常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第二十八話

ライトは定位置だったはず、でも。

 

 打球も強かったが、あのダッシュ力によりすぐにボールをグラブに収める。そして流れるように送球モーション。ボールを収めるまでの過程がそのまま助走に変わる。

 

 肝心の送球は、完璧というほかない。強く弾き出されたボールは、低い弾道を描く。キャッチャーミットにドンピシャで入るストライク送球。

 

 ペンギンズ最大のピンチを救ったのは、またしても幸村選手。このプレーに、さすがのギャロップスも黙るほかない。

 

「……なるほど、そういうことかよ」

「急にどうしたんですか」

 

 横に座る古市さんが、唸りながら体を前のめりに倒す。

 

「幸村ライトの理由だよ。俺はてっきり、堀江と幸村をセンターとして比較して、こういう配置にしたと思ってた。モーリスはサラマンダーズ時代のセンター守備を知らねーのかって。けどこの比較には二遊間(神田・橋本)の2人も入れなきゃいけなかったんだ」

「というと?」

 

 試合開始前に気になっていたという守備位置。

 だがこの回を見て、何かを理解したらしい。

 

「まず前提として、このチームの守備力は低い。個で目立つやつは何人かいるが、選手一人一人の守備範囲が狭いせいで、ヒットになるゾーンが他のチームより広い」

 

 あぁ、まぁそうだろうな。被害者筆頭である郡選手なんかは、打ち取ったあたりが軒並みヒットにされていた。気づけば、ずるずると失点を重ねて防御率が3点台後半。

 あれは正直可哀想だった。

 

「そんで本題だが……まず二遊間、いやセンターラインのバランス。橋本の守備は今のNPBでトップクラスだ。昨年時点で1年間試合に出続ければ、ゴールデングラブは間違いなくあいつのものだった。逆に神田は、コンバートしたばかりだからか年齢のせいなのかわからんが守備が不安定になってきている」

「去年最多エラーでしたよね。追いついても握り損なったり送球が弱かったり」

 

 とは言っても越後選手と比べても守備はそんなに変わらないし、まだ打てそうなので神田選手を優先するのはわかる。

 

「そんでセンターは幸村の方がいいとは言ったが、堀江も守備型の選手。派手さはないが堅実なプレーが売り。さっきの尾形のヒットの時、畑が突っ込んでいきそうだったろ? それを諌めてワンバンで取って、すぐに送球体勢に入ったとこ。状況判断だったり、ランナーの牽制なんかは良かったと思うぜ」

 

 水嶋の走塁判断が良くて三塁まで進まれたが。

 そう付け加えるも、思っているよりも好評価をする姿に驚く。いつも辛口評論家気取りの鬱陶しいおじさんのくせに。

 

「今失礼なこと考えてるだろ……まぁいい。そんでお前『ショフト』って言葉知ってるか?」

「えっ、急になんですか? たしか、ショートが通常ならレフトの守備範囲ってところまで守ってた(介護してた)。……っていう話から派生した有名な言葉ですよね」

「そう、んで幸村はそれの外野手バージョンをやってるんじゃないか」

 

 ……! ここまで言われれば、さすがに私だって理解する。確かに初回のライトフライも、今回の一二塁間を破る打球も前進しながら幸村選手が取っていた。つまり――。

 

「つまり左中間を堀江選手と橋本選手で、右翼側を幸村選手がカバーする形で守ってるってことですか!? ……確かにこれなら打撃に重視したメンバーでもいつも以上の守備力を確保できます……けど……。あのこれ」

「そう! 割と理にかなった作戦だと思うだろ。……ただ、1個だけとんでもない問題があるんだよな……」

 

 言っている張本人もさすがに思い至っているだろう最大の問題点。意図せずとも言葉がシンクロする。

 

「「結局誰も百瀬(選手)から打てないからこのスタメンである必要がない」」

 

 作戦うんぬんの問題が大きすぎる……。

 

 

――――

 

 試合は5回に入るが特に大きな動きはない。

 

 ペンギンズは5番から始まるも、ただ百瀬選手の三振数が増えたのみ。

 

 ギャロップスは1番打者の立原選手がサードへの内野安打で出塁し、盗塁を決め二塁を陥れる。

 

 しかし高杉、水嶋両選手をスローカーブで翻弄する。高杉選手を見逃し三振、水嶋選手は痛烈な当たりを放つもセンター堀江選手の守備範囲。3アウトでチェンジ。

 

6回表2アウトランナー無

 

 6回に入ると橋本選手がセカンドゴロ、郡選手が三振で2アウト。

 

 打席にはペンギンズで唯一百瀬選手に、ギャロップスに通用している打者であろう幸村選手が打席に立つ。

 

 初球インハイ150キロ、ボール。2球目スライダー、ストライクゾーンからボールに逃げる。

 3球目、アウトローに151キロストレート。これに手が出ない。

 4球目、インコース142キロ――打ち返すもファール。捕手の山浦選手が保険をかけてのシュートを要求したのが功を奏した。

 

 5球目、ジャイロスライダー。まだ彼が対応できていないボールを決め球に持ってくる。だが、何度も同じ手は喰らわない。

 

 全身の力を連動させたスイングがボールを捉える。鋭い打球(ライナー)がレフトへ――ファール。だが先ほどよりもタイミングは合っている。

 

 6球目、サインが合わない。2度首を振ると力強く頷く。

 投じられたのは149キロ、インコースのボール。

 シュートかストレートか。ジャイロは無い、今日は真ん中付近にしか投げられていない。おそらくまだ制球がつかないのだろう。

 

 そう思ったのか速い球に当たりをつけてスイングする、だがそれは――。

 

 それは打者の手元で大きく曲がる。百瀬千尋本来のウィニングショット。昨年奪三振王の伝家の宝刀――高速スライダー。

 

 両手を高く上げる百瀬選手と、そのエースに向かって走り出す山浦選手。

 

 今日10個目の三振により、ようやく――ようやく幸村選手へ一泡をつかせることに成功したバッテリー、いやギャロップス。

 

 アウト一つ取っただけとは思えない、今日一の大歓声がグラウンドを包んだ。

 

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