常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第二話

「昨年のドラ一の緋村、いいショートでしたよね。なんで今年使わなかったんですか?」

「そ、それは開幕してすぐ怪我で遅れた上、一軍は高橋と幸村で回せてたので……」

「だから二軍で少しでも試合にということですか? ……まぁそこは理解しましょう」

 

 福岡市内、サラマンダーズの球団事務所。リーグ六連覇、日本一。その直後だとは思えないほど、室内の空気が重い。

 

「二軍の野手だと他に斉藤や藤田もなかなか成長してきてますね。今年出してもOPS6割台後半は行けたんじゃないですか?」

 

 この場所にいるのは四人、GM(ゼネラルマネージャー)、編成部部長とその部下一人。そして彼らの正面にただ一人ソファーに浅く座る彼がまた、口を開く。

 

「育成にも今すぐ上で通用しそうな若手が何人もいる。その一方で投手陣の方は吉城が退団し、大きな痛手を負っている……違いますか?」

 

 確認、というよりももはや脅迫じみた物言い。ついに我慢たまらず唯一の若手が助け舟を求める。

(部長! 部長! なんでこんなに詰められてるんですか! 僕ら悪いことしてませんよね!)

(いやまぁうんそうなんだけど……彼の要求は少し、いや大分厳しいからね。でもそういう契約だったと言われると……)

 

「いい悪いの話ではなく、これからのサラマンダーズの話をしているんです」

 聞こえていたのか! ばつの悪い若手が気まずそうに部長の影に隠れていく。しかしそんな彼を別に気に留めず淡々と、話を続ける。

 

「私はね、伊能田前監督(いのださん)のことは当然尊敬しています。チーム最高打率、最多本塁打、最多打点。昔から強打のチーム作りが上手いお方だった。そしてその最高傑作とも言えるチームで、昭和以降初のリーグ・日本シリーズともに6連覇だ」

 

 でもね、と一度言葉を止める。

 

「その代わり、ここ数年レギュラーメンバーはほぼ固定。チームの高齢化がやや目立ちます。特に投手層に関して言えばエースの吉城を放出しさらに手薄になったと言っていいでしょう」

 

 8年間チームを率いた名将伊能田 久雄(いのだ ひさお)。8年連続となるAクラス、そして、リーグ、シリーズ6連覇の立役者。

 当然、日本記録である9連覇を期待する声も大きかったが御年71歳。今年度の契約ですら、体力的な問題で本人が固辞し契約が難航。ただ、レジェンドとなった彼の後任探しはそれ以上に行き詰まりやむを得ず再契約。

 しかしそれも、体調の悪化を理由についに監督を退任することとなった。

 

「チームとしてのV7、いえそれ以上の結果を目指すべきなのは当然。ですが、チームの若返りも急務。多少の痛みは我慢してでもチーム改革を押し進めていくべきなのです」

 

 10分、20分と彼の力説が続いた後、事務所内は長い沈黙に包まれる。

 それをついに破ったのは、今まで無言を貫いていたGMの三雲だった。

 

「……元々、監督として契約する際、君の求める選手をできる限り集めると言ったのは私だ。……いいだろう、君がリストアップした選手を使い各球団と話をしよう」

「纏まりましたね。では私は一度失礼します。吉報をお待ちしていますよ」

 

 三雲の発言を聞き満足したのか彼――来年度よりサラマンダーズを率いることとなる牧 正刻(まき まさとき)は、暗く、俯く彼らを横目に席を立つ。

 扉が閉まると、三雲は自分自身への怒りを押し殺すように両手を強く握りしめる。

 

「すまない、私の力が及ばないばかりに……!」

 

 決断を――取り返しのつかない決断をした三雲が、ここにはいない()()への謝罪の言葉を吐き出す。

 

 牧から手渡された資料には、長年に渡りチームを支えてきたベテランや選手層の厚いポジションのレギュラーの名前がずらりと書かれていた。

 

 放出の優先順位順に並べられたその1番上には

――今シーズンブレイクを果たした幸村 早南也(ゆきむら さなや)の名前が上がっていた。

 

 ――

 

「えっ! 宮下(みやちゃん)年俸4600万! まじかいったなぁ」

「まぁ今シーズン結構働いたしな! しかも、来季ヨシさん抜ける分、先発に転向の話ももらったぜ!」

 

 日本シリーズが終わっていつの間にか、三週間が経過した。

 お互い今日は特に予定がなかったためドラフト同期でかつ、同級生である宮下 圭(みやした けい)と共に自主練を行い、その後行きつけの安居酒屋で食事を楽しんでいた。

 

「あー! 俺もそんぐらい行かないかなぁー!」

「いや、行ける行ける! 今年結構出てるし、打ってるでしょ。確か100試合以上出場して2割4分でしょ! 1年間通して試合に出てこれならすごいでしょ」

「あとエラー2つ盗塁18だからね。3000、いや3500はほしい」

 

 酒が多少入っているからか、お互いの年俸の話で盛り上がる二人。

 起用法の話、成績の話、人気の話、……めぐるめぐる変わる話題は、いつの間にか人事の話へと変わっていく。

 

「そういや、牧さん新監督ってようやく発表されたよな」

「な、やっぱV6チームの後任監督はやりづらいだろうからな〜」

 でも、と宮下は付け加える。

 

「俺としては牧さんで良かったよ。おっかない人だけど俺みたい奴にチャンスいっぱいくれたからな。先発転向もあの人が助言してくれたらしいし」

「今期までの投手コーチだもんな。俺は全然絡みなかったから怖い人止まりだよ」

 

 意外といい人だよ、と笑い飛ばす宮下。なんならもっと安心させてやると言いスマホからとある記事を見せてくれる。

 

『牧一軍投手コーチが監督就任!』

『V7、否、伝説のV9越えを宣言!』

『〜〜〜来年だけ強いチームでは意味がない。5年後、10年後も最強のチームであり続けられることがこのチームに求められる。そう語る牧新監督(48)は、来期の目標に若い戦力と現有戦力の融合を目指しながら、リーグ優勝と日本一と語る。世代交代とリーグ優勝という二つのタスク。これを成し遂げるのはとても難しいことだが、来シーズンを乗り越えれば今年のサラマンダーズすらも超える史上最強のチームが出来上がるのかもしれない』

 

「そう言えばそんな記事あったな」

「俺、昨日GMから言われたぜ。来年は主力として見てる。来期は飛躍して吉城さんの代わりになってほしいって……多分、お前も同じようなこと言われるぜ」

 

 そう、不敵な笑みを見せる。そしてこちらの表情を確認すると今度は満足げに頷く。

 

「明日だろ? 契約更改」

「おう! 俺はレギュラー奪取、お前はローテ定着、そんでチームは日本一。最高の一年にしようぜ」

 

 お互い、来季の飛躍を誓い、半分になったジョッキをぶつけ合う。

 

 これが、チームメイトとしての最後の乾杯になるとは、想像にもつかずに。

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