ONE PIECE 死神伝   作:ぐちロイド

91 / 95
第90話 無色の断頭台、女王の孤闘と崩れ去る覇道

 

 

『アンノーン』がもたらす漆黒の領域は、ゴッドエデンの全てを「無」へと塗り潰していた。

 

青空は死に絶え、全システムは沈黙。

世界を震撼させた誇り高き力――悪魔の実の能力も、肉体を鎧う覇気も、世界を統べる覇王色の威圧も、この異物の空間においてはただの「空虚なデータ」として抹消されていた。

 

「ガ、ハッ……! ワシの……肉体が、削られて……いく……っ!」

「ハァ、ハァ……っ! ダメ、指一本……動かないよ……っ!」

 

スレナとヴァイパは、すでに両膝を泥と化した床につき、荒い息を吐きながら身悶えしていた。

能力を奪われただけでなく、空間そのものが牙を剥いて生きとし生けるものの生命力を貪り食っているのだ。二人の豊満な肉体からは急速に肌のハリが失われ、その褐色肌も銀髪の輝きも、どす黒い虚無の霧に侵食されていた。

 

「ふん。スレナ、ヴァイパ……。惨めな姿ね」

黒ずくめの女(女1)が、紫色の爪を光らせながら二人の前を通り過ぎる。

 

「放置しておいても、あと数分で勝手に干からびて灰になるわ。……相手をする価値すらないゴミ屑ね」

もう一人の女(女2)もまた、未知の容器から漆黒の霧を噴出させながら、冷酷に二人を素通りした。

 

男(男1)が漆黒のダガーを手にアレンへと肉薄する一方で、女1と女2の二人は、それぞれ標的を定めて歩み出していた。

 

女1の狙いは、女王マキナ。

女2の狙いは、ゴッドエデンの知謀たるリース。

 

死神の足元で力を奪われ、倒れ伏す二人の将を見下ろしながら、黒ずくめの女たちは悪魔の笑みを深めていった。

 

---

 

 

 

「……演算不能。……端末との通信、完全に遮断」

 

王宮の壁際に追いつめられたリースは、感情のない無機質な瞳を僅かに歪め、必死に指先を動かしていた。だが、彼女の周囲に展開されていたはずのホログラムウィンドウは、一枚として立ち上がらない。

 

彼女の本体は、異次元の科学力によって造られた高度な生命体(アランカル)である。だが、その頭脳と防衛システムの根幹は、世界に満ちる「エネルギー(霊子や電磁波)」を循環させることで成り立っていた。その根本的な物理法則そのものが『アンノーン』によって書き換えられている以上、彼女の頭脳は「ガソリンを抜かれた最新鋭のエンジン」と同義であった。

 

「かわいそうに……。自慢の『科学力』とやらも、理(ルール)そのものを消去されたらただの置物ね」

 

女(女2)が、静かにリースの目の前へと立ち塞がった。

その手にある『アンノーン』の容器から、極小の漆黒の針がいくつも触手のように伸び、リースの白磁のような肌へと肉薄する。

 

「……私の思考回路は、……マキナとアレンを、護るためにある……」

 

リースは声のトーンを落としながらも、腰から一本の護身用ナイフを引き抜いた。だが、そのナイフの金属すらも、アンノーンの霧に触れた瞬間にサビついて脆く崩れ去った。

 

「無駄よ。あなたのその身体も、間もなくただの『人形の残骸』へと変わるわ」

 

女2が容器を差し向けると、強力な空間圧迫がリースを襲った。リースは一切の反撃手段を失い、背後の壁へと押し付けられ、その透明感のある瞳から徐々に光が失われていった。

 

---

 

 

 

一方、豪奢なドレスを漆黒の黒煙に汚しながらも、悠然と立ち続けていたのは女王マキナであった。

 

「……フフ。不躾な女だ。私の前に一歩踏み出す許可など、与えた覚えはないぞ」

 

マキナの紅い瞳は、絶体絶命の状況にあってもなお、絶対的な「支配者」としての輝きを失っていなかった。

しかし、その肉体は残酷な現実に苛まれていた。背背から溢れ出るはずの「覇王色の覇気」は影も形もなく、世界政府の役人たちを戦慄させたあの『王の威圧』は、一片の風にすらならない。全細胞から生命力がゴソゴソと削り取られ、美しい肌には疲労の色が色濃く滲み始めていた。

 

