常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する 作:鋼鉄の山本
ゴールデンウィークが終わったので再開します。
「やったね矢田っち! 読み通り!」
「おい先輩やぞ! ……でもすげぇな。お前のいう通りに動いたら、マジで飛んできやがった」
無邪気にVサインを作り、5つ年上の先輩に対して戯れるこいつがペンギンズを抑え込んだ指揮官だとは誰が思うか。
試合前、チームのアナリストがペンギンズの最重要選手として挙げていたのが幸村。最近は当たっていることもあるが、まだまだデータが少なく不気味な存在。
しかし今日は、良いあたり打ってこそいるが、チャンスで抑えきり全く仕事をさせていない。
先ほどの桐間の指示は、打者が打った瞬間にファウルライン際まで走れとだけ。
「幸村のことだから、きっと俺の方だけには打ってこないと思ったんですよ! それがドンピシャ!」
「おい、過信だけはするなよ。偶然山勘2連発が当たっただけだ」
「もちろん分かってます凱さん。まさかこの程度の対策で全部防げるだなんて思ってませんよ」
いくら飛んでくる場所を誘導していたとはいえ、外野定位置からラインギリギリの打球。
桐間の立てた攻略法は『守備位置で打球を誘導する』と『狙い球を気持ちよく打たせる』の二つだけ。
実際に効果が出たものの、この程度の対策だけで全てを防ぐことはできるわけがない。
いくら幸村がそれにかかりやすいタイプとはいえ、当然イレギュラーは発生する。つまり、言うは易く行うは難しだ。
「……なぁ、その対策よ。俺のチェンジアップとスプリットが打たれること前提だったて聞こえるんだが?」
「はい!」
「はい! じゃぁないが」
もっとも、自分が打たれることが前提の作戦のため
「にしても、こんな簡単な対策が効くんだ……意外と引き出し少なかったり?」
「まぁ、だから構想外だったんじゃないか?」
……ベンチ脇で、比較的一軍経験の少ない若手たちがヒソヒソとそんなことを語る。丸聞こえだ。
相手に失礼だが何より、あれだけ長々と語られた幸村との因縁を聞いていなかったのか。
「……おい、お前ら――」
「――つまりそれは、あいつに負けた俺が大したことないってことか?」
俺よりも先に、なんの感情も乗せない声が目の前から聞こえることに驚く。
その表情は読み取れない。そこまで長い付き合いではない彼らでも恐怖に思えるほどの違和感。今までの陽気さ、うるささはどこにもない。
桐間藤のものとは思えない冷酷な視線が、不用意な発言をした彼らに突き刺さる。
――――
6回表2アウトランナー無
5番打者から始まったシープスの攻撃だったが、代わったばかりの伊東選手がポンポンとアウトを取っていく。
昨日の試合は打たれてしまったものの、その悪い流れは感じられない。低めにスライダーやカーブを集めてゴロを次々と打たせていく。
「やりますね伊東選手! オープン戦の時のテンポが戻ってきたんじゃないですか!?」
「確かに。やっぱり慣れない場面での登板も多かったしその辺で調子崩してたのかもな」
伊東選手は去年までビハインド場面でのロングリリーフがメインの選手。最近は不慣れな接戦での起用が多かった。そのせいで調子が狂ってしまっていたのか?
慣れた環境での登板というのもあるだろうが、元々のタフネスさも合わさり、ここ最近で1番の内容を見せる。
「いやいや、中継ぎのくせに敗戦処理しかできないのはダメでしょ」
……それはまったくもってその通りである。
そんな会話が一区切りつくのと同時にこの回最後のアウトが宣言される。わずか11球の三者凡退。見事にあのシープス打線を抑えて見せた。
……抑えたついでに、身もふたもないことが頭を過ぎる。こんなことは言いたくないけど。
「こんなことは言いたくねぇが、昨日抑えろよ」
「あはは、ペナントレースなんてそんなもんじゃないですか。いちいち言ってたらキリないですよ」
わ、私はまだ何も言っていないし!
