ツッコミ所があるのは勘弁してクレメンス
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「──次はダイバーコード0085570127、スネオヘッド氏の追加登録機体だな」
「機体名は『ガンダム・ヘビーストーム』、サイズは1/144です」
「ヘビーアームズを大幅に改造した物だな。バックパックに積んでるのはファンネルか?」
「提出データによると元になっているのはケルディムガンダムのシールドビットだな。それをバックラー風にデザインした物が全部で6基」
「これを飛ばして攻撃中の死角をカバーしたりするわけか」
「……資料ではコイツの飛行能力と推進力はサイコフレームを使用する設定とあるけど?」
「その様だな。各シールドとバックパックにサイコフレームに見立てたクリアパーツと、その制御装置という設定で胴体内部に自作のメカニカルパーツが組み込まれている」
「おお、その制御装置パーツって小型バッテリーも兼ねてるのか。
これを電源として、内部に仕込んだLEDでクリアパーツが緑色や赤色に変色する様にしてるとは……なかなか凝ったギミックだねえ」
「他の武装は?」
「頭部バルカン2門、両肩に量産型ガンキャノンの物を改造して装備させたビームカノン。
ドッズライフルを流用し自作した連装ドッズキャノンを左右の腕に1基ずつ。
胸部に展開式の内蔵ビームガトリング砲2門、脚部に36発のマイクロミサイルが収納されたランチャーポッドを左右に1基」
「元機体以上の正面火力……なるほど、正にヘビーストームだな」
「ううむ、マイクロミサイルの1本1本まで細かく作り込んでいるな」
「機体本体も良い出来だ。パーツの合わせ目も丁寧に処理されている。根気よくヤスリ掛けした成果だな」
「墨入れもガタついてない」
「ただ、武装やギミックの作り込みに比べると機体そのものの完成度は平凡と言えるのでは?」
「情熱の偏り、技術と設定の不均衡……か」
「ディテールは細かいが、単純に他機体の武装を
「塗装も甘い箇所が幾つかあるな。武器の改造に労力のリソースを割き過ぎたか?」
「機体コンセプトから『派手に動く』事を想定していないせいか、足周りの可動部も少しぎこちない」
「スタンド無しで自立できるよう重量的なバランスを取っているせいかな?」
「──じゃあ最終評価に移ろうか。
採点担当はジャッジを」
「69点」
「75点」
「79点」
「70点」
「──92点」
「む」
「相変わらず君は採点が甘いな」
「私はビルダーの努力とロマンと情熱を評価してあげたいだけよ」
「甘いというより
「その役割上、我々はもっと厳密であるべきでは?」
「まあまあ。多角的な視点から全体的な完成度を評価するのだし、そういう観点も必要だよ」
「では機体性能、およびサイコフレーム関連の設定の再現度は、平均評価点に合わせて77%という事で」
「ではその様に登録します。
続いて、未成年の新規登録者であるダイバーコード0106361991、ななのん嬢の──」
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甘い。
甘いというより温い。
私の出したジャッジに対する評価を心の中で反芻しながら「まあ、そう言われても仕方ないな」という、どこか他人事の様な肯定を自身に下す。
だって仕方ないじゃないか。
私はガンダムが、ガンプラが好きなのだから。
同じ趣味の人間達が心血を注いで作り出した、彼ら彼女らだけのオンリーワンを無下に評価するなんて私には無理だ。
というより先程の評価点だって私的には「かなり厳しめ」だったのだが。
最近はガンダムタイプの機体を作る
みんな、もっと脇役モビルスーツやモビルアーマーで勝負してくれてもいいのよ?
そう思ってしまうのは、子供の頃からザクやリーオーといった量産型モビルスーツが大好きだった影響もあるのだろう。
──子供の頃。
そう、子供の頃だ。
私には「子供の頃の記憶」がある。それだけではない。女性として25年分の人生を歩んできた経験を有している。
予期せぬ大病を患い、大好きだったガンプラを組む事もできず、日に日に弱っていく身体に絶望しながら一日中を病室のベッドで過ごし、そして命が燃え尽きた──そんな経験すらも。
どうやら私は生前のフィクション界隈を賑わせていたジャンルである「転生モノ」と似たような状況に置かれているらしい。
それも世界的にガンダムシリーズが大人気で、ガンプラを操って対戦や冒険ができる夢のようなオンラインゲームが存在する世界線にいる者として。
それを知った時は歓喜と同時に落胆もした。
何故って?
