女1の漆黒の刃がアレンの首筋へと肉薄し、女2が掲げた『アンノーン』の最大収束球体が、その巨躯を呑み込もうと膨れ上がった瞬間。
死線。奇跡も、覇気も、悪魔の実の力も介在し得ない、完全なる「存在の終焉」。
だが――。
ピキィィィィィィンッ!!!!
時間の流れすら停止したかのような、耳を刺す高音の霊子が弾けた。
アレンの腰元、ひび割れて砕け散る寸前だった『天鎖斬月』の柄から、漆黒の闇を眩むほどの、どこか神聖で、そして哀しいほどに澄み渡った「漆黒と純白の光」が溢れ出したのだ。
「なっ……何事だ……!? 壊れかけていたあの刃が……光っている……!?」
女1が眩しさに目を細め、思わず突き出した刃の軌道を逸らした。
「バカな……! アンノーンの領域内で、存在の再構築だと……!? 物理法則の計算が合わない……っ!」
女2もまた、その冷徹な瞳を大きく見開いた。
光がアレンの全身を包み込んだその瞬間、彼の意識は肉体の激痛や『アンノーン』の倦怠感から解き放たれ、急速に暗黒の底へと引きずり込まれていった。
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暗く、冷たい水面。
アレンがゆっくりと目を開けると、そこは新世界の海でも、ゴッドエデンの王宮でもなかった。
倒壊した高層ビル群が天地逆さまに立ち並び、雨の降らない曇天の空が果てしなく広がる空間――アレンの「精神世界(心象風景)」。
「……ハッ。久しぶりじゃねぇか、ここに来んのも……」
アレンは血の味のする唾を吐き捨て、水面の上に立ち上がった。
その視線の先、崩れかけたビルの屋上の縁に、一人の女性が静かにたたずんでいた。
漆黒のロングコートを風になびかせ、長い黒髪と、燃えるような紅い瞳を持つ美しい女性。アレンの魂そのものであり、半身であり、相棒――**『斬月』**。
「……呆れた男だ。能力を奪われ、覇気を封じられ、生身で泥に塗れて喧嘩とはな。相変わらず、貴様の戦い方は見るに耐えん」
斬月(女)は、どこか呆れたような、しかし愛おしむようなトーンで低い声を響かせた。その手に握られた漆黒の刀身は、精神世界の中ですら、あちこちに痛々しいひび割れを走らせていた。
「うるせぇよ。俺にはこれしかねぇんだから仕方ねぇだろ」
アレンは首を鳴らし、前髪を乱雑にかき上げた。
「……外の状況は、絶望的だ」
斬月(女)はビルの縁から静かに飛び降り、水面を滑るようにアレンの目の前へと歩み寄った。
「あの『アンノーン』とやらは、この世界の理(ルール)――悪魔の実や覇気、霊子までも等しく『無』へと還す異物。本来ならば、私という存在ごと、貴様の魂はここで完全に消滅していたはずだった」
「……だろうな。刀に触った瞬間、お前が悲鳴上げてんのが分かった」
「だが……私と貴様の絆は、あの程度の異物で断ち切れるほど柔ではない」
斬月(女)はアレンの胸元にそっと手を当てた。その掌から、温かな霊子がアレンの傷ついた心へと流れ込んでいく。
「私は今、己の魂の根幹を燃やしている。私という存在の全てを薪とし、あの異物の領域を強引に短時間だけ『上書き』する牙を錬成した」
「上書き……?」
「そうだ。……たった【5分間】だけ。この世界の理すら超えて、貴様に本当の『卍解』の力を与える。その5分間の中であれば、アンノーンの無力化も、生命力の吸奪も、貴様の『天鎖斬月』には一切通用しない」
斬月(女)の言葉に、アレンは無言で耳を傾けた。
だが、斬月(女)の紅い瞳には、深く、重い決意の色が宿っていた。
「……だが、アレン。分かっているな? これは『最後の賭け』だ。己の魂の根源を燃やし尽くす技だ。……この5分間が過ぎれば、私は完全に砕け散り、貴様の魂もまた……死に至る。生命の再構築は不可能なレベルで、貴様はこの世界から消滅する」