「あら、強がりだけは一丁前ね、マキナ女王?」

女(女1)が、ゆったりとした足取りでマキナとの距離を詰める。

 

「あなたの強さの真骨頂は、その圧倒的な『覇気』と『王の資質』だったはずよ。……でも、それが使えない今のあなたは何? ただの煌びやかな服を着た『無力な女』じゃない」

 

「……言わせておけば、面汚しが」

 

マキナは、履いていた装飾付きのヒールを片足で蹴り飛ばし、裸足で泥の床を踏みしめた。

そして、ドレスの長い裾を躊躇なく破り捨て、そのしなやかな脚部を露わにする。

 

「我が覇気が通じぬならば――この拳と足で、貴様の顔面を叩き潰すまでのこと!」

 

**バァンッ!!!**

 

覇気も、悪魔の実も、何の補正もない。

純粋な「肉体労働(体術)」――!

 

マキナは踏み込み一筋で女1の懐へと飛び込んだ。その踏み込みの鋭さは、長年ゴッドエデンの頂点に君臨し、数多の修羅場を潜り抜けてきた武人としての本能そのものであった。

 

「なっ……! 動き……っ!?」

女1が目を見開く。

 

マキナの美しい右拳が、極限まで握り締められ、女1の顎先へと一直線に突き出された!

 

**ドガァァァンッ!!**

 

「グ、ハッ……!?」

 

直撃。

覇気による増幅がないとはいえ、マキナの鍛え上げられた体術の一撃は、女1の体を数メートル後方へと吹っ飛ばすのに十分な威力を秘めていた。女1は口から鮮血を撒き散らし、泥の上に無ざまに転がった。

 

「見たか……! これが、我がゴッドエデンの『女王』の力だ……!」

倒れ伏すスレナが、掠れた声で歓喜の声を上げる。

 

だが、マキナ自身は、一切の笑みを浮かべていなかった。

 

(……浅い。身体に力が入らん……!)

 

マキナは荒い息を吐きながら、自身の右拳を見つめた。

いつもなら、覇気を纏った一撃で相手の頭骨ごと粉砕していたはずの打撃。それが、今の『アンノーン』の領域内では、相手を数メートル吹き飛ばす程度の「ただの殴打」にしかならないのだ。

 

---

 

 

 

「……あは、あはははは! 痛いわねぇ……!流石は女王様、体術の素養もあるってわけ!?」

 

泥の中から立ち上がった女(女1)は、口元の血を拭い、狂気に満ちた歪んだ笑みを浮かべた。

彼女の手には、『アンノーン』のエネルギーを直接還元された、漆黒の刃(アンノーン・ブレード)が形成されていた。

 

「でもね……残念だったわね!! あなたの一撃は、私に『致命傷』を与えるには程遠いのよ!!」

 

**シュバッ!!!**

 

女1の姿が消えた。

いや、消えたのではない。マキナの『見聞色の覇気(予知)』が封じられているため、相手の単純な「速度」を目視で追うことしかできなくなっていたのだ。

 

「――くっ!?」

 

マキナは寸前で首を捻り、襲いかかる漆黒の刃をかわそうとした。

しかし、刃から放出される黒い霧が、マキナの美しい頬をかすめ、その肉体を浅く切り裂いた。

 

**シュンッ! ズバァッ!!**

 

「あぐっ……!?」

 

傷口から血が噴き出すのと同時に、その傷口を通じて、マキナの肉体から爆発的な量の「生命力」がアンノーンへと吸い上げられていった。

一撃かわすたびに、一撃受けるたびに、マキナの全身から力が抜け、膝が激しく震え始める。

 

「どうしたの!? さっきの威勢はどうしたのよ、マキナ!!」

女1が残像を伴いながら、一方的な連続攻撃を叩き込んでいく。

 

マキナは持ち前の体術で、間一髪のところで刃を受け流し、あるいは最小限の被弾に抑えながら、執念深く反撃の拳を繰り出した。

 

**ドカッ! バキッ!**

 

マキナの膝蹴りが女1の腹部を穿ち、肘打ちが彼女の肩口を砕く。

しかし――いくらダメージを与えても、致命傷には至らない。

女1は痛みに顔を歪めながらも、アンノーンから供給される不気味なエネルギーによって何度でも立ち上がり、逆にマキナの肉体を着実に削っていく。

 

力量差は、時間を追うごとに「絶望的」なまでに開いていった。

 

