されず。……まるで、島に存在していた『エネルギー』そのものが、内側から完全に消去されたかのような反応」
マキナがゆっくりと立ち上がり、ドレスの裾を揺らしながらアレンの隣へと並んだ。
マキナ「……ふん。ネズミどもが、ついに小細工を捨てて、本気で我が楽園の首を獲りに動き出したか」
アレン「……みたいっすね、マキナ様」
アレンは首を左右に鳴らし、腰に携えた二振りの刀――『天鎖斬月』の柄へと、ゆっくりと手をかけた。その瞳からは、いつもの気だるさが完全に消え去り、底知れぬ「死神」としての冷徹な闘志が宿っていた。
アレン「いいっすよ、そこまで本気で俺たちを滅ぼしに来るっていうなら、ウチの国(ゴッドエデン)の総力を持って、ゴミごと、跡形もなく叩き潰してあげるっすわ」
楽園を揺るがす、未曾有の禁忌の嵐。
世界の理の外にある『異物』と、世界を統べる『死神と女王』。
世界の命運を賭けた、本当の最終戦争の幕が、静かに、しかし確実に上がろうとしていた。
転スラの二次創作主人公でやって欲しい種族は?
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精霊
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ドラゴン
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その他(他作品とのクロスオーバー)
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