斬月(女)はアレンの目をじっと見つめ、静かに問いかけた。
「……死ぬぞ、アレン。それでも……やるか?」
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普通の人間の勇者や、この世界の海賊であれば、その命の重さに一瞬は躊躇したかもしれない。
だが、アレン・コルテスという男の答えは、最初から決まっていた。
「ハッ……」
アレンの口から、可笑しそうに鼻で笑う音が漏れた。
「なんだよ、斬月。改まってそんなこと聞くために、わざわざ俺をここに引っ張り込んだのか?」
アレンは血みどろの手で、斬月(女)の肩をポンと叩いた。
「死ぬのなんてな……**【俺はもう、一回経験してんだよ】**」
その言葉には、誰にも真似できない、奇妙なリアリティと絶対的な軽やかさが籠もっていた。
アレン、マキナ、そしてリース。
彼らは普段、互いに口に出すことはない。だが、彼らは皆、かつて一度「別の世界」で命を落とし、この『ONE PIECE』の世界へと生まれ変わってきた【転生者】である。
死の冷たさも、虚無の暗闇も、命が潰える瞬間の感覚も、アレンはすでに知っている。一度通ったことのある道(死)など、いまさら恐れるに値しない。
「一度死んで、拾ったようなこの二度目の人生だ。マキナ様がいて、リースがいて、俺が殺したアイツらが居て、スレナやヴァイパみたいなバカがいて……ゴッドエデンっていう俺の居場所ができた。……それをあんな影の薄い不細工どもに壊されるくらいなら、命の引き換えなんて安いもんだろ」
アレンの深紅の瞳に、迷いは一切なかった。あるのは、ただ一つ。
「あの不細工どもを殺せるなら……なんだっていいんだよ」
アレンの言葉を聞いた斬月(女)は、一瞬だけ目を見開いた。
そして、その美しい唇に、この精神世界で初めてとなる、誇らしげで、どこか愛おしさに満ちた笑みを浮かべた。
「……フッ。やはり、貴様は最高の主だ、アレン」
斬月(女)の身体が、まばゆい漆黒と白銀の霊子となって崩れ始め、アレンの胸の中へと吸い込まれていく。
「往け、アレン。これが……私たちの最後の戦いだ」
「おう。いくぞ……斬月」
視界が真っ白な光に包まれ、アレンの意識は再び、現実の地獄へと舞い戻った。
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**――ブワッッッッ!!!!!**
王宮のサンルームを包み込んでいた光が、潮が引くように収束していった。
「な……なんだ……!?」
女1と女2は、思わず数メートル後ろへとバックステップを踏んで距離を取った。
焦燥と不気味さが、彼女たちの胸を支配していた。なぜなら、自分たちが展開している『アンノーン』の計算領域において、目の前の男のパラメータが「計測不能(エラー)」を起こし始めていたからだ。
光が完全に止んだそこには。
アレン・コルテスが、静かに立ち尽くしていた。
その両足はしっかりと泥を踏みしめ、全身の傷口からは未だ血が流れている。だが、先ほどまで彼を苛んでいた激しい倦怠感や、生命力を吸い上げられる苦悶の表情は、跡形もなく消え去っていた。
そして――何よりも二人を戦慄させたのは、彼の手だった。
アレンの右手に握られているのは、一振りの漆黒の大刀――『斬月』。
先ほどまで、触れるだけで悲鳴を上げ、ひび割れて崩壊を始めていたはずの刀身が……今や、ひび割れひとつない、完全なる「漆黒の鋼」として、不気味なまでの静寂を叩きつけていたのだ。
『アンノーン』の領域内にあるはずなのに、刀が壊れない。
どころか、その刀身から、空間そのものを震わせるほどの重厚な霊素が、フツフツと立ち上っている。
「バ……バカな……ッ!? なぜだ!? なぜアンノーンの領域内で、その刀が崩壊しない……ッ!?」