……ゴホン、さて6回裏ペンギンズの攻撃。打席には3番打者、先ほどはベテランの意地で四球をもぎ取り、チャンスメイクをしてみせた神田選手。
調子はまだ完璧とは言い難いけれど、それでも長くこのチームを支えてきた屋台骨。先ほどの打席のように、ここで流れを変えられるとしたら彼しかいないだろう。
そんな中での初球。まずはカットボールを見逃して1ストライク。
続く高めのスプリットを見逃して1-1。
再びゾーンにきたボールへと当ててファール。低めのボールにも反応していく。ボールは前に飛んでこそいないが、タイミングはどんどんとあっていく。
次こそは捉えられる。そんな確信。
――だからこそ、
速球と……いや、全球種を全く同じ腕の振り、同じピッチトンネルで投げ分ける圧倒的な投球技術。
一ノ宮選手はそこまで球が速い投手ではない。それでも
想像以上にスイングのタイミングが合わず膝をつくその姿は、まるで……こんなことを思いたくないが、もう神田勇の幕引きが近いことを、今を生きるエースに思い知らされているようにも見えてしまう。
大江戸サイドはもはや何の声も出せない。それでも何とか声を振り絞ってくれるファンもいるが……その声たちはシープスの声援にむなしくかき消されてしまう。
そんな空気の中、打席に入る4番のマシューズ選手。だが……その表情はあまりにも強張っている。理由はおそらくこの試合の空気、ではなく自分の成績。
現在8試合すべてで4番、フル出場しているというのに打点はわずかに1打点。打率は前打席の凡退でついに2割を切り.194。
そんな状態で力むな、と言う方が酷なのだろうか。案の定、初球の外のカットボールをフルスイングし1ストライク。
「いい加減そいつ使うのやめろやー!!」
「代打だせー!」
そんな、打撃不振の四番に対して当然ファンは憤りを感じている。静かだったはずの自軍応援席からグラウンドまで響きそうなヤジが増え始めてきた。
そんな中、二球目。
乾いた破壊音が、スタジアムに鳴り響く。
桐間選手は追わない。むしろグラブで日差しを作り、ただその打球の行方を見守る。それほど完璧な一撃。
「バ、バックスクリーン直撃の豪快ソロ!!」
「ここで飛び出るかー!」
外角やや高め、速球系のボール。それをマシューズ選手のフルスイングがしっかりと捉えた。
「失投……ですかね? 変化球がすっぽ抜けた?」
「かもな。でもよりにもよって一発しかないマシューズに対して抜けるか〜」
でもこれで2点差。絶望的かと思われた試合だったが今の一発を皮切りにどんどん声が出始めてくる。このまま――
――と淡い期待をしてみたものの。
7回表ノーアウトランナー1.3塁
「……本当に点差がないと打たれるんですね、彼」
「連投のイニング跨ぎで疲れてんだよ、きっと」
代打攻勢からの二連打であっさりとピンチを演出する伊東選手。
あぁ、いつもの伊東選手が戻ってきてしまったな……なんて、微妙な空気が球場を包み込む。
まだ幸いなのは大清水選手の代走で入った橋本選手がショートに、ショートにいた幸村選手がレフトに入っているため先ほどまでぽっかりと空いていた守備の穴が塞がったことか。
「僕からすると幸村レフトはもったいない様な気がするんですけど……ほかに候補がいないんじゃ仕方ないですよね」
「一応言っとくが橋本京水舐めんなよ。守備だけなら間違いなく日本トップクラスだぞ」
「はいはい、期待して見ますよ」
そんなやり取りを聞いているうちに初球、外角へのストレート。これを渡辺選手はスイングして1ストライク。
二球目のカーブを見送られボール。三球目はインコース、打者の体に近いボールでカウント1-2。
「うーん、見るからに腕が振れていない。慎重すぎる……」
「おいおい、あんな球じゃ簡単にはじかれちまうだろ」
そして4球目、外角のスライダーが捉えられる。
左打者の渡辺選手にとっては落ちながら自分へと向かってくる軌道。そのボールを逆方向にはじき返される。……でも!
打球に
まずは1アウト。これで少し落ち着いてほしいが……。
――そんな思考は、雪崩のような大轟音にかき消される。
1アウトランナー満塁。サイクルヒット達成まであと二塁打一つ。それを、ここで打たれてしまえば試合が決まりかねない、そんな絶好の場面。
恐ろしいのは、こういう場面を何度もものにしてきた実績があるということ。
記憶にも、記録にも名を残す『球界のスーパースター』。3番桐間藤がゆっくりと打席に入る。