常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第三十三話

「おいおい幸村くんよぉ。ヒーローインタビューでは随分かっこいいこと言っておいて、この様はなんだ?」

「そうだそうだー」

「返す言葉も無いです……。俺がもっと打っていれば……ここまでの5連敗は全部俺のせいです」

「そうだそうだー」

「そんなわけねぇだろうが! あんま調子のんなや!」

「どっちなんですか畑さん」

 

 もうすぐ試合開始だというのにチームの雰囲気は恐ろしく悪い。

 その原因は明白、開幕戦の前に幸村のやつが畑さん達に向けてプロ野球選手じゃないと言ったからだ。

 

 そんな生意気なことを言ったにも関わらず、チームは5連敗。どう落とし前をつけさせようかとしている所のようだ。でも……

 

「もうちょっとで試合や言うのに……今その問答やる時間ですか?」

「そうだそうだー」

「何横から入ってきてんだカキ! お前は知らねーだろうが、こいつも同じことやってるからな! 俺ら批判するのも、優勝だなんてでかい口叩けるのも誰だってできる……だが、言うだけ言っておいて連敗重ねる現状をどう思ってるか聞いてんだよ!」

「それを言うたら畑さん今打率なんぼなんですか? 今一番チームに貢献してるの間違いなくユキのやつですよ」

「そうだそうだー」

 

 いつの間にか畑さんの口論の相手は俺に変わる。……いつもなら畑さんに賛同する人もいるのだが、今日に限ってはいくら神田派の奴らでも擁護できないらしい。いい気味やな。

 

 ……ところで。

 

「「石田さん(いしさん)ちょっと黙っててもらっていいですか!」」

「そうだそうだー……あれ?」

 

 先ほどから適当な(やかましい)相槌を入れてくるのが、ペンギンズの選手会長である石田 哲平(いしだ てっぺい)さん。

 

 音漏れのするイヤホンから察するに、本当に何も聞いていないくせにとりあえず返事をしていたようだ。

 

「あんた何聞いてんすか!」

「ん……、凄九絵イチ」

「名前で言われてもセ◯シー女優わかりませんて。隣見てくださいよ。泰平の目ん玉とバットがギンギンになってますやん」

 

 思慮深そうな顔で騙されるが、少なくともここで見るものやないやろ……。ほんまやめてくださいよ……。

 

「つーか幸村! この人にこそ言えよ!」

「違うよ畑〜。ユッキーが怒ったのってお酒の話をしてたからでも緊張感がないからでもなくて、試合とか相手チームにまったく意識を持っていないからでしょ〜」

 

 いつも通り、掴みどころのない間延びした声。だが、いつもより光のない瞳の奥からは何も読み取れない。

 

「もしユッキーがこれすらも気に入らないって言うんだったら……まぁ、この試合で結果出すよ。そうすればこれが正当なルーティーンだって認めてくれるでしょ」

「別に疑ってませんよ」

「さすがユッキー、基準がわかりやすくていいね」

「そもそもの話がちゃいますけどね。こっちは必要不必要とか関係なく、家で見ろって言うとるんです」

 

 あっ、そうなの? とやはり間の抜けた回答が返ってくる。

 さて、そんな話をしているうちに移動の時間になる。畑さんなんかは幸村を睨みつけているが……。そんな中こっそりと幸村がこっちにやってくる。

 

「ありがとうカキ。庇ってくれて」

「なんやユキ……別に庇ったつもりはないで。俺も畑さんにはムカついてて――」

「ところで、なんで名前聞いただけで凄九絵イチがA◯女優だってわかったの?」

 

 ……やかましい!! 

 

――――

 

先行 湘南シープス

 

1番 左 矢田

2番 右 渡辺秋

3番 中 桐間

4番 一 大下

5番 三 脇谷

6番 遊 田澤

7番 二 毛利

8番 捕 日下部

9番 投 ウェントリー

 

後攻 大江戸ペンギンズ

 

1番 右 石田

2番 遊 幸村

3番 三 神田

4番 一 マシューズ

5番 左 畑

6番 中 堀江

7番 二 黒田

8番 捕 森谷

9番 投 郡

 

「今日こそ勝てよお前らー!」

「一試合だけなら期待させんなー」

 

 ホームゲームだと言うのに野次が酷いな……。まぁ、それも仕方がないか。開幕早々最下位(いつもの定位置)にいるのだから。

 

「それにしても、石田選手が復帰したわりには打線にあまり変化がないですね」

「メンバー自体は黒田と石田が入ったが、マシューズと堀江以外の打順が一つずつ下がっただけだな」

 

 もう少しいじってもいいんじゃねーか? なんて、横でぶつぶつ言っている古市さんを尻目に試合に集中する。

 

 さて、先発の郡選手は先頭の矢田選手をたった3球で抑えてみせる。さすがのテンポ。

 

 打席には2番打者の渡辺選手が入る。足が速く、内外野守れるユーティリティプレイヤー、しかし。

 

 初球に外角にストレート、2球目、同じコースにスローカーブ。どちらにも手を出してファール。郡選手の揺さぶりに、まったくついて行けていない。

 

 3球目、インコース低めのストレートを打たされる。平凡なサードゴロ……になるはずだった。

 

「あっ」

 

 少しイレギュラーしたか? それを神田選手のグラブが弾く。すぐに拾い直すもののバッターはセーフ。まさかのエラーにより出塁を許してしまう。

 

「おいおい余裕こきすぎだろ!」

「うーん、今年は目立ったミスもなくて調子が戻ったと思ってたんですけれど……」

 

 1アウトランナー一塁。ここでシープスのキーマンを迎えてしまう。

 

 誰が呼んだか『球界のスーパースター』。リーグ屈指の湘南打線を牽引する一人。3番センター桐間 藤(きりま ふじ)が打席に入る。

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