常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第四十七話

『大江戸ペンギンズ 第一順選択希望選手 桐間 藤 投手 蒼浜高校』

『大江戸も桐間です! これで桐間にも4球団が競合します!』

 

 8年前、この年ははっきりと投手の年だった。特に、大学生、高校生世代の完成度は近年稀に見ないほどに高水準。のちに黄金世代と呼ばれるにふさわしいドラフト。

 

 この年大阪ワイルズに入団した神崎 仁一郎(かんざき じんいちろう)は高卒1年目から2桁勝利を達成。左の剛腕は今も大阪ワイルズの絶対的エースとして君臨している。

 

 福岡サラマンダーズの西邦 慶次(にしくに けいじ)は大卒3位で入団すると4年目に10勝、5年目には最多勝を獲得。当時は吉城暁に並ぶ2大エースとして黄金期の福岡を支えた。

 

 現東京ギャロップスのエース百瀬 千尋に至っては……改めて語る必要はないだろう。

 

 ただ、この時のドラフトの主役は決して彼らではなかった。

 

 大学生No.1投手、当時は東京六大学所属の早川実業大学のエースであり、現在はロサンゼルス・メビウスでプレーする吉城 暁。

 

 そして、もう一人。投手世代で前述の彼らより、実力も、話題性も頭一つ抜けている選手。

 

 神奈川の伝統校 蒼浜高校出身。春のセンバツベスト4。そしてその年、真紅の優勝旗をノーヒットノーランで飾ったスーパー投手(ピッチャー)

 ——その名を桐間 藤。

 

 

 お互いに4球団が競合。その結果吉城は当時から強豪と呼ばれていた福岡サラマンダーズへ、桐間は地元湘南シープスへの加入が決まった。

 

「1番行きたかったチームなのでっ、ずっと大好きだったチームだったんでっ、……嬉じいでずっ! 桃川監督(※当時の監督)、愛してまぁぁす!」

 

 指名直後の会見では大粒の涙を流してクジを引いた監督への愛の告白。狙ってはいなかっただろうが同じチームを愛するファンとしてはなかなかに好印象に映っていただろう。

 

「僕は君(の投球)に一目惚れでした。相思相愛ですね」

 

 ……これは余談だが、この会見を聞いた当時の湘南の監督の返しがこれである。当時の某掲示板は大盛り上がり、一部の界隈を巻き込んでお祭り騒ぎとなった。

 

『福岡サラマンダーズ 第六巡選択希望選手 幸村 早南也 内野手 帝楽高校』

 

「幸村おめでとう、やったな!」

「はい、ありがとうございます……」

「…………」

「…………」

 

 そんな中、全体67位にひっそりと呼ばれた幸村。6位指名ということ以上に、この時サラマンダーズは1位指名で吉城、3位で西邦と大学野球屈指のエースピッチャーの指名。更に4位で地元九州の逸材、宮下圭の獲得をも成功。これには関係者・ファン共々大盛り上がり。

 正直、彼に対してそこまで興味を持てる状態ではなかったのだろう。

 

 付け加えると、この時の帝楽には大量の記者が集まっていたが、先にドラフト1位で指名された神崎の方に取材が集中。

 

 さらに監督やチームメイトすらもそっちに行ってしまったため、幸村の周りには本当に数人の同級生と副顧問。あとは神崎の方に乗り遅れた数人の記者のみ。

 

「おめでとう幸村君、やっぱり神崎君と同じチームにいたことが刺激になったのかな?」

「まさか支配下で呼ばれるとは……。おっと、違う違う! 神崎君に負けないように頑張ってね!」

「はは、ありがとうございます」

 

 しかもほとんどの記者の言葉がこれである。この後の会見も神崎、神崎、神崎。

 後に福岡サラマンダーズの切り札(ジョーカー)としてリーグ6連覇の最後のピースになることは誰も知るよしもないが、それにしたってこの扱い。

 

 こうして幸村の不遇伝説は始まったのである。

 

 

――――

 

 そんな極端なほど違う入団エピソードを持つ2人であるが、苦しい数年を過ごしたという点では案外似たもの同士であっただろう。

 

(二軍)      123456789 計 安

大江戸ペンギンズ 001024000 7 11

湘南シープス   020010001 4 8

 

勝利投手 小沢

敗戦投手 桐間

本塁打 蔵田(ぺ)

 

 

 

「桐間ー! おい、桐間ー! ったく、どこ行ったあいつ! これからミーティングだっていうのに……」

「ブルペン、室内練習場、トレーニング室……思い当たるところは全部探しましたよね。あいつに限って帰るわけないですし……」

「コーチ、一ノ宮さん! 桐間いました! あいつ今度は用具庫の近くにブルペン作って、そこで」

「はぁ!?」

「なぁーにやってんだあのバカ」

 

