常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
第十一話
今年もシーズン開幕まで残り一ヶ月を切った。各チームすでに調整は最終段階に入る頃。
現在白熱する春季非公式試合――通称「オープン戦」
各々、試合数にバラツキこそあれど、その最後の調整試合として順調に日程を進めていた。
もちろん、調整試合とはいえお客さんも入り、何より成績をつけられる。プロとして、スポーツ選手として、勝利を目指すのは当然のことだろう。……ただ1チームを除いて。
「……同リーグのライバル、広島モンキーズを相手に13対0と大敗した。先発有田は3回7失点でノックアウト、打線は徳重、遠藤を中心とした布陣も散発4安打と沈黙……これでチームは連敗記録を5に伸ばした……っと!」
「あんまり悲しい記事ばっか書くなよ柏田ぁ。たまにはいいニュースもあったろ。全試合出場中で絶好調の橋本とかさ。打率.222(18打数4安打)だぞ? この調子をシーズン開始まで持っていってほしいみたいな記事をだな」
「そっちを記事にする方が悲しくありません?」
オープン戦が強いチームは、シーズンで失速するなんて迷信はよく耳にする。
だからといって、オープン戦もボロ負けしていいとは、誰も言っていないはずなんだけれど!
「荒れてるなぁ、柏田。まぁ、ひとまず今日勝てばいったん良しにしようぜ。たった1試合だけとはいえあの横綱の胸を借りれるってんだからよ」
「もちですよ古市さん! なんたって今日は球界の絶対王者、福岡サラマンダーズとの試合ですもんね」
――――
「今日はよろしくお願いします。牧監督」
「ん、ああ君か。そっちだと、もう開幕一軍に残れそうで何より。今日はよろしく頼むよ」
「……剣持さんとか、緋村とかお元気ですか? 会いたかったんですけど、今日は球場入りしないってお聞きしたので」
「さぁ、どうだろうな」
……そっけねぇなこの人! 宮ちゃんから意外といい人とか聞いていたけど絶対嘘だ! 試合前の腹の探り合いとかでは無く、ただの雑談でしょうに!
開幕前の貴重な試合。ペンギンズはリ・リーグ、サラマンダーズはレ・リーグと所属するリーグが違うため、試合は組まれない。次に試合ができるのは6月ごろの交流戦までお預けだ。
ということで、古巣への挨拶でやってきたはいいものの、牧監督がこちらに、視線を全く向けない。
何が面白いのか熱心に資料を読み込む姿に、心を折られたため早々に切り上げる。
……それにしても、知っているコーチがほとんどいなくなってるな。
監督人事に伴い、コーチ陣が大幅に入れ替えされるのはよくあること。
だが、見慣れたサラマンダーズのホームグラウンドは、たった数ヶ月ぶりに来たというのに、雰囲気がだいぶ変わっている。
「ユキさんもう少し体動かしません? 付き合いますよ」
「ん、頼む京水」
そんな、感情に浸る僅かな暇すら惜しい。試合開始まで、もうまもなく。
京水――橋本に練習を頼まれてからそう呼ぶように言われた――とウォーミングルームでキャッチボールを行う。
彼と練習をして思ったのが、守備だけならばどこへ出しても恥ずかしくないほどに上手い。全身を上手く使いこなし、俊敏性も高いため難しい打球にも追いつきアウトをとれる。
それこそ、俺に頭を下げる必要もないほどに。……いや、そういう向上心があるからここまで伸びたのか。
逆に、バッティングはそこまで良くない。オープン戦打率2割2分台で、ものすごく打てていると評価されるほどに。
しかし、足が速くて肩も強い。パワー自体はそこまでないが、体を自由に操れるセンスがある。高卒3年目でまだまだ伸びしろも十分。本当にいい選手である。
「うぉーい、ユキ! オーダー表見たか! っと京水もおるやん」
「どうしたんすか、先発ピッチャー。相手がプロ野球オールスターみたいな打線なのは知ってるでしょ」
「ちゃう、逆や! なんやこの舐め腐ったオーダー!」
青筋を立てながらも、今日先発のはずの柿田が強引に俺たちのボール回しに入ってくる。
俺も先ほど確認したんだが、並べられたサラマンダーズの打順表には、昨年までの主力メンバーは1人もいない。
その代わり先発と1番打者、そして4、5番には背番号が3桁の選手……いわゆる育成選手が入っている。
オープン戦はあくまでペナントレースとは違う試合だ。そのため育成登録の選手でも1試合に5名まで出場することができる。
実際うちも、7番レフトに育成の竹沢が入っているしな。
だが、仮にも1軍の試合で、主力無しにここまで極端に出してくることは滅多にない。
「舐め腐りおって……お前の古巣どないなっとんねん!」
「俺もさっき行ってみたけど、結構首脳陣変わってて雰囲気もだいぶ違ったからなんとも……」
ズバシーンと、力強いボールが何度も何度も飛んでくる……柿田今日長いイニング投げる予定だよな……? さすがに試合への影響が出るんじゃないか。
「別にいいじゃないですか。誰がきても、あのサラマンダーズを抑えれば
「えっ……あ、せやな! そうやそうや、大事なこと忘れとったわ。サラマンダーズを抑えてアピールできるええチャンスやん! ユキぃ、お前の古巣最高やな!」
「どっちだよお前」
「まぁ、打たれたらだいぶマイナス評価なんで気をつけてくださいね」
余計なお世話じゃ! と叫んだところで球団スタッフの1人が駆け込んでくる。
なんでも、先発なのにどこにもいないって探していたらしい。マジでこんなとこにいる場合じゃないじゃん。