常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第十四話

 今日のサラマンダーズ戦は、結局相手の打線が7回から爆発。毎回連続で得点を入れられ、11対4と大差での敗戦となった。

 

 ベンチから向こうを観察していたが、2点差まで詰められても、それこそ俺にホームランを打たれても常に向こうのベンチには動揺とか、焦りみたいなものはなかった。

 

 選手はともかく首脳陣からは予定調和みたいに、淡々とことを進めているように感じた。

 彼らにとって、最後までこの試合は勝負の場ですら無かったのだろう。

 

 そんな彼らに大差で負ける程度の実力。改めて、ペンギンズ(このチーム)が弱いことを自覚する。

 

「カキ、悪いけど先行ってるよー!」

「ごめんて、俺1人で不安やからもうちょい待ってや! すぐ終わるから!」

 

 帰りのバスに乗る直前、柿田が急に催したらしい。

 どうやら試合中、緊張と打たれたストレスでスポドリを飲みすぎてお腹がゆるくなったとかなんとか。

 挙げ句の果てに、ここ『REDEGG(レデェッグ)スタジアム博多』はかなり複雑な構造をしているためトイレに全く行けなかったとのこと。

 

 仕方なく、ここに詳しい俺が案内役としてついてきたのだがなかなかに長い。今日の試合よりよっぽど激戦のようだ。

 

「いや……マジでごめんて……情けなくて……すまん」

「……試合前時間なかった分、知ってるコーチにも顔見せてくるわ、10分ぐらいしたら戻ってくる。出すもんちゃんと全部出しとけよ」

 

 そう言い残して、トイレを立ち去る。おおきに、と背中の方から聞こえた気がしたが……気のせいにしておいてやろう。

 まぁ、用具室は近いし、もしいるなら、顔を出しにぐらいは行きたい。

 

 なんて、考えていた足がふと止まる。

 

「幸村なぁ、いい選手ではあるんだけど……今日の結果を見るかぎり放出して正解でしたね」

 

 用具室から比較的近い、給湯室から聞こえる声。馴染みはないが、それは新しくきたコーチ達の声だとすぐに気づく。

 

「今日もホームラン打っていましたし、完成度は去年あたりから纏まってきた感じするけれど……将来性込みで見ると緋村を今年使う方が良さそうだよな」

「下手に飼い殺しにするぐらいならってことでトレードの駒にしたらしいけど、有永を取れるなら余裕でお釣りが出ますね」

「それに、ペンギンズなら幸村ぐらいでも簡単にレギュラー取れそうだもんなぁ! いやー一石三鳥ぐらいのいいトレードだったんじゃないですか?」

 

 いつの間にか、自分が話題の談笑に聞き耳を立ててしまう。

 それが、俺の――

「何をしているのかね」

 

 立ち止まる俺に声をかけるのは、試合前、あんなに興味のない様子を見せた牧監督。

 

「何を聞き耳を立てている。不審者そのものだぞ。即刻戻りたまえ」

「あっ……すみません。用具室に顔出したらすぐに戻ります」

 

 確かに、その通りだ。柿田も待っているだろうしすぐに要件を済まそう。

 そう思い、なんとか動き出す足を再び止めたのは、牧監督の深い深い溜息だった。

 

「いつまでサラマンダーズの一員のつもり(うちのかお)でいるのかね。君はもうこのチームの一員ではないんだ。無駄にウロチョロしないでくれたまえ」

 

 どきり、と心臓が跳ね上がる。急に、俺が目を背けてきた事実を、背中から突き刺される。

 

「律儀な行動のつもりか? 私には未練を隠せないガキのようにしか見えない。不愉快だ。即刻戻りたまえ」

 

 あまりにも強い言葉、聞きたくない事実が何度も突き刺さる。

 

 ……ああ、この人が俺に興味を向けなかった理由がわかった。そもそも、この人にとって俺はもう切り捨て終わった選手。プロ野球選手として見られていないのだ。

 

 スクラップした新聞や雑誌の、使われなかった紙屑。しかもそれが、ゴミ箱に入らず目の前に何度も落ちてきて不愉快。その程度の存在が俺なのだ。

 

「……せめて、せめてこれだけは聞かせてください。もし、俺が今年もサラマンダーズにいたら、俺にチャンスはありましたか?」

 

 ……身体中の体温が奪われる様だ。指先に力が全く入らない。

 それでも、答えは聞きたくない事実だとしても、この人の口から聞きたい言葉を聞くために震える口先を動かす。

 ……だが、それは想像以上に強い言葉で。

 

「ない。ありえない。そもそも、便利屋、ユーティリティなどと言われるが、私から見ればただの器用貧乏を言い換えただけにしか思えない。君程度の代わりなんて腐るほどいる。トレード(それ)がせめてもの慈悲だとどうしてわからない」

 

 そう言い残すと、ばたりと給湯室へと消えていく。

 

 ……俺が不服に思うトレードは、今年取れると思っていたサラマンダーズのレギュラーは、ただの思い込みだったと突きつけられる。

 

 ――ふざけるな

 

 側から見ればそれは妥当な結果であり、所詮活躍と思っていた去年の結果は、他の人でもできた結果らしい。

 

 ――それを偶然、俺が担っただけだと?

 

 『幸村とか誰だよ』『幸村で有永取れんのかよ』

 

 ――黙れよ

 

 『ユキムラハゴクロー様』『神田と口論! プレーに責任を持てない選手はチームから外すべき』

 

 ――なんで俺を使わない、俺をもっと使ってくれよ

 

 ……何がこのチームが弱いだ。何を勝手に他人事にしているのだ。

 

 ――ならばちょうどいいじゃないか

 

 モヤモヤとした黒いものが腹の中でぐるぐると蠢き出す。今までにない感情が、頭の中を駆けずり廻る。

 今まで見ようとしてこなかったこと、今まで考えようとすらしてこなかったこと。

 

 ドクンと、力強い鼓動が聞こえる。あの日、止まった俺の心が、ようやく動き出した音。

 

 ペンギンズ(このチーム)でも便利屋で終わってたまるか。

 最も得意とする守備で、評価された足で、ようやく掴めた打撃で。

 俺を、幸村早南也をみくびった世間を、サラマンダーズを、そしてあの監督を。全員、黙らせてやる。

 『器用貧乏』だなんて、二度と言わせない。世界に、俺の『万能』を証明する。

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