常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
第三十二話
「はぁ、はぁ……」
息が……できない。なんだこれ、なんだこれ。
「……は、まず……を」
敵味方どちらからかもわからない歓声が、まるで壁のように押し寄せてくる。
遠くからチームメイトの声が微かに聞こえるが……何を言っているのかまったく聞こえない。
息が上手く吸えない。どれだけ呼吸をしても息苦しさが続いている。胃の奥がムカムカして止まらない。
「――――」
「――――」
ダメだ、頭がふわふわする。こんなはずじゃなかったのに! あぁ、サインがよく見えない。
それでも投げなければ! 無我夢中のまま投げてしまった一球。
視界がやけにスローモーションになる……くっきり縫い目の見えるボールが、ゆっくりと振られるバットに吸い込まれていく。快音が、鳴り響く――それが面白いようにバックスクリーンまで飛んでいく。満塁ホームランだ。
「――――!!」
「――――!!」
ダメだ、こんなはずじゃなかったのに! こんな情けない姿を見せるために、プロになったわけじゃないのに!
いつの間にか、遠くからやってきたコーチに優しく背中を叩かれる。そこで初めてタイムがかかったことを理解する。
運良く開幕戦一軍に呼ばれたところまでは良かった。敗戦処理の場面だとしても、登板の機会が与えられ意気揚々と挑んだと言うのに。
そんな俺のプロ初登板はあっけなく、なんとも情けない終わりを迎える。
――今更、視界が戻っても遅いんだよ……。
「帰れー! 下手くそ!」
「なんで1軍にお前みたいなのがくるんだよ!」
ああ、終わった……。俺の野球人生はもう終わった。
「石崎、お疲れさん。まぁ、ゆっくり休めや……そんな顔すんな。お前はここからだよ、ルーキー」
「あ……はい」
8回表2アウトランナー無
ワイルズ8―ペンギンズ1
――――
【ペンギンズ一軍大量入れ替え! 石田、柿田ら5名が昇格】
先ほど、球団は複数選手の昇降格を発表した。昇格するのは怪我で開幕一軍を逃した石田哲平外野手(31)や柿田雅人投手(24)など総勢5名。
逆に降格する選手は不安定な投球の目立ったマルティーヨ投手(35)や現在9打数でノーヒットの蔵田虎徹外野手(30)など。
ペンギンズは開幕戦以降勝ち星がつかず現在5連敗中。今回の大量入れ替えにより、チームの空気を入れ替えることができるか。
一軍昇格選手
柿田 雅人投手(24)
阿形 雄星投手(28)
結城 照貴捕手(22)
大清水 泰平内野手(22)
石田 哲平外野手(31)
二軍降格
グローリス・マルティーヨ投手(35)
内藤 導也投手(26)
沢井 平人捕手(25)
蔵田 虎徹外野手(30)
林 笑一外野手(22)
――――
大江戸ペンギンズは開幕戦に勝利し、これから上り調子になっていく……ことはなく、むしろ苦戦を強いられていた。
開幕戦、確かにエースの百瀬選手相手から取れた一勝というのは大きかった。でも、あんな勝ち方はもうなかなかできないだろう。
というか、ペンギンズの課題であるリリーフの不安定さと打撃力不足が露呈した試合だというのによく勝てたな……。
開幕6カードの総得点数はわずか9得点。一方総失点数は29失点。1試合平均得点0.7点対1試合平均失点4.8点でどうやって勝てばいいのかと。
……とは言っても暗くなるニュースばかりではない。
開幕2戦目に登板した大平選手は5回を2失点と大崩れしない投球。ホーム開幕戦を任された加藤選手も6回3失点で
打線の方は幸村選手と神田選手の二人が引っ張っている。幸村選手の方は6試合中5試合で安打を放ち、チーム総得点数9点のうち6点は彼の得点。
そして開幕戦3打点の神田選手も打率こそ.200と低打率ながら、ランナーをしっかりと返しここまで5打点。調子が悪い中でしっかりと仕事をしている。
あとはまぁ、4番のマシューズ選手に本塁打が1本出たくらいか。
あともう二、三人打てる野手が出てきてさえくれれば、かなり面白くなる。
「柏田ぁ、そろそろ出るぞ」
「了解です古市さん」
そして一日のオフを挟み今日、迎えるホームゲーム。早期の会場入りのため、途中まで書いた記事を保存しペンギンズのホームグラウンドである『日本製菓スタジアム大江戸』へ。
今日の対戦相手である湘南シープスは昨年3位と高順位のチーム。
要注目は打率3割越えでゴールデングラブ賞とベストナインを受賞した桐間選手。打点、本塁打共にリーグ2位の大下選手。
その二人を中心にした強力打線はリーグ内トップクラス。
……というか
「他のチームは全部ペンギンズより強いだろうよ」
「あれ? 声に出てました?」