常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第三十四話

1回表1アウトランナー一塁

 

 球場のボルテージが一気に上がる。それも当然だろう、『スーパースター』桐間藤の打席なのだから。

 

 昨年打率.315でリーグ3位、打点74はリーグ5位。本塁打12本、盗塁24。そして何より185安打を放ち自身初の打撃タイトルとなる最多安打を獲得。数年前までは守備だけの選手といった印象だったが、近年打撃も覚醒した今年7年目の25歳。

 

 桐間選手は初球のカーブを悠然と見逃す。1ストライク。2球目のスライダー、3球目のインハイのストレートにもつられない。2ボール1ストライク。

 バットを出すどころか、何の反応も示さないのが不気味だ。何を狙っているのだろうか。

 

 ただペンギンズ(こちら)は当然ゲッツーシフト。低めをひっかけさせてゴロを打たせたいところ。逆算するならば投げてくるであろう低め、特に――

 

 4球目、アウトコース低め。きっちりと制球されたストレート。投げてくるとわかっている低めであり、おそらく向こうの狙い球。だからこそ手を出さざるを得ないボール。郡選手のコントロールとクセ玉なら間違いなく打ち取れる――

 

 ――はずだった! ……しまった、相手は昨年最もヒットを打った選手! 逆に誘われた! 左足を踏み込み、逆方向への鋭い打球。ちょうど三遊間への強いあたり。

 ――それを()()にいた幸村選手が捕球する。

 

 打球が強いため、足の速いランナーでも間に合わない。6-4-3の併殺打が成立する。

 

「でたな、幸村のアレ」

「外野守備も見事でしたけど、やっぱり本業となると別次元ですね」

 

 いつもなら抜けていたはずのあたりが、何でもないショートゴロ。さすがの桐間選手も放心気味だ。

 

 よしよし、幸先がいいとは決して言えないが、悪い流れも生まれていない。

 

 攻守が入れ替わり、ここからペンギンズの攻撃に入る。復帰したばかりとはいえ石田選手(チームNo.1バッター)が加わった打線で点を取ることができるか。

 

――――

 

1回裏ノーアウトランナー無

 

『――1番ライト! 石田ー! 哲平-! 背番号9』

 

 つい最近までは俺の場所だった先頭バッター。そこに代わるのは……いや代わるじゃないな。ペンギンズ本来の1番打者である石田さんが打席に立つ。

 

 初球、150キロ近いボールがストライクゾーンに投げ込まれる。1ストライク。

 シープスの先発であるウェントリーは、メジャーでの登板経験のある速球派右腕。来日初年度ながら、初先発時には6回2失点で勝利を挙げている。

 

 そんなパワーピッチャーにどう立ち向かうか。2球目は大きく外れてボール、3球目は低めの緩い球を見逃し2ボール。4球目、来た速いボールに手を出すもファール。5球、6球、7球と石田さんは粘る。そして大きく外れた8球目、これでフルカウント。

 

 9球目、粘る石田さんに対してバッテリーが選択したのはほぼ真ん中……しかしウェントリーの決め球であるカットボール。低めに投げきれば空振りをとれるボール。……もっとも『打撃職人』の異名を持つ石田さんにとっては苦にならないボール。

 

 打球はレフト方向へ、ファールゾーンに切れるか?

 ――否、強烈なバックスピンのきいた打球はファールラインぎりぎりに落ちる。転々と転がるボール。レフトが回り込むも石田さんは二塁へ。早速のツーベースヒット。

 

 いきなりのチャンスが、俺に回ってくる。

 

『2番ショート! 幸村ー! 早南也ー! 背番号25』

 

 初球のボールを見逃す、1ボール。球速表示は148キロ、安定して速い球を投げてくる。

 

 2球目、今度はストライクゾーンに入ってくるボール。……いや、石田さんへ投げたカットボール。スプリットのように、縦に鋭く変化する。

 

 間違いなくいいボール……でも最近似たような、それでいて球速も、変化量も桁違いの球を見たばかりだ。

 

 変化に合わせてバットを振りぬく……鋭い打球は投手の脇を抜け、センターの前へ。

 いくら相手が名手桐間でもバックホームは間に合わない。1回、いきなりペンギンズの先制で試合が始まる。

 

湘南シープス0-大江戸ペンギンス1

 

 そのまま、ノーアウトランナー一塁。走れるか……?

 いや、鋭い牽制がくる。行かなくてよかった。

 

 盗塁を狙いたいがバッテリーの警戒が厳しい。意外とウェントリーのクイックが悪くない。

 ――ならば、このままプレッシャーをかけ続けてやる。わざと、いつもよりリードを多めに取ってみせる。

 

 あまり、牽制慣れしていないのか、それとも苦手なセットポジションでの投球のせいかウェントリーの投球がガタ着いてくる。

 まとまらない制球。そのせいで神田さんに対してフォアボールを与える。

 

 やはり日本の野球にまだ慣れていない? それとも立ち上がりが弱いのか? どちらにせよ、今のうちに叩きたい。……でもなぁ、(マシューズ)次の次(畑さん)だとなぁ……。

 

 ――だが意外にも、その心配は杞憂に終わる。

 

 マシューズは初球のストレートを叩き特大のセンターフライ。タッチアップで俺は三塁へ到達。1アウトランナー一三塁。

 

 そして、5番の畑さんに打席が周る。

 初球、147キロが外角高めに、ボール。2球目、おそらくスライダー、またも外角に外れる2ボール。

 

 あれ? 手が出せない、というよりもしっかりと見極められている。……いつもなら2球目のスライダーに手を出してそうなものだが。

 

 3球目、絶好球が真ん中やや低めに……これにスイングするも空振り、スプリット。しっかり低めに投げ切られた、ナイスボール。

 

 だが、それ以上に畑さんのスイングが、良い? ちゃんと振り切っている。失礼だがこんな畑さんを見たことがない。

 

 4球目、スプリットを続けてくる。先ほどの空振りに手応えを感じたのだろう。だが……先ほどよりボールが高い、曲がりが早い、そして何より――インコースにボールが行く。

 

 乾いた音が球場に響く、打球の速度は最後まで落ちない。鋭いライナー性のあたり、それがレフトスタンドの中段に飛び込んでいく。

 

シープス0―ペンギンズ4

 

 マジでどうしたんだペンギンズ、とスタンドからはザワザワ、ワヤワヤと、少なくとも歓声らしくない声が聞こえてくる。こんな順調な初回、練習試合でもなかったぞ。

 

 連敗脱出に向けて幸先のいいスタートが切れた。だが、まだ試合は始まったばかりだ。

 

 

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