常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第二十二話

バシャバシャバシャバシャ――

 けたたましいシャッター音が、この試合の注目度を物語っている……いや、正確には試合ではなく、ホームのチームだけか。

 

 バシャバシャバシャバシャ――

 昨年、リーグ2位ながらCSを勝ち抜き日本シリーズへと進んだリ・リーグ屈指、いや日本屈指の人気球団。

 大江戸ペンギンズと同じく、東京にホームを置く強豪チーム『東京ギャロップス』。

 その開幕カードとなれば、注目度は相当なもの。スタンドは一面、チームカラーである純白で染められている。

 

 バシャバシャバシャバシャ――

 そんなギャロップスには、1つの鬱憤が溜まっている。

 昨年の日本シリーズでの惨敗。4試合で20点差をつけられての敗北。得失点差で見れば歴代3位となる大敗を喫した。

 長いオフが終わり、ついに始まるペナントレース。溜まりに溜まったその鬱憤を晴らすには、今日の相手はちょうど良い。

 

 リ・リーグ開幕戦、東京ギャロップス対大江戸ペンギンズ。

 試合開始まで、残り僅か。

 

――――

 

「お、幸村1番でスタメンか。焼き肉の後(あのあと)まったく試合出てなかったから、どうしたと思ってたが」

「ベンチの様子を見るに、奇策というより隠し玉だったんでしょうね。活躍しているのに出番があまりないのはさすがに不自然でしたし」

ギャロップス(向こう)もそう思ってるだろうな。慌てている感じがしない」

 

 ただ、そう付け加えようとした古市さんの言葉は始球式の大歓声でかき消される。

 まもなく試合開始。始球式のために球団のレジェンドがマウンドに上がる。確か、ギャロップスでかつてエースを担い、数年前は監督もしていたか。

 もう70代だというのに、ストライクゾーンへ勢いのいい球を投げる。あの年齢でなお、体を鍛えていたんだろう。

 球速表示は……え、122キロ? すごいな、あの人。

 

 さて、アウェイチームの1番打者……幸村選手が空振りをしてたくさんの拍手が降り注ぐ。

 試合が始まる。スタジアム中央のスクリーンに各選手のPVが流れる。

 そして、最初にその選手の名前が呼ばれた瞬間、球場が大きく唸りを上げる。

 

『ピッチャー! 百瀬(ももせ)ーー! 千尋(ちひろ)ーー! 背番号18』

 

「すっご……! 入場だけでこの歓声ですか」

「1年目から期待されて、大事に育てて、ちゃんと成長してきた選手だったからな。去年からエースナンバー(18番)背負っていたが……初タイトルとったからか、去年と比べて貫禄も出てきたな」

 

 盛り上がるギャロップスの選手紹介も終わり、つぎはペンギンズ選手が呼ばれる。

 だが、ここで予想外のことが起きた。幸村選手の名前が呼ばれた瞬間、おそらく今日2番目となるであろう地響きが起きる。だがそれは決して歓声なんてものではない。

 

「この時を待ってたぜー! 幸村ぁ!」

「去年の恨み! 何十倍にして返してやるよ!」

「たまたま、百瀬から打てたからって調子乗るんじゃねーぞ! お前なんて所詮ペンギンズ以外で出番なんてろくにないんだからなぁ!」

 

「うわー……大人気? ですね幸村選手」

「まぁ去年、ギャロップス相手に活躍してたしな……。しかもシーズン本塁打1本のくせに、日本シリーズで、2本。しかもそのうちの1本は、あの百瀬からの同点弾だしな」

 

 期待、怨恨、興奮、憤怒、様々な感情入り混じるこの熱狂の中、ついに試合が始まる。

 

 試合開始が宣告されると、間髪入れずに百瀬選手が投球モーションに入る。オーソドックスなフォームながら余計な力が入っていないのが遠目でもわかる。右腕から放たれたボールはうなりを上げ外角低めに。

 

「ボール!」

 

 外角低めにいきなり157キロ。

 2球目、今度はインコースにストレートを投げ込む。今度は入っていると判断したのかバットを振る……だが、ストレートに見えたそれは、突然視界から消える。146キロのフォークボール。

 球場の温度がこれでもかと上がっていく。

 

「百瀬選手って、確か最速155キロでしたよね……?」

「ははは、1番鬱憤が溜まってんのは、そりゃあいつだよな!」

 

 どっちの味方ですか、と嬉しそうにする古市さんに突っ込みを入れる。

 3球目に反応するも、芯をとらえられないのかファールになる。

 4球目のスライダーを見送り2ボール2ストライク。

 

 相手バッテリーが決め球に選んだのは、真ん中高目のストレート。幸村選手も反応する、タイミングは完璧に見えた。だが――

 音は聞こえない――けれど、粉砕されたバットがその勝敗を物語る。

 詰まらされた打球をショートが追う。

 

「今、手元で変化しました?」

「ここからだとわかんないな……だが、変化したとすると、そんな球去年まで持ってなかったはずだ。それを開幕戦の先頭に投げるのかよ……とりあえず1打席目は完敗だな」

「でもまだあと3回は回ってきますよ。このままやられっぱなしじゃ――」

 

 そこで、気が付く。打球を追うショートが途中で見送った。

 任されたレフトが、定位置から少し後退し捕球する。

 先ほどまでの声援はどこへやら、騒然とした空気が球場に漂う。

 

「おいおい、詰まらされたうえ、バットへし折られたんだぞ? それなのに外野まで飛ばすか?」

「結果は同じアウトでも、百瀬選手は気持ちよくないでしょうね」

 

 まさか、次の打席も待たずに爪痕を残すとは……。2人の対決はこれからどんどん面白くなりそうだ。

 

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