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突然だが、私はドムが好きだ。
ジオン公国軍が誇る傑作モビルスーツの、あのドムだ。
黒と紫という「強み」を感じさせるカラーリングも良いし、あの見た目通りの重装感、熱核ジェットホバーによる疾走感も堪らない。
なんならそこから父性だって感じてしまう。
十字型のモノアイレールという頭部デザインが斬新で、グフ以上に「ザクとは違うのだよ、ザクとは!」という気概にあふれてると思わない?
正式採用されてるのに胸部の拡散メガ粒子砲の出力が足りなくて目眩まし効果しか発揮できてない所とか、なんとも可愛げのあるポンコツ感も好きだ。
勿論、リック・ドムも好きだ。特に統合整備計画でリファインされたリック・ドムⅡ(ツヴァイ)の、ドムでありながスラリとしたフォルムなのに、ちゃんとドムってるデザインが大好きだ。
12機も揃えておいてカップラーメンが完成する間もなく全滅させられる「やられメカ」っぷりも
無論、ドムの派生系も大好きだ。
まだガンダムファンとして未熟だった頃はドワッジとかドワスとか「何それ、ふざけてるの?」と思っていたが、円熟してくると味わい深い機体だと気付いた。
バインニヒツとかグロウスバイル等の「計画上だけの存在で実機は完成しなかった機体」という設定も燃えるではないか。
後継機であるドライセンや、直接的な関連性はないものの個人的には顔つきがドムっぽいなと思っているゲーマルクも大好きだ。
それはそうとゲーマルクはそろそろキット化すべき。早くすべき。ドゥー・イット・ナウ!
あと別世界線である『ガンダムSEED DESTINY』に登場したドム・トルーパーも、従来のドムらしさを残しつつも「新しいドム的存在」としてのデザインが確立されてて大好きだ。
とにかく、私はドムという機体が好きだ。
電脳的な存在となった今なら彼氏として欲しいぐらいだ(錯乱)。
だからドム系のガンプラを登録してきたダイバーには、いつも以上に甘い採点となってしまうのも仕方ない。
仕方ないのだ(2度目)。
だからプライベート空間で彼ら彼女らの活躍を視聴する時も、ドム系の機体を使ってる子を優先して見てしまう。
G-Tubeで配信してたらチャンネル登録して投げ銭してるぐらいだ(我が身に残った人間的な欲望に逆らえず、こっそりオンライン株取引で小銭を稼いでるのはAI仲間や運営には内緒)。
ちなみにプライベート空間のレイアウトは六畳の和室をイメージして構築してある。
ちゃんと開閉する
それも
残る4割の内、1割はオンライン株取引と銀行口座の運用に割り当てている。
まあそれはともかく。
その日も私はドム乗りダイバーの生配信を視聴していたのだ。
人が日々ガンプラの査定をしてる間に、GBNはブレイクデカールという違法パッチの蔓延から端を発したシステム崩壊の危機、そして電子生命体の誕生に伴う再度の崩壊危機と「救済か抹消か」を巡る争奪戦という大騒動を迎えていたらしい。
危うく職を失うどころか下手をすればGBNごと消滅してたかもしれない事態は、さすがに洒落になってないでしょッ!
人が関知してないところで、そういうの
まあGBN内で生まれた電子生命体──エルダイバーと呼ばれているらしい──が外部にデータをダウンロードして「1人のダイバー」としてアクセスするという形で決着をみたようで、その日の配信も当時を振り替える内容だった。
道理で、あの時期の機体更新がトンでもない数だった訳だ。
この配信をしているドム乗り君は抹消側である有志連合の一員として動いていた様だが、開始早々に撃墜されたんだとか。
ドンマイ!
まあ本音としては「女の子の姿をしている上に感情や人格のある存在を消すような事態にならなくて、正直ホッとしている」という事なので「良かったね!」のコメントと共に投げ銭チャリーン。
今後もドム乗りとして頑張って!
ともあれそうした騒動の中心にいたのが、あのダブルオーダイバーの子だと知った時は感慨深かったよ。
やっぱりあの時に感じた可能性の予感は間違ってなかったんだなって。
満点出して良かったなあ。
そうやって配信を見ながら「あの子はワシが育てた」感に耽っていたら。
トン、トン
プライベート空間の襖が(少し遠慮がちな調子で)ノックされたのである。
「え?」
モノリス状の体から思わず漏れたのは、そんな私の間抜けな声。
いや、たしかに部屋のデザインとして出入り口という概念の「襖」を作りはしたけれど、実際そこから出入りするわけではない。あくまでプライベート空間を「部屋」という記号として認識する為のガジェットとして設定したにすぎないのだ。
一応こだわりとして開け閉めできる構造にはしているが、基本的に移動はサーバー間の直接転送になる。
こうして直接的な訪問は無意味な行動のはず。
私以外のAI仲間には、そんな酔狂な真似をする奴はいない。
じゃあこのノックは誰のだ……?