女2が、初めてその冷徹な仮面を崩し、引きつった声で叫んだ。
「計算が……物理法則の書き換えが、あの刀の周囲だけ弾かれている……!? あり得ないわ! この世界のあらゆる存在は、アンノーンの前では無になるはずなのに……ッ!!」
「気安く……叫ぶなよ、不細工」
アレンは静かに、刀を両手で構えた。
その構えは、彼がこれまでの無数の戦いで見せてきた、どの構えよりも深く、鋭く、そして切り詰めたものであった。
「ア……アレン……お兄さん……?」
泥の中で横たわるヴァイパが、かすれた声でその背中を見上げる。
血に濡れたマキナの紅い瞳もまた、意識の混濁の中で、アレンが放つ「異常な存在感」を捉えていた。
アレンは呼吸を整えた。
胸の奥で、斬月(女)の命の灯火が、美しく、激しく燃え上がっているのを感じる。
残された時間は、五分。
自分の命が尽きるまでの、たった三百秒のカウントダウン。
アレンは、二人の黒ずくめの女を、氷のように冷たい瞳で見据えた。
「――これが、俺の最後の」
刀身を自らの身体と平行に重ね、柄頭の鎖を指先に絡める。
空間の歪みが、アンノーンの漆黒の霧が、アレンの周囲から恐れをなして弾け飛んでいく。
「――**【卍解】**」
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**―ガ、ァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!―**
次の瞬間、ゴッドエデンの全域を揺るがすほどの、凄絶な「黒き霊圧の柱」が、アレンを中心として天へと突き抜けた!
『アンノーン』が作り出した天の漆黒の蓋が、内側から強烈な光と衝撃波によって木っ端微塵に粉砕される。
悪魔の実の能力も、覇気の概念すらも置き去りにした、純粋なる「死神の魂の叫び」。
「キャアァァァァァッ!?」
女1が衝撃波に耐え切れず、腕で顔を覆いながら後方へと吹き飛ばされた。
「くっ……!? 霊圧……!? この世界のエネルギー体系とは異なる、狂的な密度の波動……っ! アンノーンの結界が、内側から物理的に破壊されていく……っ!?」
女2もまた、手に持った容器が激しく加熱し、警告音を鳴らし続けるのに慄いた。
黒い竜巻のような霊圧が、徐々に収束していく。
その中から姿を現したのは――。
漆黒のロングコート(截頭衣)を纏い、より一層研ぎ澄まされた鋭利な姿へと変貌した死神。
その手に握られているのは、巨大な大刀ではなく、漆黒の鍔を持ち、刀身の全てが深遠な黒に染まった、細身の漆黒の日本刀。
柄の末端からは、短く切れた漆黒の鎖がゆらりと揺れている。
――**『天鎖斬月』**。
完全に解き放たれた、死神アレン・コルテスの真の姿。
「ハァ……」
アレンが、白く冷たい息を吐き出した。
その身から溢れ出る圧倒的な霊圧は、もはや『アンノーン』の吸奪スピードを遥かに凌駕し、周囲の空間そのものを「死神の領域」へと強制的に上書きしていた。
「な……なんて、圧力……っ」
女1が膝を震わせる。能力も覇気も使えないはずの空間で、ただの「存在の質量」だけで自分たちが押し潰されそうになっているのだ。
アレンは右手に握った『天鎖斬月』の刃を、ゆっくりと二人へと向けた。
残された時間は、あと四分五十秒。
「……さて」
アレンの口元が、冷酷な笑みへと歪む。
「お前らの言う『無』ってやつと……俺の『死神』の力。どっちが早く相手を消せるか……勝負しようぜ、不細工ども」
最期のカウントダウンと共に、死神アレンの、狂乱の反撃が始まろうとしていた。
転スラの二次創作主人公でやって欲しい種族は?
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