常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第四十三話

5回表ノーアウトランナー無

 

 シープスはついに三巡目を迎え、1番打者の矢田選手。

 大平選手はチーム内でもタフな投手。とはいえ4回までで70球を投げさせられており、スタミナはかなり削られている。あとどのくらい持つか。

 

 2ボールノーストライク。ボール先行のなか、インコースへのストレート。矢田選手のバットが掠り、打球は後方に打ち上がり、ファウル――

 

 いや、結城選手の反応が速い! 素早くキャッチャーマスクを外すと、ノーステップで真横へ飛び込む!

 難しいフライなのにナイスキャッチだ!

 ここでこのアウトは大きい! やはり結城選手のポテンシャルは凄まじい。

 

 続く2番の渡辺選手をセカンドゴロに打ち取りツーアウト。

 そして、今日好調の桐間選手の打席。

 

 初球のアウトコースを見送りボール。二球目のフォークをカット、三球目のインコースを見切って2ボール1ストライク。

 

 そして四球目、スライダー。捕手の要求よりも高めに浮いたボール。その球を狙い打たれる。

 

 打球はグングンと伸びて、伸びて……! フェンスの上段を叩く! 幸いスタンドに入らなかったものの、ボールは予想外の位置に跳ね返り、ライトの石田選手が一瞬見失う。

 

 その隙を見逃すような桐間選手ではない。持ち前の脚力で一気に三塁を狙う。

 

 石田選手の守備は、どちらかと言うと上手い部類に入る。そんなに足が速くないため守備範囲自体は特別広くないが、打球の追い方だったり、送球が正確だったりでうまくカバーしている。

 強いてイメージを挙げれば、身体能力が一段階劣る幸村選手と言ったところか。

 

 だが、今回は桐間選手が相手。さすがに三塁で刺すことはできない。2アウトながら桐間選手にスリーベースヒットを打たれてしまう。というか……。

 

「……あの、桐間選手の第二打席の結果って、二塁に進んでましたけどシングルヒット扱いですよね」

「だな……じゃあ、あとツーベースか」

「あはは、もしサイクルヒットが達成なら、見に来た甲斐がありますね」

「お前どっちの味方だよ」

「別にペンギンズサイドじゃないです」

 

 サイクル安打、一試合中にシングルヒット、ツーベース、スリーベース、ホームランの全てを打つ偉大な記録。

 そもそも一試合で4安打をすること自体が稀だというのに、その中でホームランを含む長打3本を打つ難しさたるや。

 

 実際、長いNPBの歴史の中でも、いまだに達成者は71人しかいない偉大な記録(※作中2025年)。

 年間で1回でも達成者が出れば奇跡。実際惜しいところまで行く選手は何人か出るが、あと一本が出ない……なんて言うのはザラだ。

 しかし、桐間選手はサイクル安打の最大の難関であるスリーベースヒットを放ったのだ。今試合での達成に現実味がある。

 

 そして現状に目を戻すと、2アウトランナー三塁で4番の大下選手。……本当にまずい。

 

 大平選手の限界は近い。それでも最後の力を振りボールを投げ込む。まずはストライクゾーンにギリギリ入らないボール球。二球目もボールゾーンへのフォークボール。

 最悪、今打席も歩かせることを視野に入れているのか、慎重に投げる。

 

 でも、三球目。インコースへのボール球。思っているよりも、しっかり外れていない。

 難しいコース、大柄な大下選手が打つとなれば少し窮屈な体勢。だが、昨シーズンリーグ2位のスラッガーにとってはその程度、なんの支障にもならない。

 

 打球はサードの頭を超える。難しいボール故に詰まり気味の打球。だが、それがうまい具合に守備の穴を突く、ボールは転々と転がって――

 

「はぁ!? なんでいるんだよあいつ!」

 

 その声は隣から聞こえる。でも気持ちは同じだ。

 本来誰もいるはずのない、サードの真後ろ。そこには幸村選手がいる……なんで!?

 

 大下選手は確かに鈍足、それでも深い位置からの送球。しかも、左腕を伸ばしての捕球になるため、一度反転してからの送球、間に合わない……!

「いや、あれは幸村早南也なので――」

 

 ――外野手をやっていた時から、いや、最初の紅白戦の時からずっと思っていたけれど、本当に投げるまでの工程に無駄がない……必要な工程すら他の人より洗練されている気がする。

 

 それはまるで限界まで張り詰めた弓のようで。体は確かに三塁方向に流れている。その流れに逆らうように、しなる体の反動を利用してボールをはじき出す。まさしく矢のような送球は、懸命に体を伸ばすマシューズ選手のグラブの先を射抜く。

 

「アウト!」

 

 バッターの大下選手をアウトにし、3アウト。俊足を生かし、とっくにホームに生還していた桐間選手だが、その得点は認められない。

 なんとかこの回もピンチを凌げた……とホッとすると同時に、先ほどのプレーには疑問が残る。

 

 いくら幸村選手の守備範囲が広いと言ったって、サードのほぼ真後ろ(あの位置)にいるのはあり得ない。

 反応とか、そう言うものじゃない。まるでそこに打たれるのがわかっていたかのように……まるで先ほどの()()()()のように。

 

 それと、もう1つ。

 

「なんだ? お前もそういうこと言うのかよ」

「あはは……なんのことです?」

 

 今日、と言うか出会ってから初めて。理屈屋で余計な言葉しか言わない麻見君の口から――感情が聞こえた気がした。

 

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