常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第二十六話

「……すみません、三盗の時に送球が外れなければ点は入らなかったのに……!」

「あんま気にすんなよ。一発で宝くじの一等賞当てられたみたいなもんなんだ。切り替えてけよ」

 

 ちゃんと打たれたわけではない。だが、全く予想もしていなかった形での失点は思っている以上に精神にくる。あんな形での失点がそう何度もないとはわかっているが……特に廉の表情に陰りが見える。

 

 そんな雰囲気を吹き飛ばすのは、エースの高笑いだった。

 

「フハハハ! さすがは我が好敵手よ! 打席では我の勝ちだと思ったが……此度は完敗だな!」

「……なんで抑えた時(1打席目)よりも元気なんですか」

「それこそお前が言ったのだろう。我が宿敵は強い、と(※厳密には言ってない。百瀬の脳内補足)。それでもお主らがショックを受けているのは……ペンギンズごときに点を取られるわけがないと、傲慢にも思っていたからではないか?」

 

 どきりと、心臓が跳ね上がる。別に相手を舐めていたわけではないが、完全に集中しきれていたかというと、否だ。

 

「相手が誰であろうと関係なかろう! まずは目先の勝利に集中せずして、どう勝つというのか! さぁ、一死走者無しだ! ここを抑え、緩んだ褌締め直すぞ!」

 

 独特な言葉遣いのせいでわかりづらいが……やっぱ、すげぇなこの人。

 たった一呼吸で、周りの空気がピリッとなる……集中しろ、もう点はやらせない。そんで点を取ってこの人を勝ち投手にしたい。

 

 百瀬さんのギアが入れ替わる。完投を目指し、要所以外を抑えて投げていたが、流れを切るため完全に本気モード。

 3番畑を三振、4番マシューズも初球にジャイスラ(※ジャイロスライダー)を投げ、サードフライ。

 百瀬さんに点を取られた動揺は無い。この回に追撃を許さない最高の投球。

 

 ならば俺たちも応えなければいけない。なんとしても点を取ってやる。

 

――――

 

 まずは山浦廉の説明をしよう。今日この開幕戦にて、スタメンで1番のサプライズは誰か? スタジアムに来るファンに聞いてまわれば、山浦の名前が多く上がるだろう。

 

 では山浦は期待されていないのか? 答えは否だ。

 

 6年前に高卒2位で東京ギャロップスより指名され入団。

 身長は173センチと上背こそあまりないが、強肩強打が売りの捕手であった。

 

 期待の新人は、入団後から順調に実力を伸ばし、今や次の正捕手として名前が上がるほどに期待値は高い。

 

 しかしそれ以上にギャロップスの捕手の層は厚い。

 昨年打率.250近く打った27歳の小田。大卒3年目、192センチ、昨年30試合で4本塁打の大型捕手貝塚。2年前にボアーズから移籍してきたインサイドワークに定評のある32歳ベテラン竹見。

 彼らを差し置いての出場は難しいと考えられていたからだ。

 

 ではなぜ彼が選ばれたのか。打撃なら小田と貝塚、リードなら竹見の方が上だろう。

 

 この大抜擢には百瀬 千尋(ももせ ちひろ)の存在が強く関係している。

 

 今から2年前、当時から先発の一柱として活躍する百瀬。キレのあるスライダーを武器に三振を何度も何度も奪い取るスタイルで当時からリ・リーグを圧倒する。

 

 ――その一方で落ち込みやすい、打たれるのを異常に怖がる、一度崩れると立て直せない。このメンタルを問題視されていた。

 

 そんな彼のメンタルが改善したのはその年の交流戦直後。

 

 怪我人が続出するチーム事情で、一時的に一軍にいた一つ下の後輩の存在が彼の人生観を変えた。

 

『もー! モモさんったら、まーた落ち込んだふりして! 本当に演技上手いんだから!』

『ふ……ふりなんかじゃないんだ。今日の試合、俺が4点も取られたから負けたんだ。最近は安定しない投球ばかりで、情けない……! はっきりわかった、俺は神崎とは違う。同い年だけどあいつの技術とかメンタルとか、あれがきっと本物のエースなんだ。……一方で俺の本当の正体は臆病者のクソピッチャーなんだ。こんな俺はギャロップスに相応しくないんだ』

『……? モモさんと神崎さんが一緒なわけないでしょ! というか、自分の弱点に向き合えるから、このギャロップス(伝統あるチーム)で主力張ってるんですよ? そんな人が弱いわけないじゃないですか!』

 

 今からはとても考えられないほどウジウジとしているのがかつての百瀬。だが、この日のこの会話を境に今のスタイルが確立される。

 

 別に山浦としてもそういったつもりで言ったわけではないが……まぁ、結果としては日本トップの投手まで成長したのだ。結果オーライ。

 

『いいですか! あんたのその弱気は全部思い込み……いえ、あんたの無自覚の演技なんです! 一度騙されたと思って、自分を最強の投手だと思って投げてみてください! ……はい、イメージしましょ! どんな投手が最強!?』

『えっ、えーと……いつも自信満々で、投球術が豊富で、どんな時でもチームを鼓舞して……』

 

 山浦が百瀬に絡んだ理由。それは彼がいずれギャロップスのエースになると思ったから。そのエースとの相性の良さを一つの武器にするために近づいていった部分もある。

 

 アドバイス自体も悪い妄想で足を引っ張るのなら、いっそのこと理想の自分を投影させ、少しでもメンタルを安定させるのが目的。そのぐらいの程度のもの。だがまさからあんな劇物が出来上がるとは夢にも思わないだろう。

 

 百瀬千尋は、強い誰かを投影することでメンタル面が安定し、常に高パフォーマンスを出せるようになった。しかしその一方で、日常的にあんな性格になったので、どこかか扱いづらい存在になったのも事実。

 

 そんな彼と唯一対等な関係を築け、プレーの相性も良い。言ってしまえばそれだけではあるが、それこそがこの大抜擢の理由なのだ。

 

 ――だからこそ負けるわけにはいかない。

 エースが最大のパフォーマンスを発揮できるようにと起用され、実際エースも調子が良いのに勝てませんでした、ははなしにならない。

 

「情けない……情けない!」

 

 百瀬の成績に傷をつけてしまったこと、幸村に好きに走られたこと。

 

「情けない……情けない!」

 

 所詮ペンギンズと慢心して挑んでいたこと、偉そうな口を叩いておいてまだ百瀬の役に立てていないこと。

 

 この借りはすぐにでも返さなければならない。自分のために、百瀬のために、何よりチームのために。

 

 4番のブライズが出塁する。今日2打数2安打。

 よっぽど運がよければ、打席が回ってくるか?

 

 この借りは何倍にしてでも返してやる。

 山浦廉は静かにその時を待つ。

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