常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
1回裏ノーアウトランナー無
いきなり本塁打による失点があったもののまだ1失点。
しかも、今日のオーダーを見るに多少の失点は覚悟の上だ。この程度で狼狽えてはいられない。
『1番 ライト 石田 背番号9』
打席には昨日、先制のホームを踏んだ石田選手。今日も早速打って欲しいが――。
「ボール!」
初球146キロの直球が低めへ、ボール半個分外れてボール。
二球目、今度はインコースギリギリに入ってくるフロントドアへの
「あはは、今年の
「はっ! たった二球でその日の調子がわかるのか。随分成長したなぁ」
「ええ、おかげさまで」
……古市さんも嫌味を言ったはずが、照れくさそうに頭を掻く麻見君の様子にイラッとくる。
3球目、インハイへのツーシームを見逃すがストライクになる。
まだ球数は少ないが、初回からボールのキレ、制球どちらも圧倒的だ。シープスのエースである一ノ宮
「あっ、打った」
が、そんなことは石田選手に関係無かったか。外角……下手したらボールでもおかしくないであろう球だったが、絶好と見たのだろう。左足を踏み込んで逆方向に打つ。打球はショートの横を抜けてレフトの前へ。早速ランナーが出る。
そして、次の打者は今のペンギンズで最も頼りになるバッター。
人がまばらな大江戸のホーム球場ながら、この瞬間だけはシープスにもギャロップスにだって負けない。
彼を懐疑的な目で見るファンはもう少ない。この声援が答えだ。
たった十戦でファンの心を掴み取った、チーム屈指のアベレージヒッターが打席に入る。
『2番 ショート 幸村 背番号25』
「よしよし、今のうちにチャンスメイク……いや、点を取ろう」
「こうなると石田の足がもったいねぇなぁ。出塁率の高さで1番打ってるが、あの足だと長打で帰って来れるか怪しいんだよな。……でも、この場面は期待していいだろ!」
「いやーどうですかね」
盛り上がる私たちの横で、ぽつりと麻見君がこぼす。
「麻見ぃ、水を差すためだけにここにいるのなら移動しろよ?」
「あはは、普通だと思いますけど。むしろ幸村に期待しすぎじゃないですか。今はたまたま調子いいだけで、環境が変わって対応される前だから実力以上に打てているだけでは?」
「あぁん?」
「それにノーアウト一塁。しかもランナーは足の遅い石田。じゃあ一個、警戒すべきものがあるでしょ」
相手エースの一ノ宮投手との対決にだって力負けしていない。きっちりコーナーへと投げられるボールへ見事についていく。ヒットにこそならないが、タイミングは徐々にあってきている。
カウント2ー2、幸村選手に投じられた七球目は低めにコントロールされたスプリット。それをうまく膝を使い、きっちりと打ち返す。
鋭い打球は二遊間へ……あっ!
ゲッツーシフトでベースより寄りに守っていたであろうショートの田澤選手が追いつくとそのままベースを踏む。そして一塁へと送球。
足の速い幸村選手でもさすがに間に合わない。一塁審が大きく手を挙げアウトを宣告する。ダブルプレーだ。
「んんー! おっしい!」
「惜しくないですよ」
「……いい加減にしてよ麻見君」
そろそろむかついてきたなこいつ……。だが、そんなこちらのことなんて構いなしに、スマホを何度かフリックすると一枚の表を出してくる。
「知ってます? 幸村って去年規定にギリギリ到達してないんですけど……併殺打数はレ・リーグ5位の12個を記録してるんです。足速いんで併殺崩れになる場面もかなりあったんですけど、その上でこの数字です。ほら、ここに書いてある状況別打率を見ると……ノーアウト、もしくは1アウトでランナーが一塁にいる時の打率だけ恐ろしく低いんです」
「へ、へぇぇ」
「足が速い、守備が上手い、どこでも守れる、思ったより打てる……etc。
どこかバカにしているようだが、思わず聞き入ってしまうほどに説得力がある。
なんでそこまで……
「なんでそこまで幸村に詳しいんだ、麻見」
古市さんも同じことを思ったのだろう。ふと、彼に対して問いかける。
興味のないチームの、たった一選手に対する情報量じゃない。
「あれ? 僕去年まで九州担当って言ってませんでしたっけ。幸村のことはサラマンダーズ時代から見てるんで、お二人より詳しいですよ」
帰ってきた答えは驚くも妥当なもの。それならその豊富なデータ量も、彼に対して辛辣にもなるのも納得……いや、こいつペンギンズに対して全体的に辛口だな。騙されるところだった。
そうこう話しているうちに、続く神田選手が三振に倒れ、3アウト。あっさりとこの回が終わってしまう。
……まだ初回だというのに、嫌な予感が止まらない。7連敗……いやそれ以上が頭に浮かんできてしまう。