常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第三十話

9回裏ノーアウトランナー無

 

 まさかの2点差をつけて最終回に入るペンギンズ。さすがにこの展開は予想できなかった。

 

「すっご……これさすがに、もしかしますよね!」

「……まぁ、ペンギンズの1番の弱点が直ってたらな」

 

 実に10年ぶりとなる開幕戦勝利へ期待感を膨らませる私とは対照的に、古市さんの表情は険しい。

 

 大音量のロックミュージックがかかる中、でっぷりとした体型の外国人投手がゆっくりとマウンドへ上がっていく。

 

『ピッチャー! グローネス・マルティーヨ! 背番号26』

 

 メジャーでの実績豊富な新クローザー、マルティーヨ投手。

 事前情報だと身長198センチ、体重128キロの大型投手だとは聞いていたが……。

 

「なんか、大きいというより……丸いですね」

「あれが契約で揉めに揉めたっていう助っ人かよ……。春季キャンプの時に大平たちを見てがっかりしたけど、あいつはそれ以上だな」

 

 投球練習を軽く投げているだけだよね……目に見えてボールに力がない。こんな投手を出していいのか……?

 

 ギャロップス最後の攻撃、バッターには9番投手に代打が送られる。今年大卒4年目の選手、オープン戦の好調を評価されて開幕一軍を勝ち取ったとのこと。

 

 その選手に対しての初球、ダイナミックなフォームから繰り出されたボールは、大きくゾーンを外れる。1ボール。

 2球目ボール、3球目もボール。あっさりと3ボール。だがそれ以上に……。

 

「投げてるのってスライダーとか、シンカーとかですよね……。球速140キロ未満(郡さんクラス)なんですけど……」

「やーっぱりクローザーの補強失敗じゃねーか! 実績だけ見て取ってきてんじゃねーよクソペンギン!」

「ちょっと! 仮にも番記者がそんなこと言わないでくださいよ! ――」

 

 ガツっと乾いた音が球場に響く。それは手元の資料で古市さんをしばいた音……ではない。

 

 割れんばかりの大歓声が、今シーズン初の、そしてプロ初本塁打の立役者を祝福する。

 

ペンギンズ3―ギャロップス2

 

 その後もマルティーヨ投手の投球が全く安定しない。

 立原選手、高杉選手に連続でフォアボールを与えてしまう。

 タイムを取り一度落ち着かせようとしているが……うっわ、ここから見ていてもわかるぐらいにイライラしている。集まる選手達を追い払うように何かを捲し立てている。

 

 モーリス監督は、さすがに事態を重く見るのか選手を交代させる。

 

 ……2年6億以上の大型契約っていったいなんなんだろう……ってあれ?

 

『シートの交代をお知らせします。ピッチャーマルティーヨに代わり……千葉(ちば)ー! (みのる)ー! 背番号24! キャッチャー森谷に代わり……牛山ー! 弘ー! 背番号27』

 

 まさかのバッテリー両交換!? 投手の千葉選手は高卒5年目のサウスポーで1軍経験はほとんどない。逆に牛山選手は実績充分だけれど、今年40歳と年齢面できついものがある。

 

「うーん、去年を思い出しちゃいますね。リードしていても、終盤逃げきれずに逆転負けっていうパターン」

「特にクローザーは誰が出ても抑えられなかった悪夢な……。それに、ここで経験の薄い千葉を投げさせるレベルの中継ぎ陣もやっぱりきつい」

 

 とはいえ千葉選手は昨年2軍で結構投げていた投手。開幕ベンチ入りを果たせるほどに成長しているのだろう。

 

 マウンド上で軽く打ち合わせをし、守備陣が元の位置に戻る。ノーアウトランナー一二塁、打席には3番の水嶋選手。

 

 初球、インハイ、ボール。小柄(169センチ)で投球テンポのいい技巧派左腕。エースの郡選手と近しいものがある。

 2球目、テンポ良くアウトローへ。打者がバットを出すがファール。3球目、再びアウトコース、今度はボール。

 

「……間に杉投手が投げていたとはいえ、めちゃくちゃ早く見えますね」

「球速140キロ越え連発してるだけなんだけどな……というか、郡はともかくマルティーヨが酷いだけだろ」

 

 4球目、コンパクトなフォームからアウトハイへ。ボール。これで3ボール。ここまで変化球は1球も無し。そろそろ投げてくるか……?

