常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
「す……すみません、あの、もう一度言ってもらってもいいですか? その、よく聞こえなくて……」
「実感が湧かないのはよくわかる……すまない。だが、君のトレードが決まった」
宮下と飲んだ翌日の昼過ぎ。契約更改のため訪れた球団事務所の一室。年俸はどれくらい上がるかとか、来年の起用法だとか、そういう話をしにきたはずだった。
「相手は、大江戸ペンギンズの投手有永。今季のお前の活躍を見てぜひうちでプレイしてほしいとのことだった」
淡々と、三雲GMがこちらに詳しい説明を続けてくれるのだが、全くと言っていいほど頭に入ってこない。
「……ショックなのは理解できる。私も、チームとしても君には残ってもらいたい。だが、吉城の退団、更に今期12勝を挙げたスティルフィンも今シーズン限りでの退団が決定した」
それを理解してくれたのか、GMがこちらにトレードの意図をゆっくりと語ってくれる。
そうだ、今年30歳になるスティルフィンもおそらくメジャー復帰のため退団と先日ニュースになっていた。そのため、来期は先発の柱2枚を欠いた状態で挑まなくてはならない。
宮ちゃんの先発転向もそれが理由だったはずだ。
「こちらとしては優秀な投手をなんとしてでも確保したかった。君を白羽の矢に立ててしまったのは申し訳ない。……せめて、来シーズンの活躍を期待させてくれ」
――――
現在の日本プロ野球は各6チームの2リーグ制となっており、合計12チームが存在している。
そんな中、最も強いチームは? この問いには、多くの人が昨年93勝44敗6分圧巻の成績を残したレ・リーグ所属の福岡サラマンダーズの名前を挙げるだろう。
逆に最も弱いチームは? この問いにも多くの人が同じ答えを挙げるだろう。昨年シーズン39勝99敗5分とサラマンダーズとは逆の意味で突き抜けた存在。リ・リーグ所属の大江戸ペンギンズである。
――――
そこまで興味のないドラマの再放送が食堂で流れている。トレードが言い渡されたあと、どうやって帰ってきたかは覚えていないが……いつの間にか、一人で佇んでいた。
GMからペンギンズへの挨拶の日程や寮の退去日、記者会見の日取などを言い渡され……思ったよりも近日のことのため、急いで寮へと戻らされた。
「引越しの準備して、みんなに挨拶して、……あー会見で何言えばいいんだろー? あっ、宮ちゃんとかからすげー着信きてる……色々とやるべきなのになぁ」
そう、すぐに戻ってきたものの、この場から動き出す気力が全くと言っていいほど湧かない。
「いた! 早南也!」
「山形さん」
ただただ意味のない時間を過ごしていると、廊下の奥から自分の担当スカウトの山形が息を切らしながら、こちらへ駆け寄ってくる。
「ネットニュース見てびっくりして、GMに連絡して、そしたら寮にいるはずだって、……はぁぁぁっ、お前電話返せよぉ!」
「すみません、さっき気がついて……」
変な想像したじゃねーか、とややキレる山形さん。
ただ、すぐにテキパキと食堂の給茶機から二人分の飲み物を用意し、こちらへと渡し目の前にどかっと座る。
「はぁ、まずは俺もびびったよ。まぁ、お前が一番か」
「はい、まだ気持ちの整理もついてなくて……」
そりゃそうだろと、こちらをまっすぐ見つめ言葉を返してくれる。
山形さんは少し言葉は荒々しいが、面倒見が良く、18で東京から福岡に来た時からもう一人の父親のような存在だった。
「6年目にして、シーズン完走。チームで4番目に試合出場。やっとレギュラーを掴みかけてたのにな。トレードの駒にするにしても、もっと他のやつがいるだろうが」
「ははっ、人事批判ですか」
「ウルセェ! お前の味方してやってるだけだろうが!」
こちらに寄り添おうと気を使いながら話してくれる。
でも、今の心境だと、わざわざ来てもらったのに、せっかくの気遣いが全くと言っていいほど俺の心に入ってこない。
「……心ここに有らずって感じだな。じゃあ、言いたいこと言うぞ。契約が決まっちまったもんは仕方がない。
それを察した山形さんは、先ほどまでとは打って変わり厳しい表情を作ると静かに、こちらへと語りかける。
「それに野球なんてチームに70人いるのにグラウンドに9人しか立てないとんでもない場所なんだ。そんでそれを決める監督だったり、首脳陣なんかも人間だからな。どんなに頑張っても他のやつが台頭したり、ちょっと怪我したり、何なら人との相性のせいで選ばれないなんてざらにある」
「今回、お前がトレードに出されたのは誰が悪いわけでもない。たまたまチーム事情がお前に不利に働いただけなんだ。むしろトレードってのは、チーム同士の利害が一致しないとできない……てことは、向こうから必要とされてるってことだ! チャンスだと思ってそこは割り切れ」
……まいったな、山形さんの言う通りだ。
でも、やっぱり、何を言われても……それが正論なんだと自分でも思うが、そんなすぐできるはずがない。俺は、だって――
「もちろん、今すぐじゃなくていいぞ!」
「……まずは、流れに一旦身を任せてみろ。少しぐらい流されちまえ! ……少し落ち着ければ、早南也なら絶対、自分の進むべき道に戻れるさ」
山形さんは優しく、力強く肩に手を置きまっすぐこちらを見据え、こんな自分にエールをくれる。
まいったな、これから色んな人に挨拶しに行くつもりだったんだけどな。
「とりあえず、少し早いが荷物の準備しちまうか!」
「……ずみません、よろしくお願いします」
俺はもう、この大好きなチームを離れなくちゃいけないんだな。