常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第二十四話

「ふっ……ここまで手応えがないとはな。しかしこれは俺の実力か? またやつに打たれるのではないか……? ダメだやめろ卑屈になるな……! やつへのリベンジが難しくなる。どうする……いや、ならあれを……」

 

 ……まーじで怖いなぁあの人。

 大卒プロ2年目にして、初めての開幕戦スタメンに抜擢された俺。

 そんな俺にとって、百瀬さんは1つしか違わないのにこのチームの看板を背負うスゲー人、だった。

 

 試合開始前から試合中も、ベンチの中でも、突然笑ったり、喋ったり、かと思えば黙ったり……他のチームメイトは大丈夫と言っているけれど、正直まずいものやってるんじゃないかとも疑う。

 

「絶好調ですね! モモさん!」

 

 1人ブツクサと話し続ける彼の近くに行ける人間は少ない。特にグイグイと行けるのは、俺と同級生ながら高卒でプロになっていた山浦 廉(やまうら れん)ぐらいなものだろう。

 

「む、廉か……なぜそう思う?」

「なんでって、あんな球投げといて何言ってんですか! 完成度は7〜8割って話なのに向こう誰も手が出てませんよ!」

「ふっ……本当にそうか? 確かに他の奴らは抑えられている。だが逆に、全力で勝負したはずのあいつにはあっさりと外野まで運ばれているではないか」

 

 なるほど、自信が無さげなのはそういうことか。

 だが、サードから見ていても、決して悪いようには見えない。むしろ絶好調じゃ無いのか?

 

「何言ってんですか。モモさんの状態が悪かったら、幸村に先頭打者ホームラン打たれてますよ! そんぐらい相性悪いんですから!」

「ぶっ!! おいちょっと待てやお前!」

 

 ケラケラと笑いながら何をぶち込んでいるんだこいつは! 今のこの人にそんなあんまりなこと言うなや!

 さすがに我慢できずにツッコんでしまう。そんなこいつは悪びれもせずに、百瀬さんに聞こえないような絶妙な声量でこう話す。

 

「大丈夫大丈夫。この人、メンタル鬼強いくせに、落ち込む()()して、慰めてもらおうとするクセがあるからさ。そんで変に慰めちゃうと、おかしな方向に調子に乗っちゃうこともあるんだよ。だから、この人には、はっきり言った方がいいんだよ。そうするとさ……」

 

 そう話す通りに、また彼特有の高笑いが聞こえてくる。

 

「ふっ……フハハハ! そうだ、そうだな! この俺が認めた好敵手(ライバル)を、そう簡単に打ち取れるわけがないよな! よく言ってくれたぞ、廉!」

 

「な? この人いつもこんな感じだから、これで大丈夫なんだよ。ところで――」

 

 なんなんだこの人……それでいいのかよ。無駄に庇ってどっと疲れた……。これから打順が回ってくると言うのに……打順が、……あっ!!

 

「――ところで尾形ちゃん(おがちゃん)、ネクスト(バッターボックス)入んなくていいの?」

 

 やばい! いつの間にか、4番のブライズがライト前ヒットで出塁していた。

 無駄に話していたせいで準備もまだ途中。

 監督コーチに白い目で見られながら、6番打者の俺はいそいそと準備をするのであった……。

 

 

――――

 

3回表 1アウトランナー無

 

 2回裏の攻撃はランナーが出たものの後続を打ち取られて無得点。相手投手の郡にテンポよく抑えられてはいるが、まだまだ序盤。

 

 頼もしき戦友(とも)達ならばきっと、俺のために武功(とくてん)を挙げると決まっている。ならば俺もそれに相応しき活躍をせねばならん。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 怪力木偶の坊(※森谷)と健脚小坊主(※京水)なんぞ敵ではない。我が伝家の宝刀(※スライダー)を軽く振るっただけだと言うのに、なんと情けのないことか……。

 

 フハハ、いや失敬、さも当然の帰結だったな。それを情けないなどと、我ながらなんと酷なことを言うのだろうな!