不可解な現象に、どう対応するのが正解なのか──
襖1枚隔てた不可視の向こう側に、AIとなってからついぞ忘れていた「恐怖」を思い出した。
「ひゃ、ひゃい?」
まあ、人間の時だった癖が反射的に
返事が上擦って変な音階になったけど、そこは全力で見逃せ!
「え、そこに人がいるの!?」
返ってきたのは「予想外の返事に驚いた少女」……といった感じの声。
ノックしといて何じゃそりゃと思わなくもないが、よくよく考えるとこの部屋って外側から観測すると「何もない空間に襖だけ立ってる」光景になってるはずなんだよね。
とりあえずノックはしてみたけど、まさか本当に誰がいるとは思ってなかったんだろう。
という事は、襖の向こうにいるのはAI仲間ではないな。アイツらなら部屋に(勿論ノックなんて紳士淑女的な行為など無しに)直接転送してくるし、私の存在に驚く事も無いはずだしね。
あれ?
じゃあ、ますますこの声の主は誰なんだ?って話になるのだが。
「とりあえず入ったら?」
「え、いいの?」
「襖越しにコミュニケーション取るのが貴女の国の文化なら、それで構わないけど……」
「そんな国民皆引きこもり文化な国は嫌だなあ」
おお……会話が成立してるし、軟らかいボケに柔らかいツッコミで返してくれる……!
とりあえず恐ろしい存在とかではなさそうだ。ちょっと安心。
「じゃ、じゃあ、おじゃましまーす……」
ガラリ。
如何にも勇気を振り絞りましたといった勢いで、電子的な襖が開かれる。
そこには美少女が立っていた。
ライトな紫色を基調とした巫女服っぽいものを着込んでいる。
外見は十代前半といったところだろうが、この空間にいるって事は(私のモノリスボディの様に)GBNのアバターであるのは間違いない。
迷子のダイバーかな?
いや──ここは完成度判定AIのみが活動する独立した領域であり、誤ってダイバーが入り込めるような場所ではないのだ。
ではこのパープル巫女ガールが有している可能性は2つだ。
(1)運営スタッフがAIと接触する為に設定した管理者用のアバター
(2)ハッカーが完成度判定に対する不正をする為に用意した作業用端末としてのアバター
まず(1)については有り得る話で、実際GBNの開発者や運営のトップが謎鳥やらSDガンダムのアバターで活動してたりする。
しかし仮に彼女もそうだとするならば、私に対する態度に説明がつかない。運営の人間ならAIの存在は知っていて然るべきだし、知らない人間であれば尚更アバターを作ってまでAI用の領域にダイブしてくるとは考えにくい。
となると彼女は運営の人間ではないという結論になる。
かといって(2)も考えにくい。
ブレイクデカールという違法パッチ等の不正行為は確かに存在しているけど、GBNのシステム周りのセキュリティは相当に堅固だし厳重だ。常時リアルタイムで監視とチェックのプログラムが走っていて、ちょっとした軍事基地並の規模というのも大袈裟な比喩ではない。
そんじょそこらのハッカーなんて返り討ちにできるのだ。
言っちゃなんだが、このパープル巫女さんの挙動から「凄腕のハッカー」めいた気配は感じられない。
「ふえっ!? は、箱!?」
凄腕のハッカーがモノリスボディを見た途端、そんなすっとんきょうな声は上げたりしないだろうし。
「まあ見た目は確かに箱だけどね。
でも格式高くモノリスとか呼んで欲しかったなあ」
「しゃ、喋ってる……というか、モノリス……?」
困惑と混乱と疑問が同時に到来したせいか、どんな表情をしていいのか分かんなくなってるな。
めっちゃ引きつった笑みを浮かべてる紫巫女ちゃん。
というか、そうか、今の若い子って(アバターだから見た目通りの年齢とは限らないけど)モノリスを知らんのね。この世界にも元になった映画は存在してるみたいなんだけどなあ。
まあいいや。
ここは平和的に自己紹介から始めてみよう。
「私はガンプラ完成度判定AI、ナンバー106。
貴女は?」
「ッ! わ、私は──」
彼女は一瞬だけ言い淀むと、
「私は……何者なんですか……?」
と、顔を俯かせて答えた。
こちらの平和的なアプローチは、なにやら哲学めいた質問で返されてしまうとは予想外だったよ……
うーん……ここは某手首フェチみたいに「質問を質問で返すなァァーッ!」と怒ってみるべきだろうか。
ですよね。
さて、どうしたもんか……