覇気という最高の鎧を奪われ、悪魔の実という奇跡を封じられ、空間そのものに命を吸われ続けるマキナ。

彼女の美しいドレスはボロボロに引き裂かれ、透き通るような白皙の肌は、無数の切り傷と黒い侵食痕、そして自身の赤い血によって惨烈に染まっていった。

 

「ハァ……ッ、ハァ……ッ、ハァ……っ!!」

 

マキナの膝が、ついにガクガクと限界の悲鳴を上げ始めた。

視界が血と疲労で赤く染まり、全細胞が「倒れろ」と叫んでいる。

 

「あはははは! 凄いわ、素晴らしい粘りよ女王様! でも、もう終わりね!!」

 

女1が凶虐な笑みを浮かべ、漆黒の刃を極限まで大きくし、無防備となったマキナの胸元を目がけて一閃を放った!

 

---

 

 

 

**ズガァァァァンッ!!!**

 

「……カハッ……!?」

 

マキナの胸元から、鮮血の華が咲き誇った。

彼女の身体は空中へと打ち上げられ、そのまま冷たい大理石の床へと激しく叩きつけられた。

 

「マ……マキナ様ぁぁぁぁぁぁッ!!!」

スレナとヴァイパが、絶望の叫びをあげる。

 

泥と血に塗れ、床に横たわるマキナ。

その姿には、かつて世界会議(レベリー)で各国の王たちを震え上がらせ、世界政府を平伏させた「神聖なる女王」の面影はどこにもなかった。全身の筋肉が断裂し、アンノーンの侵食によって肌は土色へと変色しつつあった。

 

「ふふ……あははは! 気持ちいいわぁ! あの傲慢な女王が、こんな泥の上で虫ケラみたいに転がってるなんて!!」

女1が満足気に高笑いし、倒れたマキナの髪を掴んで強引に顔を持ち上げようとした。

 

だが。

 

「……汚い手で……私に……触れるな……っ」

 

**バシッ!!!**

 

マキナのの手が、血みどろになりながらも動いた。

彼女は残された最後の力を振り絞り、女1の手首をガチリと掴み返したのだ。

 

その紅い瞳は、全身が死に至るほどのダメージを負い、ボロボロになりながらも……依然として、相手を見下す「王の矜持」を絶やしていなかった。

 

「なっ……まだ、抗うというの……!?」

女1が一瞬、その凄絶な気迫に怯む。

 

マキナは泥の中から、ゆっくりと、本当に立ち上がろうとした。

足をガタガタと震わせ、膝を泥に突き、全身から血を流しながら、もう一度その拳を固く握り締める。

 

「我が……ゴッドエデンは……。私という『王』がいる限り……貴様らのような……無色の蠢く虫ケラどもに……屈することなど……絶対に……ない……ッ!!」

 

マキナは渾身の力を込め、女1の顔面へと、最後の一撃となる右拳を振り抜いた。

 

「死ねぇぇぇぇっ!!!」

 

……だが。

 

**ガクッ。**

 

その拳が、女1の鼻先に届くことはなかった。

 

空中を切ったマキナの拳は、虚しく力を失い、そのまま重力に従って落ちていった。

極限を超えて命を燃やした彼女の肉体は、ついに『アンノーン』による生命力の枯渇に耐え切れず、完全に限界を迎えたのだ。

 

「あ……、く……っ」

 

マキナの視界から、光が消えていく。

彼女の誇り高き身体は、殴ることも、立ち上がることも叶わず、そのまま静かに、泥と血で汚れた地面へと突伏すように倒れ込んでいった。

 

**ドサッ……。**

 

完全なる、沈黙。

 

ゴッドエデンの女王マキナ――敗北。

 

「……ハッ、驚かせやがって。最後の最後まで、本当に可愛気のない女ね」

 

女1は吐き捨てるように言うと、泥の中に動かなくなったマキナの頭を踏みつけようと、ゆっくりと足を振り上げた。

 

力を奪われた死神アレン。

機能を停止した知謀リース。

そして、泥に伏した女王マキナ。

 

楽園の神話が、完全に「無」へと塗り潰されようとしていた。

 

 

転スラの二次創作主人公でやって欲しい種族は?

  • 精霊
  • フェンリル
  • ドラゴン
  • 吸血鬼
  • 上位悪魔
  • その他(他作品とのクロスオーバー)
  • その他(コメントで書いて下さい)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。