常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

44 / 46
第四十二話

 

「んんぅぅ! なんであれを捕れるんだよぉ……」

「……いや、今のはもしかして」

 

 この試合初めての得点圏だったというのに……今のはどう考えても長打になる打球だったじゃん!

 でも、私の目には桐間選手のファインプレーにしか見えなかったそれは、古市さんの目には――

 

「もしかして幸村、あの位置に打たされませんでした?」

 

 ――そして麻見君の目にも、幸村選手の敗北として映ったらしい。

 

「……どういうことです? 古市さん」

「桐間の反応があまりにも速い……いや、速すぎる。もともとアタリを付けていたとしても、あまりにも正確すぎるんです。……多分、幸村の特性を利用して打ち取られたんだと思います」

「なんで麻見(オメェ)が答えんだよ」

 

 なんで麻見君が答えるんだろう……。

 だが、それはそれとして幸村選手の、特性?

 

「ふふ、なんだと思います? 柏田さん?」

「特性、ねぇ……自分基準でしか動かないくせに、一丁前に他者評価を気にしていることとかか?」

「なんで古市さんが答えるんです? ……マイペースでノリが悪いのは元々ですけど、前のチームではちょっといじられる程度でしたよ。むしろペンギンズで浮きすぎなんです。っと、性格の話ではなく」

 

 なんで古市さんが答えるんだろう……。

 でも特性、か。……正直、幸村選手のプレーに関しては今のところ何の文句もない。走・功・守の能力がペンギンズの中で飛び抜けているし、結果だって開幕戦からずっと残している。

 どこでも守れる、何でもできる。併殺打が多いといったって、むしろ欠点の一つや二つ誰にだってあるのだから気にはならない。改善はしてほしいけど。

 

 でも、これらは幸村選手のこれまでの実績であって特性ではないな。考えるべきは、実績のもっと内側、なんで結果を残せているのか。幸村選手のメカニズムを解き明かせ。

 

「……ヒント、要ります?」

「大丈夫、次の回……いや、5回の攻撃が終わるまでには答えを出すから」

「かかりそうだな」

 

 さて、一つのアウトに対して話し込む私たちをよそに、試合は進んでいく。

 4回表、7番(下位)から始まる打順に対し大平選手は、三振2つを奪いながら、今試合初の三者凡退で切り抜ける。

 

 そして4回裏、ペンギンズの攻撃。回の先頭は打率2割を切ってしまった3番打者、神田選手が打席に入る。

 

 初球、高めのストレートに当てるもタイミングが合わない。ファール。二球目、カットボールで差し込まれそうになるもファール。

 三球目、今度は外のツーシーム。これにも食らいつきファール。四球目は低めに外れボール。五球目はインハイの球をカット。六球目のスプリットにもついていく。

 七球目、チェンジアップ。低めに投げられて手が出ない……でも、辛うじてボールの判定。

 八球目、高めのスプリットをカットする。

 

「おいおいおい、無駄にしぶといな」

「あはは、ベテランの意地ってやつですかね」

「あの、セリフ逆ですよ」

 

 それこそ懸命に食らいつく神田選手。……現在チーム最多打点とはいえ、神田選手が打っている、というより前を打つ幸村選手の走塁能力の影響が大きい。

 この人も崖っぷちに立つ選手の一人。チームの顔だろうが、ベテランだろうが、もう関係ないとばかりに相手エースに食らいついていく。

 

「ボール、フォア!」

 

 そして12球目、ついに執念が実を結ぶ。ノーアウトでのランナーが出塁する。

 続く、4番のマシューズ選手はファーストゴロに打ち取られるも、その間に二塁へ到達。

 

 1アウトランナー二塁。打席には5番、今日は守備で全くいいところのない男、大清水泰平が打席に立つ。

 

 初球、高めの釣り球。これにフルスイングで答えてしまう。1ストライク。球場からは深いため息が聞こえてくる。

 

「あークッソ、さすがに力みすぎだろ! 守備でのミスを取り返そうってか?」

「さすがペンギンズ。わざわざ外野未経験の大清水を、よりにもよってクリーンアップで起用するなんて。ほかに外野手の候補いないんですか」

「幸村」

「あいつショートでしょ」

 

 ……なんか、だんだん二人が仲良くなっている気がする。

 まあ、それは一旦おいておこう。確かに一見すると、一か八かの一発狙いに見える。でも力んでいるとはいえ、普段から彼はそんなものだ。

 どうせ一ノ宮選手からはそう何度も打てない。それならば下手にヒットを狙うよりはそっちの方がいい、はずだ。

 

 カウント0-2。三球目のツーシームがバットに当たる。芯を外されたせいで打球はヘロヘロっと上がる。これでは外野の頭を超えない。――そして定位置までも届かない。セカンドとライトの間にポトリと落ちる。

 1アウトランナー一三塁。まさかの大清水選手のヒットに球場が沸き立つ。

 

 続くバッターは、こちらも守備(リード)に難のある結城選手。

 彼も初球の外のボール球をフルスイングし、1ストライク。……でも。

 

「大清水と違って自分のスイングができてますね、彼。確か一軍はほぼ初めてじゃないんですか?」

「当たり前だろ。結城は泰平みてぇに細かいことを気にする奴じゃない。プレッシャーも、捕手としての責任も、なんなら今日のリードの出来だってあいつに取っちゃ関係ないのさ」

「逆にキャッチャー失格では?」

 

 ごもっとも。でも結城選手の状態がいいのは事実。いつもなら振るであろう難しいボールを、しっかりと見逃せている。

 変化球を続けるシープスバッテリー。だが、どんどんとカウントを悪くしてしまい3ボール1ストライク。

 

 五球目、外角低めへのストレート。球速は145キロをマークする。でも、ストライクを取りに行ってしまう。

 

 スイング自体は、割とコンパクトな印象を受ける結城選手。それでいて体の使い方、腰の回転がいいのだろう。無駄なく、それでいて力強いスイングは右中間を切り裂く。

 

 三塁ランナーの神田選手は悠々と生還。一塁ランナーの大清水選手は三塁でストップ。結城選手のタイムリーツーベースでついにペンギンズに待望の得点が生まれる。

 

「よーし、よし! ナイスバッティングだ結城! これでチャラになるわけじゃねーが、いい仕事したな! おい!」

 

 しかも、まだ1アウトだろ! と気をよくする古市さんだけれど――

 

「アウト! チェンジ!」

 

 その後の堀江、黒田両選手があっさりとアウトになりこれ以上の追加点は無し。

 ……あの、そんな顔しないでください、いつものことじゃないですか。……自分で言っていて悲しくなってきた。

 

 ――でもそれ以上に気になったことがある。結城選手の打球、左右の違いはあれど幸村選手の第二打席とほぼ同じ性質。

 もちろん一度できたから、いつでも何度でもできる……とは思わない。けれど、それゆえに幸村選手が打たされたというのが事実であると強調される。

 

 結城選手の打席と、幸村選手の打席で何が違う?

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。