常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
5回裏1アウトランナー無
2点ビハインドの中、ペンギンズの攻撃は大平選手に出された代打の選手から始まる。しかしあっさりとピッチャーフライに倒れて1アウト。
打席には今日二安打の石田選手。
「それで柏田さん。この回が終わったら答え合わせなんだけど……思いつきました?」
「うん……あと少し待って……」
幸村選手のことは、(いろいろあったこともあり)注目していた選手の一人。麻見君ほどではなくとも見てきた自負はある。
だからか、一度意識さえしてしまえば推察のカードは困らないぐらいには出てくる。
特に印象深いのは守備。どこでも守れる守備職人ではあるが、同じ名手でも、今出場する結城選手や控えにいる橋本選手とではタイプが違う。
例えば、5回表の結城、幸村選手の守備。どちらも値千金のファインプレーではあったけれど、結城選手の場合は超反応でのダイビングキャッチによるアウト。
一方で幸村選手は飛び込んだ、追いついたというプレーではなかった。自身の守備位置ギリギリの打球処理、そんなイメージ。
――そんなことはあり得ない、たとえどんなに瞬発力があろうと、もし仮に野手全員が守備の名手だったとしても、守備の穴というものは必ず存在する。あの打球はそういうものだった。
それすらアウトにして見せた。これこそが幸村選手の武器の一つ、大胆なポジショニング。
最初の紅白戦の時からそうだった。ヒット性の当たりがことごとく彼の手により潰される。
その時はいつも打球に追いつくのではなくて、ほとんどが正面。バッターが打った瞬間にはもう
しかも、最初からその位置にいると警戒されるからか、普段はチームの守備方針に
打者ですら気がつくことができない早業。しかも、中継なんかだと基本的には投手と打者を写しているタイミング。しっかりと彼だけを見ていないと認識することすら難しい。
打球を追う一歩目が異常に速い……いや、違うな。速いと言うより、準備している。いわば、誰も認識できない『マイナス一歩目』。
卓越した観察眼と、自分の判断にフルベットできる度胸がなければ実現できない神業。
――つまり、幸村選手を一言で表せば『準備の選手』なのだ。
『2番 ショート 幸村 背番号25』
「ん? あれ? いつの間に2アウト?」
「おっ前、さっきの石田の打席見てなかったのかよ! サードゴロになったとはいえ、執念で10球投げさせてたぜ」
「あー、すみません。ぼーっとしてました……」
幸村選手は今日ノーヒット(1併殺)。とはいえ、現在チームトップで唯一の3割打者。警戒レベルは依然高い。
そんな、初球。幸村選手のバットが途中で止まる。前打席で打ち取った魔球チェンジアップ。まさか、最初のストライクに使ってくるとは……。続く2球目――! チェンジアップを連投!?
今度こそ幸村選手のバットが出る、がファウル。ここまで見せてこなかった配球、でも幸村選手ならきっとうまく対応して……いや、違う……。
――ゾワリ、と背中に冷たいものが走る。
3球目、インコース低めのツーシームを見逃してカウント1-2。
幸村選手が、最初の2球を見逃したのは意表を突かれたからではないのか。
だって、一ノ宮投手のチェンジアップは初見で攻略していたのだから。
もし、続けて同じ球を投げていれば打たれている。なぜなら幸村選手は、すでに一ノ宮選手のチェンジアップを攻略しているのだから。
今の2球はきっと決死の覚悟で投げたんだろう。幸村選手に、それを完璧に打てるようになってもらうために。幸村選手にもうチェンジアップを投げないと思ってもらえるように。
4球目、カットボールが外れて2ボール。5球目はツーシームをインハイに投げるもこれはファウル。
昨日のウェントリー選手も、ギャロップスの南川投手も打たれたのは、初出の変化球だった。
……いや、もっと言うと、百瀬選手のジャイロスライダーや郡選手のスローカーブにすら、初見で痛烈な打球を放っている。
きっと幸村選手は投手の最も自信のあるボールを意図的に狙っているのではないか?
ウイニングショットを叩くメリットは大きい。
もっとも自信のあるボール……いわゆるどんな時でもアウトを取れる保険のようなものの信用が一気になくなるのだ。
これだけで投手のメンタルに大きなダメージを与えることができる。
……でも、それが向こうに伝わってしまっていたら? 幸村早南也の特性と合わさると最悪を招く。
思い至った彼の特性『準備の選手』とは、最高の結果に向けて邁進する素晴らしい特性だ。
……一方で、裏を返せば融通の利かない選手、ということではないのか?
技術が高く、百瀬千尋相手にホームランを叩き込める打者。でも狙いのわかる、愚直な選手。そんな彼を相手にするならば、裏をかくのではなく罠にはめる方が簡単なのではないのか?
「……スプリットをファウル線ギリギリに」
「正解です」
6球目、高めのストレートが外れてフルカウント。
7球目、外角へのスプリット。これを狙っていたのか左足を踏み込み、反対方向へ打球を飛ばす。
本来であれば、ライト線いっぱいのツーベースヒット、といったところだろうか。
――でも、そこにはすでに矢田
打球の来る方向も、タイミングもわかっているのだ。
これが、桐間選手、そして矢田選手の――『マイナス一歩目』。
たとえ罠だとわかっていても、きっと飛びつかずにはいられない。幸村選手の活躍要因のはずの用意周到さが、この試合では仇になる。