常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
第一話
『きまったー! 最後はエース吉城がマウンドに上がり今シーズン最後の、そして日本での最後のセーブをあげ、福岡サラマンダーズ三年連続の日本一!』
最後のアウトを取り、マウンドで雄叫びを上げる我らがエース。空間をビリビリと揺らす大歓声のスタンド。栄光の時間を共に讃え、そして味わうためグラウンドから、ベンチから、チームメイトが一斉に飛び出す。
そんな中でも遊撃手を守っていた俺がいち早くマウンドのエースへと飛びつく。
「やったな
「
続いて次々にもみくちゃにされるエースとついでに一番近くにいた俺。
なんとも情けない悲鳴をあげるエースが、いつのまにか二度三度と空に打ち上げられる。
今シーズンリーグ93勝を挙げ、ぶっちぎりのリーグ六連覇を成し遂げた我ら福岡サラマンダーズ。俺たちはペナントレースの勢いをそのままにCSを突破。そして今日、六年連続となる日本シリーズでの勝利を収めたのだ。
俺としてもプロ6年目にして初の一軍完走。自惚れるつもりはないけれど初めて、優勝に貢献できたシーズンだったと思う。
「この度はぁ、うっ、ぐずっ! こ、この最高のぉっ、仲間たっ……たちとぉ!」
「泣くな泣くな、キャプテン! しまらねーぞ!」
「あの人去年もあんな感じじゃなかったですか?」
「安心しろ、一昨年もだ」
舞台を移し、ビールかけ会場に到着したのはいいものの感情を抑えきれず、呂律の回らないまま号泣する主将。あまりにも泣くものだから、ビールの温度と反比例するように勝利の余韻がどんどんと冷めていくのを感じる。
最初はビール瓶を両手に今か今かと待っていたチームメイトも、共に涙を流すコーチ陣ですらもどんどんと野次を飛ばす。
「ちょっとー! ビールぬるくなんだけど!!」
「早よ言えー! どうせ大したことしゃべらんやろー!」
「うるせー!! ぐずっ、こんな、こんないい日なんだ、たまには泣かせてくれ! ズビッ」
「「「「あんたは常に泣いてんだろーが!!!」」」」
「うちのキャプテンは泣き虫だな、ほんと」
「あっ吉さん、こっちいていいんですか? インタビューとか?」
「まだ始まりそうにもないからな」
確かに、とステージ中央を見ると、先ほどまで泣きじゃくっていた主将の剣持だったが、あの野次の中でもしばらく治る気配がない。あの人、普段は冷静で頼れる人なのに、こういう場だと本当に面倒くさい。
「……なぁ、ユキ。酒が入る前に今のうちに言っとく。今シーズン、俺達がタイトルを総なめできたのはお前の力が大きいよ」
「な、そんな、急に褒めんでください。チームみんなで取った優勝でしょうよ」
「シーズン開幕時怪我人が続出した中、内外野全部できるお前がいたからチームが大きく崩れなかった。打率はそんなに高くないけど、チームの流れが悪い時なんかにいつも打ってたよな。そういう数字以上の活躍ができるお前が1年間一軍に居続けた。……俺的には、このチームの陰のMVPはお前だと思ってるよ」
まだ飲んでないよな? この人。人を褒めるなんて滅多に……あぁ、この人も感傷に浸るなんてことがあるのか。
「珍しいですね。シラフでそんなこと言うなんて。自分で決めたことでしょ」
「まぁな。最後に優勝を飾れた。タイトルもいくつか取らせてもらえた。お前みたいな、心残りになりそうな奴らも育ってきた。……不安も、後悔もないはずなのに、どうしてもな」
「なら寂しいんでしょ」
まったく……この人は。
誰よりも真っ先に練習場に来て一番遅くまで練習する努力の鬼のくせに、ポジションなんて関係ない! って勝つためのミーティングを自主的に、中心となってやって。
誰よりも仲間思いで、誰よりも勝つことにこだわってきたことなんて、今更みんな知っているんだ。
「誰だって大切なものを手放すとき、それも、必要だって分かっているからそう思うんでしょ」
「そうか……そうかもな」
「でも勘違いしてほしくないのは俺たちはあんたに手放されるつもりはないですよ」
ステージを向いていた吉さんが初めてこちらに顔を向ける。
「吉さんが俺たちを大好きな分、俺たちも吉さんのこと大好きなんで。あっちでしんどくなって、辛くなったらいつでも遊びに来たらいいじゃないですか」
だから、精一杯、アメリカで戦ってきてください。
最後までは発さないが、少しでも尊敬する兄貴分の力に、否、ほんの少しだけ背中を押せるように。
「遊びに……か。……なぁ、ユキ――」
「それでば! 優勝をぉっ、祝って、乾杯!」
ヨシさんが最後に何かを呟いたがそれはようやく発せられた乾杯の挨拶に遮られる。
「何すみっこにいんだオメーら!」
「乾杯だバカやろー!!」
「吉城投手インタビューよろしいでしょうか!」
……すまん行ってくる」
長々と続いた主将の挨拶からついに始まった祝勝会。
本当に少しの時間を見つけてこちらにきてくれたのだろう。始まるや否や、人気者はあちらこちらに引っ張られ、また一緒に飲める雰囲気ではない。
最後に呟かれた言葉はかき消されてしまったけれど。
「大丈夫です。ちゃんと聞こえましたよ」
この後すぐに吉さんのアメリカ挑戦が発表。元々、日本球界No.1と称された投手。メジャー球団が複数調査していたこともあり、すぐに入札がいくつも上がっていった。
祝勝会の後からもう、忙しく準備する吉さんとはなかなか会うことすらできず、時間が過ぎてしまった。それでも。
「まかしてください。あんたの代わりに俺がチームを引っ張ってやりますよ」
あの人のために、ファンのために。
まずは来期のレギュラー奪取、そして規定打席到達。
自分のため、チームのため、この常勝軍団の要となれる存在に。
――そう、誓ったはずだった。