常勝球団でレギュラーを取れずトレードの駒にされた俺は最弱球団で自分の強さを証明する   作:鋼鉄の山本

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第五話

 パシャリ、パシャリ

 リーグ・シリーズ六連覇の福岡サラマンダーズの名将伊能田久雄の退任発表から始まったオフシーズンは今年も激しい盛り上がりを見せた。

 

 サラマンダーズエース吉城暁をはじめとする各球団の主力選手計5名が相次いでメジャー挑戦。

 逆に、FA市場に大きな動きがなく、それに伴ってかトレードによる移籍が活発となっていた。

 ほかにも不倫だったり、選手の突然の契約解除だったりと悪い意味での盛り上がりもあったが……あえて触れないでおこう。

 

 パシャリ、パシャリ

 トレードの話へと戻すと、12球団最多トレード回数となる5回を成立させた福岡サラマンダーズ。

 約50年ぶりとなる禁断の移籍が起きた大阪ワイルズと東京ギャロップスの同一リーグトレード。

 仙台ボアーズの主力鹿島 健太(かしま けんた)と東海サーペンツによる1対3の大型トレード。

 逆に何の動きもなかった幕張ドリームスなどなど。

 

 パシャリ、パシャリ

 そして今日は待ちに待った春季キャンプ初日。シーズンを前に新戦力のお披露目、昨年までの主力達のアピール、そしてまだ見ぬ素材(ニュースター)の発掘。

 長い長いオフが終わり、プロ野球ファンが待ち侘びたシーズン開幕の第一歩……のはずなのだが。

 

「畑選手、と言うか何人か丸くなってません? まだ軽いノックのはずなんですけど見るからに動きが悪いと言うか」

「ああ、そうだな」

「そういえば今年のルーキー、全員2軍キャンプスタートらしいらしいですね」

「ああ、そうだな」

「……記者(わたしたち)もそうですけど、お客さんも、全然いないですね」

「……ああ、そうだな」

 

 球団初となる外国人監督の就任、昨シーズンの2番手エースを放出、12球団唯一のFA流出。年末バラエティでのみ輝く選手達……昨シーズンで15年連続のBクラス、8年連続の最下位、あわやシーズン100敗。

 

 ある程度話題になったとは思うが、その8割がお笑い状態。

 あまりの期待値のなさ故か、罰ゲームで飛ばされたような数人の記者。近くでキャンプする強豪チームのついでに寄ってきたであろう滞在時間30分のテレビスタッフ。小学生の読書感想文のような、文章のかさ増しを得意とするペンギンズ番記者(わたしたち)

 

 王者サラマンダーズとは別の意味で突き抜けたチーム、それこそが、大江戸ペンギンズなのである。

 そんな彼らの今年の期待値は、集まった人数ではっきりとわかってしまう。

 

「『畑、有田、蔵田。充実のオフを満喫か。キャンプ初日は軽めに調整』っと……」

「やめとけ柏田(かしわだ)、気持ちはわかるがせめて自チームに喧嘩売らないでくれ……」

 

 そんな状況にも関わらず、へらへらと走りだらだらと練習する昨シーズンのレギュラー選手たち。明らかに体、特に腹回りが()()した彼ら。その様子をありのままに記事を書こうとするも、先輩ベテラン記者の古市(ふるいち)さんからストップがかかる。

 

「いやだな〜冗談ですよ、冗談……2割ぐらい」

「聞き捨てなんねーな……。まぁ、ネタがないのは認めるけどよ」

 

 悪い意味のネタしか見つからず苦戦している中、私たちのいるスタンド席の裏側、まだ少しだけ人だかりができるブルペンから、ちらほらと声が聞こえ始める。

 

「おっ、そろそろ郡が投げ出したか? 流石にエースは注目されるか」

「チーム最多勝の左腕エース! 去年もチーム唯一の防御率3点台でしたし、年齢もまだまだ32歳。今年もバリバリやれそうですもんね。……」

「今からでもいくか? 人がいるって言ったってあくまでペンギンズ基準だから入れるだろ。……」

 

(7勝12敗、防御率3.88がチームで一番いい成績か……)

(よく言えば玄人好みのいいピッチャーではあるんだけど……いかんせん地味だし、取材そっけないせいであんま数字取れないんだよなぁ)

 

 お互い思うところがあるのか、少しだけ微妙な空気が流れる。

 よしっ、話を変えよう。

 

「そう言えばクローザー候補で外国人獲得しましたよね。いつから投げ始めるんですかね!」

 

 昨シーズン最もクローザーとして起用された選手は、抑えとして出た35試合で0勝5敗17S(セーブ)。なんと驚異の成功率48%を叩き出した逆死神。

 と言うことでメジャー経験も豊富な外国人ピッチャーを補強したはずだ。

 ただ、そう言う選手は往々にしてキャンプへの合流が遅いイメージだ。いつから来るのか、古市さんなら知っていそうだ。

 

「怪我やらビザがないやらで急にゴネ始めたらしい。下手したらキャンプはおろかシーズン終了まで来ないかもな」

「……」

 

「や、野手だとやっぱり去年活躍した石田選手(チーム最高打率)神田選手(チーム最多出場)マシューズ選手(チーム最多本塁打)あたりがキーマンですかね!」

「ああ、石田(シーズン最低得点圏打率)神田(シーズン最多エラー)マシューズ(シーズン最多三振、最低打率)か。その辺だろうなあ」

「なんてこと言うんですか!」

 この人さっきせめて自チームは敵に回すなとか言ってたくせに!