 

 さて、この回最後の打者として来るは、この戦いにて投手を務める遅撃の射出(※郡)。

 

 厄介な魔球使いも、打者ならば恐れるに足らず。3球で追い込む。

 そして4球目。我が自慢の軍師(※山浦)の指示は外の直球。角に投げると言うよりは球質で抑えようと。……ふむ、こやつに無駄な労力を払うのは確かに避けたい。

 

 ――ならばと、首を横に振る。

 

 こやつの次の打者……我が、終生の宿敵を抑えるべくその贄となってもらおうではないか。

 先ほどは左翼まで飛ばされてしまったが、この球はさて、彼奴に通用するのか、状態はどうか。

 

 一見、中央やや低めの直球。射出殿(※郡)も絶好と見るかその刀身(※バット)を振るう……否、我が新たなる魔球は直前まで直球に化ける。鋭く、小さく、速く変化した魔球に触れることはできない。

 

 ブォンと虚しく風斬る音がなんと心地よいことか!

 

 フハハ、なんだ、やはり良いではないか。軍師もなかなかに手応えを感じているだろう。

 

 やはり、彼奴だけが特別。しかし、先ほどは我の勝ち。次も、その次も我が抑えようぞ。その準備はできた。

 

 フハハ、さぁ、第二打席。首を洗って待っていろ、幸村早南也!」

 

「……いや、怖いわ!!」

 

――――

 

 なんでマウンドでぶつぶつ言っているんだこの人は!

 よく聞こえないが端々から、射出だの刀身だの言っているんだよ。マジで何言ってんだこの人。

 

「やっと調子出てきたな」

百瀬劇場(ももせワールド)全開でこそだもんな。いやぁ、今日ペンギンズとじゃなかったら、とっくに打たれてたろ」

「!?!? これが普通でいいんですか!?」

 

 なんか周りの人達、誰もあの人に違和感を持ってないどころか受け入れているんだけど!

 

「そっか、尾形ちゃんは百瀬とは初か。まぁ、すぐなれるよ。あいつはいわゆる劇場型の投手だからさ。今日は侍とか、武士とかかな? なんかの役になりきらないと調子に乗れないんだって」

「劇場型の使い方まちがってませんか!?」

 

 周りを見ても、少なくとも俺以外のスタメンは誰も違和感を持っていない。それどころか、むしろ先ほどまでがおかしかったとのこと。

 狼狽える俺に対して、全く慌てる様子のない先輩方はさらに補足を続ける。

 

「覚えときな尾形ちゃん。この世界(プロ野球界)において、人となりなんてどうだっていいんだよ。いいやつ悪いやつ関係なく、結果を出せばそれはただの個性になる。さすがによっぽどのことすりゃアウトだけどな」

「あれはよっぽどじゃないんですか?」

「バカ野郎。変わってるだけで普通に真っ当だろうよ」

 

 よっぽどは犯罪レベルの話だ。そう付け加えると、いつの間にか、打席への準備を終えていたのかバッターボックスへと向かう。

 

 先輩の言葉を噛み砕いて考えてみる。

 それはつまり、百瀬さんは自分を変えなくてもいいほど、周りに認められる結果を出している、と言うことなんだろう。

 

 日本球界最高峰の投手の1人。そこに至るまでに一体どれほどの修練を、戦いを積み重ねて結果と信頼を勝ち取ってきたのだろうか。

 

 その過程を知ろうともせずに勝手に失望してしまった自分がただ、恥ずかしい。

 

(まだ、少し怖いのはきっと、あの人を知らないからだ。まずは知ろう、百瀬さんのことを、このチームのことを)

 

「なにすみっこでプルプル震えてんすか! 今日は悪いスライム役かって!」

「……ふっ、俺としたことが何を考えているのだ……奴こそ我が宿敵、悲願を成すのは今ぞ今……」

 

 ベンチの隅で廉と会話? をしている百瀬さんを見て改めて思う。

 

 うん、やっぱり怖いわ。

 

 

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