 まだまだ春の陽気とは程遠いが、九州だと防寒具に頼らなくてもよいぐらいになってきた3月。

 シーズン開幕までのこり1か月を切り、各チームは今シーズンを戦うための戦力の見極めの真っただ中。

 

 特にこの湘南シープスは昨年の最終順位は4位と2年連続のBクラス。しかも3位とはわずか1ゲーム差と辛酸を飲まされたばかり。必ずや今年こそAクラス――いや優勝を。

 

 昨年は幸先こそよかったものの、先発不足で一時は最下位まで転落してしまった前半戦。一部の中継ぎを先発に回したことで、ある程度順位が上がったところ、今度は後ろの投手(リリーフ)が崩壊してしまった後半戦。

 

 いずれにせよ投手陣の整備が目下の課題だ。今まで1.5~2軍扱いの選手たちの目の色が違う。開幕一軍入りを目指し、どの球団よりも激しい生き残りレースが繰り広げられている。

 

 ……しかし、本来であればその渦中になければならない名前がどこにもない。

 

「……はぁ、はぁ……すみませんコーチ。30分だけでもと思ってたんですけど、夢中になって、ミーティングすっぽかすところでした」

「馬鹿野郎、俺らが怒んのはそっちじゃねぇ! 遅れるのは確かに問題だがこれはそれ以上の問題だぞ! 試合の直後だって言うのに、今日また投げたな!?」

 

 息も絶え絶えの中、なんの悪びれもなく……むしろにらみ返すようにも見えるその姿に、コーチの怒りのボルテージがさらに上がる。

 

 肉体こそ学生時代より一回り以上大きくなっているものの、どこか幼く……いや幼稚に見えるのはその態度のせいか。

 かつてはシャープな顔つきと称されていたはずなのに、真っ黒に塗りつぶされた目の下と、すっかり抉れてしまった頬。

 かつてスターと呼ばれた面影をもうだれも感じることはできない。

 

「俺は……早く結果を出したいんです! サボっている暇なんてないんです!」

「どぅあーかーらー! 休息はサボりじゃないし、それはミーティングすっぽかしていい理由じゃないと何度言えばわかんだよぉー!!」

「落ち着きましょうコーチ」

 

 怪我を舐めるな、コーチを舐めるなと捲し立てられているのにどこ吹く風か。視線こそ正面を向いているがコーチと目線が合っていない。

 

 桐間がここまで自らを痛めつける理由。それはやはり結果を残そうとする焦りからだろう。

 今日の試合はあのペンギンズを相手にして、2回1/3を投げて5失点(自責点4)。

 また、昨シーズンのファーム成績は先発7試合で0勝6敗。中継ぎでも防御率6点台。この2年間で一軍経験はただの一度も無い。

 

 最早、今の彼にドライチの片鱗は……ましてや甲子園の時の輝きを感じ取ることはできないだろう。

 

 ――例えまだ高卒3年目の20歳だとしても、結果以上に成長が見込めない選手なのであれば、この判断は仕方がないのだろう。

 

 一度ため息をつき、ある程度感情を抑えたコーチは昨年末から決断を促すそれを淡々と告げる。

 

「……お前、マジで野手転向やりたいんか」

「っ!! ……すみません、それだけは勘弁してください」

「アホ、それだけはって立場わかってんのか? 今のお前だとそれ以下になる方が可能性高いぞ。結果残せんのはあかんけどな、お前はそれ以上に上の言うこと聞かんのがあかん。せめて、ケガ対策だけでもしてくれたらいいのにそれもやらんし、ホントに……」

 

 ――桐間藤の何よりの魅力……それは全身のしなりを利用したダイナミックなフォーム。そしてそこから繰り出される美しい回転のストレート。

 甲子園では、150キロのまっすぐで並み居るスラッガーたちを手玉に取っていたものだ。

 

 実際一試合で22奪三振を達成したことすらある。残念ながら記録は練習試合のものだが、甲子園で達成されていれば、同じ神奈川の怪物左腕に並ぶ偉業となっていただろう。

 

 ところが今はどうだ。2軍の選手だけならばまだしも、育成選手やアマチュアとの練習試合でも打ち込まれている。

 

 ケガのせいか、はたまたフォームが原因か。いや、無理な練習が祟って疲労だろうか……。

 

 だが何より最悪なのが一番の問題の答えに行きつけていないこと。改善の糸口が見えず、それを補う武器すら持っていない。

 今の彼にとって、本人の意思はともかく野手転向というのはなかなかの温情に思える。

 

 なぜならば、進歩も変化も見えない、チームの役にも立てない選手を気に掛けるほどプロ野球は暇でないのだから。

 

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