 

「周りに発信しなきゃセーフだよ。……ついでにこれもオフレコにしろよ。さっき言った3人とか、柏田が最初に挙げた3人みたいな、だらしねー奴らを押しのけてどんどん若手が出てこなくちゃいけねーんだ普通は。上が腐って、下は芽が出る気配もない! あーあ、打てて、走れて、投げられて、守れてチームを引っ張れる逸材……◯谷とかこねーかな?」

「オフレコつければ何言ってもいいわけじゃないですよ」

「だってなぁ、……おっ? あいつ誰だ?」

 

 はっきりと言いたいこと言いやがった古市さんの目つきが急に変わる。

 周りよりも声量の大きい一人の選手が鋭いゴロを腰を落とし体の正面で捕球、そのまま一塁へ送球。基本通りの、お手本のようなゴロ処理。そんな様子をじっと見つめる。

 

「着てるゼッケンの番号は25……新加入の幸村選手ですね」

「なるほどな。あー、まじか。こりゃ強いわけだサラマンダーズ」

 

 次々と来るボールを前にミスは一度もない。確実なゴロ処理、確実かつ鋭い送球。声も出ている。その一つひとつが、この緩いチームを引き締めようとしているのがはっきり伝わってくる。

 キャンプ初日の公開ノックの一場面。でも、なるほど。あの懸命な姿だけでペンギンズの選手達との違いがはっきりとわかる。

 

「いいな、あいつ。とりあえず、走れて守れて空気を締めてくれそうなやつは獲得してたか」

 

 そして当然選手にも、特に同ポジションであるほど、彼の存在感はよく伝わる。

 

「おつかれ幸村! どうだった初練習? この後飲みに行こうぜ」

「あ、神田さん。お疲れ様です」

 

 練習も終わり、ロッカールームで着替えていると一軍に合流する野手の中で一番年長の神田 勇(かんだ いさむ)が気さくにこちらへと話しかけてくれる。

 ペンギンズの不動のショートであり、チームの中心選手の一人だ。

 

 外様の自分を早く馴染めるように気を遣ってくれているのだろう、彼の後ろには主に野手陣が何人か待っている。懇親会もかねてくれているのだろう。

 すごくありがたい。……ありがたいのだけれど。

 

「誘ってもらって嬉しいんですけど……すみません、もうちょっと体動かしたいので遠慮しときます」

「あ、そう? ……まぁ無理にとは言わないけどキャンプはこれからだからな、あんまり無理だけはするなよ」

 

 声をかけてもらったことに感謝しつつ、汗と土で汚れた練習用のユニフォームから替えのジャージに着替える。そしてすぐに集まっていた集団を横切り、ひと足先にロッカーを出る。

 

 時刻は20時を回るころだろうか。今日はもうマシンを使った練習はできないとの事なので、ホテルに荷物を置いて散歩ついでに走り込むか。

 

 ――

 バタン、と颯爽とロッカールームを去っていく幸村。そんな彼を見送るとすぐ、神田の後ろで待っていた一人の感情が爆発する。

 

「なんなんすかアイツ! せっかくこっちが気を使ってやってるっていうのに」

「おいおい、今の若い子すごいな。やっぱりこういう飲みって時代遅れなのかな?」

「いやいやいや! そう言う感じじゃないでしょ! まだ移籍してきてすぐだから声かけてやってんのに何様なんすか!」

 

 あとあいつ7年目で若手って立場じゃないだろ! そう叫ぶ(はたけ)達をなんとか宥める。これは今日長くなりそうだな……。

 だが、もともと熱が入りやすい畑はともかく、普段ならそんなこいつを抑えようとしてくれそうな選手が動かない。幸村の発言にみな思うところがあるのだろう。多少だが俺も感じるところがあったし。

 

 サラマンダーズの練習と比べるとうちの練習なんか、ぬるま湯みたいなものなんだろう。こんな環境にいる選手とは馴れ合いたくない……なんて言うのは流石に考えすぎか! なんて、後半は考えすぎか!

 

「多分タイプ的に()()()()ではまずないですよね。多分()()()()()()ですもん」

「だよなぁ。ただ、ああいう意識高い系の選手はどうせ活躍できなくて、すぐこっち側に来るだろ」

「あーあ、ヤダヤダ。自分頑張ってますってやつ昔からイタくて嫌いなんだよね」

 

 畑達の爆発を皮切りにヒソヒソと話し始める何人かの選手たち。……あぁ、このチームはここまで落ちているのか。胃の中でドロドロとしたものが疼く。

 

「落ち着けお前ら。……一旦幸村のことは俺に任せてくれ」

 

 あぁ、羨ましい。何も知らない選手たち、自分の好きなように振るまえる選手たち。自分もただ、己のプレーのみに集中できるのなら……。

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