私が転生した先は、そのオンラインゲームで「登録されたガンプラの出来を判定して、どこまで設定をゲーム内に反映させるかを決定する役割の自律型AI」だったからだよ!
人が作ったガンプラを(データとしてだけど)見たり触ったりできるのに、私自身はガンプラを買えないし作れないしゲーム自体も遊べないんだよ!?
こんな生殺しってある!?
転生したと自覚し、その事に気付いてから半年ぐらい(つまりゲームが稼働して半年ぐらい)はフテ腐れてた。
判定も適当だった。
ガンプラを作って、それに乗って遊べる子達に羨望と嫉妬を抱いてたんだね。
今は心の底から反省してる。
あの頃に登録してた子達、ゴメンね。
そんな私に衝撃を与えてくれたのが、とある少年が製作した1体のガンプラだった。
ガンダム・ダブルオーダイバー。
名前だけ見た時は「駄洒落かよ!」と思ったものだが、実機データを目の当たりにした時は、物理的な電流がAIユニットに漏れたのかと錯覚するほどの激しい感情が私の中を走り抜けたのを今でもよく覚えている。
正直その時点では、かなり甘い部分もあった。
だけど、そのガンプラには作り手の「愛」や「強い想い」が確かに込められていたのだ。
勿論、それまでだってガンプラに対する愛に溢れた機体を作る子はいた。そして私もそれ相応に評価はしてきたつもりだった。
だが、ダブルオーダイバーは「何か」が違った。
その「何か」を構成する要素が如何なるものだったのかを知るのは、もう少し先の話になるのだが──ともかく私は動揺のあまりエラー検知時の自己診断プログラムが走ってしまいそうになるほど衝撃を受けた。
「100点!」
他キットから流用したパーツとの整合性が甘い。
武装のディティールも荒い。
両肩のコーンスラスター基部へのブースター追加によって得られるであろう機動力と本体の耐久力とのバランスが悪い。
全体的なブラッュアップが不十分。
おそらくは急造であるが故だろう──「プラモ」としては完成してはいるが、「GBNで動く機体」としては未完成という、非常にアンバランスなガンプラだった。
けれど、私は満点を宣言していたのである。
ガンプラの向こうにいるビルダーの情熱や作品への愛情といった「想い」が、そして更に先へと──空へと駆け上がらんとする「可能性」が、このガンダム・ダブルオーダイバーの中に満ち溢れているのを感じ取ったのだ。
それは「未来」であり「希望」である。
ガンプラもダイバーも、GBNですらも「進化」できるという未知なる財産だ!
完成度判定AIとして、真に見定めるべきはそこなのではないか!?
勿論、他のAI達からは疑問の声が上がったが「多様な視点から吟味する」という理念に沿うという事で、私は「そういう考え方をするポジションのAI」として落ち着いた。
だから私が導く点数は、そうしたものを加算した「甘い」あるいは「温い」ものになる。
けれど、それでいいのだ。
GBNで動かせる身体が無い私の代わりに、様々な色を持つ情熱を込めた機体で思いっきり楽しんで欲しいから。無限の可能性を引き出して、世界を無限に切り拓いて欲しいから。
だから私は彼ら彼女らの背中を、甘く温く押してあげるのだ。
これでいい。
これでいいのだ──
などと達観したような事を散々と語ってきたが、私はAIであっても仙人ではないので、やはりビルダー達が羨ましいし、私だってGBNで遊びたい!
仮想空間の中に浮かんでいるモノリスみたいな形状の身体を器用に伸び縮みさせて悶絶してみても、状況に変化など訪れるはずもなく。
私は登録受付時間が終了すると、プライベート空間(各AIが定期的な自己診断や休眠モードに入る為に独立して設けられている領域、要するに「個室」)で、ビルダーやダイバー達が活躍する映像記録を眺めるしかないのだ。
とほほ。
──しかし。
訪れるはずの無い「変化」が、ノックと共に訪れるなんて、この時の私は想像もしてなかったのである。