常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
「ダメヨ、ギンチャン……私ニハ愛スル妻ト子供ガイルノ……」
『そういいつつよらないで! こわいよ!』
「私、日本語ヨメナイ、何イッテルノ? 半田サン」
「一言で言うと……『Welcome』ですね」
「OK」
『いってないよね!!』
「……朝っぱらから何やってんすか」
ドアの向こうには濃厚なバラ景色が広がっており……。朝の10時から見るものじゃないな……。帰ろうかな……。
――――――
「Sorry、幸村。デモ、ノックシナイハダメヨ」
「いえ、何度もされてたので私が入れました」
「アラ、ソーナノ半田サン。ナラゴメンネ幸村」
「いえ……」
おかしいな……いきなりとは言え、呼び出したのはモーリス監督だけのはず。
それなのに、朝一から濃厚な
俺が来なければどうなってたんだろう。気になるけれど知りたくない。
「で、いつまで隠れてんすか
『きをつけろ! やつはけだもの!』
情けなく俺の背中に隠れながら、ブンブンと自慢のスケッチブックを振る1羽のペンギン。先日のイベントでの傍若無人な態度はどこへやら、なんとも情けない姿。
しかし彼こそ、我らが大江戸ペンギンズ球団マスコット兼
あと俺を中に入れてくれたGM秘書の半田さん。
モーリス監督への要件は、内容が内容なだけにあまり聞かれたくはないのだが。
「GMはなんでここに?」
「もともとお二人は見ていただいた通りの関係でして、
「えっ……! えぇ……そういう関係って、そういう関係ですか……?」
「はい」
『のー! のー! ちーがーうー!』
半田さんとのやりとりを、ベチベチと翼で叩かれながら否定される。
どうでもいいが振り回しながらも、スケッチブックの文字がすごく読みやすいところにプロ意識を感じる。
『ゆきむらがくることをもーりすからきいたの!』
『きみにつたえたいことがあるからきた』
伝えたいこと……? まさか2軍落ちとかか? いやそれなら、いつも通りコーチからの連絡でも良いだろう。
それに出番こそ少ないが結果は出せているはずだ。……いや、出番が少ないということは、落とされる当落線上にいるってことだよな。
他に使いたい選手がいれば、結果や状態関係なく落とされる。ここはそういう世界だろう。
……でも、ここまで来たんだ。今更引き下がれない。
「デ、幸村? 急二呼ビ出シテドウシタノ?」
「自分の起用法について、聞いていただきたいことがあります。――オープン戦の1試合、1試合だけでいいです。俺を最初から最後まで使ってください」
「Oh……直談判ネ。デモ、今幸村スゴク頼リニシテル。デレナイ子モ沢山。贅沢ジャナイ?」
確かに2軍だけでなく、1軍に帯同しつつも、俺以上に出番のない選手だっている。
それに、去年まで複数ポジションを守れる選手や、代打・代走のような一芸に特化した選手のほとんどが、俺のせいで出場機会を失っている。
「出番があるだけ幸せだと言うことは理解しています。……でも、与えられるチャンスを待つだけじゃ、俺はまた便利屋で終わってしまう。……それだけはどうしても嫌なんです」
「フゥン……デモ、ダーメ。オープン戦ノ貴重ナ1ゲームヲ、君ノタメ使エナイ。」
当然のことだろう。一選手の戯言を聞く必要はない。それでも……あの日の言葉が頭の中を過ぎる。
『幸村なぁ、いい選手ではあるんだけど……今日の試合見るかぎり放出して正解でしたね』
『便利屋、ユーティリティなどと言われるが、私から見ればただの器用貧乏を言い換えただけにしか思えない。君程度の代わりなんて腐るほどいる』
……また、俺の自意識過剰で終わるかもしれない。実は、このチームでも俺は控え選手の1人……いや、それ以下の選手かも知れない。
――それでも
「……っ! そこをなんとか、一度だけでいい! 俺に1試合を……1試合あれば俺の価値を証明できる! これが最初で最後でいい! だから俺にチャンスをください!」
ありったけの思いを込めて勢いよく頭を下げる。
だが、そんな俺の懇願から一拍を開けて、諭すように監督が話す。
「フゥ、何ヲソンナニ焦ッテルカワカラナイ……。最初デ最後? NOヨソンナノ。君ニハ君ノ役割アル。信頼ハ実績ヲ積ミ重ネテ初メテ出来ルモノデショ」
……監督の言葉は、正論だ。いきなりレギュラーへのチャンスをくれ、だなんて図々しいにも程がある。――でも、俺だってそんなの百も承知で来たんだ。
このまま諭されたまま帰って――
「幸村選手、顔をあげてください。GMからもお伝えしたいことがあります」
そんな、俺の考えはその声で遮られる。一瞬だけ、不意を突かれて真っ白になった頭で、半田さんから言われ通り顔を上げる。
『やっぱりきてよかった』
『むこうからきいてない? このとれーどはうちからもちかけたって』
ぺらり、ぺらりと、ゆっくり捲られるスケッチブック。そこにひらがなだけで書かれた文字は、ずっと聞きたかった言葉。
『ただのひかえにありながをださないよ』
『きみはすごくいいせんしゅ。ずっとちょうさしてた』
『しゅび・そうるいはいちりゅう。でも――』
『9がつごろから、だげきでなにかつかんだでしょ』
それは、前球団も気づいていなかった俺の小さな変化。
別に、9月の成績が特別良かったわけじゃない。数字だけ見れば、4月の方が良い。
それでも、自分の中での感覚がようやく掴めたあの時。
唯一気づいてくれたのは剣持さんと吉城さん、あとは
そのぐらい、小さな変化。
それを、見ててくれたのか。
『それにきみは、いまこのちーむにたりないものをもってる』
『しあいへかけるしゅうねん』
『けっかへのしゅうちゃく』
『ぷれーひとつひとつのしゅうちゅうりょく』
『さいきょうをしるきみならきっと、このちーむのしんぞうになる』
……なんで、ここまで評価してもらえるのだろうか。
モーリス監督に『信頼は実績を積み重ねて初めてできるもの』とそう伝えられたばかりだと言うのに。
「オープン戦ハ戦力ノ見極ガメイン。君ニアゲル試合ナイ。ダカラ、別ノ試合アゲル」
先程から頭の整理がつかない。
ただ、ただ、認めてもらえる人がいると言うことが何よりも嬉しくて。
モーリス監督は、そんな呆然とする俺の背中から、先程と同じ諭すように話を続ける。
「君ハJoker。ワザワザデータアゲタクナイ。ソレヨリ優勝二向ケテ、他ノピースヲ見ツケル優先」
『ちゃんすがほしい。こうやってくるこはなかなかいない』
『このじかんもふくめて、これはきみがつかんだけっかだよ』
自分から求めた物だと言うのに、あまりに重い
だけれども、こんな俺を必要と言ってくれるのであれば必ず成し遂げなければいけない。いや、なんとしてでも応えたい。
優勝を目指す意思はあった、情熱も。――だが、戦うこと、逃げないことの覚悟は、今決まった。
「開幕戦1番。Are you ok?」
「……Yes Boss!」
認めてもらえた力で俺は、ペンギンズを必ず優勝に導いてみせる。
それこそが、信じてもらえたこの人たちへの恩返しであり……俺が掲げる『万能』の証明になるだろう。