 

 5球目、アウトロー。これを見逃しフルカウント。6球目、インコースをファールにされる。

 7球目、8球目もバットに当てられるも、なんとかファールになってくれる。

 

 でも、どんどんタイミングが合ってきている。いつ捕まってもおかしくない。だが見方を変えれば、まだ変化球を見せずに追い込んでいるとも言える。

 

 少し間をとり、投じた9球目。打ちに来た水嶋選手のバットが、いや体が大きくのけぞる。

 

「ストライク! バッターアウト!」

「全球まっすぐ! しかも最後は対角線投法(クロスファイアー)!?」

「最後だけ変化つけてきたな。インコース警戒してた水嶋のさらに内を抉りやがった」

 

 ――クロスファイアー。左投手の千葉が利き手と右打者の水嶋に対して投じた1球。

 投手の利き手と対角線になるように投げ込むことで、バッターに自分の身体目掛けて投げられているような感覚を与える投球術。

 こんな引き出しも持っていたのか。

 

 続く4番のブライズに対しては全球変化球で迎え討つ。結果4球目のシュートを詰まらせサードフライ。

 

「おいおいおい、想像の10倍はいいじゃねーか千葉のやつ!」

「それに、ベストパフォーマンスを引き出す牛山選手のリードもいいですよね。大胆かつ老獪なリードでバッターの裏をかいてますよ!」

 

 あとアウト一つ。5番打者の小島に右バッターのリューガンが代打に出される。育成から支配下昇格してきた外国人選手。

 

 初球、カットボールから入りストライク。続くインハイでファールを打たせ早くも追い込む。

 だが続く3球目、高めに明らかなボール球。見せ球として投じられた1球。そのボールに反応する。

 

「嘘だろ! いくな!」

「――あっぶない! よかった、ファールになってくれた……」

 

 リューガン選手の一撃はかろうじてファール。命拾いしたが、千葉選手にはそれだけで充分だった。

 

 ワンバウンドするボール、大きく外に外れるボール。先ほどまでの思い切りのいい投球はどこへやら。打って変わって千葉選手の制球が乱れ始める。

 

「やっぱりここで経験不足が痛いな……テンパリすぎだろ」

「開幕戦の最終回、サヨナラのランナーを背負わされての登板。むしろ、よく先頭の2人を抑えましたよ」

 

 牛山選手がタイムを取り2人で話し込む。……気持ちを切り替えられたか? だが、まだ表情は硬い。大丈夫なのだろうか?

 

 投じた6球目は低め、カットボール。それを見送られ、3ボール。だが、ボール球にこそなったが大きく外れているボールでもない。

 フルカウントになり7球目、チェンジアップ。今日初めて投げる緩いボール。低めに決まれば手を出せない……低めに決まれば。

 

「少し高い……」

 

 乾いた炸裂音が球場に響く。高く上がったボールは右中間へ。

 

「やめろ、行くな! 超えるな!」

 

 選手の誰かか、ビジター席の誰か、または隣の席からか悲痛な声が聞こえてくる。

 でもなぜだろう、スタンド(手の出せないところ)にさえいかなければ大丈夫だという確信があった。目線の先、そこには今日、不思議と目につく相手。

 

「なんで……いるんだ」

 

 通常なら右中間を破る長打コース。だが、それは広いグラウンドに落ちる前に右翼手のグラブの中に。

 長打警戒でやや深めに守っていたとはいえ、本当になんでいるんだろう。それがおかしくて思わず笑ってしまう。

 

 球場は試合開始前とは一転しあちらこちらから悲鳴のようなものが聞こえてくる。

 一方、一体いつからいたのだろうか。ペンギンズ応援席(ビジター席)からは試合前のギャロップスに匹敵するほどの歓声が上がる。

 

「おいおいおい、勝っちまったなペンギンズ」

「勝っちゃいましたねぇ」

 

 あはは、ずっとネガティブな意見ばかり言っていたがその驚きのあまりに、誰よりも間抜けな顔で呆然としている。

 

「あっ、ヒーローインタビュー始まりますよ」

「ビジターだから今日は1人だけだよな……7回1失点の郡か、3打点の神田……はたまた最大のピンチを防いだ千葉か……」

「わかってて言ってるじゃないですか」

「まぁな」

 

 ペンギンズファンの拍手に囲まれて今日のヒーローが呼ばれる。

 ……明日の一面は決まりだな。

 

『今日のヒーローは、攻守で存在感を見せた幸村選手です!!』

 

 『勝利へ導く新戦力! 全プレーで見せる万能手』……って感じかな

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