常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
1回表1アウトランナー一塁
球場のボルテージが一気に上がる。それも当然だろう、『スーパースター』桐間藤の打席なのだから。
昨年打率.315でリーグ3位、打点74はリーグ5位。本塁打12本、盗塁24。そして何より185安打を放ち自身初の打撃タイトルとなる最多安打を獲得。数年前までは守備だけの選手といった印象だったが、近年打撃も覚醒した今年7年目の25歳。
桐間選手は初球のカーブを悠然と見逃す。1ストライク。2球目のスライダー、3球目のインハイのストレートにもつられない。2ボール1ストライク。
バットを出すどころか、何の反応も示さないのが不気味だ。何を狙っているのだろうか。
ただ
4球目、アウトコース低め。きっちりと制球されたストレート。投げてくるとわかっている低めであり、おそらく向こうの狙い球。だからこそ手を出さざるを得ないボール。郡選手のコントロールとクセ玉なら間違いなく打ち取れる――
――はずだった! ……しまった、相手は昨年最もヒットを打った選手! 逆に誘われた! 左足を踏み込み、逆方向への鋭い打球。ちょうど三遊間への強いあたり。
――それを
打球が強いため、足の速いランナーでも間に合わない。6-4-3の併殺打が成立する。
「でたな、幸村のアレ」
「外野守備も見事でしたけど、やっぱり本業となると別次元ですね」
いつもなら抜けていたはずのあたりが、何でもないショートゴロ。さすがの桐間選手も放心気味だ。
よしよし、幸先がいいとは決して言えないが、悪い流れも生まれていない。
攻守が入れ替わり、ここからペンギンズの攻撃に入る。復帰したばかりとはいえ
――――
1回裏ノーアウトランナー無
『――1番ライト! 石田ー! 哲平-! 背番号9』
つい最近までは俺の場所だった先頭バッター。そこに代わるのは……いや代わるじゃないな。ペンギンズ本来の1番打者である石田さんが打席に立つ。
初球、150キロ近いボールがストライクゾーンに投げ込まれる。1ストライク。
シープスの先発であるウェントリーは、メジャーでの登板経験のある速球派右腕。来日初年度ながら、初先発時には6回2失点で勝利を挙げている。
そんなパワーピッチャーにどう立ち向かうか。2球目は大きく外れてボール、3球目は低めの緩い球を見逃し2ボール。4球目、来た速いボールに手を出すもファール。5球、6球、7球と石田さんは粘る。そして大きく外れた8球目、これでフルカウント。
9球目、粘る石田さんに対してバッテリーが選択したのはほぼ真ん中……しかしウェントリーの決め球であるカットボール。低めに投げきれば空振りをとれるボール。……もっとも『打撃職人』の異名を持つ石田さんにとっては苦にならないボール。
打球はレフト方向へ、ファールゾーンに切れるか?
――否、強烈なバックスピンのきいた打球はファールラインぎりぎりに落ちる。転々と転がるボール。レフトが回り込むも石田さんは二塁へ。早速のツーベースヒット。
いきなりのチャンスが、俺に回ってくる。
『2番ショート! 幸村ー! 早南也ー! 背番号25』
初球のボールを見逃す、1ボール。球速表示は148キロ、安定して速い球を投げてくる。
2球目、今度はストライクゾーンに入ってくるボール。……いや、石田さんへ投げたカットボール。スプリットのように、縦に鋭く変化する。
間違いなくいいボール……でも最近似たような、それでいて球速も、変化量も桁違いの球を見たばかりだ。
変化に合わせてバットを振りぬく……鋭い打球は投手の脇を抜け、センターの前へ。
いくら相手が名手桐間でもバックホームは間に合わない。1回、いきなりペンギンズの先制で試合が始まる。
湘南シープス0-大江戸ペンギンス1
そのまま、ノーアウトランナー一塁。走れるか……?
いや、鋭い牽制がくる。行かなくてよかった。
盗塁を狙いたいがバッテリーの警戒が厳しい。意外とウェントリーのクイックが悪くない。
――ならば、このままプレッシャーをかけ続けてやる。わざと、いつもよりリードを多めに取ってみせる。
あまり、牽制慣れしていないのか、それとも苦手なセットポジションでの投球のせいかウェントリーの投球がガタ着いてくる。
まとまらない制球。そのせいで神田さんに対してフォアボールを与える。
やはり日本の野球にまだ慣れていない? それとも立ち上がりが弱いのか? どちらにせよ、今のうちに叩きたい。……でもなぁ、
――だが意外にも、その心配は杞憂に終わる。
マシューズは初球のストレートを叩き特大のセンターフライ。タッチアップで俺は三塁へ到達。1アウトランナー一三塁。
そして、5番の畑さんに打席が周る。
初球、147キロが外角高めに、ボール。2球目、おそらくスライダー、またも外角に外れる2ボール。
あれ? 手が出せない、というよりもしっかりと見極められている。……いつもなら2球目のスライダーに手を出してそうなものだが。
3球目、絶好球が真ん中やや低めに……これにスイングするも空振り、スプリット。しっかり低めに投げ切られた、ナイスボール。
だが、それ以上に畑さんのスイングが、良い? ちゃんと振り切っている。失礼だがこんな畑さんを見たことがない。
4球目、スプリットを続けてくる。先ほどの空振りに手応えを感じたのだろう。だが……先ほどよりボールが高い、曲がりが早い、そして何より――インコースにボールが行く。
乾いた音が球場に響く、打球の速度は最後まで落ちない。鋭いライナー性のあたり、それがレフトスタンドの中段に飛び込んでいく。
シープス0―ペンギンズ4
マジでどうしたんだペンギンズ、とスタンドからはザワザワ、ワヤワヤと、少なくとも歓声らしくない声が聞こえてくる。こんな順調な初回、練習試合でもなかったぞ。
連敗脱出に向けて幸先のいいスタートが切れた。だが、まだ試合は始まったばかりだ。