常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
――桐間の感じとった幸村の癖、いや特徴。それを基にした攻略法はいたってシンプルだった。
「セーフ!」
3回裏ノーアウトランナー一塁
8番打者の堀江が打ったショートへのゴロ。強くたたきつけられた打球は一塁に間に合うだけの時間を稼いだ。
ノーアウトからのランナーではあるが想定内。キレのあるボールを四隅に投げ分ける、いわゆるゴロピッチャーの一ノ宮にとっては痛くもかゆくもない。
続く投手の大平に対しては楽に投げていく。2球目のストレートをひっかけさせてセカンドゴロに打ち取る。……打球が死に、結果的に送りバントと同じ形になってしまったが。
続く左打者の石田に対しては内外の投げ分けで的を絞らせない、一ノ宮らしいピッチング。4球で追い込むと最後は
もう一度石田は踏み込んで当ててくる。鋭い打球が飛んでくる。
「アウト!」
「ナイスサード!」
「おう」
飛んだ場所が悪かったな。ほぼ
ここでアウトを稼げたのはでかいな。2アウトランナー二塁で幸村早南也を迎える。
守備位置は定位置……本来ならば捕手、またはベンチから守備のサインが出るはずだが、今回は桐間の指示でこの位置。
時間のない中、あいつが俺たちに伝えたのは二つ。幸村の打席のみ守備のサインを出すこと、それと一ノ宮と
初球カットボールでインコースを抉り1ボール。2球目にスプリット、外角低めに外れて2ボール。3球目もスプリット、今度は手を出させファールを打たせる。
4球目、高めのツーシームを見逃しカウント2-2。5球目、146キロの速球が高めに外れてフルカウント。
6球目、低めのスプリットを打たれるも、ファウルボールはシープス側の応援席に吸い込まれる。
――――
『時間がないので手短に伝えますね。必ずいつもの決め球で勝負してくださいね!』
『あ、ああ。俺たちもそのつもりだったしな』
『頼みますよ! 理由を説明できないのは申し訳ないんですけど、
『お、おう』
……時間がないのは、お前が無駄な過去語りをしたからだろうが。何に追われているんだと言いたいほどに、バタバタと自分の守備位置へと走る桐間。
『あの、ガイさん。キリが言っていたのってどういう意味だと思います?』
『……知らん』
一ノ宮からその真意を尋ねられても、知らんものは知らん。
……だが、一つだけ言えるのは。
『……知らんが、あいつを信じろ』
――――
そして7球目、外角低めへのストレート――タイミングを計る、打者の時間が止まる。
ストレートと全く同じ腕の振りから、完璧にコントロールされたチェンジアップ。
これまでも何人もの打者を手玉に取ってきた一ノ宮櫂人の
――だというのに、まさか初見で対応できるのか。
本来ならばタイミングがずれて手打ちになる打者も多い中、体は前に倒れながらも芯は決してぶれていない。幸村本来の鋭いスイングが、白球を捉える。
左中間を切り裂くように強い打球が飛んでいく。
――だが。
「……どっからがアドリブだ? あのやろう」
桐間のスタートが異様に速い、速すぎる。まるで落下点が分かっていたかのように。まるで
それでも弾道が低く、間に合うかはギリギリ。いや、あの位置ではノーバウンドでの捕球は不可能だろう。桐間でなければ。
タイミングを見計らい、落下点へと飛び込む。
「……! アウト!」
届くはずのない打球、アウトだなんてありえない。そんな表情だな、幸村早南也。
確かに桐間にはスピードがある、肩も強い、意外とパワーだってある。だが、ただ身体能力が高いわけじゃない。
人間離れした柔軟性とボディバランス。これこそが桐間藤の
その特別を生かすべく中南米の選手を参考にした、全身を大きくしならせる身体操作。これが、こいつの異常な身体能力のからくり。
今回のスーパープレイのように、たとえ届かない打球だったとしても日本人離れしたその
脱力状態から、インパクト時の一瞬だけの全力は、時折俺すらもしのぐ飛距離を生み出す。
見る人全員の度肝を抜くようなド派手な守備。勝利を呼び寄せる痛烈な一打。それらはすべて偶然か? 違う、何度も何度もチームを救ってきた実績がある。
では必然か? そうかもな、本人の言葉を借りて運命や宿命といってもいいかもしれない。あいつの活躍はいつだって、悪い流れを断ち切り、チームに勝利の流れを呼び込む。
今なお、高々とグローブを掲げ、少ない時間ながらも自チームのファンに最大限のサービスをする桐間。これには同じプロ野球選手として脱帽するしかない。
その姿を例えるのならば……スーパーマン? スーパーヒーロー? 否――
――